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善意天逆 果て無く黒

魔王様捕縛中

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★あらすじ。
 混乱し魔王モードを発動させたフデに、まず結界を作ろうと移動する。
 そんな中、村人達の参戦により状況は混沌を増して行く。
 意外と強い村人達は、フデと拮抗した戦いを続けていくが、時間が経つ度に一人また一人と打倒されてしまう。
 急がないとと、走って結界を作り、僕は魔法を発動させる。
 そして極限まで強化した肉体で、魔王フデを打ち倒したのだった。


 クー・ライズ・ライト (僕)
 グリス・ナイト・ジェミニ (双子の男の子)
 リューナ・ナイト・ジェミニ(双子の女の子)
 ミア・ミスト・レイン(元賞金首)
 アリーア・クロフォード・ストラバス(管理お姉さん)
 グリア・ノート・クリステル(お姉さんの相棒)
 ランズ・ライズ・ライト (父)
 ファラ・ステラ・ラビス(護衛の人)
 フェイ・ステラ・ラビス(ファラの父親)
 スラー・ミスト・レイン(僕の上司)
 ディザリア・エルス・プリースト(破壊教)
 ナオ・ラヴ・キリュウ(リセルの弟でディザリアのチームメイト)
 デッドロック・ブラッドバイド(冒険者)
 ミカグラ・ツキコ(デッドロックさんの相棒)
 リセル・ラヴ・キリュウ (ローザリアのギルド受付)
 フデ = インフェニティ―・ダーク・ロード・ウミノメ・キング・ジョージ四世ファイナルモード・ディスティニー(没落魔王)


 僕達はフデを縛りあげ、村長の前に転がしている。
 その周りには村の男衆が囲み、何かしないかと目を光らせていた。

「村長さん、これが全部の元凶です」

 僕はフデを指さした。

「そうね、こいつが元凶よ」

「ダなー!」

 ファラさんとミアさんも同意してくれている。
 まあミアさんに限っては分かっていないかもしれないが。

「ちょっと待てぇ! 全部じゃない、全部じゃないんです! 俺がやったのは村をちょっとだけ壊しただけで、あとは何にも知りません!」

 あれだけやったというのに、フデはもう元気を取り戻している。
 それに戦っていた記憶も残っているようだ。
 その体力でもっと役に立つことをすればいいのに。

「ちょっとだけとは、これでですかな? まさかこの村の地下に自分を崇めさせる教団をつくっているとは……」

 村長さんの目元がピクっと動く。
 この家も天井や壁に穴が開き、だいぶ風通しが良くなっている。
 もちろんその状況に怒っていないはずがない。
 当然ディザリアさんにも原因はあるのだけど、面倒だから全部引き受けてくれても良いと思う。

 ちなみにグリアさんはまだ上に来ていない。
 別の通路を捜しているのだろう。
 まあそれはいいとして。

「この人がやりました!」

「ヤッタヤッた―!」

 だから僕は、もう一度フデを指さし、ミアさんもそれに続いた。

「やってないよ!? 全部じゃないよ!? 教団も作って無いからね!」

 フデは真実を言っているが、怒り狂った村の人達には聞いてはもらえないだろう。
 誰かが壊れそうな壁をドンと叩き。

「ふざけんなああああ! 俺の家を弁償しろおおおおおお!」

 たぶん魔王と戦っていたであろう武装した村人の一人が叫んでいる。

「そうだそうだ!」

 他の村人達も弁償しろと騒ぎ立てているが、フデにそんな財力はない。
 もちろん僕達にも無理である。

「皆さん、この魔王が元凶なのは間違いありません。しかしギルドとして捕まえなければならないんです。だから請求はあの人達にお願いします! もしくは修理してもらってください!」

 僕は家の穴から見える、積み上げられた黒い人達を指さした。
 あんな訳の分からない教団に入っていたんだし、キッチリ責任を取って貰おう。
 人数も二千数百人も居るし、直ぐに家も直せるはずだ。

「まあ直してくれるのなら誰でもいいけどよぉ」

「俺は魔王なんざと関わり合いになりたくはない。恨まれて変な呪いでもかけられたら嫌だしな」

「分かった、もういいからそいつは連れて行け。ギルドで物凄い罰を与えてくれよな」

 僕の心のこもった必死の願いで、村の人達は許してくれるようだ。
 グリアさんが来るのを待ち、心変わりしない内にと、僕達はフデを連れて村を去って行く。

「ほら、キリキリ働きなさい」

 そのまま帰れればよかったのだけど、横転していた馬車はそのままである。
 ファラさんが罪人三人を使い、元の状態に戻そうとしていた。

「ファラ、お父さんもう少し優しくしてほしいんだ」

「うぅ、人使いの荒い女だ。俺は元魔王なんだぞ」

「む~! むむむ~!」

 ディザリアさんの口はふさがれたままである。
 それでも馬車は苦も無く元の状態に戻り、外されていた馬をつないで準備を整えた。
 たぶんフデの力が大きかったのだろう。

 馬車が戻ったのはいいが、これでは罰にもならない。
 やっぱりギルドにコッテリしぼってもらうとしよう。
 僕達は二度と転倒させないようにとグリアさんも縛りあげ、馬車に揺られながらローザリアに戻って行く。

 手早くローザリアのギルドに戻り、グリアさんを馬車の中に放置したまま、罪人三人をスラーさんの前につき出した。

「「この人達がやりました」」

「ヤッタぞ!」

 どうせ報告が来ていると思い、僕達はありのままを伝えたのだが。

「いや俺じゃない! やったのはこいつです!」

 フデはディザリアさんを指さし。

「スラー、私は敵を倒しただけですわ! 元々の元凶はこの男よ!」

 ディザリアさんはフェイさんを指さす。

「ち、違うぞ! 私はファラを護ろうとしただけで、魔王様から力を貰っただけだ! 魔王様は悪い男はぶっ倒してやれって言ってたんだ!」

 フェイさんはフデを指さす。

「違う違う違う違う! 俺はすっごく酷い男に娘を奪われたって言ったから力を貸してやっただけで、あんな教団作れって言ってないし! お前を部下にしたつもりもない! 俺はただ捕まってただけだったのに、こいつが騒ぎを大きくしまくった原因だ!」

 そしてまたフデはディザリアさんを指さした。
 ワーワーギャーギャーと醜い言い合いは続いて行くが。

「三人の言い分を聞くに、全員アウトってことでしょうねぇ。まあ安心してください、誰が元凶でもいいように三人共に罰を与えてあげますから」

 スラーさんはそう断言し、三人を黙らせた。
 何時の間にか屈強な男達が回りを囲み。

「「「助けてえええええええええええええ!」」」

 三人は連行されて連れて行かれた。

「スラーさん、あの三人はどうなってしまうんでしょうか?」

 気になった僕は、ちょっと聞いてみる。

「ふむ、魔王君に関しては厳重封印して監視をつけることになるでしょう。前に提案した食事や住処なども急激にランクが下げられるはずです。そしてまたおかしな動きをするようであれば……」

 スラーさんは首をかき切る仕草をしている。
 反撃される前に暗殺でもする気だろう。

「続けてファラ君の父親ですが、魔王本人が部下じゃないと言っているなら、ただの犯罪者として扱われるでしょうね。幸い誰も死人が出ていませんし、行動理念も娘の彼氏を叩きのめすというだけですからね。まあ何年かの強制労働が言い渡されるぐらいでしょう」

 本当にそうであるなら、かなり減刑されるようだ。
 実質の被害者は冒険者やギルドぐらいだし、ファラさんの戦力が無くなるのを危惧したのだろう。
 もし処刑なんてしたら、ファラさんが後々どう動くかも分からないからなぁ。

「で、問題のディザリア君は何時も通り魔法を使ってしまったのですね。彼女の力はギルドとしても手放したくはない戦力なんですよねぇ。まあ相手が魔王教というおかしな連中ですし、村への被害は吹き飛ばされた人達が弁償するのでしょう?
じゃあもギルドの周りでも延々と草むしりでもさせてやりましょうか?」

 ディザリアさんには意外と甘々である。
 まあ自分を捕まえていた敵を吹き飛ばしたのだし、村に被害が出たのは偶然といえばそうだけど。

「僕もそれが良いと思います。戦闘に出すとまたやらかしそうですし」

 同行されてまたやらかすよりはと、僕はそれに賛成した。

「ついでだからギルドの中も掃除させたら?」

 ファラさんは更なる罰を請求し。

「いいですね。採用しましょう」

 スラーさんはそれを採用してしまった。

「じゃあ僕達は仕事に戻りますね」

 ギルドの対応も聞けたし、僕はここから立ち去ろうとするが。

「ライズ・ライト君、まだ話は終わっていませんよ? 君が壊した馬車のことですが、当然弁償してくれるのでしょうね?」

 スラーさんの目が光る。

「違うんです、僕がやったわけじゃないんです! グリアさんが暴れるから起こった事故で、僕のせいじゃないんです! 違うんです! 違うんですよ!」

 僕は必死で言い訳を続けるが。

「つまり二人に原因があるんですね?」

 スラーさんはファラさんに聞き。

「はい、そうです。クーがやりました」

「ヨメ、ヤッタなー!」

 ファラさんとミアさんは僕を助けてはくれないようだ。

「じゃあ二人に罰を与えなければなりませんね。クリステル君は今月の給料はく奪。君は私に借金を返してから、また一ヶ月のタダ働きを命じます」

 先ほどと同じように、スラーさんは僕とグリアさんを対象に罰を言い渡した。

「いやああああああああああああああああ!」

 どうやら僕の受難はまだまだ続くようだ。


 結構な日が経ち、スラーさんにお金を返したけど、僕の生活は一向に改善していかない。
 どうやらまたもタダ働きをさせられるようだ。
 でも四ヶ月も続けた僕にとっては慣れたものである。

「おっ、これは食えますね」

 僕は生えている野草をもぎ取り、そのままモシャモシャと咀嚼した。
 すでに食べられる野草の判別はバッチリできるのである。

「ふぅ、美味しい食事が懐かしいな……ああ……仕事行こ」

 僕は目の端に涙を溜めて、元気を出してギルドに向かって行く。
 花壇の草を毟ったりしているディザリアさんを見かけたりして中に入り、何時も通りの仕事が始まる……のではないようだ。

 スラーさんの前に、黒い布で封印されたフデの姿がある。
 まあ手足も自由に動くし、不便なことはないはずだ。
 しかしフデがこの場に居るということは、何かしらあるのだろう。
 僕はなるべく関わらないように、ファラさん達の下へ行こうとするのだけど。

「ああ、ライズ・ライト君、こっちへ来てください」

 スラーさんが僕を呼んでいる。
 どうやら僕にお鉢が回ってきたらしい。
 諦めて向かって行くが、出来れば断わりたいところだ。
 だから。

「断ってもいいですか?」

 真っ先にそう言ってみた。

「ハッハッハ、面白い冗談ですね。では話を始めましょうか」

 スラーさんは全然聞いてくれそうもない。
 まあ断れないから、僕は大人しく耳を傾けてみた。

「今日はこのフデ君の――」

「ジョージ、またはウミノメと呼んでくださいマスター!」

 フデは犬のようにスラーさんに従っている。
 多少でも減刑したいのかもしれないが、もう魔王の面影はどこにも見当たらない。

「……ライズ・ライト君、今回彼の技術を使って、一つ実験をしようという企画が上がったので、是非君に手伝ってもらおうと声をかけたのですよ。もちろん受けてくださいますよね?」

「へ~、どうせ断れないんですよね~?」

「ふむ、そんなにやりたくないというのなら、別の人にお願いしましょうか。……残念ですねぇ、折角給料が払われるようにしてあげようと思ったのですが……」

「やりまああす!」

 僕は足の親指立ちで手をピンと挙げ、それに答えた。

「ありがとうございます。では彼を紹介いたしましょうか」

 フデなら別に紹介しなくてもと思ったけど、どうやら別の人物だったようだ。
 スラーさんの椅子の影に、スッポリ隠れていた子供の姿が現れた。

「お、おはようございます」

 挨拶をして来たのは、茶色というよりは赤毛に近い髪色をした、十歳ぐらいの男の子……かな?

「あ、おはようございます。え~っと、スラーさんのお子さんですか?」

 一応その可能性を聞いてみたのだけど。

「ハッハッハ、違いますよ。この子は君の後輩になるコーディ・フル・フラグメント君ですよ。ちなみに男の子です」

「よ、よろしくお願いします。コーディです」

 コーディ君は、頭を下げて両腕を翼のように上げている。
 礼儀正しくて可愛らしいお子様だ。
 たぶん孤児院からギルドに引き取られて、ギルド職員にさせられたのだろう。
 でも強制ではないし、戻りたいなら孤児院にも戻ることが出来る。
 こういう子は結構居るのだ。

 一応僕も、父さんが行方不明だからそんな感じである。
 後輩なら可愛がらないといけないだろう。

「それでですね。このフデ君の――」

「ジョージでございますマスター!」

 スラーさんの言葉に即座に突っ込みを入れて来るフデ。

「……確定ではないのですが、彼の能力を使って一つ職業を作ろうということになりましてね。フラグメント君がそのテストに手伝ってくれるというのですよ」

 でもスラーさんは断固として言わないようだ。

「フデの能力って、アイテム使いとかそんな感じですか?」

 装備品を身に着ければ使えない魔法まで使えちゃう優れ物で、冒険者の役には立つ。
 しかし誰にでも使えちゃうから危険物でもある。

「いえ、そうではなくて、魔物使いという職業ですよ。ライズ・ライト君が貰ったものと同じように、特別に一体だけを操れるしようになっています」

「でも大丈夫なんですか? 万が一その指輪を奪われたら大変でしょう。おかしな人達に狙われないとも限りませんし」

 僕は思った疑問を口に出してみるのだが。

「もちろんその辺りの対策は検証済みです。つけた者の生命活動が停止したり、指が切断されれば指輪は消滅するように作られています。万が一悪人に手を貸すようであれば、こちら側から能力を消すこともできますからご安心を」

 スラーさん……というよりはギルド上層部がえぐい想定をしているようだ。
 指輪の力が突然切れれば、操られていた魔物は魔物使いを襲うだろう。
 魔物を失った魔物使いがどうなるかといえば……まあ碌なことにはならないはずだ。

「今回は俺も同行するから何の問題もない。マスター、安心して待っていてください!」

 忠実な家臣のように膝をつくフデ。
 すっごい脅されたりして調教でもされていたのだろうか?
 僕にとってはフデなんかより、スラーさんの方が圧倒的魔王感があるのだけど。

「それではフラグメント君のテストに同行して結果を報告してください。二人のことを頼みますねライズ・ライト君」

 でも、チームじゃなくて僕一人で呼び出されたということは。

「あのもしかして、僕一人でですか?」

「頑張ってくださいライズ・ライト君」

 どうやらそうらしい。

「俺を打ち破ったライバルよ、力を合わせて頑張ろう」

 ライバルになった覚えはないけど。

「よ、よろしくお願いします」

 小さなコーディ君は頭をさげた。
 封印を受けた魔王と、魔物使い成りたてをパーティに加え、町の外へ移動して行く。
 不安も大きいけど、町の近くなら大丈夫かなぁ?


 で、安全な町の入り口に移動した僕達は、まず結界を設置して中に魔物を呼び込むのを決めた。
 そして始めた獣使いのテストだけど。

「あっ、居ましたよ。あのスライムなら手ごろなんじゃないですか?」

 僕は草陰に隠れていた魔物を指さす。

「ぼ、僕がんばる」

 コーディ君はパタパタ走り、スライムに近づいて行く。
 指に装着している指輪を向けると、魔力の糸が伸び始めた。
 無事にスライムに繋がるが、パンと弾けて消えていく。
 どうも成功した様には見えないんだけど?

「うわああ!」

 やっぱり失敗していたようで、コーディ君はスライムに襲われて倒れてしまった。
 まだ魔物使いに成りたてだし、レベルが足りないんだろうか?
 おっと、早く倒してやらなければ。

「てえええい!」

 僕は予備の鉄棒を取り出し、思い切って殴り掛かった。
 スライムはパンと弾けたのだけど。

「ライバルよ、スライムなんて知能がないから操れるわけがないだろう。あの指輪は魔物との絆を結んで操るんだからな」

 フデは操れないことを知っていたらしい。

「知ってるんなら早く教えてください。コーディ君が怪我したらどうするんですか! あとライバルというのもやめてください」

「何事も経験だ。傷を負って体で覚えなければ成長はないぞ」

 フデは真面なことを言っているのだが、相手は十歳の子供である。
 あまり酷い扱いはできない。

「コーディ君、大丈夫ですか?」

「う、うん」

 僕はコーディ君に手を貸し起き上がらせた。

「とにかく、もう少し知能があって弱そうな奴を見つけないとですね。僕がコボルトでも連れて来ましょうか?」

「少し待て、今俺が居場所を探ってやろう。操ることは出来ないが、そのぐらいなら容易いことだ」

 フデは自分が見つけると息巻いている。
 探す手間もはぶけるからと待っていると。

「あっちだ、あっちに居るぞ!」

 フデが指さした方向には特に何も見当たら……あっ、見つけた。
 小さなコボルトの姿が見え始め、その後ろからはオークが棍棒を振り上げている。
 追われているみたいだ。

 それを見てコーディ君は声を無くしている。
 でもたかだかオークの一体なら、別に問題はないだろう。

「じゃあ僕がコボルトを引き受けますから、フデさんはオークを倒してきてください」

 僕はフデにお願いするが。

「ライバルよ、俺を呼ぶ時はジョージと呼んでくれ。それに俺は今無力だ」

 まだどうでもいい事を言っているようだ

「そんな事はどうでもいいですから、早くやってください。能力を封印されてもオークぐらい倒せるでしょう」

 僕はフデに頼み込んだ。

「くっ、マスターに報告されてはかなわんからな。いいだろう。引き受けよう。だから俺が従順だったと伝えてくれよ?」

「あ~、はいはい」

 僕達はコボルトを待ち、フデはオークに突っ込んで行く。
 その間にコーディ君は指輪を使い、コボルトと魔力の糸がつながって赤く輝いた。
 警戒を解いたコボルトが、コーディ君の前で立ち止まり指示を待っているように見える。
 たぶん成功したんじゃないかな?

「んと、どうすればいいの?」

 コーディ君は、どうも扱い方がわからないようだ。
 一応ミアさんを操った事があるけど、確かあの時は。

「声をかけてあげればどうでしょう」

 そう教えてあげた。

「えっと、よろしくね。僕コーディだよ」

 コーディ君は握手を求め、コボルトも頷いて手を伸ばした。
 これで成功した訳だけど、戦いも見といた方がいいだろう。

「ほら、倒して来てやったぞ。俺は役に立つと報告しといてくれ!」

 その間にもフデが帰ってきてしまった。
 いっそフデをターゲットにして?
 ……面倒になりそうだからやめておこう。

「伝えておきますからちょっと静かにしといてください」

 僕は唇に指をあてる。

「僕はコーディだよ。君は?」

「ギャワワン!」

 コーディ君はコボルトと楽し気に話をしているようだ。
 もちろん僕にその言葉は分からないのだけど、これは少し問題がある気がする。
 あんまり感情移入したら魔物を倒せなくなるんじゃないかな?
 これは報告したほうがいいだろう。

「うん、聞いてみるね」

 コボルトとの会話が終わり、コーディ君は僕を見上げて何か言いたそうにしている。

「あ、あのね、うんと……」

 コーディ君は、頭の中で言いたい事を整理しているのだろう。
 僕は身をかがめて目線を合わせた。
 そのままゆっくり待っていると。

「えっとね、この子の村がオークに襲われているの。助けに行っていい?」

 少しではなく、大問題だったようだ。
 相手の頼みを聞いていては、魔物使いでなくて魔物使われだ。
 流石に魔物を助けることはできないと断ろうとするが。

「ライバルよ、子供の願いを断らないよな? そんな可哀想なことはしないよな?」

 フデの言うように、純粋な子供の願いというのは断り辛いものがある。

「駄目です。そんなことをしたって良い事にはなりませんよ」

 でも僕は断った。

「ええええ!?」

「ギャワワワワン!」

「ライバルよ、お前は鬼か何かなのか!?」

 三人とも驚いている。
 しかし僕にとって、そんなリスクを冒す必要はないのである。
 この仕事さえ終わらせられれば、通常生活に帰還できるのだ。
 しかしそんな僕を心変わりさせるようにフデが動いた。

「ライバルよ、一つだけ勘違いしていることを教えてやろう。ちゃんと給金が発生するようになっても、直ぐに貰えるわけではないのだ! 給料日が来るまでは同じ生活を繰り返さなければならないのだよ!」

「ぐはああああああああああ!」

 フデの発した言葉に、僕は致命的なダメージを受けた。
 だがそれはそれでこの事とは関係はない。
 足を踏ん張って思い留まるのだが。

「だが安心しろ。絶えず栄養が足りないお前に、俺の弁当をわけてやってもいいんだぞ?」

 フデは持って来ていたお弁当の箱をチラチラと見せびらかしてきた。
 ギルドのお弁当はとても美味しいのだ。
 僕の口からはヨダレが垂れて、ハッと気が付いた時には、お弁当の蓋を開けてつまみ食いをしていた。

「食っておいて断りはしないよな? それとも、それ以上食うのをやめるか?」

「僕がお弁当なんかで買収されると思っているんですか!」

 カラっとあがったコロッケを手で掴み、口元へ運んでいく。
 シャキッとしたキャベツを貪り、胸やけを防ぎつつ二口目を口にほお張る。

「そんなの買収されるに決まってるでしょうが!」

 そして僕は受け入れた。
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