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3章 淫魔に憑かれた村
STORY56 謎の老人ジャダーザ
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チャアム村をあとにした一行は最寄りの町タウカラにやってきた。
「それじゃ、ちょっと行ってくる。そうだな……。そこにある冒険者用品店の側で待っててくれ」
「ちょ、ちょっと待って。行くってどこへ?」
リアーナが、瞬間移動魔術のために魔力を高めているウラボスに訊く。
「お宝を取りに行くだけさ!」
明確に答えないまま、ウラボスは瞬間移動魔術により移動してしまった。
「行っちゃいましたね……」
「謎すぎるニャ……」
グランザとリャッカは呆然としていた。
◎
「到着、と……」
瞬間移動魔術でシークレット・パレスへとやって来たウラボスは内部へと入っていく。
大理石を敷き詰めた薄暗い廊下を進み、巨大な扉の前で足を止める。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
主の帰りを待ちわびていたかのように扉が開く。謁見の間は魔族の女と戦ったときのままである。というより、あの戦いにおいてもシークレット・パレスは一切傷ついていない。
謁見の間に足を踏み入れ、再び立ち止まる。
「暫く留守にしてたんだけど、その間にお客さんか? だったら隠れてないで出てきたらどうだ?」
ウラボスは侵入者の気配に気付き、声をかける。
「さすがは真なる支配者じゃ。わしの気配を察知するとは……」
姿を現したのは、白髪で長い髭の痩せた男性の老人だ。ウラボスと同じく長い杖を持っている。
「何者だ? ここにいる時点であんたが只者じゃないことははっきりしてるよな?」
アルフォスの言葉に謎の老人はフッと笑う。
「なぁに。ここには散歩に来ただけじゃよ」
「散歩、ねぇ……。そう簡単に来れるような場所でもないんだけどな。まあ、いい。それで、俺を真なる支配者と知っているようだが何か用でもあるのか?」
「特に用があるわけではないんじゃが……。強いて言うならば、真なる支配者であるそなたを一目見ておきたかった、くらいなもんじゃな」
(今のところ、敵意はないようだが……)
ウラボスは謎の老人の真意を計りかねていた。
「俺にゼルアルを差し向けたのは、じいさんなのか?」
ウラボスの言葉に老人は暫く口元に手を当てていたが、やがて長い白ひげを撫ではじめた。
「ふぅむ。それはわしではないのぉ。はてさて、おまえさんに刺客を差し向けたのは何者か。わしも興味深いところではある。ところで……」
謎の老人はウラボスを見据える。
「真なる支配者よ、このシークレット・パレスを出て、世界を周り、いったい何をするつもりじゃ? おまえさんの行く先に何がある?」
「……ここを出て何をするか? 暁の渡り鳥の村人として仲間たちと自由気ままな旅を続けるさ。その先になにがあるかなんて俺にもわからない」
「おまえさんほどの実力があれば、世界を手にすることも可能であろう? なにせ真なる支配者なのじゃからのぅ?」
「そんなもん、興味がないんだよ。暁の渡り鳥のリーダーは地位や名誉、金や権力……そういったもんに執着しないで、ただ《困っている者を助けたい》って理由だけで冒険者をしている。俺は持てる全てをかけて彼女を支えていきたいだけさ」
ウラボスの返答に謎の老人は笑みを浮かべる。
「そうか……。どうやらおまえさんにとって良い出逢いがあったということじゃな」
謎の老人はどこか安心したように呟く。
「さて、そろそろ行くとするかの。……おお、そうじゃった。まだ名乗っておらんかったな。わしの名はジャダーザ」
ジャダーザは瞬間移動魔術の魔法陣の中で名乗る。
「俺はウラボスだ」
「なるほど。今は真なる支配者ではなく村人ウラボスか。覚えておくとしようかの。また会うこともあるじゃろうて。おまえさんを狙う者についても調べておこう。さらばじゃ!」
ジャダーザが去ったあとには、いつもの静寂がおとずれた。
「さて、俺も用事を済ませてさっさと戻るとするか」
ウラボスはシークレット・パレスの宝物室へと足を運ぶ。
宝物といっても、ウラボスがこのシークレット・パレスでたまに訪れる猛者を相手に勝利した際に遺された品々、または、周辺を散歩中に襲ってきたモンスターを返り討ちにした際に手に入れた貴重な素材アイテムなどである。モンスターは命が尽きれば霧消するが稀にその一部が残る場合がある。それらは武具製造の素材として高額で取引されていた。
宝物室の中に無造作に放り込まれていた素材アイテムの中から適当に手にとる。
(まさか、真なる支配者が生活のために持ち物を売る時がくるとはね……)
ウラボスはなんとなく可笑しくなって笑んだ。
「さて、俺もそろそろ行くか!」
ウラボスが瞬間移動魔術で去ったあと、シークレット・パレスは再び静寂に包まれた……。
「それじゃ、ちょっと行ってくる。そうだな……。そこにある冒険者用品店の側で待っててくれ」
「ちょ、ちょっと待って。行くってどこへ?」
リアーナが、瞬間移動魔術のために魔力を高めているウラボスに訊く。
「お宝を取りに行くだけさ!」
明確に答えないまま、ウラボスは瞬間移動魔術により移動してしまった。
「行っちゃいましたね……」
「謎すぎるニャ……」
グランザとリャッカは呆然としていた。
◎
「到着、と……」
瞬間移動魔術でシークレット・パレスへとやって来たウラボスは内部へと入っていく。
大理石を敷き詰めた薄暗い廊下を進み、巨大な扉の前で足を止める。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
主の帰りを待ちわびていたかのように扉が開く。謁見の間は魔族の女と戦ったときのままである。というより、あの戦いにおいてもシークレット・パレスは一切傷ついていない。
謁見の間に足を踏み入れ、再び立ち止まる。
「暫く留守にしてたんだけど、その間にお客さんか? だったら隠れてないで出てきたらどうだ?」
ウラボスは侵入者の気配に気付き、声をかける。
「さすがは真なる支配者じゃ。わしの気配を察知するとは……」
姿を現したのは、白髪で長い髭の痩せた男性の老人だ。ウラボスと同じく長い杖を持っている。
「何者だ? ここにいる時点であんたが只者じゃないことははっきりしてるよな?」
アルフォスの言葉に謎の老人はフッと笑う。
「なぁに。ここには散歩に来ただけじゃよ」
「散歩、ねぇ……。そう簡単に来れるような場所でもないんだけどな。まあ、いい。それで、俺を真なる支配者と知っているようだが何か用でもあるのか?」
「特に用があるわけではないんじゃが……。強いて言うならば、真なる支配者であるそなたを一目見ておきたかった、くらいなもんじゃな」
(今のところ、敵意はないようだが……)
ウラボスは謎の老人の真意を計りかねていた。
「俺にゼルアルを差し向けたのは、じいさんなのか?」
ウラボスの言葉に老人は暫く口元に手を当てていたが、やがて長い白ひげを撫ではじめた。
「ふぅむ。それはわしではないのぉ。はてさて、おまえさんに刺客を差し向けたのは何者か。わしも興味深いところではある。ところで……」
謎の老人はウラボスを見据える。
「真なる支配者よ、このシークレット・パレスを出て、世界を周り、いったい何をするつもりじゃ? おまえさんの行く先に何がある?」
「……ここを出て何をするか? 暁の渡り鳥の村人として仲間たちと自由気ままな旅を続けるさ。その先になにがあるかなんて俺にもわからない」
「おまえさんほどの実力があれば、世界を手にすることも可能であろう? なにせ真なる支配者なのじゃからのぅ?」
「そんなもん、興味がないんだよ。暁の渡り鳥のリーダーは地位や名誉、金や権力……そういったもんに執着しないで、ただ《困っている者を助けたい》って理由だけで冒険者をしている。俺は持てる全てをかけて彼女を支えていきたいだけさ」
ウラボスの返答に謎の老人は笑みを浮かべる。
「そうか……。どうやらおまえさんにとって良い出逢いがあったということじゃな」
謎の老人はどこか安心したように呟く。
「さて、そろそろ行くとするかの。……おお、そうじゃった。まだ名乗っておらんかったな。わしの名はジャダーザ」
ジャダーザは瞬間移動魔術の魔法陣の中で名乗る。
「俺はウラボスだ」
「なるほど。今は真なる支配者ではなく村人ウラボスか。覚えておくとしようかの。また会うこともあるじゃろうて。おまえさんを狙う者についても調べておこう。さらばじゃ!」
ジャダーザが去ったあとには、いつもの静寂がおとずれた。
「さて、俺も用事を済ませてさっさと戻るとするか」
ウラボスはシークレット・パレスの宝物室へと足を運ぶ。
宝物といっても、ウラボスがこのシークレット・パレスでたまに訪れる猛者を相手に勝利した際に遺された品々、または、周辺を散歩中に襲ってきたモンスターを返り討ちにした際に手に入れた貴重な素材アイテムなどである。モンスターは命が尽きれば霧消するが稀にその一部が残る場合がある。それらは武具製造の素材として高額で取引されていた。
宝物室の中に無造作に放り込まれていた素材アイテムの中から適当に手にとる。
(まさか、真なる支配者が生活のために持ち物を売る時がくるとはね……)
ウラボスはなんとなく可笑しくなって笑んだ。
「さて、俺もそろそろ行くか!」
ウラボスが瞬間移動魔術で去ったあと、シークレット・パレスは再び静寂に包まれた……。
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