聖剣と魔剣の二刀流剣士物語2【七星大将軍編】

美山 鳥

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7章 最後の戦い

70話 女神VS魔神②

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 どこまでも続く空を魔神と女神が縦横無尽に飛び回っている。リュカリオンが射た魔力矢をフィアーゼは風に舞う花びらのようにヒラリヒラリとかわす。

 「雷属性上級魔術ライトニング・ブレット!」

 女神フィアーゼが左手をかざして魔力を雷の弾丸に変えて連射する。魔神リュカリオンは左手に魔力大盾を作りだし雷の弾丸を防ぐ。

 「これでもくらえ」

 リュカリオンは右手に顕現けんげんさせた魔力槍を女神に向けて投げる。その穂先がフィアーゼを捉えようかという直前、大蛇おろちがそれを噛み砕く。

 (フィアーゼが自らの髪を変化させた八匹の大蛇おろちか。あれは少しばかり厄介だな。攻撃にも防御にも使えるうえに斬り落としても瞬く間に再生する……)

 大蛇おろちを警戒をしているリュカリオンにフィアーゼは冷笑を見せる。

 「さすがの魔神リュカリオンも、あたしの八岐大蛇やまたのおろちには手を焼くみたいね? でもね、警戒して近寄らなくても安全だとは言えないわよ!」

 フィアーゼの魔力が急速に増大していく。

 (なにをする気だ?)

 リュカリオンは左手の魔力大盾を前面にだし警戒をさらに強める。

 「そぉれ! 八蛇連光はちじゃれんこう!!」

 フィアーゼは愉快そうに笑い、八岐大蛇やまたのおろちが大口を開けて魔力の光線を連射した。

 (これはまずい!! 大盾では防ぎきれん!)

 リュカリオンは、その一発一発が火属性最上級魔術フレイム・キャノンボールを凌駕するほどの威力であることを察知し、回避する。

 「あらあら、どうしたのかしらぁ? 逃げ回ってるだけじゃあたしには勝てないわよ?」

 余裕の笑みを浮かべながら、フィアーゼは上下左右に滑空して光線を避け続ける魔神に向かって言う。

 「言われずともわかっておる」

 身体を反転させ、迫りくる無数の光線を掻い潜って女神に急接近する。

 (これだけの光線をかわせるっていうの!?)

 フィアーゼは驚嘆するも、その両手は迎撃のために動いていた。リュカリオンと対面しながら飛空魔術フライングで後方へと移動し、かざした左手から火属性最上級魔術フレイム・キャノンボールを、右手から風属性上級魔術ウインド・ブレードを連続で撃ち出す。

 (うそでしょ!?)

 魔神リュカリオンの実力は知っているはずだった。しかし、目の前にいる魔神は女神が知る魔神のそれを上回っている。はるか昔に戦った時よりも明らかに強くなっているではないか。

 街ひとつを壊滅させてもおかしくないほどの猛攻を完璧に回避したリュカリオンが両手の魔力剣をしっかりと握る。

 「えっ!?」

 女神はリュカリオンの予想外の行動に思考が停止する。それは刹那のことだった。しかし、再び身体を翻してフィアーゼに背中を向けたリュカリオンの姿が消えたのだ。動きが速いとかいうレベルの話ではない。

 「ちぃ!!」

 背後から感じた殺気にフィアーゼは反射的に垂直に飛翔した。その直後、二本の魔力剣の軌跡が女神がいた空間で交差する。

 (瞬間移動魔術テレポート!?)

 魔神の姿が消えた仕掛けを理解したフィアーゼは、宿敵リュカリオンの能力の高さに改めて驚嘆した。通常、瞬間移動魔術テレポートを行使する際は移動先に自分の魔力を定着させる必要がある。当然、遠距離であればあるほど難度は上がる。しかし、近距離であってもあの一瞬で猛攻を回避しながら正確に行うなどリュカリオンでなければ不可能であろう。

 (……なんという反応の速さか。あれをかわされるとはさすがに想定外であった……)

 リュカリオンもまた、フィアーゼの反応速度に驚きを隠せずにいた。だが、八岐大蛇やまたのおろちの光線が途絶えた今が反撃の好機であると判断したリュカリオンは放たれた矢の如く一直線に女神に斬りかかる。

 「くっ!!」

 後手に回った女神は歯噛みしつつ八岐大蛇やまたのおろちで迎撃する。

 「はぁ!!」

 鋭く声を発したリュカリオンが両手の魔力剣を超光速で閃かせて大蛇おろちの首を次々に切断していく。

 (忌々しい!!)

 憎しみの眼差しを魔神に向けたフィアーゼがリュカリオンのサイドを回り込むように滑空し、両手をかざす。

 「火属性上級広域魔術エクスプロージョン!!」

 フィアーゼは膨大な魔力を消費し、大爆発を連発させた。辺り一帯を爆煙が覆う。

 (まったく、相変わらずの魔力量だな。おそらく、やつの魔力にはまだ余力があるはず。さてさて……)

 爆煙の中、両手の魔力武具を大盾に変化させて凌いだリュカリオンが思案する。リュカリオンの神業をもってしても魔力剣の二刀流で八岐大蛇やまたのおろちを切断するだけで精一杯である。フィアーゼに直接ダメージを与えることはできない。さらに、接近戦に持ち込んだとしてもあの反応速度は尋常ではなく、動きそのものも素早い。また、遠距離戦ではフィアーゼに分がある。

 (とりあえず、この爆煙は利用させてもらうとするか)

 リュカリオンは魔力弓と魔力矢を顕現し、女神の気配を探る。

 (そこか!)

 狙いを定めて躊躇なく矢を射る。

 「ちっ!」

 爆煙の中から飛び出してきた矢が胸に刺さる寸前で回避した女神が憎悪の視線を爆煙の中の魔神に向け、八岐大蛇やまたのおろちから光線の嵐を浴びせる。

 「やれやれ、でたらめな魔力量も大概にしてほしいものだな……」

 降り注がれる極太光線の雨を避けながら時折は魔力矢を撃ち返す。しかし、それが当たるとは期待できないと悟り、魔力の無駄遣いはやめることにした。

 (今一度、瞬間移動魔術テレポートで奇襲をかけるか……いや、それは悪手だな。あの女のことだ。その程度のことは想定しておるだろう。下手をすれば手痛い反撃をくらうことになるやもしれぬ。となると……)

 思考していたリュカリオンは女神から距離をとるように後方へと素早く移動する。その動きを察知したフィアーゼは猛攻をやめた。

 「もう、終わりか?」

 爆煙が晴れて視界が戻った空間で、魔神リュカリオンは口元に笑みを浮かべる。対する女神フィアーゼは舌打ちをして宿敵を睥睨へいげいしていた。
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