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戦いの準備②
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隣のビルの地下にある、医院に着く。
ちょうど子供が生まれたのか。赤子の泣き声が響き渡っている。
核爆弾により、少なくなった人類の数を増やすために、システムは上手に電気信号を流し、人々の夢を操作する。
だが、悲しいことに、人間の自我がシステムの命令を乗り越えてしまうことが常である。
先ほどの女もそうだ。システムは、幸せな結婚と妊娠の信号を送っているはずであるが、「私はもっと幸せになりたい」とか、「相手をもっと拘束したい」という諸々の自我が、システムエラーを誘ってしまう。
だから、自殺や殺人が起こる。いわゆる夢の中のアンコントロールなものとなる。
先ほどの女も、夢の中にいながら、男との間で「私はもっと・・」「俺はもっと・・」とのやりとりがあったはずである。
「私はもっと、あなたを独占したい」といったのか? それとも、「私はもっと、素晴らしい異性と出会う権利がある。どうしてお前などと出会ったのか」と言ったのか?
強すぎる自我が幸せを阻害し、我々を不幸にする。
そうは言え、強い自我があるので、まるで現実の世界にいるようなリアルが、味わえるのも確かであった。
強い欲望は自我から生まれてくる。
「あなたのような男(女)よりも、いい男(女)は私は好きだ」
これが生きる力となると同時に、死にゆく力となる。死が近いほど、正の力が強くなる。不思議なことだ。
単に恋愛だけでない。
「もっと金がほしい。もっと長生きしたい。もっと・・。もっと・・」と思うことが、人間を情熱にかき立てる。
しかし、それは不幸の始まりで、システムのエラーを引き起こし、人が命を落としたりする。
自我を滅して、悟りの心境のようになるのが、このシステムを生き残り、勝者となるのであるが、そうはいかないのが現実だった。
「どうしたのです?」
看護婦は、無愛想に俺の右上腕の傷を見た。
「日本刀に切られた。もう少し間合いが近かったら、腕を斬られていた。危なかった」
「時代劇の世界にいたのですか?」
「現代だ。どこか北国の大都市で、相手に追いかけられて、斬られた」
「そうですか。ずいぶん遠くに行ったのですね。相手はどんな人でした」
「全くわからない。いきなり話がそこからはじまった」
「ならば、続きを見るかも知れませんね。夢に入ったとたんに、斬られるかもしれない」
そうだ。夢の入りを注意しなければならない。
看護師は薬をつけると、包帯を腕に巻き付けた。
俺のような軽傷者には、貴重な薬や包帯を使わないのだが、なぜか薬をつけてくれた。
ふと見ると、ナイフが置いてあった。多分手術用のメスだ。
俺は、ナイフを指さした。
「あれを貸してくれないか?」
「ナイフですか? いいですが、返してくれますか?」
「俺が生きていたら、返しに来る。死んだら、B-355のカプセルに取りに来てくれ」
「わかりました。良いでしょう。期限は明日の夕方です」
実際に武器を使用せず、夢の中で使用をするので、武器の貸し出しは自由である。汚れもしないし、傷つきもしない。
俺はカプセルの横で、木刀を構えつつ、相手が振り下ろす日本刀を予想した。
「えい!」
右に飛び退き、右の肘を急ぎひっこめる。相手の刀が届かぬように何度か練習を繰り返す。
「えい!」
再び、気合いを掛けて、同時にナイフを投げた。相手の顔を狙ったつもりだ。
ナイフは30メートルほど飛んで行き、カチャリと地面に落ちた。
これで相手の攻撃を防げるはずである。
俺は、カプセルに横になる。頭にヘルメットをかぶると、電熱線の綿が、全身を覆った。
眠りの中にすっと入っていく。
ちょうど子供が生まれたのか。赤子の泣き声が響き渡っている。
核爆弾により、少なくなった人類の数を増やすために、システムは上手に電気信号を流し、人々の夢を操作する。
だが、悲しいことに、人間の自我がシステムの命令を乗り越えてしまうことが常である。
先ほどの女もそうだ。システムは、幸せな結婚と妊娠の信号を送っているはずであるが、「私はもっと幸せになりたい」とか、「相手をもっと拘束したい」という諸々の自我が、システムエラーを誘ってしまう。
だから、自殺や殺人が起こる。いわゆる夢の中のアンコントロールなものとなる。
先ほどの女も、夢の中にいながら、男との間で「私はもっと・・」「俺はもっと・・」とのやりとりがあったはずである。
「私はもっと、あなたを独占したい」といったのか? それとも、「私はもっと、素晴らしい異性と出会う権利がある。どうしてお前などと出会ったのか」と言ったのか?
強すぎる自我が幸せを阻害し、我々を不幸にする。
そうは言え、強い自我があるので、まるで現実の世界にいるようなリアルが、味わえるのも確かであった。
強い欲望は自我から生まれてくる。
「あなたのような男(女)よりも、いい男(女)は私は好きだ」
これが生きる力となると同時に、死にゆく力となる。死が近いほど、正の力が強くなる。不思議なことだ。
単に恋愛だけでない。
「もっと金がほしい。もっと長生きしたい。もっと・・。もっと・・」と思うことが、人間を情熱にかき立てる。
しかし、それは不幸の始まりで、システムのエラーを引き起こし、人が命を落としたりする。
自我を滅して、悟りの心境のようになるのが、このシステムを生き残り、勝者となるのであるが、そうはいかないのが現実だった。
「どうしたのです?」
看護婦は、無愛想に俺の右上腕の傷を見た。
「日本刀に切られた。もう少し間合いが近かったら、腕を斬られていた。危なかった」
「時代劇の世界にいたのですか?」
「現代だ。どこか北国の大都市で、相手に追いかけられて、斬られた」
「そうですか。ずいぶん遠くに行ったのですね。相手はどんな人でした」
「全くわからない。いきなり話がそこからはじまった」
「ならば、続きを見るかも知れませんね。夢に入ったとたんに、斬られるかもしれない」
そうだ。夢の入りを注意しなければならない。
看護師は薬をつけると、包帯を腕に巻き付けた。
俺のような軽傷者には、貴重な薬や包帯を使わないのだが、なぜか薬をつけてくれた。
ふと見ると、ナイフが置いてあった。多分手術用のメスだ。
俺は、ナイフを指さした。
「あれを貸してくれないか?」
「ナイフですか? いいですが、返してくれますか?」
「俺が生きていたら、返しに来る。死んだら、B-355のカプセルに取りに来てくれ」
「わかりました。良いでしょう。期限は明日の夕方です」
実際に武器を使用せず、夢の中で使用をするので、武器の貸し出しは自由である。汚れもしないし、傷つきもしない。
俺はカプセルの横で、木刀を構えつつ、相手が振り下ろす日本刀を予想した。
「えい!」
右に飛び退き、右の肘を急ぎひっこめる。相手の刀が届かぬように何度か練習を繰り返す。
「えい!」
再び、気合いを掛けて、同時にナイフを投げた。相手の顔を狙ったつもりだ。
ナイフは30メートルほど飛んで行き、カチャリと地面に落ちた。
これで相手の攻撃を防げるはずである。
俺は、カプセルに横になる。頭にヘルメットをかぶると、電熱線の綿が、全身を覆った。
眠りの中にすっと入っていく。
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