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2章 ゴブリンの砦
STORY27 フェアリーの森
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フェアリーの森は清浄な空気で満たされていた。その中を御機嫌なリャッカの鼻歌がBGMのように流れている。
「リャッカちゃん、なんだかすごく楽しそうだね」
あまりに陽気に鼻歌を奏でるリャッカにリアーナまで笑顔になっている。
「ニャフフフフフ! なんたってウラボスに勝ったニャ!」
「べつに勝負してたわけじゃないだろ」
ウラボスが即座に反論する。
「それでも、ウラボスより早くチェンジリングに気付いたニャ!」
リャッカは得意満面である。
「はぁ……」
ウラボスはため息をついて、がっくりと肩を落とす。その様子にリアーナとグランザが微笑する。
「賢者の有能さがわかったかニャ、村人君?」
リャッカが勝ち誇ったようにウラボスを見る。
「はいはい…。それで、その賢者様はフェアリーがこの森のどこにいるか見当が付いてるのでしょうか?」
「さぁ?」
ウラボスの問いかけにリャッカは短く答えを返す。
「えぇっ、見当がついてなかったのかい!?」
グランザが思わず大声を出してしまう。
「そんなの、あたしが知るわけないニャ。そもそもここは初めて来たんだから知らないのは当然ニャ」
開き直ったとも受け取れる発言にリアーナとグランザも肩を落とした。
「大丈夫ニャ。適当に歩いてればなんとかなるニャ!」
「その自信がどこからくるのか知りたいものだな」
「勘ニャ!」
はっきりと言い切るリャッカ。
「ま…まぁ、どっちにしてもフェアリーを見つけなきゃいけないことには変わりはないんだし、根気よく探そ?」
リアーナが気を取り直して仲間たちを励ました。
◎
フェアリー捜索から数時間が経った。暁の渡り鳥は森の泉の畔でキャンプをしている。日が落ちて森は暗くなったため、捜索は明日に持ち越すことになっていた。
「おっかしいニャ~…。フェアリーはどこにいるのかニャ~」
干し肉を噛みながらリャッカが首を傾げる。
「ねぇ、もしかしてなんだけどね、この泉の周辺にフェアリーが集まってきたりしないのかな? こういう所って妖精とか集まってきそうじゃない?」
「ニャハハハハハ。それはおとぎ話なんかでついたイメージなのニャ。綺麗な水の泉があるからって妖精は集まってこないニャ」
「……ねぇ……わたしの肩に止まってるのは?……」
「それはフェアリー……ニャ?」
リャッカはリアーナの肩の上にちょこんと座っている妖精属に目を止める。
「ニャニャニャニャ~!!」
リャッカの驚愕の声が夜の森に響く。
◎
「な~んだ。チェンジリングはばれちゃったのかぁ……」
小さな身体の背中に羽根を持つフェアリーの少女はつまらなそうにそっぽを向く。
「どうして、あんな悪戯をするニャ?」
リャッカがフェアリーの少女に訊く。
「うーん、私は悪気があってやってるわけじゃないわよ?」
「それじゃ、どうして?」
「一言で言えば、警告…かな」
リアーナから出された質問にフェアリーの少女は答えた。
「警告とは穏やかじゃないな。どういうことだ?」
ウラボスが詳細な説明を求める。
「それじゃ、はっきり言わせてもらうわよ。あの村はね…ゴブリンに狙われてるの」
フェアリーの少女はいたって真剣な顔つきで、嘘を言っている感じは微塵もない。
「ゴブリンに狙われてるって、この近くに奴らの巣でもあるのかニャ?」
「あるよ。ベドル山の山頂にずいぶん前に放置された砦があるんだけどさ。あいつら、最近やってきて、そこを自分たちの巣にしちゃったのよ」
「だから、村にいた分身体は村人を追い出そうとしてたんだね」
グランザの言葉にフェアリーの少女は頷く。
「それで、本物の子供たちはどこにいる?」
「それなら心配しなくていいわよ。子供たちは私たちの里で眠ってるよ。もちろん、死んでるって意味じゃないからね!」
「そっか。よかった……」
フェアリーの少女の回答にリアーナはホッと安堵する。
「ねぇ、わたし、あの村を救いたい! わたしたちでゴブリンをなんとかできないかな!?」
「僕も賛成です。このまま放っておくなんてできないですよ」
「リアーナとグランザならそう言うと思ったニャ。ウラボスの意見はどうかニャ?」
「俺はリアーナが村を救いたいと望むなら手助けするまでだ。それに、勇者を目指すなら少しでも経験を積むのはいいことだろ」
「たしかに、ウラボスの言うことも一理あるニャ。……あたしも賛成ニャ」
「ありがとう、みんな!」
「そうと決まればこちらから攻めていくべきだな。村人を守りながらだとどうしても犠牲者が出るからな」
暁の渡り鳥の意見がまとまる。そんなお人好しの集まりをフェアリーの少女は興味深げに見ていたが、やがて立ち去った。
泉の畔で一晩を過ごし、翌日の早朝、暁の渡り鳥はゴブリンの砦に向けて歩を進めるのであった。
「リャッカちゃん、なんだかすごく楽しそうだね」
あまりに陽気に鼻歌を奏でるリャッカにリアーナまで笑顔になっている。
「ニャフフフフフ! なんたってウラボスに勝ったニャ!」
「べつに勝負してたわけじゃないだろ」
ウラボスが即座に反論する。
「それでも、ウラボスより早くチェンジリングに気付いたニャ!」
リャッカは得意満面である。
「はぁ……」
ウラボスはため息をついて、がっくりと肩を落とす。その様子にリアーナとグランザが微笑する。
「賢者の有能さがわかったかニャ、村人君?」
リャッカが勝ち誇ったようにウラボスを見る。
「はいはい…。それで、その賢者様はフェアリーがこの森のどこにいるか見当が付いてるのでしょうか?」
「さぁ?」
ウラボスの問いかけにリャッカは短く答えを返す。
「えぇっ、見当がついてなかったのかい!?」
グランザが思わず大声を出してしまう。
「そんなの、あたしが知るわけないニャ。そもそもここは初めて来たんだから知らないのは当然ニャ」
開き直ったとも受け取れる発言にリアーナとグランザも肩を落とした。
「大丈夫ニャ。適当に歩いてればなんとかなるニャ!」
「その自信がどこからくるのか知りたいものだな」
「勘ニャ!」
はっきりと言い切るリャッカ。
「ま…まぁ、どっちにしてもフェアリーを見つけなきゃいけないことには変わりはないんだし、根気よく探そ?」
リアーナが気を取り直して仲間たちを励ました。
◎
フェアリー捜索から数時間が経った。暁の渡り鳥は森の泉の畔でキャンプをしている。日が落ちて森は暗くなったため、捜索は明日に持ち越すことになっていた。
「おっかしいニャ~…。フェアリーはどこにいるのかニャ~」
干し肉を噛みながらリャッカが首を傾げる。
「ねぇ、もしかしてなんだけどね、この泉の周辺にフェアリーが集まってきたりしないのかな? こういう所って妖精とか集まってきそうじゃない?」
「ニャハハハハハ。それはおとぎ話なんかでついたイメージなのニャ。綺麗な水の泉があるからって妖精は集まってこないニャ」
「……ねぇ……わたしの肩に止まってるのは?……」
「それはフェアリー……ニャ?」
リャッカはリアーナの肩の上にちょこんと座っている妖精属に目を止める。
「ニャニャニャニャ~!!」
リャッカの驚愕の声が夜の森に響く。
◎
「な~んだ。チェンジリングはばれちゃったのかぁ……」
小さな身体の背中に羽根を持つフェアリーの少女はつまらなそうにそっぽを向く。
「どうして、あんな悪戯をするニャ?」
リャッカがフェアリーの少女に訊く。
「うーん、私は悪気があってやってるわけじゃないわよ?」
「それじゃ、どうして?」
「一言で言えば、警告…かな」
リアーナから出された質問にフェアリーの少女は答えた。
「警告とは穏やかじゃないな。どういうことだ?」
ウラボスが詳細な説明を求める。
「それじゃ、はっきり言わせてもらうわよ。あの村はね…ゴブリンに狙われてるの」
フェアリーの少女はいたって真剣な顔つきで、嘘を言っている感じは微塵もない。
「ゴブリンに狙われてるって、この近くに奴らの巣でもあるのかニャ?」
「あるよ。ベドル山の山頂にずいぶん前に放置された砦があるんだけどさ。あいつら、最近やってきて、そこを自分たちの巣にしちゃったのよ」
「だから、村にいた分身体は村人を追い出そうとしてたんだね」
グランザの言葉にフェアリーの少女は頷く。
「それで、本物の子供たちはどこにいる?」
「それなら心配しなくていいわよ。子供たちは私たちの里で眠ってるよ。もちろん、死んでるって意味じゃないからね!」
「そっか。よかった……」
フェアリーの少女の回答にリアーナはホッと安堵する。
「ねぇ、わたし、あの村を救いたい! わたしたちでゴブリンをなんとかできないかな!?」
「僕も賛成です。このまま放っておくなんてできないですよ」
「リアーナとグランザならそう言うと思ったニャ。ウラボスの意見はどうかニャ?」
「俺はリアーナが村を救いたいと望むなら手助けするまでだ。それに、勇者を目指すなら少しでも経験を積むのはいいことだろ」
「たしかに、ウラボスの言うことも一理あるニャ。……あたしも賛成ニャ」
「ありがとう、みんな!」
「そうと決まればこちらから攻めていくべきだな。村人を守りながらだとどうしても犠牲者が出るからな」
暁の渡り鳥の意見がまとまる。そんなお人好しの集まりをフェアリーの少女は興味深げに見ていたが、やがて立ち去った。
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