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6章 オーク大戦

STORY102 オーク掃討作戦④

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 ザンッ

 ベイズの長剣がオークの首をはね飛ばす。

 「そらそらそら!」

 ベイズは動きを止めることなく次々に周囲のオークの首を切断していく。周りのオークはそのあまりの強さに戦意を喪失し、逃走する者まで現れていた。

 「っと、ここらで後続を待たねぇとな。単独で突っ走りすぎるのもなにかとまずいか。それに……」

 ベイズは岩陰のほうに視線を移す。

 「隠れてねぇで出てこいよ」

 「ふん、人間風情が偉そうに吠えよるわ!」

 ベイズの呼び掛けに姿を現したのは一際大きな体格のオークであった。右手にメイス、左手に盾を装備している。

 (こいつ、ただのオークじゃねぇな。オーク・キングか…)

 油断なく長剣を構えながら相手の出方をうかがう。

 「いくぜ、人間!」

 オーク・キングが体格からは想像するよりも遥かに速い動きで間合いを詰めてくる。

 ガキンッ

 (ちっ、重い!)

 オーク・キングのメイスの一撃を長剣で受け止めたベイズは強い衝撃を受ける。

 「ぬうぉぉぉっ!」

 ベイズは長剣を握る両腕に力を込めてオーク・キングのメイスを弾く。

 (ぐっ…こいつ、人間の分際で!?)

 オーク・キングは予想以上のベイズの腕力に次の行動が一瞬遅れた。

 「でやぁ!」

 ベイズはオーク・キングの腹を蹴る。

 「うぐっ」

 低くうめいて数歩よろめいたオーク・キングに長剣を振るった。長剣が鼻先を掠めていく。

 「く……そったれがぁ!」

 その双眸を怒りによって血走せたオーク・キングはメイスをブンブンと振りかざす。

 それらの攻撃を最小限の動きでかわしながら、反撃の隙をうかがうベイズ。決して無理に攻めようとはしない。冒険者として様々な強敵と戦ってきた経験から、そうしたことをすれば一気に戦況が悪化することがあることを知っているからだ。

 一方、攻撃をかわされ続けているオーク・キングは苛立ちを募らせていた。

 (くそ! さっきから反撃もしないで避けてばかりじゃねぇか! めやがって!!)

 オーク・キングはベイズの頭を叩き割ろうとしてメイスを掲げる。

 その一瞬をベイズは見逃さない。強く地面を蹴ることで素早くオーク・キングの背後に回り込み、振り返り様に長剣を真横に一閃する。

 「ギャアッ!」

 腰を斬りつけられた痛みに叫ぶオーク・キングに対して、長剣の切っ先を向けて狙いを定める。

 「はっ!」

 短く気合いを入れて突きを放つ。だが、オーク・キングが回避行動にでたために狙いが外れてしまい、刃は右の脇腹を切り裂いた。

 「ぐぁっ!……ぇじゃねぇか!!」

 オーク・キングは右手のメイスを渾身の力で振るう。

 (ちぃ!)

 ベイズは咄嗟に姿勢を低くして右脇をすり抜ける。メイスが頭上を勢いよく通り過ぎていくのを感じながら振り返り、長剣を袈裟斬けさぎりに閃かせた。

 ザシュッ

 長剣はオーク・キングの肉を切り裂いていく。おびただしい量の血飛沫を吹き出し、オーク・キングの体が崩れ落ちた。

 「ふぅ…」

 周りの安全を確認して額の汗を拭って一息つく。

 (!?)

 ベイズは駆けてくる複数の足音に気づき、長剣を構えて臨戦態勢を整える。

 「あっ、よかった! ご無事だったんですね!?」

 現れたのは暁の渡り鳥だった。リアーナが安堵した表情で声をかけてくる。

 「おぉ! あんたらも無事だったか! もっとも、オレとしちゃ心配していなかったけどな」

 「酷いニャ! いくらあたしたちが流れ者の冒険者だからってあんまりニャ!」

 リャッカが抗議する。

 「いやいや、そうじゃねぇよ。あんたらの実力ならオークごときに敗けるはずがねぇだろうが」

 ベイズはニカッと笑ってみせたあと、森の奥に視線を向ける。

 「さぁて、この先にやつらの巣窟がある。気合い入れろよ!」

 ベイズと暁の渡り鳥は洞窟を目指して侵攻するのだった。
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