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1章 出会いの町キャルト

STORY14 制裁

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 ウラボス、リアーナ、リャッカ、グランザ、ジバフの五人はキャルトの町へとやってきた。サイクロプスを引き連れてきた一行に町は騒然となった。

 「ジバフ殿、魔族などを連れてくるとはどういうことですかな?」

 キャルトのギルド長ガルズはグランザを町に入れさせまいと門まで出向いてきていた。隣には警備隊隊長ジュダの姿もある。ジバフ、ガルズ、ジュダの三人は顔見知りのようだ。

 「はて? 魔族が町に入ってはならんという法律などなかったはずだが?」

 「それはそうなのですが、やはり魔族は信用できません。こいつが暴れるようなことがあればいかがされます?」

 「ふむ。その時はわしが責任を持とう。そんなことよりも町長に用がある。ここを通してもらおうかのぉ」

 ジュダに訊かれ、ジバフは即答する。沈黙がおとずれる。

 「どうしたのじゃな? わしのことも信用できんか? 我が里とキャルトとは友好的な関係を築いておると思うておったが……」

 「いえ、そのようなことは…。わかりました。お通しいたします。ただし、万が一の事態に備えて我らも同行してよろしいですな?」

 ジュダは通行を許可するも条件をつけてくる。

 「よかろう」

 ジバフがそれを了承したことで、一行はようやくキャルトへと足を踏み入れることができた。

 「では、町長の所までご案内いたしましょう」

 ジュダが先頭に、ガルズが一行の後ろに立つ。

 (俺たちに怪しい行動はとらせないつもりか)

 ウラボスは彼らの行動に対して鼻で笑った。



「これはこれは、ジバフ殿。今日はどのような用向きですかな?」

 キャルトの町長ガヴァネは執務室にやってきたジバフ一行に席をすすめながら言った。

 「実は我が里のケットシーが連れ去られる事案が多数発生しておりましてな」

 「なんと!?」

 ガヴァネはわざとらしく驚いた素振りを見せる。

 「白々しいことを言うニャ! 犯人はキャルトにいるニャ!!」

 我慢できずにリャッカが怒鳴る。しかし、ガヴァネは全く動じない。

 「いやはや、随分と元気がよろしいですな。犯人がこの町にいるとどうしてわかるのです?」

 「この町の警備隊に所属してるジグーマが白状したニャ!」

 「ほほぉ。我が町の騎士ジグーマがそのようなことを申したと? ですが、それは強要された証言ということはございませんか?」

 「なっ! どういうことですか!?」

 今度はリアーナが食ってかかる。

 「騎士ジグーマは無理矢理連行され、拷問の末にありもしない自白を強要されたとも考えられるのですよ」

 ガヴァネはニヤリと笑む。

 「では、わしらがそのような非人道的なことをしたと言われるのか?」

 「いえいえ、わたしはあくまで可能性のことを申し上げたまで。ですが、とりあえずは騎士ジグーマの身柄を引き渡してもらわねばなりませんな。こちらでも取り調べをしないことには…」

 「……ジグーマはそちらにお渡しいたしましょう。しかし、彼がおぞましいことを申しておりましてな」

 「ほぉ。それはどのような?」

 ガヴァネがジバフに訊く。

 「連れ去ったケットシーをキャルトの者に売り渡したそうなのです。そして、その人物はケットシーの鮮血を飲んでいたというのですよ」

 「なんですと! いったいだれがそんな恐ろしいことを!?」

 ガヴァネはことさら驚いたような演技を披露する。

 「ベランナ…といえばおわかりじゃろう?」

 ジバフが出した名にガヴァネは僅かに反応する。

 「わたしの妻がそのようなことをしたとおっしゃるのですか。それはまた荒唐無稽なお話ですな。何か証拠はおありなのですかな?」

 ガヴァネは余裕の笑みすら浮かべている。

 「本当に荒唐無稽なのかどうか、それは今夜にでも明らかになるんじゃないかな」

 これまで沈黙していたウラボスが口を開いた。

 「…それはどういう意味だね?」

 ガヴァネから笑みが消える。

 「あんたの奥さんを裁くのは俺たちでも法律でもない。犠牲になっていったケットシーたちだってことさ」

 「なんだと?」

 明らかな敵意をむき出しにするガヴァネを気にすることもなく、ウラボスは踵を返す。

 「話は終わりだ。俺たちはこれで失礼するとしようぜ。ケットシーの呪いにはせいぜい気をつけることだな」

 (若造がぁ……)

 不吉な言葉を残したウラボスたちの退出を見届けるガヴァネの目は怒りに満ちていた。



 キャルトの郊外に広がる墓地。黄昏時ともなると人影などなくなり、外界とは隔絶された別世界のような雰囲気が漂う。

 そんな特異な空間の奥。一本の樹の下にウラボスとジバフの姿がある。ウラボスは両の瞼を閉じ、ウッド・ロッドを水平に構えてブツブツと呪文を詠唱している。

 足下に淡い紫の光を放つ魔法陣が浮かび上がった。それはどんどん大きく広がっていき、最終的にはウラボスとジバフの傍らに立つ樹を中心に半径5メートルほどになる。

 「……」

 ウラボスは詠唱を終えた。魔法陣の中のみが冷気で満たされる。

 (なんと……。まさか、現代では伝承されていないとされる禁術まで修得しておるとは! ウラボス殿はいったい何者なんじゃ……)

 ジバフは隣に立つ青年の並外れた魔術の技量と膨大な知識の驚嘆した。何事に対しても動じることなく沈着冷静であり、魔術だけでなく身体能力においても超人的であるとリャッカは言っていた。

 リャッカとて魔術に関しては天才的である。また、様々なジャンルの知識量も豊富で、他人からすれば間違いなく天才と謳われる存在だ。賢者のクラス試験も一発で合格している。

 そのリャッカが明らかに「負け」と認めざるを得なかったのは初めてといってもいいだろう。

 ウラボスは呪文の詠唱を終えて瞼を開ける。

 「ジバフ村長」

 「うむ」

 ウラボスに促され持参した物を地面に置く。それらは犠牲となったケットシーたちが生前に愛用していた品々である。

 全ての品々を置き終えたのを見届けると、それまで水平に構えていたウッド・ロッドを縦にして地面を軽く突く。すると、魔法陣内に蒼白い火の玉が無数に現れた。今は亡きケットシーたちの魂だ。

 「おぉ…。皆、よくぞ集まってくれた。すまん! わしが不甲斐ないばかりにおまえたちを守りきることができなかった。どうか許してほしい!!」

 集まったケットシーたちの魂に心から謝罪するジバフに魂たちは寄り添うように集まってくる。

 「村長、ご自分を責めないでください。我々はだれも村長を恨んでなどおりません」

 「そうです! 憎むべきはジグーマ、ガヴァネ、ベランナの三人! 奴らは許せない!!」

 魂たちは三人に対する恨み言を口々に叫ぶ。

 「集まってもらったのはその事だ。おまえたちが望むのなら自分たちの手で奴らに復讐させてやろうと思ったからだ」

 ウラボスがケットシーたちの魂を召還した理由を述べる。

 「本当ですか!?」

 「それができるのならば、ぜひ!!」

 魂たちは蒼白い炎を大きく揺らめかせる。

 「わかった。では、これよりおまえたちをベランナの元へと送ろう。ただし、これだけは絶対に忘れるな。あくまでも復讐の相手はその三人のみだ。もしも無差別に危害を加えるようなことになれば悪霊と化してしまい、二度と成仏することはできない」

 「了解した。我々に復讐の機会を与えてくれたことを心から感謝します。復讐を果たせたならば里へと帰り、魂が浄化される時を待つとしましょう」

 「そっか。それならいいんだ。……それじゃ、いくぞ!」

 ウラボスがウッド・ロッドに魔力を送り込むと魔法陣は一瞬だけ強く輝いた。その光が消えると同時にケットシーたちの魂も一つ残らず消え去っており、ウラボスとジバフ、ケットシーたちの遺品のみが残されていた。

 一陣の夜風がガヴァネの屋敷のほうへと吹き抜けていく。



 「くそっ、ジバフめ!」

 帰宅し、自室へとやってきたガヴァネは苛立ちを隠そうともせず吐き捨てる。その隣には身柄を引き渡されたジグーマ姿がある。

 「申し訳ございません」

 バキッ

 頭を下げて詫びるジグーマの横っ面をガヴァネは思いきり殴り付けた。

 「まったくだ、馬鹿者めが! 冒険者ごときにおくれをとるとは騎士が聞いて呆れる! あまつさえベランナのことまで白状するとは恥を知れ!! そうなるくらいなら自害するべきなのだ!!!」

 「あなた、お帰りになったのね。どうなさったというのです?」

 憤怒の形相でジグーマを叱責しては殴り続けるガヴァネに、部屋へ入ってきた妻ベランナが訊く。

 「どうもこうもない! この馬鹿者がおまえの秘密をジバフに供述しおったんだ!!」

 「なんですって!? あれだけの大金を報酬として受け取っておきながらよくも!」

 理由を聞いたベランナはジグーマのもとまでやってくると、土下座しているジグーマを何度も蹴りつけた。

 「あなた、どうするのよ!? このままだとまずいんじゃないかしら……!」

 「いや、大丈夫だ。証拠などは残しておらん。それに、万が一の時には警備隊に圧力をかければ問題はない」

 (それに、最悪の場合はジグーマに全ての罪を被せればすむ)

 床で土下座を続けるジグーマを一瞥してガヴァネは思った。

 「だが、暫くはケットシー狩りを控えるほうがいいだろう。ジバフどもの目が光ってるからな」

 「嫌よ! ケットシーどもの血は、わたくしの美のためには必要なもの! あの獣どももわたくしの美の一部となれればさぞ本望なはずだわ!」

 身勝手なセリフを並べ立てるベランナをガヴァネは落ち着かせる。

 「おまえの気持ちもわかるし、まさにその通りだ。だがな、ケットシーの里の者どもにはそれが理解できんのだ。悪いが少しの間だけ辛抱しておくれ」

 「そんな…なんてことなの……」

 ベランナはガックリと肩を落とす。

 パリィィィィィンッ!!

 派手な騒音を立てて窓ガラスが割れ、部屋に突風が吹き込んできた。同時に照明が瞬き、やがて消える。室内は暗闇に包まれた。

 「なんだ!? いったい何が起こったというのだ!?」

 ガヴァネから怒声にも似た叫び声が発せられる。

 「なんなのよ! だれがこんな手の込んだ悪戯を!?」

 続いてベランナがヒステリックに怒鳴った。

 (くそったれ! なんだ、この嫌な気配の正体は!?)

 ジグーマも声こそあげていないが激しく動揺しているのは他の二人と同じである。

 「ひぃぃぃっ」

 部屋中のあちらこちらに蒼白い火の玉が出現し、三人を取り囲む。一同は恐怖を顔面に張り付かせてその場に座り込む。

 「おれたちはおまえたちの欲望のせいで殺されたケットシーだ…」

 「おまえたちは許さない…」

 「自分たちの犯した罪の重さを思い知れ…」

 「わたしたちの呪いを受けよ!」

 火の玉たちは三人の周囲を回り、激しく明滅を繰り返す。

 「お、おい! 貴様、騎士だろうが! 早くなんとかしろ!!」

 「うるさい! そんなことできるわけがないだろうが! そもそも、このババアの下らん考えのせいでこうなったんだぞ!!」

 「なんですって!! あなただって散々おいしい思いをしてきたはずよ! よくもそんなことを言えたものね!」

 「えぇい、うるさいわ! わたしはこの町の町長なのだぞ! わたしがいなくなればこの町はどうなる!? ほかの二人とは命の重みが違うのだぞ!!」

 「んまっ! 何を言うの! あなただって公金を横領して私腹を肥やしているじゃないの! 一人だけ助かろうなんでするんじゃないわよ!!」

 「黙れ! この町の治安を守ってきたのは騎士であるこの俺なんだ! その俺がなぜこんな目に遭わねばならんのだ!?」

 ジグーマ、ガヴァネ、ベランナは自らの保身のために身勝手な言い分をわめき散らす。そんな三人をケットシーの魂が恫喝する。

 「おまえたちはすべて同罪だ。その欲と罪の深さを存分に知って死ぬがいい!!」

 火の玉が一際激しく輝きだした。三人は眩しさに固く目を閉じる。

 「……」

 光が消え、部屋に暗闇と静寂が戻る。ガヴァネは薄目を開けて様子を伺う。周囲に漂っていたケットシーたちの魂は消え去っていて見当たらない。恐る恐る照明を灯す。

 「くそっ、バカにしおって!」

 ガヴァネが怒りにまかせて蹴り飛ばしたゴミ箱が壁に激突して壊れた。



 ドンドンドンドン!

 暁の渡り鳥とジバフ、リャッカ、グランザが滞在している宿屋兼酒場の扉が外側から乱暴に叩かれる。

 「なんだい、朝っぱらから! そんなに乱暴に扱うんじゃないよ!」

 宿泊客の朝食の支度に大忙しで動き回っていた女将がドアを解錠する。カチャリと音がすると同時に扉は外側にいた人物によって開けられた。

 「おや、警備隊じゃないかい」

 扉の向こう側にいた数人の男たちを見て、女将が目を瞬かせる。

 「暁の渡り鳥が宿泊しているな? 今すぐ呼び出してもらおう」

 言いながら強引に中へと入ってくる。

 「ちょ、ちょいと待ちなよ。今、何時だと思ってんだい? あの人たちだってまだ寝てるんじゃないかねぇ」

 「かまうものか! それならば叩き起こせ!!」

 隊員たちの勢いは止まらない。

 「それはまた随分と乱暴な話だな」

 いつの間にか一階へとやってきていたウラボスが呆れたように言う。

 「そんなことはどうでもいい! 今すぐ我らとともに来てもらおう!」

 「どこへ?」

 「いいから黙ってついてこい」

 「行き先はガヴァネさんの自宅ですね?」

 階段を下りてきていたリアーナが隊員たちに確認する。

 「わかってるのなら話が早い。さっさと来い」

 「えー、なんか嫌だニャア……。朝からあんなやつの顔を見たくないニャ……」

 続いて現れたリャッカが面倒くさそうな素振りをする。

 「これこれ、そう言わずに出向いてやろうではないか。こうしてせっかく迎えをよこしてくれとるんじゃしのぉ」

 「そうだよ、リャッカ。行くだけでも行ってあげようよ。ね?」

 最後に姿を見せたジバフとグランザがリャッカをなだめる。

 「えぇい、さっさとしろ!」

 「あれぇ? あたしたちにそんな態度をとっていいのかニャア? あんたたちじゃ実力行使でもあたしたちを連れていくことなんてできないんじゃないかニャア?」

 「なんだと!?」

 怒りをおびた視線をリャッカに向ける隊員たち。だが、彼らも自覚していた。天才賢者のリャッカ、サイクロプスのグランザ、そのグランザを倒した暁の渡り鳥の二人。自分たちでは束になっても到底かなわないのは明らかである、と。

 「それそれ、その態度がなってないニャ。それが他人ひとに頼みごとをする態度なのかニャ?」

 「朝早くから申し訳ありません。どうか、我々とともにガヴァネ町長の自宅までご足労願えないでしょうか? お願いいたします!」

 観念し、頭を下げる隊員たち。

 「ニャーハッハッハッハ」

 リャッカの高笑いが宿屋に響く。リアーナとグランザは苦笑し、ジバフはため息をつく。

 「…どうするよ、リーダー?」

 ウラボスがリアーナに意見を求める。

 「…わかりました」

 リアーナは頭を下げ続ける隊員たちに了承の意を伝えた。



 数台の馬車がガヴァネの屋敷の玄関先で停車する。先導役の馬車からは警備隊の隊員たち、次の馬車からはリアーナ、ウラボス、リャッカ、ジバフの四人、最後尾の、荷台を二頭の馬に引かせた即席馬車からはグランザが降りてきた。

 警備隊の隊員たちはここまでだった。ここからは屋敷に仕える執事の男の案内でガヴァネ夫妻の寝室の前まで通された。

 「こちらがガヴァネ様とベランナ様の寝室でございます。この部屋へは皆様のみが入室を許可さるておりますので、わたくしはこれで失礼いたします。お帰りの際はお声を掛けてくださいますよう……」

 執事の男は言い置いて引き返していく。

 「さぁて、そんじゃ会ってやるとするか」

 ウラボスは扉に手をかけて押し開ける。

 「んまっ! ノックもしないなんて無作法よ!」

 カーテンを閉められ、部屋には朝日はほとんど入ってきていない。また照明器具も消灯されているため、部屋全体が薄暗い。その奥のベッドの上に毛布にくるまった塊が二つ。

 そして、机の脇には変わり果てた姿のジグーマが息絶えている。肌が焼けただれたようになり、身体中の水分が蒸発してしまったのではないかと思えるほどにミイラ化している。壮絶な最後を迎えたと想像するに難くない。

 「おやおや、これはこれは」

 ウラボスは他人事のようにジグーマの遺体を一瞥して声を洩らす。

 「なにをボサッとしている。さっさと扉を閉めんか!」

 呆然として佇んでいるリャッカとリアーナにガヴァネの怒声がとび、リアーナはそれに反応して静かに扉を閉める。

 「さてさてっと。こんな朝っぱらからわざわざ呼び出しとは何事かね?」

 ウラボスは机の上に腰をおろして訊く。

 (若造が、調子にのりおって!)

 内心では苦々しく思いながらも声には出さず、ガヴァネは金貨が詰まった袋を投げて寄越す。

 「それをくれてやるから、早くなんとかしろ!」

 ガヴァネは毛布からのぞくギョロリとした目を鋭く光らせる。

 「何をなんとかしろというんだ?」

 ウラボスに訊かれ、ガヴァネとベランナは互いを見やる。それから意を決して毛布をはずしてその体をさらけ出す。二人ともジグーマと同じように焼けただれたような皮膚と水分が抜けてシワシワになった体をしていた。昨日会った時のガヴァネとはまるで別人である。

 衝撃の光景に言葉をなくすリアーナとグランザ。ウラボスとジバフとリャッカは予想していたため、それほどの衝撃を受けてはいない。

 「ケットシーの呪いじゃな」

 ジバフが呟く。

 「早く治しなさいよ! これもあなたたちの仕業なんでしょう!?」

 ベランナがわめく。

 「……お断りします」

 リアーナがきっぱりと断るとガヴァネとベランナの眼光が一層鋭く、敵意に満ちたものとなった。

 「なんて欲深い女なのかしら!? それだけじゃ足りないっていうのね!」

 「だったら、それと同じだけの金貨を成功報酬としてくれてやる! それなら文句ないだろう。所詮は冒険者、金のことばかり考えている強欲なやつらだ」

 「そうよ! わたくしの美の一部になれるんだから光栄に思わなきゃならないはずなのに、呪うなんて罰当たりなケットシーたちだわ! あんなのは死んで当然よ!! 」

 リアーナはガヴァネとベランナに哀しげな視線を向けて首を横に振る。

 「あなた方には理解できないかもしれないけど、お金の問題じゃありません。その状態はご自分たちで招いたものなんですよ。そして、それを反省しようともしない。それどころか自分たちが命を奪ったケットシーが悪いと言っている。そんな身勝手な人を助けたくありません。だから、お断りするんです」

 「ふざけるな! あんな物とわしらの命を同じにするな! 不愉快だ!」

 「同じニャ! 妖精族だって魔族だって人間だってみんな同じ命ニャ! そんなこともわからないなら、おまえたちこそ死んじゃえばいいニャ!!!」

 リャッカが怒りをぶつける。

 「もはや、この者たちになにを言ったところで無意味じゃろう。わしらはこれで失礼するとしよう」

 ジバフはガヴァネとベランナに見切りをつけて皆を促して立ち去ろうとする。

 「待て! いや、待ってくれ!! わしらが間違っていた! 謝る! 許してくれ!!」

 追い詰められたガヴァネが遂に涙ながらに土下座する。

 「勘違いしているみたいだね。おまえたちを許すのは俺たちじゃない。犠牲になったケットシーたちだ。彼らの許しを得られないかぎりは助かる道はない。彼らの魂はあんたらのそばで呪いをかけ続けている。せいぜい許しを乞うことだな。うまくすれば命が助かるかもしれないぜ」

 それだけを言い残し、ウラボスたちは部屋を出ていく。

 「そ、そんな……」

 ガヴァネとベランナは絶望に打ちひしがれながら、遠ざかっていく一行を見送るしかなかった……。
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