不気味な念仏

いち こ

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三 かんじざいぼさー

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「お経? ユウジが?」
 ミレイは目に涙を浮かべてながら、遠くをみるような目をする。

 生前の我が子ユウジを思い出している。
「私も耳鳴りを聞きたい。ユウジの声なら、耳鳴りだってオッケーよ」

「でも、ずいぶんとおかしな耳鳴りだ。どういう訳だ?」
「ふつう。シャーとか、ジーと聞こえるのが耳鳴りでしょう? それが、死んだ我が子の声など不思議な話よ」

「俺がいつも気に掛けているか、そんな耳鳴りが聞こえるのか?」
「そうよ。あなたの思いが、ユウジの声を頭の中で生んだのよ」

「しかし、それにしても、ユウジが経を唱えるなど、ありもしないことだ。宗教など嫌いで、特にオウムの事件があってから、とっても気味悪がっていた」

 突然、ユウジの声の音量が上がった。

 かんじざいぼさつ・・・まかはんにゃみたじ・・・しょうけんごうんかいくう・・・

「痛い。痛い。声が大きすぎて、頭に響く」
 俺は思わず耳を塞いだが、耳鳴りなので、それは全くの無益だった。

 ミレイが寄ってきて、俺の頭を抱える。
「やはり、早いところ病院に行ったほうがいいよ。どんどんと症状が悪くなるみたい」

「病院って、耳鳴りで耳鼻科に行けばいいのか? ユウジの声が聞こえるので精神科にいけばいいのか?」
「そういえば、ここに来る前住んでいた、福角(ふくずみ)町に耳鼻科と脳神経科がならんであったわね。そこに行って、両方行けばいいかも」

「でも、あそこはユウジと死別した家がある。なんか気が進まないなあ」
「そんな流暢なことを言ってられないでしょうが。重い耳や脳の病気だったらどうするの?」

 ミレイが重い病気と言うに及んで、俺は病院に行くことに決めた。症状が重くなる前に行ったほうがよい。
 確か福角町の家は、まだ売れなくて、空き家のまま残っていたはず。誰も住んでいないが、やはり、前を通るとユウジのことを思い出してしまうが、そんなことは行ってられない。

 そうこうするうちに、いよいよユウジの経が大きくなって、周りの音が何も聞こえなくなった。

 しきふーいくーくーふーいしきー・・・やくぶにょうぜー・・・しゃりし・・・

「痛い。痛い。頭が割れそうだ。孫悟空の頭の金の輪のように、ユウジの経が大きくなるにつれて、頭を締め上げる」
  俺は頭を押さえる。たぶん、脳溢血か何かで、脳の中がおかしくなっているのか。
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