冒険パーティー【暁の渡り鳥】の村人は最強です

美山 鳥

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1章 出会いの町キャルト

STORY10 ケットシー救出作戦②

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 キャルトの近く。強盗ラギが潜んでいた森を緊張した面持ちで進むキャルト警備隊の一団がある。

 「なぁ、本当にここにいるのか?」

 隊員の一人が隣を歩く仲間に小声で話しかける。

 「ああ。ギルド長ガルズさんからの情報ではその可能性が高いらしいぜ」

 「マジかよ……」

 「おい、そこ! 死にたくなければ無駄口をたたくな!!」

 先頭を行く、一団の指揮官ギュダの叱責を受けて押し黙る。

 ガサガサ……

 傍らの茂みが音を立てる。瞬間、各自は武器を手に身構える。

 緊迫した空気の中、茂みの奥からウサギが飛び出してきた。

 「落ち着け。敵は巨人なんだぞ。近くにいればすぐに発見できるはずだ」

 指揮官は冷や汗を拭う。完全武装したサイクロプスを相手にいかに戦えばいいのか見当もつかない。一応は切り札も用意してきたが、どこまで通じるか不安だ。しかし、町の平和を守るためには決して逃げ出すわけにはいかなかった。

 「行くぞ」

 部下たちを背中にギュダは森の奥を目指して移動を再開する。

 (なんとしてもサイクロプスをしとめなければ!)

 固い決意を胸に、迅速かつ慎重にサイクロプス捜索を続ける。



 (あれは!?)

 大木の幹に巨躯を隠していたグランザは警備隊の一団を発見した。相手はまだ気づいていない。だが、動けば即座に見つかるに違いない。

 (どうしよう……)

 戦闘になったとしても敗ける気はしない。だが、殺すつもりで立ち向かってくる警備隊の一団を相手に致命傷を与えることなく勝利する自信もないのだ。

 (このまま僕に気づかずに通り過ぎてください!)

 グランザは祈るような思いで息を殺している。

 「いたぞ!!」

 グランザの思いも空しく、警備隊の一人がグランザに気づき、大声で仲間たちに報せた。

 こうなっては隠れている意味がない。グランザは大木から身を踊らせて警備隊と対峙する。しかし、敵意がないことをわかってもらおうと武器を構えていない。

 「待ってください! 僕はあなたがたと戦うつもりはないんです! ただ、仲間のケットシーを助け出したいだけなんです!!」

 両手を上に挙げて懸命に訴えかける。

 「なにをバカなことを! 魔族の言うことなど信じられるか!! 我々を油断させて襲うつもりなのだろうが、そうはいかぬわ!」

 ギュダをはじめとした警備隊員たちは誰一人として聞く耳を持とうとはしない。

 「嘘じゃありません! お願いします、信じてください!!」

 それでもグランザは引き下がらない。

 「そのような世迷い言を信じる者などいるわけがなかろうが!」

 「ウラボスさんとリアーナさんは僕の言うことを信じてくれました!」

 ギュダはフンッと鼻を鳴らす。

 「やつらは所詮は余所者に過ぎない。キャルトを守らねばならないといった使命感など持ち合わせてはいないのだ! あんな根なし草と我らを一緒にするな!!」

 「それは違います! 彼らは僕個人を見て信じてくれたんです。あの二人を悪く言うのはやめてください!!」

 グランザは反論する。

 「平行線だな。戦う意思がないのであればそれもいい。おとなしく拘束されるがいい! そのあとで裁判をしてやろう」

 「それには応じられません。あなたがたが魔族である僕に正当な裁判をしてくれるとは思えません」

 「ならば、この場で処刑するまで! 総員、戦闘準備!!」

 ギュダの号令によって全隊員が殺気立つ。

 (やっぱり戦うしかないのか!?)

 やむを得ず武器を手に臨戦態勢をとる。

 「うぉぉぉぉぉ!」

 決死の形相で襲いかかってくる警備隊員の攻撃を盾で防ぎつつ、予め見つけておいた開けた場所まで移動する。巨躯で長柄武器を愛用するグランザにとって障害物の多い森林地帯は不利な戦場であった。故に、そうした場所での戦闘は極力避けなければならない。



 (ここまでくれば!)

 目的の場所までたどり着いたグランザは右手に戦斧、左手に盾を構える。

 「落ち着け! まずは魔術で牽制しろ!」

 ギュダが指示をとばす。途端に後方にひかえていた隊員から火炎矢魔術フレイム・アローが浴びせかけられる。

 グランザは右手の戦斧を扇風機の羽のごとく高速回転させ炎の矢を打ち落としていく。

 「ちっ、やつの周囲を取り囲んで一斉に攻撃する!」

 接近戦を得意とする隊員たちはギュダの指示に従って布陣する。

 「かかれ!!」

 ギュダが号令を発する。四方八方から武器を手にした隊員たちが襲いかかってきた。

 「くっそぉぉぉ!」

 グランザは叫び、戦斧で周囲の隊員たちを次々に凪ぎ払う。この一撃で幾人かの隊員たちは絶叫をあげて地面をのたうち回った。ある者は腕を切断され、またある者は腹を深くえぐられていた。

 「化け物め!」

 ギュダが憎悪に満ちた眼でグランザを睨む。

 「今からでも遅くありません。すぐに撤退して下さい!」

 「ぬかせ! 勝負はついておらんぞ!!」

 ギュダが片手を掲げた瞬間、木々の間から無数の矢がグランザに向けて放たれた。その大半はグランザの大きな単眼を狙っていた。

 「くっ!」

 盾で矢を防ぐ。その際、視界が遮られた隙をついてギュダがトマホークで斬りかかる。だが、グランザの体を包む分厚いプレート・メイルによって弾かれてしまう。

 (なんと硬い! こんな物を装着して動けるというのか!?)

 常人ならば動くことさえ困難であろう重鎧をまとって戦闘を行うなど信じられなかった。だが、ギュダには切り札があった。サイクロプスを相手にすることを想定していたのだ。当然といえば当然である。

 「撃てぇぇい!!」

 グランザから素早く離れると同時に叫ぶ。

 ズドォォォォン!!!

 凄まじい轟音が空気を震わせた。枝葉の間で身を潜めていた野鳥が一斉に飛び立つ。

 「がはぁっ!!」

 経験したこともないような強烈な衝撃を受けて単眼の巨人は勢いよく吹き飛んだ。大砲による一撃はグランザに大ダメージを与えるには充分な威力を発揮した。

 「う……ぐぅっ……」

 大木に激突してうつ伏せに倒れた体を起こそうと動く。途端に激痛に襲われてしまう。

 「雷撃矢魔術ライトニング・アロー!」

 警備隊の隊員たちによって作り出された無数の雷の矢がグランザに向かって飛んでくる。

 「がぁぁぁぁぁぁ!!」

 強烈な電撃が身体を突き抜け、グランザの意識は飛んでしまった。だが、それもほんの一瞬のことである。激痛に襲われるが、戦斧を杖代わりにすることでようやく立ち上がる。その間、グランザは勝利することを強く、強くイメージしていた。

 「しぶといやつめ! だが、これで終いだ!!」

 再び雷撃矢魔術ライトニング・アローの一斉射撃が行われた。

 「うがぁぁぁぁぁ!!」

 グランザが咆哮する。バーサーカー化したことで一時的に痛覚が遮断され、動きが活発になる。跳躍して雷の矢をかわし、左手に持っていた盾を眼下の警備隊員に向かって投げつける。

 「ぎゃあ!」

 顔面に命中した隊員は短く叫び即死した。周囲の隊員たちの表情がひきつる。

 グランザは背負っていた槍を左手に持つ。着地と同時に右手の戦斧と左手の槍を振りかざす。恐怖に強張っていた警備隊員たちは抵抗する間もなく瞬殺されていく。

 「ちっくしょぉぉぉ!」

 仲間がほぼ全滅するという悪夢のような惨状を目の当たりにした警備隊員は起死回生の一撃となることを祈って大砲を発射した。

 ズドォォォォン!!!

 再び響く轟音。放たれた巨大な鉛の塊は数本の木々を破壊し、倒していく。だが、そこにグランザの姿はない。間一髪のところで回避したのだ。

 「そ…んな……」

 最後の望みを絶たれ、絶望に打ちひしがれている隊員にグランザの戦斧が振り下ろされた。 



 グランザは我に返った。サイクロプス討伐にやってきたキャルト警備隊員の亡骸があちらこちらに横たわっている。戦斧と槍は言うに及ばず、自身がまとっていた重鎧も返り血を浴びて真っ赤になっていた。

 単眼から大粒の涙がこぼれ落ちる。バーサーカー化したあと、正気に戻って最初に目にする光景はいつも凄惨な殺戮が行われ、血の海に沈む者たちの姿だ。バーサーカー化して敗けたのはウラボスが初めてであった。

 自ら望んで戦ったわけではない。だが、魔族というだけで悪と決めつけられては命を狙われる。振りかかる火の粉は払わねばならない。自分がいったい何をしたというのだろう。止めどなくあふれてくる悲しみは心優しきサイクロプスの心を深く傷つける。しかし、それを知る者はあまりにも少ない……。
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