幽霊と僕

浅田賢

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第一話 幽霊と僕

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幽霊が見える、なんて言うと、だいたいの人は引く。
だから僕は誰にも言わない。
クラスメイトにも、先生にも、家族にも。

放課後の校舎は、昼間とは別の顔をしている。
部活の声が消え、窓の外が群青に染まり始める頃、僕は古い理科準備室の前で立ち止まる。

そこに、彼女はいる。

「今日も来たんだ」

白いワンピースに、少しだけ時代遅れの靴。
透けているはずなのに、妙に存在感がある幽霊だ。

「だって暇なんだもん」

彼女はそう言って、足をぶらぶらさせる。
床に座っているはずなのに、埃ひとつ舞わない。

彼女と出会ったのは、入学してすぐの春だった。
誰も使わない準備室で、一人弁当を食べていたとき、急に声をかけられた。

――それ、卵焼き?

それ以来、僕はここに通っている。

「学校、どう?」
彼女はいつもそう聞く。

どう、と言われても困る。
友達はいるけど、どこか他人行儀で。
勉強は普通。将来の夢は空白のまま。

「別に。変わんないよ」

そう答えると、彼女は少しだけ眉を下げる。

「嘘つき」

幽霊に嘘を見抜かれるのは、正直つらい。

「……しんどいだけ」

それだけ言うと、胸の奥がきしんだ。
理由はわからない。ただ、毎日が重い。

彼女は何も言わず、僕の隣に来る。
触れられないはずなのに、なぜか距離が近い。

「ねえ」

「なに」

「生きてるって、めんどくさいよね」

思わず笑ってしまった。
幽霊に言われる言葉としては、ずるい。

「君は、どうしてここにいるの?」

前から気になっていた。
なぜ成仏しないのか。なぜ学校なのか。

彼女は少し考えてから、首をかしげる。

「忘れちゃった」

あっけらかんとした声だった。
でも、その後に続いた言葉は小さかった。

「たぶん、後悔があったんだと思う」

後悔。
その言葉が、僕の中で引っかかる。

「君はさ」

彼女が僕を見る。

「後悔、しないでね」

その日、帰り道で空を見上げた。
同じ道、同じ景色。
でも、少しだけ違って見えた。
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