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2章 ゴブリンの砦

STORY27 フェアリーの森

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 フェアリーの森は清浄な空気で満たされていた。その中を御機嫌なリャッカの鼻歌がBGMのように流れている。

 「リャッカちゃん、なんだかすごく楽しそうだね」

 あまりに陽気に鼻歌を奏でるリャッカにリアーナまで笑顔になっている。

 「ニャフフフフフ! なんたってウラボスに勝ったニャ!」

 「べつに勝負してたわけじゃないだろ」

 ウラボスが即座に反論する。

 「それでも、ウラボスより早くチェンジリングに気付いたニャ!」

 リャッカは得意満面である。

 「はぁ……」

 ウラボスはため息をついて、がっくりと肩を落とす。その様子にリアーナとグランザが微笑する。

 「賢者の有能さがわかったかニャ、村人君?」

 リャッカが勝ち誇ったようにウラボスを見る。

 「はいはい…。それで、その賢者様はフェアリーがこの森のどこにいるか見当が付いてるのでしょうか?」

 「さぁ?」

 ウラボスの問いかけにリャッカは短く答えを返す。

 「えぇっ、見当がついてなかったのかい!?」

 グランザが思わず大声を出してしまう。

 「そんなの、あたしが知るわけないニャ。そもそもここは初めて来たんだから知らないのは当然ニャ」

 開き直ったとも受け取れる発言にリアーナとグランザも肩を落とした。

 「大丈夫ニャ。適当に歩いてればなんとかなるニャ!」

 「その自信がどこからくるのか知りたいものだな」

 「勘ニャ!」

 はっきりと言い切るリャッカ。

 「ま…まぁ、どっちにしてもフェアリーを見つけなきゃいけないことには変わりはないんだし、根気よく探そ?」

 リアーナが気を取り直して仲間たちを励ました。



 フェアリー捜索から数時間が経った。暁の渡り鳥は森の泉の畔でキャンプをしている。日が落ちて森は暗くなったため、捜索は明日に持ち越すことになっていた。

 「おっかしいニャ~…。フェアリーはどこにいるのかニャ~」

 干し肉を噛みながらリャッカが首を傾げる。

 「ねぇ、もしかしてなんだけどね、この泉の周辺にフェアリーが集まってきたりしないのかな? こういう所って妖精とか集まってきそうじゃない?」

 「ニャハハハハハ。それはおとぎ話なんかでついたイメージなのニャ。綺麗な水の泉があるからって妖精は集まってこないニャ」

 「……ねぇ……わたしの肩に止まってるのは?……」

 「それはフェアリー……ニャ?」

 リャッカはリアーナの肩の上にちょこんと座っている妖精属に目を止める。

 「ニャニャニャニャ~!!」

 リャッカの驚愕の声が夜の森に響く。



 「な~んだ。チェンジリングはばれちゃったのかぁ……」

 小さな身体の背中に羽根を持つフェアリーの少女はつまらなそうにそっぽを向く。

 「どうして、あんな悪戯をするニャ?」

 リャッカがフェアリーの少女に訊く。

 「うーん、私は悪気があってやってるわけじゃないわよ?」

 「それじゃ、どうして?」

 「一言で言えば、警告…かな」

 リアーナから出された質問にフェアリーの少女は答えた。

 「警告とは穏やかじゃないな。どういうことだ?」

 ウラボスが詳細な説明を求める。

 「それじゃ、はっきり言わせてもらうわよ。あの村はね…ゴブリンに狙われてるの」

 フェアリーの少女はいたって真剣な顔つきで、嘘を言っている感じは微塵もない。

 「ゴブリンに狙われてるって、この近くに奴らの巣でもあるのかニャ?」

 「あるよ。ベドル山の山頂にずいぶん前に放置された砦があるんだけどさ。あいつら、最近やってきて、そこを自分たちの巣にしちゃったのよ」

 「だから、村にいた分身体は村人を追い出そうとしてたんだね」

 グランザの言葉にフェアリーの少女は頷く。

 「それで、本物の子供たちはどこにいる?」

 「それなら心配しなくていいわよ。子供たちは私たちの里で眠ってるよ。もちろん、死んでるって意味じゃないからね!」

 「そっか。よかった……」

 フェアリーの少女の回答にリアーナはホッと安堵する。

 「ねぇ、わたし、あの村を救いたい! わたしたちでゴブリンをなんとかできないかな!?」

 「僕も賛成です。このまま放っておくなんてできないですよ」

 「リアーナとグランザならそう言うと思ったニャ。ウラボスの意見はどうかニャ?」

 「俺はリアーナが村を救いたいと望むなら手助けするまでだ。それに、勇者を目指すなら少しでも経験を積むのはいいことだろ」

 「たしかに、ウラボスの言うことも一理あるニャ。……あたしも賛成ニャ」

 「ありがとう、みんな!」

 「そうと決まればこちらから攻めていくべきだな。村人を守りながらだとどうしても犠牲者が出るからな」

 暁の渡り鳥の意見がまとまる。そんなお人好しの集まりをフェアリーの少女は興味深げに見ていたが、やがて立ち去った。

 泉の畔で一晩を過ごし、翌日の早朝、暁の渡り鳥はゴブリンの砦に向けて歩を進めるのであった。
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