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1章 出会いの町キャルト
STORY13 ケットシーの里
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「へぇ…ここがケットシーの里かぁ」
リャッカの瞬間移動魔術によってケットシーの里へと瞬時にやってきたリアーナたち。初めて訪れる地に興味津々のウラボスは辺りを見回している。
里の近くには小さな泉が湧き出ており、それがここに暮らすケットシーたちの生活を支える水源となっているようだった。
「あっ、リャッカだ! おーい、リャッカが帰ってきたぞぉ!! グランザも一緒だ!」
里の入り口で見張りをしていたケットシーの男が大声で叫ぶ。それを聞いた里の住人たちが集まってきた。
「みんなぁ!」
リャッカは嬉しそうに里の仲間たちの所へと駆ける。
(賢者といってもまだまだ子供なんだな)
ウラボスは微笑ましげにその光景を見ていた。
「リャッカ!!」
集まった者たちをかき分けて現れた女性ケットシーが両手を広げてリャッカの名を呼ぶ。よほど心配していたのだろう。両目を涙でいっぱいにしている。
「ママ!!」
その姿を見たリャッカはさらに加速して、その懐へと飛び込んだ。
ゴツン!
リャッカの脳天に鉄拳が落とされた。
「ウニャッ」
(うん? 思ってた展開と違ってきたぞ…)
「まったく、あんたって子は! 里のみんながどれだけ心配したと思ってるの!?」
「ご、ごめんニャ……」
「賢者っていっても、あんたはまだまだ子供なのよ! あんまり無茶しないの!」
「まあまあ、それくらいにしてやったらどうじゃ?」
杖をついて現れた老齢のケットシーがリャッカに助け船を出す。
「おじいちゃん!」
リャッカが目を輝かせて避難する。
「お父さんはリャッカに甘すぎるんです!」
「リャッカとて里にこれ以上の犠牲を出したくない一心でしたことじゃろう。今回はちっとばかり先走りし過ぎたが、その心は大切にしてやらんとな」
「それは…そうですけど……」
「ならば、この話はこれで終わりでよいな? それにいつまでも客人を待たせては申し訳ないしのぉ」
諭し終えた老齢のケットシーは事態を見守っていたウラボスたちの元までやってきた。
「わざわざお越しいただいたのにお見苦しいものを……。申し訳ありませんでしたな。わしは里の長をしておりますジバフと申します。こんな所で立ち話もございません。里の中までおいでください」
ジバフは一行を里へと招き入れた。
◎
「いやはや、随分とお待たせしてしまい、申し訳ございません」
ケットシーの里。その中央の位置する広場で待機していたウラボス、リアーナ、グランザの三人の元にリャッカを連れてジバフが姿を現した。
「あの、本当にすみませんでした!」
リアーナは深々と頭を下げる。
「どうか、頭をおあげくだされ。あなたは何も悪くはない」
リアーナの肩にそっと触れながらジバフは言った。
「そうニャ。みんな、リアーナとグランザと…ついでにウラボスには感謝してるニャ!」
(おいおい、俺はついでか?)
続いてのリャッカの言葉にウラボスは苦笑する。
「でも、私は何も守れませんでした! 最後に私が油断さえしなければ!!」
「リアーナ殿は何も守れなかったと申されますが、そんなことはございませんぞ。実のところ、我々はキャルトとの全面戦争を考えておったのです。あなた方がいなければ避けられなかったでしょう。そうなれば、この里にもキャルトにも多大な犠牲がでるところでした。あなたはそれを未然に防いだのです。どうか、胸を張ってくだされ! それに、あなたのような方がおられるから、わしらは今後も人間を信じることができるのですよ」
なおも自分を責めるリアーナにジバフが語る。
「ジバフさん……。ありがとう…ございます……」
リアーナは言葉を詰まらせる。
「ところで、ウラボス殿…でしたな?」
ジバフはウラボスに向き直った。
「ああ」
「あなたはこれまでどこかの組織に所属されておりましたかな?」
「いいや。それがどうかしたのか?」
ウラボスは短く答え、質問を返す。
「いやいや。わしも魔術師の端くれ。あなたほどの優れた魔術師ならば名前くらいは聞いたことがあってもよいものなのですが、失礼ながら存じ上げなかったものですから……。差し支えなければ、クラスをお訊きしても?」
「ウラボスは村人ニャ」
ウラボスに代わってリャッカが答える。それを聞いて絶句するジバフ。
(そうなるよね。その気持ちはわかる…)
リアーナ、リャッカ、グランザは心の中で同じようなことを思う。
「なんと! これは驚きました。……何はともあれ、今回の件では皆様方には深く感謝しております。大したことはできませぬが、この村でゆっくりとしていってくだされ」
ジバフは三人に一礼して、手を叩く。
「さあ、皆の者よ、このお三方を歓迎しようではないか!」
「おぉ!」
ジバフが声をあげると、待ってましたとばかりに歓迎会の準備が始まった。
◎
里を挙げての歓迎会では、お刺身・煮魚・焼き魚・魚肉のつみれ汁など豪華な料理が振る舞われた。
「なんか、さすがはケットシーというか猫の妖精というか……」
「おや、ウラボス殿のお口には合いませんでしたかな?」
ジバフがウラボスに声をかけてくる。
「いや、そういうわけじゃないんだ。やっぱりケットシーは魚料理が好きなんだなってさ」
「あったり前ニャ! 魚料理は最高ニャ!」
リャッカが会話に参加する。
「そういうウラボスは何か好きな食べ物とかあるニャ?」
「俺? 魚も嫌いじゃないけど、どちらかと言えば肉のほうが好きだな」
「ほほぉ、やはりお若いのは肉ですか……。しかし、我が里の魚料理は肉にも負けておりませんぞ! よいですかな、まず我が里には秘伝の……」
カップに満たされていた酒を飲み干したジバフの熱弁が始まった。
(うわぁ……。この手の展開って長くなるんだよなぁ…)
ウラボスは突然降りかかった災難を嘆く。
「……というわけで、我が里の魚料理はケットシー界でも特に美味なのです!」
「あたしはこの絶品煮がいちばん好きニャ!」
リャッカが手元の皿に取り分けた煮物を得意気に見せる。
「おお、さすがはリャッカ! わしの跡を継いで里長になる資質は充分じゃな! そもそもその絶品煮はのぉ……」
(おいおいおい…リャッカのやつ、なんて事してくれてんだよ……。せっかく終わりそうだったのに、また魚料理の話が再燃し始めたじゃないか。だいたい、そんなもんで里長の資質とかわかるのかよ?)
ウラボスはエンドレスに続く魚料理談義を聞いているうちに脱力してしまう。この会話にこれ以上ついていくことは不可能だった。
「悪いけど、少し風に当たってくるよ…」
もはや限界に達したウラボスはいまだ熱く語り合っているジバフとリャッカに一声かけてその場を離れることにした。
◎
宴会が続く広場を抜け出して泉の畔にやってきたウラボスは大きなため息をついた。
「ひどい目にあった……」
写った星空が夜風によってユラユラと揺らめく泉の水面を眺めながら呟き、ゴロンと寝転がる。
(まさか、あれほどの怒りを感じるとはな)
ウラボスはジグーマとの一件を思い出し、自分でも少し驚いていた。シークレット・パレスにおいて一人きりでいた時には何事に対しても無関心であった。それが、アリムルがやってきたことをきっかけに、気まぐれに旅立ち、偶然リアーナと出会った。何かしらの運命めいたものを感じる。
(運命、か。俺らしくもない考えだな)
自嘲する。
「ん?」
近づいてくる気配と足音に気づいて上半身を起こす。
「どうしたんだ?」
ウラボスは隣に腰をおろした少女に声をかける。
「うん…。あのね、私、ウラボスにお願いがあるの」
強い決意を宿した瞳を真っ直ぐに向けてリアーナはウラボスの手をとる。
「お願いとは?」
その先を促す。
「あのね……、私に修行をつけてほしいの! 私ね、今のままじゃダメなんだと思う。もっともっと強くならなきゃ守りたいものを守れないの! そんなの嫌! もう、こんな思いをするのは絶対に嫌!!」
溢れ出す涙を拭おうともせず懇願する。
「なるほど。それで師匠として俺に白羽の矢がたったというわけか。誰かに教えるのは苦手なんだけどなぁ…」
ウラボスは少し困ったように笑う。だが、リアーナには引き下がる素振りなど微塵もない。
「お願いします!」
(本気だな……。こいつの潜在能力がどれほどのものなのか見てみるのも面白い、か)
リアーナの揺るぎない決意を受け止めることにした。
「わかったよ。修行はつけてやるさ。ただし、リアーナの師匠になるつもりはない。あくまでも暁の渡り鳥の仲間としてリーダーのレベルアップに協力するまでだからな」
リアーナの顔がパッと明るくなり、思わずウラボスに抱きついてくる。
「うん! ありがとう!!……あっ…」
リアーナは自分から抱きつくという大胆な行動をとっていることに気づく。途端に赤面して慌てて離れる。その様子に微笑みを浮かべるウラボス。
その後、しばらく他愛もない会話を楽しんで広場へと戻り、夜は更けていった。
◎
歓迎会が開かれた翌日の早朝。
ウラボスは泉の畔へとやってきて足を止める。先に来ていた少女はレイピアを手に自主訓練に励んでいる。
「随分と早起きなんだな。昨日の今日で疲れてるだろ。修行なら明日以降にしないか?」
声をかけられて、ようやく観客の存在に気づいたリアーナは驚いたように振り返った。
「あっ、ウラボス! いつから見てたの?」
照れたように微笑みながら訊く。
「ついさっきからさ。あまり無理し過ぎるのも感心しないぞ。時には休息をとることも修行の一環だぜ」
「うん。わかってるんだけど……」
大きくため息をつく。
「……魔術は全く使えないのか?」
「うん…。自分でも練習はしてるんだけど全然……」
「だれかに習ったことは?」
「前に、ちょっとだけ……。やっぱり才能がないのかな……」
落ち込み、声のトーンが低くなる。
「そうやって、すぐに自分を過小評価するのはよくないぞ。俺が見たところ、恐らく魔術は使えるようにはなるだろう。どの程度かは知らんがな」
「ほんと!?」
リアーナは両手でウラボスの手を握る。
「ああ。ただし、焦りは禁物だ。まずは基礎知識から憶えることだ」
「うん!」
元気を取り戻したリアーナはレイピアを鞘に納める。
「そもそも魔力とは何か?」
「たしか…自然に存在するエネルギーのこと、だよね?」
かつて教わった記憶をたどりながら回答する。
「そうだ。そして、その魔力を使って様々な効果を引き起こすのが魔術というわけだ。たとえば、炎・氷・風・雷・霧・光といった自然現象を発生させるものもあれば、武器や防具の性能・自身の能力を強化するのもある。傷や毒なんかの治療なんかもできるな。もっとも、これらは一部でほかにも多くの魔術が存在する。あと、言霊って知ってるか?」
「言霊?」
ウラボスが首を縦に動かす。
「言霊というのは、言葉に宿る力みたいなものだな」
「言葉に宿る力?」
「例えば、酷い言葉を言われると落ち込んだり傷ついたりする。反対に励まされると元気がでたり……」
「そっかぁ。ということは、言葉も一種の魔術みたいなもの……なのかな?」
「正解だ。酷いケースだと、言葉によって相手を自殺に追い込んだりするやつがいるだろ? あれも言霊を悪用した呪い・魔術の一つだな」
リアーナの表情は真剣そのものだ。
「火炎矢魔術なんかを使う時も慣れてくれば無詠唱でも問題ない。だけど、魔術名を詠唱することでわずかに効果を引き上げることが可能だ。では、魔術を使うにはどうするか。自らの内にある魔力を感じ取り、流れをつくることが基本となる」
「魔力を感じ取って流れをつくる?」
おうむ返しに訊くリアーナにウラボスは頷く。
「これは実際にやったみたほうがいいだろう。まずは心を静めてみようか」
早朝の澄んだ空気と静寂の中、ウラボスによるリアーナの修行が始まった。
◎
「おーい!」
泉から戻ったウラボスとリアーナの姿を見つけたリャッカが駆け寄ってくる。
「二人揃ってどこ行ってたニャ?」
「ウラボスに魔術の稽古をつけてもらってたの」
「ふーん。それで?」
「私の中の魔力を感じとることはなんとなくできるんだけど、そこから先が……」
リアーナは情けない気持ちで俯いてしまう。
「それはしかたないニャ。自分の魔力を感じとることと、その魔力の流れをつくることはまるで違うニャ。それに教えるほうに問題があったんじゃないかニャ~?」
「何が言いたい?」
「べっつに~……。ただ、頑張ってるリアーナをエッチな目で見てたりして?」
リャッカは疑惑の視線をウラボスに向ける。
「ち、違うの! ウラボスは…」
「ニャハハハハ! わかってるニャ。こいつは冷徹男だけど今のところ鬼畜じゃないニャ」
否定するリアーナにリャッカは楽しげに笑う。
「おまえなぁ……。それを言うならリャッカだって化け猫みたいなもんだろ」
「ば、化け猫とは失礼ニャ! あたしはケットシー! 猫妖精ニャ!!」
「似たようなもんじゃないか」
「全っ然違うニャ!!!」
リャッカは跳ね上がってミスリル・ロッドで殴りかかり、ウラボスはウッド・ロッドで受け止める。その一部始終を見ていたリアーナが噴き出して笑う。
「ど、どうしたのかニャ?」
戸惑ったようにリャッカが訊く。
「ごめんなさい。ウラボスとリャッカって仲がいいんだなって…」
「おいおい、なんでそうなるんだよ?」
「そうニャ。あたしがこんな冷徹男と仲がいいわけないニャ!」
ウラボスとリャッカが同時に否定する。
「でも、なんだか兄妹みたい」
言いつつも、リアーナは笑う。
「はぁ……。リアーナが元気になってくれるならそれでいいニャ」
落ち込んでいたリアーナに笑顔が戻ってきたことに安堵した様子をみせるリャッカ。
「それはいいとして、早くうちに来るニャ。朝食の用意が整ってるニャ」
「あっ、ごめん! 私ったら手伝いもしないで!」
「なに言ってるニャ。リアーナは客人ニャ。そんなことしなくていいニャ。ウラボスは手伝ってもいいんだけどニャア?」
ウラボスを見上げて、リャッカは悪戯っぽく笑う。
「ん? 俺は手伝ってもかまわんが苦情は受け付けんぞ。なにせ料理の経験なんかないからな」
「……遠慮しとくニャ……」
リャッカは顔を引きつらせるのだった。
◎
昨夜に続いて魚料理を堪能して、朝食後の穏やかな一時を過ごしているウラボスの元にジバフがやってきた。
「少しお時間をいただいてもよろしいですかな?」
「ああ」
ウラボスは短く答える。
「これからリアーナ殿と共に、わしについてきてほしいのですじゃ」
「……わかった」
ウラボスは椅子から立ち上がるとキッチンで朝食の後片付けを手伝っていたリアーナと一緒にジバフについていった。
◎
一行は里の広場へとやってきた。
「ウラボスさん、リアーナさん、おはようございます」
グランザが笑顔で挨拶してくる。体長3メートルほどの巨体が入れるような家は里にはなかったため、グランザは広場で一夜を明かしていた。
「おはようございます。グランザさんはよく眠れましたか?」
「はい。毛布も貸してもらえたので熟睡できました」
「そっか。よかった」
「リアーナさん、少しは元気になったみたいでよかったです!」
「心配かけちゃってごめんね。でも、もう大丈夫だから」
リアーナが笑顔を見せたことでグランザも安心したように微笑む。
「お話というのは……」
「おーい! あたしを除け者にするんじゃないニャア!!」
ジバフが本題に入ろうとした時、ウラボスたちの後を追って家を飛び出してきたリャッカが広場へと駆けてきた。
リャッカの到着を待って、改めて本題をきりだす。
「話というのは、連行してきていただいたジグーマについてですじゃ。尋問の結果、様々な情報を得ることができました。まず、連れ去られたケットシーたちは全員死亡しておるようです」
爽やかな朝には似つかわしくない、重苦しい空気がリアーナたちにのし掛かってくる。
「そして、その凶行におよんだ目的は……とある人物に売るためであり、その人物は買い取ったケットシーの血液を搾り取り、飲んでいたそうです」
「どうしてそんな馬鹿げた事を!?」
「狂ってるニャ……」
リアーナとリャッカは凄惨な光景を想像して目を伏せる。
「で、その黒幕というのは?」
ウラボスが訊く。ジバフな深いため息のあと、低い声で答える。
「キャルト町長の妻ベランナですじゃ」
「理由はなんですか? 町長はその事実を知っているんですか!?」
グランザがジバフに詰め寄る。
「町長は知っておるそうです。そして、理由というのは……」
ジバフが言い淀む。
「ケットシーに限らず妖精族の鮮血は不老長寿の霊薬の一つとされている。それが目的といったところか?」
ウラボスの言葉にジバフは無言のまま頷いた。
「つまりはそういうことです。根拠も何もない全くの嘘なのですが、世の中には信じる者もおり、その中には今回のような事を考える輩も……」
「そんなの酷すぎるよ!!」
リアーナは憤りを隠せず声を荒らげる。
「普通に考えれば、不老長寿の霊薬など存在するはずがない。だが、死や老いといったもの恐れるあまり、そういった迷信にすがる者はあとを絶たない。例えば、マーメイドもそんな被害に遭ってきた過去を持っている」
「でも…だからって!」
ウラボスに対してリアーナは目に涙を浮かべて抗議する。
「リアーナが言いたいこともわかる。けどさ、一つの生命が生きていくためには大なり小なり他のものを犠牲にしているんだ」
「だったら、ウラボスはあたしたちが犠牲になったのはしかたないことだったって言うのかニャ!?」
憤慨したリャッカがウラボスを睨む。
「これこれ、ウラボス殿はそんなことを申しておらんよ」
ジバフが穏やかにリャッカを落ち着かせようとする。
「僕もウラボスさんの言うことはわかります」
「グランザまで!!」
リャッカは今にも飛びかかってきそうである。
「落ち着いてよ、リャッカ。それでも、僕はやっぱりベランナという人がしたことは間違ってると思います! ウラボスさんはどうですか?」
グランザはウラボスに意見を求め、一同の視線が集中する。
「常軌を逸しているのは確かだな。そのことに関しては裁かれるべきだろうね」
ウラボスの意見にリアーナとリャッカは安堵して顔を見合わせる。
「しかしですな、客観的な証拠がないのです。ジグーマの証言だけではどこまで追い詰めることができるか……」
ジバフは懸念を口にする。
「町長の家に乗り込んでいくニャ! きっと証拠が見つかるニャ!」
「おいおい、それが賢者の言うことかよ? それで証拠を発見できなかったらどうするんだ?」
「……だったら、どうするっていうニャ!? ウラボスはどっちの味方ニャ!?」
リャッカがウラボスに詰め寄る。
「リャッカ、気持ちはわかるんだけどウラボスさんに八つ当たりしてもしかたないよ」
グランザがなだめるもリャッカは息巻いている。
「もしかして、ウラボスには何か考えが?」
リアーナが期待を込めた視線をウラボスに向ける。
「まぁ、やるだけやってみるか」
ウラボスは口角を上げてみせた。
リャッカの瞬間移動魔術によってケットシーの里へと瞬時にやってきたリアーナたち。初めて訪れる地に興味津々のウラボスは辺りを見回している。
里の近くには小さな泉が湧き出ており、それがここに暮らすケットシーたちの生活を支える水源となっているようだった。
「あっ、リャッカだ! おーい、リャッカが帰ってきたぞぉ!! グランザも一緒だ!」
里の入り口で見張りをしていたケットシーの男が大声で叫ぶ。それを聞いた里の住人たちが集まってきた。
「みんなぁ!」
リャッカは嬉しそうに里の仲間たちの所へと駆ける。
(賢者といってもまだまだ子供なんだな)
ウラボスは微笑ましげにその光景を見ていた。
「リャッカ!!」
集まった者たちをかき分けて現れた女性ケットシーが両手を広げてリャッカの名を呼ぶ。よほど心配していたのだろう。両目を涙でいっぱいにしている。
「ママ!!」
その姿を見たリャッカはさらに加速して、その懐へと飛び込んだ。
ゴツン!
リャッカの脳天に鉄拳が落とされた。
「ウニャッ」
(うん? 思ってた展開と違ってきたぞ…)
「まったく、あんたって子は! 里のみんながどれだけ心配したと思ってるの!?」
「ご、ごめんニャ……」
「賢者っていっても、あんたはまだまだ子供なのよ! あんまり無茶しないの!」
「まあまあ、それくらいにしてやったらどうじゃ?」
杖をついて現れた老齢のケットシーがリャッカに助け船を出す。
「おじいちゃん!」
リャッカが目を輝かせて避難する。
「お父さんはリャッカに甘すぎるんです!」
「リャッカとて里にこれ以上の犠牲を出したくない一心でしたことじゃろう。今回はちっとばかり先走りし過ぎたが、その心は大切にしてやらんとな」
「それは…そうですけど……」
「ならば、この話はこれで終わりでよいな? それにいつまでも客人を待たせては申し訳ないしのぉ」
諭し終えた老齢のケットシーは事態を見守っていたウラボスたちの元までやってきた。
「わざわざお越しいただいたのにお見苦しいものを……。申し訳ありませんでしたな。わしは里の長をしておりますジバフと申します。こんな所で立ち話もございません。里の中までおいでください」
ジバフは一行を里へと招き入れた。
◎
「いやはや、随分とお待たせしてしまい、申し訳ございません」
ケットシーの里。その中央の位置する広場で待機していたウラボス、リアーナ、グランザの三人の元にリャッカを連れてジバフが姿を現した。
「あの、本当にすみませんでした!」
リアーナは深々と頭を下げる。
「どうか、頭をおあげくだされ。あなたは何も悪くはない」
リアーナの肩にそっと触れながらジバフは言った。
「そうニャ。みんな、リアーナとグランザと…ついでにウラボスには感謝してるニャ!」
(おいおい、俺はついでか?)
続いてのリャッカの言葉にウラボスは苦笑する。
「でも、私は何も守れませんでした! 最後に私が油断さえしなければ!!」
「リアーナ殿は何も守れなかったと申されますが、そんなことはございませんぞ。実のところ、我々はキャルトとの全面戦争を考えておったのです。あなた方がいなければ避けられなかったでしょう。そうなれば、この里にもキャルトにも多大な犠牲がでるところでした。あなたはそれを未然に防いだのです。どうか、胸を張ってくだされ! それに、あなたのような方がおられるから、わしらは今後も人間を信じることができるのですよ」
なおも自分を責めるリアーナにジバフが語る。
「ジバフさん……。ありがとう…ございます……」
リアーナは言葉を詰まらせる。
「ところで、ウラボス殿…でしたな?」
ジバフはウラボスに向き直った。
「ああ」
「あなたはこれまでどこかの組織に所属されておりましたかな?」
「いいや。それがどうかしたのか?」
ウラボスは短く答え、質問を返す。
「いやいや。わしも魔術師の端くれ。あなたほどの優れた魔術師ならば名前くらいは聞いたことがあってもよいものなのですが、失礼ながら存じ上げなかったものですから……。差し支えなければ、クラスをお訊きしても?」
「ウラボスは村人ニャ」
ウラボスに代わってリャッカが答える。それを聞いて絶句するジバフ。
(そうなるよね。その気持ちはわかる…)
リアーナ、リャッカ、グランザは心の中で同じようなことを思う。
「なんと! これは驚きました。……何はともあれ、今回の件では皆様方には深く感謝しております。大したことはできませぬが、この村でゆっくりとしていってくだされ」
ジバフは三人に一礼して、手を叩く。
「さあ、皆の者よ、このお三方を歓迎しようではないか!」
「おぉ!」
ジバフが声をあげると、待ってましたとばかりに歓迎会の準備が始まった。
◎
里を挙げての歓迎会では、お刺身・煮魚・焼き魚・魚肉のつみれ汁など豪華な料理が振る舞われた。
「なんか、さすがはケットシーというか猫の妖精というか……」
「おや、ウラボス殿のお口には合いませんでしたかな?」
ジバフがウラボスに声をかけてくる。
「いや、そういうわけじゃないんだ。やっぱりケットシーは魚料理が好きなんだなってさ」
「あったり前ニャ! 魚料理は最高ニャ!」
リャッカが会話に参加する。
「そういうウラボスは何か好きな食べ物とかあるニャ?」
「俺? 魚も嫌いじゃないけど、どちらかと言えば肉のほうが好きだな」
「ほほぉ、やはりお若いのは肉ですか……。しかし、我が里の魚料理は肉にも負けておりませんぞ! よいですかな、まず我が里には秘伝の……」
カップに満たされていた酒を飲み干したジバフの熱弁が始まった。
(うわぁ……。この手の展開って長くなるんだよなぁ…)
ウラボスは突然降りかかった災難を嘆く。
「……というわけで、我が里の魚料理はケットシー界でも特に美味なのです!」
「あたしはこの絶品煮がいちばん好きニャ!」
リャッカが手元の皿に取り分けた煮物を得意気に見せる。
「おお、さすがはリャッカ! わしの跡を継いで里長になる資質は充分じゃな! そもそもその絶品煮はのぉ……」
(おいおいおい…リャッカのやつ、なんて事してくれてんだよ……。せっかく終わりそうだったのに、また魚料理の話が再燃し始めたじゃないか。だいたい、そんなもんで里長の資質とかわかるのかよ?)
ウラボスはエンドレスに続く魚料理談義を聞いているうちに脱力してしまう。この会話にこれ以上ついていくことは不可能だった。
「悪いけど、少し風に当たってくるよ…」
もはや限界に達したウラボスはいまだ熱く語り合っているジバフとリャッカに一声かけてその場を離れることにした。
◎
宴会が続く広場を抜け出して泉の畔にやってきたウラボスは大きなため息をついた。
「ひどい目にあった……」
写った星空が夜風によってユラユラと揺らめく泉の水面を眺めながら呟き、ゴロンと寝転がる。
(まさか、あれほどの怒りを感じるとはな)
ウラボスはジグーマとの一件を思い出し、自分でも少し驚いていた。シークレット・パレスにおいて一人きりでいた時には何事に対しても無関心であった。それが、アリムルがやってきたことをきっかけに、気まぐれに旅立ち、偶然リアーナと出会った。何かしらの運命めいたものを感じる。
(運命、か。俺らしくもない考えだな)
自嘲する。
「ん?」
近づいてくる気配と足音に気づいて上半身を起こす。
「どうしたんだ?」
ウラボスは隣に腰をおろした少女に声をかける。
「うん…。あのね、私、ウラボスにお願いがあるの」
強い決意を宿した瞳を真っ直ぐに向けてリアーナはウラボスの手をとる。
「お願いとは?」
その先を促す。
「あのね……、私に修行をつけてほしいの! 私ね、今のままじゃダメなんだと思う。もっともっと強くならなきゃ守りたいものを守れないの! そんなの嫌! もう、こんな思いをするのは絶対に嫌!!」
溢れ出す涙を拭おうともせず懇願する。
「なるほど。それで師匠として俺に白羽の矢がたったというわけか。誰かに教えるのは苦手なんだけどなぁ…」
ウラボスは少し困ったように笑う。だが、リアーナには引き下がる素振りなど微塵もない。
「お願いします!」
(本気だな……。こいつの潜在能力がどれほどのものなのか見てみるのも面白い、か)
リアーナの揺るぎない決意を受け止めることにした。
「わかったよ。修行はつけてやるさ。ただし、リアーナの師匠になるつもりはない。あくまでも暁の渡り鳥の仲間としてリーダーのレベルアップに協力するまでだからな」
リアーナの顔がパッと明るくなり、思わずウラボスに抱きついてくる。
「うん! ありがとう!!……あっ…」
リアーナは自分から抱きつくという大胆な行動をとっていることに気づく。途端に赤面して慌てて離れる。その様子に微笑みを浮かべるウラボス。
その後、しばらく他愛もない会話を楽しんで広場へと戻り、夜は更けていった。
◎
歓迎会が開かれた翌日の早朝。
ウラボスは泉の畔へとやってきて足を止める。先に来ていた少女はレイピアを手に自主訓練に励んでいる。
「随分と早起きなんだな。昨日の今日で疲れてるだろ。修行なら明日以降にしないか?」
声をかけられて、ようやく観客の存在に気づいたリアーナは驚いたように振り返った。
「あっ、ウラボス! いつから見てたの?」
照れたように微笑みながら訊く。
「ついさっきからさ。あまり無理し過ぎるのも感心しないぞ。時には休息をとることも修行の一環だぜ」
「うん。わかってるんだけど……」
大きくため息をつく。
「……魔術は全く使えないのか?」
「うん…。自分でも練習はしてるんだけど全然……」
「だれかに習ったことは?」
「前に、ちょっとだけ……。やっぱり才能がないのかな……」
落ち込み、声のトーンが低くなる。
「そうやって、すぐに自分を過小評価するのはよくないぞ。俺が見たところ、恐らく魔術は使えるようにはなるだろう。どの程度かは知らんがな」
「ほんと!?」
リアーナは両手でウラボスの手を握る。
「ああ。ただし、焦りは禁物だ。まずは基礎知識から憶えることだ」
「うん!」
元気を取り戻したリアーナはレイピアを鞘に納める。
「そもそも魔力とは何か?」
「たしか…自然に存在するエネルギーのこと、だよね?」
かつて教わった記憶をたどりながら回答する。
「そうだ。そして、その魔力を使って様々な効果を引き起こすのが魔術というわけだ。たとえば、炎・氷・風・雷・霧・光といった自然現象を発生させるものもあれば、武器や防具の性能・自身の能力を強化するのもある。傷や毒なんかの治療なんかもできるな。もっとも、これらは一部でほかにも多くの魔術が存在する。あと、言霊って知ってるか?」
「言霊?」
ウラボスが首を縦に動かす。
「言霊というのは、言葉に宿る力みたいなものだな」
「言葉に宿る力?」
「例えば、酷い言葉を言われると落ち込んだり傷ついたりする。反対に励まされると元気がでたり……」
「そっかぁ。ということは、言葉も一種の魔術みたいなもの……なのかな?」
「正解だ。酷いケースだと、言葉によって相手を自殺に追い込んだりするやつがいるだろ? あれも言霊を悪用した呪い・魔術の一つだな」
リアーナの表情は真剣そのものだ。
「火炎矢魔術なんかを使う時も慣れてくれば無詠唱でも問題ない。だけど、魔術名を詠唱することでわずかに効果を引き上げることが可能だ。では、魔術を使うにはどうするか。自らの内にある魔力を感じ取り、流れをつくることが基本となる」
「魔力を感じ取って流れをつくる?」
おうむ返しに訊くリアーナにウラボスは頷く。
「これは実際にやったみたほうがいいだろう。まずは心を静めてみようか」
早朝の澄んだ空気と静寂の中、ウラボスによるリアーナの修行が始まった。
◎
「おーい!」
泉から戻ったウラボスとリアーナの姿を見つけたリャッカが駆け寄ってくる。
「二人揃ってどこ行ってたニャ?」
「ウラボスに魔術の稽古をつけてもらってたの」
「ふーん。それで?」
「私の中の魔力を感じとることはなんとなくできるんだけど、そこから先が……」
リアーナは情けない気持ちで俯いてしまう。
「それはしかたないニャ。自分の魔力を感じとることと、その魔力の流れをつくることはまるで違うニャ。それに教えるほうに問題があったんじゃないかニャ~?」
「何が言いたい?」
「べっつに~……。ただ、頑張ってるリアーナをエッチな目で見てたりして?」
リャッカは疑惑の視線をウラボスに向ける。
「ち、違うの! ウラボスは…」
「ニャハハハハ! わかってるニャ。こいつは冷徹男だけど今のところ鬼畜じゃないニャ」
否定するリアーナにリャッカは楽しげに笑う。
「おまえなぁ……。それを言うならリャッカだって化け猫みたいなもんだろ」
「ば、化け猫とは失礼ニャ! あたしはケットシー! 猫妖精ニャ!!」
「似たようなもんじゃないか」
「全っ然違うニャ!!!」
リャッカは跳ね上がってミスリル・ロッドで殴りかかり、ウラボスはウッド・ロッドで受け止める。その一部始終を見ていたリアーナが噴き出して笑う。
「ど、どうしたのかニャ?」
戸惑ったようにリャッカが訊く。
「ごめんなさい。ウラボスとリャッカって仲がいいんだなって…」
「おいおい、なんでそうなるんだよ?」
「そうニャ。あたしがこんな冷徹男と仲がいいわけないニャ!」
ウラボスとリャッカが同時に否定する。
「でも、なんだか兄妹みたい」
言いつつも、リアーナは笑う。
「はぁ……。リアーナが元気になってくれるならそれでいいニャ」
落ち込んでいたリアーナに笑顔が戻ってきたことに安堵した様子をみせるリャッカ。
「それはいいとして、早くうちに来るニャ。朝食の用意が整ってるニャ」
「あっ、ごめん! 私ったら手伝いもしないで!」
「なに言ってるニャ。リアーナは客人ニャ。そんなことしなくていいニャ。ウラボスは手伝ってもいいんだけどニャア?」
ウラボスを見上げて、リャッカは悪戯っぽく笑う。
「ん? 俺は手伝ってもかまわんが苦情は受け付けんぞ。なにせ料理の経験なんかないからな」
「……遠慮しとくニャ……」
リャッカは顔を引きつらせるのだった。
◎
昨夜に続いて魚料理を堪能して、朝食後の穏やかな一時を過ごしているウラボスの元にジバフがやってきた。
「少しお時間をいただいてもよろしいですかな?」
「ああ」
ウラボスは短く答える。
「これからリアーナ殿と共に、わしについてきてほしいのですじゃ」
「……わかった」
ウラボスは椅子から立ち上がるとキッチンで朝食の後片付けを手伝っていたリアーナと一緒にジバフについていった。
◎
一行は里の広場へとやってきた。
「ウラボスさん、リアーナさん、おはようございます」
グランザが笑顔で挨拶してくる。体長3メートルほどの巨体が入れるような家は里にはなかったため、グランザは広場で一夜を明かしていた。
「おはようございます。グランザさんはよく眠れましたか?」
「はい。毛布も貸してもらえたので熟睡できました」
「そっか。よかった」
「リアーナさん、少しは元気になったみたいでよかったです!」
「心配かけちゃってごめんね。でも、もう大丈夫だから」
リアーナが笑顔を見せたことでグランザも安心したように微笑む。
「お話というのは……」
「おーい! あたしを除け者にするんじゃないニャア!!」
ジバフが本題に入ろうとした時、ウラボスたちの後を追って家を飛び出してきたリャッカが広場へと駆けてきた。
リャッカの到着を待って、改めて本題をきりだす。
「話というのは、連行してきていただいたジグーマについてですじゃ。尋問の結果、様々な情報を得ることができました。まず、連れ去られたケットシーたちは全員死亡しておるようです」
爽やかな朝には似つかわしくない、重苦しい空気がリアーナたちにのし掛かってくる。
「そして、その凶行におよんだ目的は……とある人物に売るためであり、その人物は買い取ったケットシーの血液を搾り取り、飲んでいたそうです」
「どうしてそんな馬鹿げた事を!?」
「狂ってるニャ……」
リアーナとリャッカは凄惨な光景を想像して目を伏せる。
「で、その黒幕というのは?」
ウラボスが訊く。ジバフな深いため息のあと、低い声で答える。
「キャルト町長の妻ベランナですじゃ」
「理由はなんですか? 町長はその事実を知っているんですか!?」
グランザがジバフに詰め寄る。
「町長は知っておるそうです。そして、理由というのは……」
ジバフが言い淀む。
「ケットシーに限らず妖精族の鮮血は不老長寿の霊薬の一つとされている。それが目的といったところか?」
ウラボスの言葉にジバフは無言のまま頷いた。
「つまりはそういうことです。根拠も何もない全くの嘘なのですが、世の中には信じる者もおり、その中には今回のような事を考える輩も……」
「そんなの酷すぎるよ!!」
リアーナは憤りを隠せず声を荒らげる。
「普通に考えれば、不老長寿の霊薬など存在するはずがない。だが、死や老いといったもの恐れるあまり、そういった迷信にすがる者はあとを絶たない。例えば、マーメイドもそんな被害に遭ってきた過去を持っている」
「でも…だからって!」
ウラボスに対してリアーナは目に涙を浮かべて抗議する。
「リアーナが言いたいこともわかる。けどさ、一つの生命が生きていくためには大なり小なり他のものを犠牲にしているんだ」
「だったら、ウラボスはあたしたちが犠牲になったのはしかたないことだったって言うのかニャ!?」
憤慨したリャッカがウラボスを睨む。
「これこれ、ウラボス殿はそんなことを申しておらんよ」
ジバフが穏やかにリャッカを落ち着かせようとする。
「僕もウラボスさんの言うことはわかります」
「グランザまで!!」
リャッカは今にも飛びかかってきそうである。
「落ち着いてよ、リャッカ。それでも、僕はやっぱりベランナという人がしたことは間違ってると思います! ウラボスさんはどうですか?」
グランザはウラボスに意見を求め、一同の視線が集中する。
「常軌を逸しているのは確かだな。そのことに関しては裁かれるべきだろうね」
ウラボスの意見にリアーナとリャッカは安堵して顔を見合わせる。
「しかしですな、客観的な証拠がないのです。ジグーマの証言だけではどこまで追い詰めることができるか……」
ジバフは懸念を口にする。
「町長の家に乗り込んでいくニャ! きっと証拠が見つかるニャ!」
「おいおい、それが賢者の言うことかよ? それで証拠を発見できなかったらどうするんだ?」
「……だったら、どうするっていうニャ!? ウラボスはどっちの味方ニャ!?」
リャッカがウラボスに詰め寄る。
「リャッカ、気持ちはわかるんだけどウラボスさんに八つ当たりしてもしかたないよ」
グランザがなだめるもリャッカは息巻いている。
「もしかして、ウラボスには何か考えが?」
リアーナが期待を込めた視線をウラボスに向ける。
「まぁ、やるだけやってみるか」
ウラボスは口角を上げてみせた。
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