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第一部 イケメン課長の華麗なる冒険
せんせいのおっぱい
しおりを挟む風間はその日19時に退社し、寄り道もせず新橋から銀座線に乗った。息子が保育園に入って以来、外を飲み歩く機会はめっきり減った。妻と交代で息子の送り迎えをしていると吹聴しているせいか、酒飲み連中も遠慮してくれている。季節ごとにある社内外の会合か、そうでなければ沙希たちが絡んでくる時ぐらいしかない。
都営大江戸線を森下駅で下車し、10分ほど歩くと、保育園が入居している複合ビルに着く。「やすらぎ保育園」と書かれたプレートの張ってある郵便受けの下のインターホンを押し、「はい」という女性の声を聞く。名前は覚えている。浩介が世話になっている保母の松永純子だ。
「風間です。お世話になります」とインターホンに応え、「あ、こんばんはー」という返事に続いてロックが解除される音を聞く。ドアを通り、エントランス左手のエレベーターに乗った。三階でエレベーターを降りると、象や羊の絵がアニメ風に描かれたドアは開いていて、保育所の中が見渡せた。その奥から男児が勢いよく走ってくる。
「パパお帰り! ママは?」
「ママは今日遅いんだって。外でご飯食べような」
「やったー! 僕ハンバーグ食べる」
「浩介君パパが早く来てよかったねー! あ、お疲れ様です!」
トレーナーにジーパン、その上にエプロンという出で立ちの松永純子が姿を現し、頭を下げた。短大を卒業してすぐにこの保育園に就職したと聞いている。化粧っ気はない代わりに、瑞々しい肌とつややかな髪を持ち、品の良さを感じさせる黒い瞳を持った健康そうな娘だった。それに胸といい、腰から太ももにかけての肉感的な曲線といい、体全体が風間の食指をそそった。
(いい胸、そしていい尻。いつかモノにしたい……だがうっかり手は出せん)
お預けを食った犬の心境で、風間は隙の無いスマイルを純子に向ける。
「浩介がまたご迷惑をかけませんでしたか?」
「いいえ、浩介君は本当にいい子ですよ。ねー? 水鉄砲で私に水を掛けるのが大好きで」
「本当か? こら駄目じゃないか浩介!」
風間は浩介の手から水鉄砲を取り上げた。取り上げた拍子に、水鉄砲に残っていた水が漏れてカーペットに染みをつくった。風間は思う。やはり俺の子だ。俺に先んじてこの女にぶっかけるとは、やるじゃないか。
「じゃ、浩介君また明日ねぇー! おやすみなさい」
「うん、せんせいおやすみなさい!」
「では、また明日よろしくお願いします」
自分ながら「少し露骨すぎるな」と感じる熱を帯びた視線を微笑とともに投げかけ、風間は頭を下げた。そして若い保母が、少しも疑いを抱いていない様子で「またよろしくお願いします」と返す声を聞きながら、ドアの外に出た。
エレベーターの中で、抱き上げた浩介に風間は問い掛ける。
「おい浩介。先生のおっぱい触ったか?」
「せんせいの、おっぱい?」
「そうだよ。お前触り放題なんだろう?」
「うん」
「ちっ。うらやましいなぁ……おっと、こんなこと先生に言うなよ」
「言っちゃうよ」
「ええ? 晩御飯の後でアイスクリームも頼んでやるから勘弁してくれよ」
エレベーターのドアが開いて、風間と浩介は夜空の下に出た。星が瞬き、ようやく秋らしい風が吹いていた。
「ぼく、チョコレートパフェがいい」
「……こいつ。で、触った感じどうだった」
「うーん。とっても柔らかい。それにせんせい、おっぱい出して吸わせてくれたもん」
「!」
「嘘だよ」
風間の腕の中で浩介は涼しい顔をしている。
「父親をからかうんじゃないよ。……で、どういうふうに触ったんだ」
「ぎゅっと握ったり、こう、ゆさゆさ揺すったり」
「ほう……」
「そしたら、『こうすけくん、おじょうずね』だって」
「……」
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