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5章 海賊討伐
43話 覚醒
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ルットの視界に床に崩れ落ちるマリアンが映る。
「マ、マリアン殿!?」
ルットは全身の痛みをものともせずマリアンを抱き起こす。しかし、もはや息はなかった。
「戦いの最中に仲間の死に気をとられるとは未熟じゃぞ!」
言うと、ダスは再び光属性中級魔術をルットの頭部へ向けて射つ。しかし、信じ難い光景を目にして絶句する。
ルットの周囲を緑の颶風が吹き、光の矢を瞬時に消滅させた。
「これは……」
ルット自身も何が起きたのか理解できておらず、戸惑いが見て取れる。
(これ……か?)
ルットは胸のブローチを見る。それは、リュカリオンに貰ってから、ずっと身に付けている物だ。そのブローチに取り付けられた緑の宝石から強い魔力が発せられていた。
(なんだ、あの宝石は……)
ブローチからの魔力を感じ取ったダスは訝しげに見る。
(これが何なのからわからない。だけど、この力を上手く使えば勝てる!)
勝機を見出だしたルットは魔杖ロープワンドを構える。
「氷属性中級魔術!」
接近を危険と判断したダスは、魔力で氷の矢を放った。だが、やはり、緑の颶風によって消滅する。
「はぁぁ!」
ルットは、力尽きたマリアンを床に寝かせると、ダスとの間合いを一気に詰める。振りかざした魔杖はダスの右頬を打つ。
(わしとしたことがあの風に気をとられ過ぎたか!)
口元に滲む血もそのままに、ダスは油断なく身構える。
「死ねぇ!」
ルットの背後に回り込んだ海賊が剣を大上段に掲げて襲い掛かる。
「くっ!……」
振り返ったルットは咄嗟に魔杖で受け止めて弾いた。
(む? あの風で防げるのは魔力による攻撃のみか? ならば!)
ダスが動く。ルットの背中に蹴りをいれ、体勢を崩したところに回し蹴りをくり出す。吹っ飛ばされたルットがフロアの柱に左肩を強打する。
「このまま一気に決着をつけてくれるわ!」
ダスは畳み掛ける。間合いを詰めて掌底を右肩に打ち込み、続いて腹を蹴る。
「ぐぅ!……」
苦悶の表情で低く声を漏らすルットの顎を蹴り上げ、直後に踵落としで床に叩きつける。
「その奇妙な力も魔術を使わなければおそるるに足らずじゃのぉ。涼風と変わらぬわ」
ダスは、倒れたルットを見下ろして言う。
(この風は僕の意思で強弱が調整できるようだ。……もしかしたら!)
ルットは、ダスの猛攻を受けながらも自身の新たな力の扱い方を探っていた。そこからまだ勝機が潰えていないことを悟る。
「ぐっ……」
痛む身体を無理に動かして起き上がる同時に間合いをとる。
ダスは鼻で笑う。
「いかに強がったところで、今のお主にわしを振り回すことはできまい?」
「たしかに、その力は……残ってない。だけど、まだ!」
ルットは左手をかざして緑の颶風に意識を集中する。
「むっ!?」
ルットを守るように彼の周囲に渦巻いていた風が、刃となって艦内に残った海賊に向かって飛んでいく。
「ぎゃあぁぁぁ!!」
緑の風の刃が海賊たちを切り裂いていく。悲鳴がフロアに響く。
(むぅ!……あの風は守りだけのものではなかったか!)
ダスは考えが至らなかったことを悔やむ。だが、時すでに遅し。緑の刃が老体を寸断した。
「うぅ……」
敵の全滅を確認したルットは魔杖を床につき、自らの身体を支える。
(風が、消えた……)
周囲の風が消え去ったことに気付いたルットは、胸のブローチに手をやる。
(これは何なのか。リュカリオン様にお聞きしてみよう)
ルットは、胸元で輝く緑の宝石を見ながら決心した。
「マ、マリアン殿!?」
ルットは全身の痛みをものともせずマリアンを抱き起こす。しかし、もはや息はなかった。
「戦いの最中に仲間の死に気をとられるとは未熟じゃぞ!」
言うと、ダスは再び光属性中級魔術をルットの頭部へ向けて射つ。しかし、信じ難い光景を目にして絶句する。
ルットの周囲を緑の颶風が吹き、光の矢を瞬時に消滅させた。
「これは……」
ルット自身も何が起きたのか理解できておらず、戸惑いが見て取れる。
(これ……か?)
ルットは胸のブローチを見る。それは、リュカリオンに貰ってから、ずっと身に付けている物だ。そのブローチに取り付けられた緑の宝石から強い魔力が発せられていた。
(なんだ、あの宝石は……)
ブローチからの魔力を感じ取ったダスは訝しげに見る。
(これが何なのからわからない。だけど、この力を上手く使えば勝てる!)
勝機を見出だしたルットは魔杖ロープワンドを構える。
「氷属性中級魔術!」
接近を危険と判断したダスは、魔力で氷の矢を放った。だが、やはり、緑の颶風によって消滅する。
「はぁぁ!」
ルットは、力尽きたマリアンを床に寝かせると、ダスとの間合いを一気に詰める。振りかざした魔杖はダスの右頬を打つ。
(わしとしたことがあの風に気をとられ過ぎたか!)
口元に滲む血もそのままに、ダスは油断なく身構える。
「死ねぇ!」
ルットの背後に回り込んだ海賊が剣を大上段に掲げて襲い掛かる。
「くっ!……」
振り返ったルットは咄嗟に魔杖で受け止めて弾いた。
(む? あの風で防げるのは魔力による攻撃のみか? ならば!)
ダスが動く。ルットの背中に蹴りをいれ、体勢を崩したところに回し蹴りをくり出す。吹っ飛ばされたルットがフロアの柱に左肩を強打する。
「このまま一気に決着をつけてくれるわ!」
ダスは畳み掛ける。間合いを詰めて掌底を右肩に打ち込み、続いて腹を蹴る。
「ぐぅ!……」
苦悶の表情で低く声を漏らすルットの顎を蹴り上げ、直後に踵落としで床に叩きつける。
「その奇妙な力も魔術を使わなければおそるるに足らずじゃのぉ。涼風と変わらぬわ」
ダスは、倒れたルットを見下ろして言う。
(この風は僕の意思で強弱が調整できるようだ。……もしかしたら!)
ルットは、ダスの猛攻を受けながらも自身の新たな力の扱い方を探っていた。そこからまだ勝機が潰えていないことを悟る。
「ぐっ……」
痛む身体を無理に動かして起き上がる同時に間合いをとる。
ダスは鼻で笑う。
「いかに強がったところで、今のお主にわしを振り回すことはできまい?」
「たしかに、その力は……残ってない。だけど、まだ!」
ルットは左手をかざして緑の颶風に意識を集中する。
「むっ!?」
ルットを守るように彼の周囲に渦巻いていた風が、刃となって艦内に残った海賊に向かって飛んでいく。
「ぎゃあぁぁぁ!!」
緑の風の刃が海賊たちを切り裂いていく。悲鳴がフロアに響く。
(むぅ!……あの風は守りだけのものではなかったか!)
ダスは考えが至らなかったことを悔やむ。だが、時すでに遅し。緑の刃が老体を寸断した。
「うぅ……」
敵の全滅を確認したルットは魔杖を床につき、自らの身体を支える。
(風が、消えた……)
周囲の風が消え去ったことに気付いたルットは、胸のブローチに手をやる。
(これは何なのか。リュカリオン様にお聞きしてみよう)
ルットは、胸元で輝く緑の宝石を見ながら決心した。
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