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10章 レビオルムの惨劇

STORY155 誘拐事件の真相

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 「おお、フリーネ!」

 突如、謁見の間に現れた娘の姿にラグーナは立ち上がり、両腕を広げる。

 「お父様!!」

 フリーネはラグーナに駆け寄り、その胸に飛び込む。

 「よくぞ…よくぞ無事に帰ってきてくれた!!」

 娘の身を案じていたラグーナはフリーネをしっかりといだく。

 「……そなたたちもご苦労であったな。よくぞ、フリーネを救出してくれた! 心から礼を言わせてもらうぞ!」

 「ありが…」

 「お父様! あの男を捕らえて下さい!!」

 フリーネはリアーナの言葉をさえぎってラグーナに乞う。

 「それはどういう事だ?」

 ラグーナに問われたフリーネが先ほどのウラボスの態度を腹立たしげに話す。

 「…ふぅむ。今のフリーネの話を聞く限りではウラボスを処罰する必要はあるまい」

 「どうしてですか!?」

 フリーネは到底納得できないといった様子でラグーナに詰め寄る。

 「……どうやら、わしはそなたを大事にするあまりに甘やかし過ぎたのやもしれんな…」

 ラグーナは沈んだ声で漏らす。フリーネは頼りの父に見放されたと思い、顔を強張らせる。

 「今回のフリーネ姫様誘拐事件はそのあたりに原因があるやもしれませんな」

 謁見の間に姿を現した、ホテル・パレスの執事セバスが言う。

 「おお、セバス」

 ラグーナはセバスの登場に旧友に会ったような笑みを浮かべる。

 「それで、わしが甘やかしたことに原因があるとはどういうことだ?」

 「それは誘拐犯に直接聞いたほうがよろしいのでは?」

 ラグーナに問われ、セバスはリリアに視線を移す。

 「ふむ、たしかにそうだな。…魔女リリアよ、そのほうはなぜフリーネを誘拐したのだ? 正直に申してみよ」

 ラグーナとセバスをはじめ、謁見の間にいる全員の視線を一身に受けてたじろぐ。しかし、ここで何も言わないわけにもいかない。ラグーナやセバスには世話になった過去があるのだ。

 「セバス様の言うとおりです。私はフリーネ姫を誘拐して再教育しようとしたのよ」

 「なんですって!? 身の程知らずも大概にしてほしいわね!」

 リリアの言葉にフリーネが憤慨ふんがいする。

 「フリーネは黙っていなさい。リリアよ、先を続けるがよい」

 ラグーナに軽く一礼し、リリアは続ける。

 「失礼を承知で申し上げます。ラグーナ様は今のフリーネ姫が次代の王族として相応しいと思われますか?」

 リリアに痛いところを突かれて沈黙するラグーナ。

 「今のままのフリーネ姫が王位を継げば、このアムキナト王国を滅ぼしかねません。私はそれを阻止するために今回の行動にでたのです。そして、彼はそんな私の考えに賛同し、協力してくれたに過ぎません」

 動機を語ったあと、ゾワルに視線を向ける。

 「むぅ……」

 ラグーナな沈痛な面持ちで床を見つめる。

 「魔女リリアよ、そなたはフリーネ姫を立派な王族に育てる自信があるのだな?」

 「お父様!?」

 沈思黙考していたラグーナが発した言葉にフリーネが反応する。しかし、そんなことはお構いなしとばかりにラグーナとリリアの会話は続く。

 「はい。…ですが、私も今回のような誘拐事件という愚行を起こしたのは軽率でした。もし、お許しをいただけるのであれば、このエンダイク城でフリーネ姫付きの教育係を務めたいと思います」

 「ふむ。それならば、わしも安心ではあるな」

 「ただし、フリーネ姫やアムキナト王国の将来を思えばこそ厳しく指導いたしますので、ラグーナ様をはじめ何者も口出し無用に願います」

 「なるほど。わしが口を出せば甘やかしてしまうということか。……よかろう。そなたの意見を認めよう」

 あれよという間にとんでもない方向に話がまとまってしまい、動揺して青ざめるフリーネ。激昂げっこうしたり泣いたりと、あの手この手でラグーナの説得を試みるもことごとく失敗に終わり、もはやくつがえすことなどできそうにないと覚悟するしかなかった。
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