聖剣と魔剣の二刀流剣士物語2【七星大将軍編】

美山 鳥

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7章 最後の戦い

71話 セラVSネーレリット

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 セラは、ルットと二手に分かれて謎の勢力と交戦していた。しかし、戦況はかんばしくない。率いてきた近衛騎士・近衛兵はモンスターの大群との戦闘で数を減らし、生き残った者も消耗が激しかった。

 (まずいですわね。近衛騎士や近衛兵にこれ以上の負担はかけられませんわ……)

 傷ついた者たちを気遣い、セラは決断する。

 「この辺りの生存者の避難は一度中断します」
 「しかし、まだ逃げ遅れた者がおりますぞ!!」

 セラからの指示に近衛騎士のひとりが抗議の眼差しを向ける。

 「そんなことはわかっておりますわ。ですが、あなた方の消耗が激しすぎます」
 「我々ならば大丈夫です! 民を守ることが我らの務め!!」

 セラは、なおも引く様子を見せない近衛騎士を睨む。

 「その志だけでは民を守ることはできませんわよ? ここであなた方が全滅するようなことがあれば、アルスフェルト城に避難した者たちをだれが守るというのですの? それに、逃げ遅れた民を見捨てるなどと言っておりませんわ」
 「……と言いますと?……」

 近衛騎士が訊かれ、セラは愛用の鞭を振りかざす。

 「ギャアァァァッ!!」

 セラの背後の物陰から飛び出したゴブリンが悲鳴をあげ、死体となって落下する。

 「わたくしが、この周辺のモンスターの全滅せんめつを引き受けますわ。それが民を助けるための最も効率的な方法です。あなた方はおとなしく民を引き連れてアルスフェルト城に戻りなさい」

 言い終わるやいなや、地面を蹴ったセラが疾風の如く移動し、ゴブリンやオーク、キラーウルフなどのモンスターを瞬殺していく。近衛騎士や近衛兵はその後ろ姿を見送ることしかできなかった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 シュッ

 モンスターを蹴散らすセラの耳に、何かが空を裂く音が聞こえた。危険を察知したセラは素早く傍らの民家の壁に身を隠す。直後、荊棘いばらの鞭が地面をえぐった。

 「あら、今のをかわすなんてけっこうやるじゃない」

 蝶のような羽をヒラヒラと羽ばたかせた少女がフワリと地面に舞い降りる。

 「あなた、妖精族ですわね?」

 グリーンの瞳にセラを映した妖精族の女がクスリと笑う。

 「そうよ。私は妖精女王ネーレリット。妖精族がこの場にいたら、どうだというのかしら?」

 「べつに、どうということはありませんわ。妖精族が争い事に加わるなんて珍しいと思っただけですわ。ただ、わたくしたちと敵対するとおっしゃるのならばお相手いたしますわよ」
 「それは楽しめそうね。それじゃ、いくわよ!!」

 鋭い視線のぶつけ合いから二人の少女は同時に動く。ネーレリットは出現させた荊棘いばらつるを鞭のようにしならせ、執拗と言えるほどの連続攻撃を放った。しかし、セラは愛用の鞭ひとつでそれらをことごとく打ち返してみせる。

 (へぇ……さすがは魔族。人間を相手にするのと同じようにはいかない、か。これくらいじゃダメージすら与えることはできないなんてね)

 ネーレリットはセラの華麗な鞭さばきを目にしても余裕の表情を崩さない。

 「随分と余裕ですわね。ですが、これがわたくしの本気だとは思わないでいただきましょうか」

 言い終わると、セラの眼光がさらに鋭くなり、それとともに鞭をふるうスピードが格段に速くなった。

 「ふん……」

 二本の荊棘いばらの鞭を弾かれただけではなく、妖精女王の身体を打たんと迫るセラの鞭を上空へと飛翔してかわす。

 (ちょっと悔しいけど、鞭の打ち合いではあの女に分があるようね。だったら!)

 魔力を高めたネーレリットが両手のてのひらをセラに向ける。

 「風属性初級魔術ウインド・カッター!」

 魔術名を詠唱した瞬間、ネーレリットの周囲に現れた数えきれないほどの真空の刃が一斉に降り注ぐ。

ドドドドドドドドッ!!

 地鳴りにも似た音が轟き、砂煙が舞い上がる。

 (初級魔術でこの威力……)

 反射的に回避行動をとると同時に、防御膜魔術プロテクションを自身にかけてダメージを抑えたセラだったが、予想をはるかに超える威力に驚嘆せざるを得なかった。しかし、だからといって戦意を喪失したかと言えばノーである。そればかりか、主君アルフォスの大きな障害となるであろう敵をここで始末しなければという使命感が強くなった。

 「火属性中級魔術フレイム・アロー!」

 舞い上がった砂煙がネーレリットの視界を遮っている間にセラは反撃にでる。出現させた無数の火炎の矢を上空にいる強敵へと射る。

 「あっつ!」

 砂煙の中から飛び出してきた火炎の矢が妖精女王の右肩をかすめる。ネーレリットは火傷した部位を押さえて治癒初級魔術ヒールを無詠唱で発動して回復する。

 (やってくれたわね!)

 グリーンの瞳をギラつかせたネーレリットが両手を掲げ、魔力を放出する。

 「風属性中級広域魔術ダガー・トルネード!!」

 ネーレリットの放出した魔力は、風刃の竜巻となって一帯に吹き荒れた。

 (これなら無事ではすまないでしょう!?)

 口元に笑みをたたえた妖精女王が眼下を注意深く見つめる。

 「さすがは妖精女王ですわね!」

 突如、背後から聞こえた声にネーレリットが表情をかたくする。だが、振り返る間すらなく、背中に衝撃を受けて地面へと叩きつけられてしまった。

 (あの女! 風属性中級広域魔術ダガー・トルネードを利用して私の背後をとったの!?)

 セラの並外れた身体能力に目を見開いたネーレリットに、遅れて地面に降り立った魔族の少女が不敵に笑む。しかし、その全身には浅い傷を無数に受けている。

 「妖精女王の私を足蹴あしげにするなんてやってくれるじゃない!」

 グリーンの双眸そうぼうに怒りを宿したネーレリットが地面を蹴り、勢いよく上空へと舞い上がる。

 「火属性上級魔術フレイム・ブレット!」

 セラは左手をかざして空中へと火炎の弾丸を連射する。

 「そんなもの!」

 ネーレリットは俊敏な動きで滑空してセラの放った火属性上級魔術フレイム・ブレットを回避し、両手を眼下の魔族の少女へと向ける。

 「風属性上級広域魔術ブレード・トルネード!!」

 ネーレリットの魔術名を詠唱した直後、風刃の荒れ狂う巨大竜巻がセラを襲う。

 「うっ!」

 建物の影に身を隠したセラだったが、ネーレリットの風属性上級広域魔術ブレード・トルネードは建物ごとセラをのみこんでしまう。全身を激しく切り刻まれたセラが地上に落下していくのを見て、ネーレリットの口元に笑みがこぼれる。

 (……さっきのはかなり効きましたわ……)

 空中で体勢を立て直したセラは着地するもダメージは大きく、膝をつく。

 「風属性中級魔術ウインド・ダガー!」

 ネーレリットの追撃がセラを容赦なく襲う。頭上から降り注ぐ真空の刃をかわしながら、セラも魔力を練り上げる。

 (なにかするつもりね……)

 セラの魔力が膨れ上がるのを感じ取ったネーレリットが警戒心を強める。

 魔族の少女は建物の屋根へと跳び上がり、そこを足場としてさらに跳躍してネーレリットに迫る。

 「風属性上級魔術ウインド・ブレード!」

 むろん、妖精女王には何もせずに接近させるつもりなど毛頭なく、風刃を放って迎撃を試みる。しかし、セラの鞭がそれを打ち消す。

 「ちっ!」

 舌を打って離れようとするネーレリットだったが、セラはそれをゆるさない。鞭の攻撃範囲外へと出られる前に攻撃を繰り出す。


 「火炎の鞭フレイム・ウィップ!」

 セラは自らの魔力を愛用の鞭に纏わせ、怒涛の連続攻撃を仕掛ける。

 赤い軌跡が空中を彩った。

 「あぁぁぁぁぁっ!!」

 様々な角度から鞭で打ち込まれたネーレリットが悲鳴をあげて建物の屋根の上へと降りる。

 「このまま決めますわ!」

 火属性最上級魔術フレイム・キャノンボールを放とうと左手をかざしてセラだったが、それを中断する。ネーレリットの足元の建物の窓に幼女の姿を発見したからだ。

 (逃げ遅れたみたいですわね……)

 セラはせっかくの勝機を逃し、唇を噛む。しかし、たとえ見ず知らずの幼女であっても犠牲にする気にはなれなかった。

 「拘束魔術バインド!」

 セラの気がそれた一瞬の隙をついて、ネーレリットの魔術により地中から伸びてきた魔力のつたがセラの両手足を絡め取る。

 「くっ!!……」

 身動きを封じられたセラの表情に焦りがあらわれる。

 「よくもやってくれたわね! お返しよ!!」

 ネーレリットは、憤怒ふんぬを形相で荊棘いばらの鞭を乱舞させる。

 「ふふふふふ……いい様ね」

 抵抗できないセラを荊棘いばらの鞭でめった打ちにして気がすんだのか、勝ち誇ったように冷笑を浮かべたネーレリットは、魔族の少女を魔力のつたで拘束したまま空中へと移動させる。

 「どう? 謝るなら赦してあげてもいいわよ?」

 妖精女王のグリーンの瞳が血まみれのセラを映す。

 「お断りですわ。だれがあなたなん……」

 セラの言葉は途中で遮られてしまう。ネーレリットの荊棘いばらの鞭がセラの頬を深くえぐった。

 「あらあら、せっかくのかわいい顔に傷がついちゃったわね。これは回復魔術でも跡が残るわよぉ?」

 セラの頬から流れ出た血が地面に落ちては濡らしていく。

 「あなたも女ならこれ以上顔を傷つけられたくないでしょ? だったら、素直に敗けを認めて謝ったほうがいいわよ?」
 「くどいですわ!」

 セラは赤い瞳でネーレリットを見据えて即答を返す。

 「……そう。だったら、あなたのその顔をズタズタにして殺してあげる!!!」

 自分の思いどおりにならないセラに業を煮やした妖精女王が荊棘いばらの鞭をしならせた。

 ザンッ! ザシュッ!

 「は?」

 一瞬、何が起きたのか理解が追いつかず、ネーレリットは間の抜けた声を発した。

 「強い魔力を感じて来てみたが、どうやら正解だったみてぇだな!」

 男の声が聞こえたネーレリットはその場を離れ、声の主を確認する。

 「随分とセラ嬢ちゃんを痛めつけてくれたじゃねぇか。この落とし前はきっちりつけてもらうぜ」

 荊棘いばらの鞭を切断したクレイモアを構えたウィナーが、魔族特有の赤い瞳で妖精女王を睨めつけていた。
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