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1章 出会いの町キャルト

STORY9 ケットシー救出作戦①

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 サイクロプスの撃退に向かったリアーナとウラボスの帰還にキャルトの町は歓喜にわき、英雄の姿を一目見ようと多くの人々が集まった。

 「リアーナさん、ウラボスさん。おかえりなさい!」

 「無事に戻ったか。さすがは暁の渡り鳥だな。噂は伊達ではないということか」

 二人をギルドの受付嬢が出迎え、その隣にいた見知らぬ男が声をかけてくる。

 「あんたは?」

 ウラボスは男に訊く。

 「こちらはキャルトの冒険者ギルドのギルド長ですよ」

 「ガルズだ。それで、サイクロプスの討伐は成功したのかね?」

 「それは…」

 リアーナはガルズに訊かれて言い淀む。

 「場所を変えて話したい」

 ウラボスが出した要望にガルズの表情が険しくなる。

 「何かあるようだな。ならば、ギルドにある私の執務室で聞かせてもらおうか」



 キャルトの冒険者ギルドの執務室。専用の椅子に腰を落としたガルズは机に両肘をつき、リアーナとウラボスをじっと見ている。

 「では、話してもらおうか」

 静かな声で話を促す。が、その視線は僅かな嘘も見逃すまいとしていた。

 「俺たちが駆けつけた時には先に討伐に出ていた冒険者たちは全滅していた」

 「やはり……。それで君たちはサイクロプスと戦ったのだね?」

 ガルズは探るような視線を向けたまま問う。ウラボスは無言で頷く。

 「で、こうして生還できたということは、討伐は成功したととらえればいいのだね?」

 「いえ、それは……」

 「交戦はしたが討伐はしていない…か。理由を聞こう」

 リアーナの様子からサイクロプスの生存を悟り、ガルズの視線は鋭さを増す。

 「彼は、グランザには悪意も、町を襲撃する意図もありません!」

 「そのグランザというのはくだんのサイクロプスのことだな? 悪意がないとは?」

 「それは、その…グランザはこの町にいるだれかにさらわれたケットシーを救いだそうとしていただけなんです」

 ガルズは鼻で笑う。

 「なにをバカな。サイクロプスといえば魔族であり、魔族と人間は敵対関係にあるのは知っているな」

 リアーナは首肯する。

 「ならば、なぜ魔族がほざく戯れ言を信じる?」

 「そんな! 戯れ言だなんて……」

 反論しようとするリアーナの言葉をガルズは遮る。

 「では訊くが、そのグランザというサイクロプスの言うことが真実だとする根拠はあるのか?」

 「それは……」

 「根拠もないのに、君たちは魔族の言うことを無条件で信じたのか」

 仲間のケットシーがキャルトに潜入していることを言えないリアーナはガルズに論破されてしまう。

 「だったらさ、グランザの言ったことが嘘だとする根拠はあるのか?」

 「なんだと?」

 ガルズはウラボスを睨む。

 「……魔族は他種族を認めようともしない非常に傲慢な種族だ。そんな連中が言うことなど信じるに値しない。それに、ケットシーと人間とは友好的な関係を築いている。捕まえるなどしてなんのメリットがあるというのだ?」

 「売りさばくとかあり得るんじゃないのか?」

 「話にならんな……」

 「例えば、買い主が魔族だったらどうする? そうでなくとも地下室なんかに閉じ込めて鑑賞用にすることも考えられる。あと、生物の命を必要とする禁術の生け贄とされる可能性だってある。要するに、俺のように悪い考えをできる者にとってはいくらでも価値はあるということだ」

 互いに一歩も引かず、緊迫した空気が漂う。

 「では、君はあくまでもこの町でケットシーを不正に捕獲している者がいるというのだな?」

 「そうは言っちゃいない。ただ、その可能性は0ではないというだけだ」

 「そう言っているとしか聞こえんが……。まぁ、いいだろう。調べるなら勝手にすればいい。もっとも、そんな荒唐無稽な話を信じるバカはおらんだろう。ギルドとしても協力はしない。警備隊もあてにはできんぞ」

 「かまわない。というよりは最初から期待していない」

 「それと、サイクロプスによる犠牲者が出た以上は放置するわけにはいかん。居所に心当たりがあるなら話してもらおう」

 「さあね。仮に知っていたとしても教えるわけにはいかない」

 「それはつまり我らギルドを…いや、このキャルトを敵に回すと理解していいのだな?」

 「べつに敵に回すつもりはない。俺たちには俺たちの考えがあるというだけのことさ」

 「そうか。これ以上は何を話しても無駄なようだな。即刻出ていきたまえ」

 こうして、リアーナとウラボスは半ば追い出される形でギルドをあとにする。



 「なんだか、大変なことになっちゃったね…」

 宿屋に戻り、ベッドに座ったリアーナはため息まじりに言う。

 「こうなったからには、ケットシーを密猟してるやつを捕まえるしかないな。とりあえずは昨日の公園に行ってみるか」

 「昨日の公園?」
 
 リアーナはウラボスに視線を向ける。

 「ああ。昨日見かけたケットシーに会えるかもしれないからね」

 「へ?」

 リアーナはキョトンとしてしまう。ケットシーを見た記憶などない。

 「ピンクの猫がいただろ?」

 「うん。いたけど……まさか?」

 「ああ。あの猫はケットシーだ」

 「う、うそぉ!?」

 リアーナは目を丸くして驚く。

 「なんだ、やっぱり気づいてなかったのか。まぁ、あいつらは周囲に溶け込むのは得意だからな」

 「それじゃ、すぐに昨日の公園に行かなきゃ!」

 リアーナが勢いよく立ち上がった。



 昼間の公園は訪れる人もまばらだった。

 「昨日はこの辺にいたよね?」

 リアーナはピンクの猫を目撃した場所で周囲を見回すが、その姿は見当たらない。それほど都合よくはいかないようだ。

 「それじゃ、手分けして探すとしようか。2時間後にもう一度ここへ集合でいいか?」

 ウラボスが確認する。

 「うん。絶対に見つけなきゃね。唯一の手がかりなんだから」

 やる気をみせるリアーナはウラボスをその場に残して捜索を開始した。



 「はぁ……」

 リアーナは疲労からため息をつく。ウラボスと別行動でケットシーの捜索を始めてもうすぐ2時間が経とうとしていた。

 聞き込みをしながら町中をあてどもなくさ迷い、探し回ったが1匹の猫を見つけることは容易ではなかった。

 ピンクの猫などそうそういるものでもなく、目撃情報が全くないわけではなかったが、探しているケットシーは行動範囲が広いらしく、キャルトのほぼ全域で目撃されている。

 「とにかく約束の時間だし、一度公園に戻らなきゃ」

 ひとまず捜索を諦めて公園へと向かう。が、すぐに足が止まった。

 目の前をピンクの猫が駆け抜けていき、それを追ってウラボスが通りすぎる。

 「ウラボス!?」

 思わず呼び止めてしまった。が、ウラボスは気づいたのかどうかは不明だが、振り返ることもなく去っていく。

 リアーナも後を追おうと駆け出すがみるみる引き離されていった。

 「すまないが公園で待っててくれないか。俺もすぐに向かうよ」

 背後からウラボスが追い越し様に声をかけていく。

 「うん、わかった」

 リアーナは答える。

 (……え?…)

 またしても立ち止まる。ケットシーを追って先行していたはずのウラボスが後ろからやってきたのはなぜだろう? 思わず返事をしたものの奇妙な事である。

 (もしかして、最初のウラボスは単に私の見間違いなの?)

 そうは思ってみても、間違いなくウラボスだったような気がする。

 (どういうこと?)

 わけがわからず空を仰ぎ見る。

 表情が固まった。リアーナが立っている路地を挟むように建ち並ぶ建物の屋根をウラボスが跳び移っていった。

 (私、疲れてるのかな……)

 状況を理解しようとすることを放棄し、リアーナは公園へと歩いていった。



 ケットシーは思いの外すばしっこい。それでも強引に捕まえようと思えば容易くできるが、警戒心を強めてしまったり、信頼を得ることが難しくなるかもしれないと考え、敢えて逃走を諦めるまで付き合うことにしたのだ。

 後ろから執拗に追ってくるウラボスを気にしながら、ケットシーは路地の細道を右に左に駆け回る。

 (なんてしつこいやつニャ!?)

 走りながらケットシーは焦りを募らせていた。体力は限界に近い。

 「ニャニャ!?」

 後方へ目配せして血の気が引く。手を伸ばされれば捕まってしまいそうなところまでウラボスが迫ってきていた。

 咄嗟に路地を右に入る。が、直後にその判断が間違いであったと後悔することとなった。その先は袋小路だった。

 (しまったニャ!)

 慌てて後ろを振り返る。ウラボスは袋小路から逃げられないように立ち塞がっていた。かくなるうえは屋根をつたって逃走するほかなかったのだが、すぐにそれは無理だと気づく。

 そこには、追跡者と同じ姿をした男が幾人も取り囲んでいるではないか。これではもはや逃げ場などあるはずもなかった。

 「どうやら俺の勝ちだな。まぁ、そんなに警戒することはないよ。俺はサイクロプスのグランザからあんたの事を頼まれてる」

 「グランザを知ってるのかニャ?」

 サイクロプスの名前に反応を見せるが、まだ警戒心は強い。

 「ああ。あんたは仲間のケットシーを救出するためにキャルトに来てるんだろ? 俺たちもそれに協力するつもりであんたを探してたんだ」

 「信じられないニャ。仲間をさらったのは人間ニャ!」

 「実際、俺としてはどうでもいいんだけどさ、リーダーがお人好しというか、正義感が強いというか……」

 「ニャッ! どうでもいいとはどういうことニャ!!」

 ウラボスの迂闊な失言がケットシーの怒りを買ってしまう。

 「まぁ、つべこべ言わずに一緒に来てくれないか? このまま強制連行してもいいけど?」

 「ウニャニャ~……。しかたないニャ……」

 ケットシーは観念したように項垂れた。



 「あっ、ウラボス!」

 公園に戻ってきたウラボスを見つけてリアーナが駆け寄る。

 「すまない。待たせてしまったね」

 「ううん。そんな事はいいんだけど……」

 リアーナはウラボスの足元にいるピンクの猫に視線を移す。

 「この子がケットシー?」

 リアーナが興味深げに見つめる。

 「な、なんニャ。見せ物じゃないニャ!」

 ケットシーはやや不機嫌そうにそっぽを向く。

 「あっ、ごめんなさい。でも……かっわいい~!」

 瞳をきらめかせた少女に熱い視線を浴びせられ、まんざらでもなさそうな仕草を見せる。

 「ま、まあニャ! あたしの可愛さはケットシー界でもトップクラスだからニャ!!」

 照れながらも自慢する。

 (うーむ、ケットシーはどれもそこまで違うようには思わないんだけどなぁ)

 心の中でツッコミを入れるウラボス。

 「ねぇねぇ、ちょっとだけでも抱かせてもらってもいいかな!?」

 顔を間近に近づけてくるリアーナにケットシーは若干後退りする。

 「お…お断りニャ! あたしはそんな安い女じゃないニャ!」

 「ええ~、こんなにかわいいのに……」

 心底残念がるリアーナに今度は自ら歩み寄るケットシー。

 「し、しかたないニャア。特別に許可してやるニャ!」

 「わぁ、ありがとう!」

 嬉々としてケットシーを抱き上げる。

 「ねぇ、名前を訊いてもいい?」

 「教えてやるニャ。あたしこそはケットシー界のトップアイドル、リャッカちゃんニャ!」

 「で、そのリャッカちゃんは何か情報を掴むことができたのか?」

 放っておいたら話が前に進みそうもなく、ウラボスは強引に話を戻す。

 「フフーン、この賢者リャッカ様にかかればチョロイもんニャ」

 「賢者ぁ? おまえ、賢者なのか?」

 ウラボスがあからさまに疑惑の目を向ける。

 「なんニャ。疑ってるのかニャ? まったく、失礼なやつニャ!」

 心外そうにしながら、賢者のライセンスを出現させる。

 「わっ、手品みたい!」

 リアーナが歓声をあげて拍手する。

 「手品とは何事ニャ! これは瞬間移動魔術テレポーテーションっていう高等魔術ニャ!! だれでも使えるようなものじゃないニャ!」

 自慢気に話すリャッカ。

 「あっ、それなら俺も使えるぞ」

 「ニャニャニャッ!?」

 リャッカは驚愕して目を見開いた。だが、多くの分身魔術コピー・ドールを同時に正確に操ることができるのならば瞬間移動魔術テレポーテーションを修得していたとしても不思議はなかった。

 「こいつ、なにもんニャ?」

 「えっと……一応、村人?」

 「はぁ!? こんなデタラメな村人がどこにいるニャ!?」

 リアーナの説明を聞いて更に驚愕する。

 「ここにいるだろ。実際、どのクラスのライセンスも取得してないんだから村人だろ」

 「もういいニャ。気にしないようにするニャ」

 「それは助かる。これでやっと本題に話を戻せるからな」

 「それニャ! 本当にグランザの知り合いなのかニャ!?」

 リャッカが確認する。

 「順を追って説明するね。私たちは暁の渡り鳥っていう冒険パーティーを組んでるの。それで、キャルトを襲撃してきたサイクロプスの討伐依頼を受けたの」

 「ふむふむ。そのサイクロプスがグランザなのかニャ」

 リアーナは首肯する。

 「でも、サイクロプスが近付いてきただけで襲撃と見なされるのはおかしいニャ」

 「魔族はその…人間に良く思われてないから不思議じゃないかも……」

 リャッカの意見にリアーナが異論を唱える。

 「魔族がいくら他種族から嫌われてる、いや、敵視されがちだといっても、いきなり討伐の対象というのはさすがに横暴ニャ。それに、グランザは自分から戦闘するようなやつじゃないニャ」

 「……もしかして、だれかが意図的に嘘の情報を流したってこと!?」

 「おそらくはね。そして、その何者かが今回の件の黒幕といえるだろう。さらに言えば、発言にある程度の信頼性、もしくは高い地位を持っている可能性が強い」

 ウラボスが肯定し、さらに推理を披露する。

 「どうして、そう言えるの?」

 「例えば、偶然にこの町を訪れた旅人がそんな情報を流したとするニャ。その場合、即座にギルドが総力を挙げて迎撃したり、警備隊が一ヵ所に集結して防衛にあたるとは考えにくいニャ」

 ウラボスに代わってリャッカが解説する。しかし、リアーナは首を傾げる。

 「でもでも、サイクロプスみたいな強い魔族が襲撃してくればそうなるんじゃないの?」

 「たしかに襲撃の意図がはっきりしていればそうなるニャ。だけど、グランザには襲撃の意図はなかったニャ。それに、そういう嘘の情報を流して町や村をパニックに陥れ、その隙に金目の物を盗る不届き者も少なくないニャ」

 「それが今回の件ではギルドと警備隊、双方の動きは早かった。ということは…」

 「そっか。それだけ発言に信用性がある人物、もしくはギルドや警備隊を即座に動かせるだけの権力を持つ人物ってことかぁ。だから、ウラボスはキャルトの権力者と争うことになるかもって言ったのね」

 ウラボスは頷く。

 「へぇ、あの化け物じみた村人はウラボスっていうのかニャ」

 リアーナに抱かれたままリャッカが言う。

 「化け物じみた?」

 リャッカの失礼な一言にウラボスが反応する。

 「ま、まぁまぁ…。そういえば、まだ自己紹介してなかったよね。私はリアーナ、彼がウラボス。さらわれたケットシーの仲間を助けるために協力させてもらえないかな?」

 リアーナによる紹介のあと、リャッカはその腕から脱け出して地面へと降り、二本足で立ち上がった。さらに、瞬間移動魔術テレポーテーションで出現させたフード付きローブを纏い、ミスリル・ロッドを手にする。

 「ウラボスはともかく、リアーナはいいやつニャ。信じる価値はありそうニャ」

 挑発的な視線をウラボスに送りつつ、リャッカは言う。が、ウラボスは特に気にする様子もなく聞き流している。

 「話がまとまったなら、知っている情報をさっさと提供してもらおうか」

 「ムッ。わかってるニャ! このアイドル賢者リャッカちゃんにかかれば敵のアジトを突き止めるなど造作もないことだったニャ」

 「すご~い!」

 感心するリアーナに対してご満悦のリャッカ。

 「それでもまだ乗り込んでいないということは、それをできない何かがあるんだな?」

 リャッカは図星を指摘されて表情を固くする。

 「い、いちいちうるさいやつニャ。あいつら、アジトには魔術弱化の魔法陣を施しているうえに、戦士風のやつらも大勢いるニャ。それから、騎士もいたニャ…」

 「騎士、か。キャルトの警備隊か?」

 ウラボスが推測する。それにリアーナだけでなくリャッカまでもが強く反応する。

 「ど、どうしてそれを?」

 目を見開いたまま訊くリャッカからはウラボスの推測が正しいことを知ることができた。

 「簡単さ。それだけ大人数で動くとなるとどうしても目立つはずだ。にもかかわらず、キャルトではそんな噂一つ流れていない。となれば、連中が動くのは深夜帯の可能性が濃厚なんだが、それは犯罪が増加する時間帯でもある。そのため警備隊のパトロールも増える。それらの情報を正確に知っておくには警備隊内部に仲間を作っておく必要があるわけだ」

 (ふぅん。魔術が得意なだけのやつじゃないようだニャ。こいつならその気になればなんだってできるはずニャ。なのに、リアーナと一緒に居続けるのはなぜニャ?)

 ウラボスの予想以上の有能ぶりに疑問を抱かずにはいられなかった。

 「ん?」

 リャッカの視線に気づいたウラボスの視線とぶつかる。

 「どうかしたのか?」

 「なんでもないニャ」

 問いかけてくるウラボスに素っ気なく返事する。

 「で、どうしたものか考えてたところにサイクロプス襲撃事件が発生したのニャ」

 「警備隊と冒険者の注意が引き付けられて、さらに町がパニックになってる隙にアジトに潜入するつもりだったのね」

 リャッカは頷くが、すぐに表情が暗くなった。

 「でも、まさかそのサイクロプスがこんなに早く敗けるとは全く予想してなかったニャ。ウラボスのせいで計算が狂ったニャ」

 (おいおい、俺のせいかよ?)

 心の中で反論する。

 「と、とにかく、アジトがわかってるなら乗り込んだほうがいいんじゃないかな」

 「あたしは反対ニャ。仲間が捕まっている以上は下手に乗り込めないニャ。人質にとられると厄介ニャ」

 「それじゃ、どうすればいいの? こうしてる間にも捕まってるケットシーは命の危険にさらされてるかもしれないのに……」

 こみ上げてくる焦燥感から無意識に拳を握りしめるリアーナ。

 「焦りは禁物ニャ」

 「その前に、どうやら俺たちに話がありそうな連中も来たようだぜ」

 ウラボスが駆け寄ってくる一団を見ながら言った。



 一団はウラボスたちを取り囲む。公園内にいた他の人間たちは遠巻きに事の成り行きを見守っている。

 「な…なんなの、いったい?」

 リアーナは周囲を見回して困惑している。

 「警備隊か。俺たちに何か用かい?」

 慌てた素振りもなくウラボスが問う。

 「暁の渡り鳥、おまえたちに訊きたいことがある。我々の詰所まで一緒に来てもらおうか」

 一団の指揮官らしき騎士鎧の男が答える。

 「それならここで聞こうか」

 「ダメだ。一緒に来てもらおう」

 同行を拒否するウラボスだったが騎士鎧の男は認めない。

 「なぜだ?」

 「答える必要はない」

 騎士鎧の男は明確には答えない。

 「私たちが何をしたというんですか!?」

 「おまえたちには、魔族と通じてクーデターを企てている疑いがある。警備隊としては断じて見過ごすわけにはいかん!」

 リアーナの質問に語気を強めて答える。

 「そんな!? 私たちはそんなこと考えていません!!」

 「それを調べるために同行しろと言っている。わかったらおとなしく従ってもらおうか。抵抗するなら容赦しない!」

 騎士鎧の男が挙手する。それを合図として周りの警備隊員が一斉に武器を構えた。

 「ど、どうしよう……」

 「大丈夫だ、問題ない」

 リアーナの不安と動揺を払拭するように言い、ウラボスは警備隊に先んじて動く。

 「睡眠魔術スリープ

 魔術名を唱えてウッドロッドで足元を軽く突く。周りの警備隊員たちは突如発生した煙に包まれる。

 「うわっ!」

 「なんだ!?」

 警備隊に動揺が広まるもすぐに声が途絶えた。騎士鎧の男以外の警備隊員は強烈な催眠効果に襲われて崩れ落ちる。

 「なっ!?」

 騎士鎧の男は一瞬にして形勢逆転されて狼狽し、後退りする。

 「なぁ、やつらのアジトにいたのはこいつか?」

 「はっきりとは言えないけど、たぶん違う気がするニャ」

 リャッカの返答を聞き終えると再び地面を突く。騎士鎧の男はたちまち煙に包まれて眠りに落ちた。

 「さて、警備隊も動きだしてきたか」

 「あたしたちも早く行動しなきゃまずくなったニャ。予定変更して、このまま一気に乗り込むニャ?」

 リャッカが意見を求める。

 「うん。捕まってるケットシーが人質にとられないかは心配だけど……」

 不安に口を閉ざすリアーナとリャッカ。

 「捕らえられている正確な場所は把握しているのか?」

 「ばっちりニャ!」

 ウラボスの質問にリャッカが即答する。

 「だったら、なんとかなるかもしれないぜ」

 ウラボスは口許に不敵な笑みを浮かべた。
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