幽霊と僕

浅田賢

文字の大きさ
2 / 6

第2話 放課後、理科準備室にて

しおりを挟む

放課後のチャイムは、いつ聞いても少しだけ寂しい音がする。
一日の終わりを告げるくせに、何かを始めさせる気配もあるからだ。

僕は教室を出て、誰もいない廊下を歩く。
窓の外では、運動部の掛け声が反射して、やけに元気に響いている。

そういうのを横目に、僕は古い理科準備室の扉を開けた。

「遅い」

中から声がする。

「五分も遅れてない」

そう返すと、床に座っていた幽霊が頬を膨らませた。

「体感時間って知ってる?」

「幽霊が言うな」

彼女は、白いワンピース姿で、実験台にもたれかかっている。
透けているはずなのに、影だけはなぜかちゃんとある。

「今日は数学の補習?」

「うん。赤点未満回避」

「おめでとう」

「全然めでたくない」

僕は鞄を置いて、パイプ椅子に腰を下ろす。
この準備室には、もう何度も来ているから、変に落ち着く。

「ねえ」

「なに」

「今日のクラス、空気重くなかった?」

幽霊のくせに、妙に人間関係に詳しい。

「まあ……ちょっと」

昼休み、クラスで進路の話題が出た。
推薦だ、一般だ、将来は何になるだとか。

その輪に、僕はいなかった。

「君ってさ」

彼女が僕を見上げる。

「ちゃんと存在してるのに、影薄いよね」

「それ、フォローのつもり?」

「事実確認」

最悪だ。

「でもね」

彼女は続ける。

「ここに来るときの君は、ちゃんと“いる”感じがする」

その言葉に、少しだけ戸惑った。

「……どういう意味?」

「説明しろって言われると困るやつ」

幽霊はそう言って笑った。
その笑顔が、放課後の薄暗さに溶け込む。

「君さ」

「なに」

「私が見えてるって、誰かに言った?」

「言ってない」

即答すると、彼女は満足そうにうなずいた。

「えらいえらい」

「言ったらどうなると思う?」

「君が病院に連れて行かれる」

現実的すぎる。

しばらく沈黙が落ちる。
準備室の時計が、カチ、カチ、と音を立てる。

「ねえ、君」

「まだなにかあるの?」

「今日、帰りにコンビニ寄る?」

一瞬、言葉に詰まる。

「……幽霊、入れないだろ」

「外で待つ」

「それ意味ある?」

「ある。付き添い感」

僕は思わず笑った。
こういうどうでもいい会話が、なぜか救いになる。

「いいよ」

「やった」

彼女は立ち上がって、僕の横に来る。
触れないはずなのに、肩が軽くなる気がした。

「ねえ」

「今度はなんだよ」

「今日も、生き延びたね」

幽霊に言われると、妙に重い。

「……そうだな」

僕は鞄を持って、準備室の電気を消す。

誰にも言えない日常。
幽霊と過ごす、放課後。

たぶんこれは、
僕がちゃんと生きてる証拠なんだと思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...