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1章 出会いの町キャルト
STORY11 ケットシー救出作戦③
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リャッカの案内でたどり着いた先は2階建ての廃墟だった。近くには民家など他の建物はない。
「で、あの建物のどこにケットシーは捕らわれているんだ?」
「2階の奥の部屋ニャ。言っとくけど、窓も板が張り付けられてて外からの侵入は無理ニャ」
茂みに身を隠しながらウラボスが訊き、リャッカが答える。
「中にどれくらいの数の敵がいる?」
「かなりいるニャ。その大半は1階に集まってるみたいニャ。あとは2階へ上がる階段の上と下、問題の部屋の外と中にもいたニャ」
「へぇ、よくそこまで詳細に調べあげたものだ。偉い偉い!」
ウラボスが感心してリャッカの頭を撫でてやる。
「バカにしてるのかニャ! あたしは賢者ニャ。不可視魔術を使えばそれくらい調べるのなんて簡単ニャ」
「不可視魔術って他人から姿を見えなくする超高等魔術だよね? 私、そんなのを使える人なんて初めて見たかも!」
「ニャッハッハッハ! 賢者リャッカ様に不可能はないニャ!」
リャッカは御満悦である。
「それにしても、魔術弱化の魔法陣が施されているのによくそんな高等魔術が使えたもんだな」
「フッフーン! 普通は無理なのニャ。あたしほどの魔術の使い手だから可能なのニャ」
得意満面で答えるリャッカ。
「これはさすがのウラボスでも真似できないニャア?」
リャッカは勝ち誇ったようにウラボスを見る。
「いや、そんなことはないぞ。…よし、試しに1階にいる連中を不可視魔術を使った状態で片付けるか! リャッカとリアーナは2階へ直行してケットシーを人質にとられないようにしてくれ」
「ちょっ、ちょっと待つニャ!」
言い置くと、リャッカの制止も聞かずに茂みから飛び出し、廃墟の扉を乱暴に開ける。既に不可視魔術を発動させているのだろう。リアーナとリャッカにはその姿を視認することはできない。
「と、とにかく行かなきゃ!」
「まったく、無茶苦茶なやつニャ」
慌ててあとを追う二人。
「な、なんだ!?」
「だれかいるのか!」
「くそっ、どこだっ、どこにいる!?」
廃墟内からは1階にいたと思われる連中の狼狽えた叫び声が聞こえてくる。それからは敵にはウラボスの姿が見えていないことがわかる。
「あたし、やっぱりあいつの事、嫌いニャ……」
ウラボスから遅れること数秒。追いついたリアーナとリャッカの前には気絶して床に倒れている男たちの姿があった。その数はおよそ20人は下らないだろう。
「遅いぞ、二人とも」
不可視魔術を解いて姿を現したウラボスが言う。
(この人数を秒殺にするほうがおかしいニャ)
口には出さずに心の中でツッコミをいれるリャッカ。
「上は二人に任せておくよ。俺は下で待ってるからさ」
親指を立てて奥の階段を指す。
「うん、わかった。行こう、リャッカちゃん!」
「了解ニャ!」
◎
1階を駆け抜けて階段を昇る。その先に敵の姿を確認できた。
「何者だ!?」
男は慌てた様子で剣を構える。
「リャッカちゃんは先に行って!」
言って、腰のレイピアを抜き放つ。
「この…」
男は掲げた剣を垂直に振り下ろした。それを左右に別れてかわしたリアーナとリャッカは男の背後へと進む。
リャッカはリアーナの言葉に従って奥の部屋を目指し、リアーナは振り返り様にレイピアを一閃した。
「ぐっ」
レイピアは男の背中に横一文字の切り傷をつけたが、傷口はそれほど深くはない。
「…っのアマァ!」
男は振り返り、二度、三度と剣を振るう。リアーナはその度に後退して男の攻撃を避ける。
「ちぃっ」
男が四度目の攻撃を仕掛けようと剣を振り上げた瞬間、リアーナのレイピアが男の右足の太ももに突き刺さる。
「ぎゃあっ」
男は悲鳴をあげてよろめき、持っていた剣を廊下に落とす。そこにリアーナの蹴りが炸裂し、階段から転げ落ちていった。
◎
「ケットシーだと?」
奥の部屋の前で待ち構えていた男は猛然の突っ込んでくるリャッカに困惑する。
「覚悟するニャ!」
リャッカは跳ね上がり、ミスリル・ロッドで男の頭を殴り付ける。
「痛ぇぇ…」
本来は魔術を使った戦いを得意とするリャッカでは一撃で敵をノックアウトと言うわけにはいかなかったようだ。男は頭を押さえつつ、リャッカから離れる。
「こいつめ、取っ捕まえてやらぁ!」
男の眼がギラリと光る。前屈みになって飛び込むタイミングを計る。
「ぎゃあっ」
ドタドタドタドタ……
仲間の男の悲鳴が聞こえた直後、リアーナによって階段の上から蹴り落とされる派手な音がして、男は思わず振り返る。
「隙ありニャ!」
間髪いれずにリャッカが振りかざしたミスリル・ロッドは男の股間を直撃した。
「ぐぁっ」
短く声を洩らして悶絶する男の横っ面をリャッカがミスリル・ロッドで殴打する。その弾みで壁に頭をおもいきりぶつけてしまった男は気絶した。
「大丈夫、リャッカちゃん?」
「心配、ご無用ニャ! そんなことよりも……」
「うん!」
二人は軽く頷き合って奥の扉に目を向ける。
◎
扉をそっと開ける。窓は板が張り付けられているせいでほとんど光は入ってきていない。夜目がきくリャッカは真っ先に部屋に飛び込んで捕らわれているケットシーの元へとまっしぐらである。
ブンッ
続こうとするリアーナの目の前にブロードソードが振り下ろされた。
「小娘、おまえが暁の渡り鳥のリアーナだな?」
壁際で侵入者が部屋に入ってきた直後にしとめようと待ち構えていた騎士風の男が訊く。
「あなたは?」
リアーナは男に問い返す。男は鼻で笑い、ゆったりとした動作でブロードソードを構え直す。
「知りたいか。ならば、教えてやろう。俺の名はジグーマ。この町の警備隊に所属している騎士だ。ちなみにだが、暁の渡り鳥とかいう二人組の冒険パーティーが我々のことを嗅ぎ回ってると知ってね。今回の取引を最後に暫く休業しようと思ってたところだったのさ」
「気をつけるニャ! そいつが前に潜入した時にいたリーダー格の騎士ニャ!!」
リャッカが注意を促す。
「警備隊所属の騎士がどうして!?」
「愚問だな。この世に金が嫌いな人間がいると思うか? 騎士とて金は欲しいさ。いずれにしても俺の顔を知られたからには生かしておくわけにはいかん。死んでもらおうか」
(この人、強い!)
リアーナはブロードソードを構えるジグーマに隙を見つけられずにいた。
「リャッカちゃんは捕まってる子をお願い! こいつは私が倒す!!」
「わかったニャ。任せるニャ」
(これで安心ね。あとは……)
リアーナは目の前の敵を見据えて集中力を高めた。
「こないのか? では、こちらからいかせてもらおう」
ブロードソードの鋭い突きがリアーナのレザーアーマーを掠めた。あと僅かでも反応が遅れていれば致命傷を受けていたに違いない。
「この!」
リアーナも反撃にでる。しかし、その攻撃はジグーマがまとっている鎧によって弾かれてしまう。
「ククク…。そんな細い剣では俺の鎧を裂くことも貫くこともできんぞ」
ジグーマは不敵に笑む。部屋とは違い、廊下はブロードソードを振り回すには狭いため、必然的にレイピアとブロードソードによる突きの応酬となる。が、やはり防御力の差は大きく、リアーナにとっては不利な戦いを強いられることになった。
「そらそらそら!」
ジグーマは愉快げに連続して突きを繰り出す。対して、リアーナは反撃を止めて、ジグーマの隙を探しながら回避に専念している。
「そこぉ!」
リアーナが鋭い突きを放つ。レイピアはジグーマの鎧の間接部に吸い込まれるように突き進む。
「ちぃっ…貴様ぁ!」
咄嗟に身をかわしたジグーマが怒りと焦りが混在した声を発する。
ここで攻守が逆転する。リアーナは鎧の間接部に狙いをしぼって素早く連続突きを繰り出す。ジグーマはブロードソードでレイピアを受け流しつつ後退し、奥の部屋まで押し戻された。
「調子にのるなよ、小娘!」
室内へと移動することでスペースが広くなり、ジグーマが水平に薙いだブロードソードの切っ先がリアーナのレザーアーマーに傷を残す。
「リアーナ!」
戦いを見守っていたリャッカが叫ぶ。今、ここを離れれば鉄格子の小さな檻に閉じ込められている仲間は危険にさらされるかもしれない。が、目の前では、なんの見返りもなく命懸けで今回の作戦に協力してくれている少女がピンチに陥っている。気がつけば、少女を救うべく動いていた。
「ニャア!」
リャッカは渾身の力を込めてミスリル・ロッドを振りかざす。
ガキッ
ジグーマはブロードソードで受け止めて弾き返す。
(くそぉ……。やっぱり物理的な力じゃ勝負にならないニャ)
だれが施したのかもわからない魔術弱化の魔法陣を忌々しく思う。
「ふん、ザコが…」
ジグーマの双眸が冷たく光り、ブロードソードが高々と掲げられる。
「させない!」
リアーナのレイピアが薄暗い室内で閃く。いち早く危険を察知したジグーマは2、3歩後退して回避する。
「死ね!」
攻撃のターゲットをリアーナに変更してブロードソードを握る両手に力を込める。
「雷撃矢魔術!」
リャッカは雷属性の攻撃魔術名を詠唱する。あらわれた雷の矢はジグーマを直撃した。
「なめた真似をしてくれる!」
魔術弱化の魔法陣の影響で威力が激減しているため、ダメージはほとんど与えられないがジグーマの怒りを買うには充分であった。
しかし、リャッカに気をとられた一瞬の隙をリアーナは見逃さなかった。ジグーマの背後へと素早く回り込み、レイピアを構え、その左腰の隙間に狙いを定める。
「ぐぅっ」
レイピアは見事にジグーマの腰をとらえる。
「雷撃矢魔術!」
両膝をつき四つん這いになったジグーマにリャッカの雷撃魔術が2連発で放たれた。
「ぐおぉぉぉぉっ!」
ジグーマの絶叫が響く。
「ニャニャア!」
今度はミスリル・ロッドで頭部を殴打する。いかに兜で頭部を保護しているといってもおもいきり殴られればそれなりのダメージはある。
「ぐっ…この!……」
なおもジグーマはブロードソードを手に立ち上がる。だが、すでにふらついている。
「やぁ!」
リアーナのレイピアがブロードソードを持つ右手の肘の内側に傷を負わせる。
ガラァァン!
ブロードソードが床に落ちる音がした。ジグーマはまたしても膝をつく。
「おとなしく敗けを認めて!」
リアーナはレイピアの切っ先を突きつけて敗北の宣言を迫る。
「……そうすれば命は助かるんだろうな?」
「それは約束する。でも、あなたには自らの罪を認めたうえで法の裁きを受けてもらいます」
「…わかった。降参しよう」
「本当かニャ? 隙をついて攻撃してくるようなことはしないかニャ!?」
リャッカは疑念を込めた視線をぶつける。
「ふっ…。俺にも騎士道というものはあるさ。その棚の左の引き出しに檻の鍵が保管してある。早く解放してやるんだな」
ジグーマの言葉のリアーナはリャッカへ目配せする。
「任せるニャ」
リャッカは指定された引き出しを開けて中を覗く。そこにはたしかに鍵が保管されていた。それを取り出して檻を解錠する。
「ありがとうございます!」
嬉々と檻から出てきたケットシーはリャッカとリアーナにお礼を言う。
「これでおまえたちの目的は果たされたはずだ。とっとと失せてくれ。俺はここで警備隊の連中が捕まえにくるのを待っている」
ジグーマは疲れた素振りで床に腰をおろす。
「さぁ、ウラボスのところへ行きましょう」
「行くニャ、行くニャ!」
三人は手負いのジグーマを残して部屋を出ていく。
「甘いわぁ!」
突然の出来事だった。リアーナがレイピアを鞘に納め、全員の警戒心が薄れる瞬間を待っていたジグーマが左手でブロードソードを持ち、背後からリアーナに斬りかかった。
「えっ!?」
振り向いたリアーナにはもはや回避する時間も残されてはおらず、リャッカも間に合いそうもなかった。
ザシュッ!
肉を斬り裂き、真っ赤な鮮血が血飛沫となってジグーマの鎧を赤く染める。
ドサッ
床に倒れるリアーナ。
「リアーナァァァ!!」
リャッカの悲痛な叫び声が響き渡った……。
「で、あの建物のどこにケットシーは捕らわれているんだ?」
「2階の奥の部屋ニャ。言っとくけど、窓も板が張り付けられてて外からの侵入は無理ニャ」
茂みに身を隠しながらウラボスが訊き、リャッカが答える。
「中にどれくらいの数の敵がいる?」
「かなりいるニャ。その大半は1階に集まってるみたいニャ。あとは2階へ上がる階段の上と下、問題の部屋の外と中にもいたニャ」
「へぇ、よくそこまで詳細に調べあげたものだ。偉い偉い!」
ウラボスが感心してリャッカの頭を撫でてやる。
「バカにしてるのかニャ! あたしは賢者ニャ。不可視魔術を使えばそれくらい調べるのなんて簡単ニャ」
「不可視魔術って他人から姿を見えなくする超高等魔術だよね? 私、そんなのを使える人なんて初めて見たかも!」
「ニャッハッハッハ! 賢者リャッカ様に不可能はないニャ!」
リャッカは御満悦である。
「それにしても、魔術弱化の魔法陣が施されているのによくそんな高等魔術が使えたもんだな」
「フッフーン! 普通は無理なのニャ。あたしほどの魔術の使い手だから可能なのニャ」
得意満面で答えるリャッカ。
「これはさすがのウラボスでも真似できないニャア?」
リャッカは勝ち誇ったようにウラボスを見る。
「いや、そんなことはないぞ。…よし、試しに1階にいる連中を不可視魔術を使った状態で片付けるか! リャッカとリアーナは2階へ直行してケットシーを人質にとられないようにしてくれ」
「ちょっ、ちょっと待つニャ!」
言い置くと、リャッカの制止も聞かずに茂みから飛び出し、廃墟の扉を乱暴に開ける。既に不可視魔術を発動させているのだろう。リアーナとリャッカにはその姿を視認することはできない。
「と、とにかく行かなきゃ!」
「まったく、無茶苦茶なやつニャ」
慌ててあとを追う二人。
「な、なんだ!?」
「だれかいるのか!」
「くそっ、どこだっ、どこにいる!?」
廃墟内からは1階にいたと思われる連中の狼狽えた叫び声が聞こえてくる。それからは敵にはウラボスの姿が見えていないことがわかる。
「あたし、やっぱりあいつの事、嫌いニャ……」
ウラボスから遅れること数秒。追いついたリアーナとリャッカの前には気絶して床に倒れている男たちの姿があった。その数はおよそ20人は下らないだろう。
「遅いぞ、二人とも」
不可視魔術を解いて姿を現したウラボスが言う。
(この人数を秒殺にするほうがおかしいニャ)
口には出さずに心の中でツッコミをいれるリャッカ。
「上は二人に任せておくよ。俺は下で待ってるからさ」
親指を立てて奥の階段を指す。
「うん、わかった。行こう、リャッカちゃん!」
「了解ニャ!」
◎
1階を駆け抜けて階段を昇る。その先に敵の姿を確認できた。
「何者だ!?」
男は慌てた様子で剣を構える。
「リャッカちゃんは先に行って!」
言って、腰のレイピアを抜き放つ。
「この…」
男は掲げた剣を垂直に振り下ろした。それを左右に別れてかわしたリアーナとリャッカは男の背後へと進む。
リャッカはリアーナの言葉に従って奥の部屋を目指し、リアーナは振り返り様にレイピアを一閃した。
「ぐっ」
レイピアは男の背中に横一文字の切り傷をつけたが、傷口はそれほど深くはない。
「…っのアマァ!」
男は振り返り、二度、三度と剣を振るう。リアーナはその度に後退して男の攻撃を避ける。
「ちぃっ」
男が四度目の攻撃を仕掛けようと剣を振り上げた瞬間、リアーナのレイピアが男の右足の太ももに突き刺さる。
「ぎゃあっ」
男は悲鳴をあげてよろめき、持っていた剣を廊下に落とす。そこにリアーナの蹴りが炸裂し、階段から転げ落ちていった。
◎
「ケットシーだと?」
奥の部屋の前で待ち構えていた男は猛然の突っ込んでくるリャッカに困惑する。
「覚悟するニャ!」
リャッカは跳ね上がり、ミスリル・ロッドで男の頭を殴り付ける。
「痛ぇぇ…」
本来は魔術を使った戦いを得意とするリャッカでは一撃で敵をノックアウトと言うわけにはいかなかったようだ。男は頭を押さえつつ、リャッカから離れる。
「こいつめ、取っ捕まえてやらぁ!」
男の眼がギラリと光る。前屈みになって飛び込むタイミングを計る。
「ぎゃあっ」
ドタドタドタドタ……
仲間の男の悲鳴が聞こえた直後、リアーナによって階段の上から蹴り落とされる派手な音がして、男は思わず振り返る。
「隙ありニャ!」
間髪いれずにリャッカが振りかざしたミスリル・ロッドは男の股間を直撃した。
「ぐぁっ」
短く声を洩らして悶絶する男の横っ面をリャッカがミスリル・ロッドで殴打する。その弾みで壁に頭をおもいきりぶつけてしまった男は気絶した。
「大丈夫、リャッカちゃん?」
「心配、ご無用ニャ! そんなことよりも……」
「うん!」
二人は軽く頷き合って奥の扉に目を向ける。
◎
扉をそっと開ける。窓は板が張り付けられているせいでほとんど光は入ってきていない。夜目がきくリャッカは真っ先に部屋に飛び込んで捕らわれているケットシーの元へとまっしぐらである。
ブンッ
続こうとするリアーナの目の前にブロードソードが振り下ろされた。
「小娘、おまえが暁の渡り鳥のリアーナだな?」
壁際で侵入者が部屋に入ってきた直後にしとめようと待ち構えていた騎士風の男が訊く。
「あなたは?」
リアーナは男に問い返す。男は鼻で笑い、ゆったりとした動作でブロードソードを構え直す。
「知りたいか。ならば、教えてやろう。俺の名はジグーマ。この町の警備隊に所属している騎士だ。ちなみにだが、暁の渡り鳥とかいう二人組の冒険パーティーが我々のことを嗅ぎ回ってると知ってね。今回の取引を最後に暫く休業しようと思ってたところだったのさ」
「気をつけるニャ! そいつが前に潜入した時にいたリーダー格の騎士ニャ!!」
リャッカが注意を促す。
「警備隊所属の騎士がどうして!?」
「愚問だな。この世に金が嫌いな人間がいると思うか? 騎士とて金は欲しいさ。いずれにしても俺の顔を知られたからには生かしておくわけにはいかん。死んでもらおうか」
(この人、強い!)
リアーナはブロードソードを構えるジグーマに隙を見つけられずにいた。
「リャッカちゃんは捕まってる子をお願い! こいつは私が倒す!!」
「わかったニャ。任せるニャ」
(これで安心ね。あとは……)
リアーナは目の前の敵を見据えて集中力を高めた。
「こないのか? では、こちらからいかせてもらおう」
ブロードソードの鋭い突きがリアーナのレザーアーマーを掠めた。あと僅かでも反応が遅れていれば致命傷を受けていたに違いない。
「この!」
リアーナも反撃にでる。しかし、その攻撃はジグーマがまとっている鎧によって弾かれてしまう。
「ククク…。そんな細い剣では俺の鎧を裂くことも貫くこともできんぞ」
ジグーマは不敵に笑む。部屋とは違い、廊下はブロードソードを振り回すには狭いため、必然的にレイピアとブロードソードによる突きの応酬となる。が、やはり防御力の差は大きく、リアーナにとっては不利な戦いを強いられることになった。
「そらそらそら!」
ジグーマは愉快げに連続して突きを繰り出す。対して、リアーナは反撃を止めて、ジグーマの隙を探しながら回避に専念している。
「そこぉ!」
リアーナが鋭い突きを放つ。レイピアはジグーマの鎧の間接部に吸い込まれるように突き進む。
「ちぃっ…貴様ぁ!」
咄嗟に身をかわしたジグーマが怒りと焦りが混在した声を発する。
ここで攻守が逆転する。リアーナは鎧の間接部に狙いをしぼって素早く連続突きを繰り出す。ジグーマはブロードソードでレイピアを受け流しつつ後退し、奥の部屋まで押し戻された。
「調子にのるなよ、小娘!」
室内へと移動することでスペースが広くなり、ジグーマが水平に薙いだブロードソードの切っ先がリアーナのレザーアーマーに傷を残す。
「リアーナ!」
戦いを見守っていたリャッカが叫ぶ。今、ここを離れれば鉄格子の小さな檻に閉じ込められている仲間は危険にさらされるかもしれない。が、目の前では、なんの見返りもなく命懸けで今回の作戦に協力してくれている少女がピンチに陥っている。気がつけば、少女を救うべく動いていた。
「ニャア!」
リャッカは渾身の力を込めてミスリル・ロッドを振りかざす。
ガキッ
ジグーマはブロードソードで受け止めて弾き返す。
(くそぉ……。やっぱり物理的な力じゃ勝負にならないニャ)
だれが施したのかもわからない魔術弱化の魔法陣を忌々しく思う。
「ふん、ザコが…」
ジグーマの双眸が冷たく光り、ブロードソードが高々と掲げられる。
「させない!」
リアーナのレイピアが薄暗い室内で閃く。いち早く危険を察知したジグーマは2、3歩後退して回避する。
「死ね!」
攻撃のターゲットをリアーナに変更してブロードソードを握る両手に力を込める。
「雷撃矢魔術!」
リャッカは雷属性の攻撃魔術名を詠唱する。あらわれた雷の矢はジグーマを直撃した。
「なめた真似をしてくれる!」
魔術弱化の魔法陣の影響で威力が激減しているため、ダメージはほとんど与えられないがジグーマの怒りを買うには充分であった。
しかし、リャッカに気をとられた一瞬の隙をリアーナは見逃さなかった。ジグーマの背後へと素早く回り込み、レイピアを構え、その左腰の隙間に狙いを定める。
「ぐぅっ」
レイピアは見事にジグーマの腰をとらえる。
「雷撃矢魔術!」
両膝をつき四つん這いになったジグーマにリャッカの雷撃魔術が2連発で放たれた。
「ぐおぉぉぉぉっ!」
ジグーマの絶叫が響く。
「ニャニャア!」
今度はミスリル・ロッドで頭部を殴打する。いかに兜で頭部を保護しているといってもおもいきり殴られればそれなりのダメージはある。
「ぐっ…この!……」
なおもジグーマはブロードソードを手に立ち上がる。だが、すでにふらついている。
「やぁ!」
リアーナのレイピアがブロードソードを持つ右手の肘の内側に傷を負わせる。
ガラァァン!
ブロードソードが床に落ちる音がした。ジグーマはまたしても膝をつく。
「おとなしく敗けを認めて!」
リアーナはレイピアの切っ先を突きつけて敗北の宣言を迫る。
「……そうすれば命は助かるんだろうな?」
「それは約束する。でも、あなたには自らの罪を認めたうえで法の裁きを受けてもらいます」
「…わかった。降参しよう」
「本当かニャ? 隙をついて攻撃してくるようなことはしないかニャ!?」
リャッカは疑念を込めた視線をぶつける。
「ふっ…。俺にも騎士道というものはあるさ。その棚の左の引き出しに檻の鍵が保管してある。早く解放してやるんだな」
ジグーマの言葉のリアーナはリャッカへ目配せする。
「任せるニャ」
リャッカは指定された引き出しを開けて中を覗く。そこにはたしかに鍵が保管されていた。それを取り出して檻を解錠する。
「ありがとうございます!」
嬉々と檻から出てきたケットシーはリャッカとリアーナにお礼を言う。
「これでおまえたちの目的は果たされたはずだ。とっとと失せてくれ。俺はここで警備隊の連中が捕まえにくるのを待っている」
ジグーマは疲れた素振りで床に腰をおろす。
「さぁ、ウラボスのところへ行きましょう」
「行くニャ、行くニャ!」
三人は手負いのジグーマを残して部屋を出ていく。
「甘いわぁ!」
突然の出来事だった。リアーナがレイピアを鞘に納め、全員の警戒心が薄れる瞬間を待っていたジグーマが左手でブロードソードを持ち、背後からリアーナに斬りかかった。
「えっ!?」
振り向いたリアーナにはもはや回避する時間も残されてはおらず、リャッカも間に合いそうもなかった。
ザシュッ!
肉を斬り裂き、真っ赤な鮮血が血飛沫となってジグーマの鎧を赤く染める。
ドサッ
床に倒れるリアーナ。
「リアーナァァァ!!」
リャッカの悲痛な叫び声が響き渡った……。
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