幽霊と僕

浅田賢

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第4話 宿題をする

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準備室に入ると、彼女は実験台の上にいた。
いつもの高さ。

それだけで、少し安心する自分がいた。

「今日は上だね」

「うん」

短く答えて、足をぶらぶらさせる。
昨日のことには触れない。
僕も、触れない。

鞄からノートを出して、机に広げる。

「なにそれ」

「英語」

「出た」

心底つまらなそうな声。

「宿題?」

「宿題」

「真面目だね」

「放っておくと、面倒になるから」

シャーペンを走らせる。
不規則な英文と、やる気のない余白。

「それさ」

彼女が言う。

「将来、役に立つの?」

「わからない」

即答だった。

「でも、今やらないと怒られる」

「人間って大変だね」

「幽霊に言われたくない」

彼女は小さく笑った。

しばらく、鉛筆の音だけが続く。
時計の音と、紙をめくる音。

「ねえ」

「なに」

「それ、写していい?」

「写せないだろ」

「気分の問題」

意味がわからない。

「君ってさ」

彼女は、実験台の端から少し身を乗り出す。

「こういう時間、嫌いじゃないでしょ」

否定はしなかった。

「嫌いじゃない」

「知ってる」

それだけ言って、また足を揺らす。

ノートを見下ろすと、
気づけば何行か進んでいた。

「……終わった」

ノートを閉じる。

「はや」

彼女は、足をぶらぶらさせたまま言った。

「集中したから」

「珍しい」

「うるさい」

そのまま、少しだけ沈黙が落ちる。

時計の音と、
ページの端を指で弾く音。

彼女は、何も言わずに天井を見ていた。

いつもの位置。
いつもの高さ。

それだけで、準備室は十分だった。
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