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7章 最後の戦い
72話 ウィナーVSネーレリット
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「これは彼女とわたくしの勝負です。よって、手出しは無用ですわ」
セラがふらつきながら立ち上がり、鞭を構える。
「ったく、強情なやつだな。いいか、こいつらがクラッツェルンを襲撃してきてるからには個人の闘いじゃねぇ。……つっても、オレもアルフォスの旦那に言われたことなんだがな」
クレイモアを両手で持ち、中段に構えて切先を妖精女王に向ける。
「私の荊棘の鞭を切るなんて、なかなかの切れ味じゃない。でも、無駄よ」
ネーレリットはウィナーによって切断された荊棘の鞭を揮う。瞬間、切断面から新たな蔓が伸び、ウィナーに迫る。
「しゃらくせぇ!!」
ウィナーの大剣が軌跡を描き、再び荊棘の鞭を切り落とす。
「あまい!」
切断された鞭は瞬時に元の状態に修復され、ウィナーの首に巻き付く。
「あぅっ……ぐっ!……」
息ができず、表情をゆがめたウィナーが片膝をつく。
「わたくしのことを忘れてもらっては困りますわね」
ネーレリットがウィナーに攻撃の手を集中している間に魔力を練り上げたセラが左手をかざす。
「火属性上級魔術!」
放たれた炎の弾丸は妖精女王のこめかみ目掛けて直進する。
「ちぃっ!」
憎々しげにセラを睨めたネーレリットが上体をそらした直後、目の前を火属性上級魔術が通過していく。
「まだですわ!」
セラの鞭が空中を乱舞した。
「おのれぇ!!」
やむなくウィナーから荊棘の鞭を解いたネーレリットは、憎悪を溶かし込んだ視線をセラに突き刺す。だが、当の本人はまるで気にしていない。
「風属性上級魔術!!」
ネーレリットがかざした両手から無数の風刃が飛び出し、魔族の少女を襲う。
セラは躱し、あるいは鞭で叩き落として執拗に繰り出される攻撃をやり過ごす。だが、打ち仕損じた一撃が左足の太ももを直撃した。
「あぅっ!!」
激痛に膝を折り、動きを止めるセラ。傷口からは大量の血が流れ出ている。ダメージを受けすぎていることにくわえ、失血によってセラの防御膜魔術の効き目はかなり弱っていた。
「風属性上級魔術!!」
今こそがセラにとどめを刺す好機と見たネーレリットが飛翔し、痛みに苦しむ少女の首に向けて真空の刃を放つ。
「まだ邪魔立てするつもり!?」
ネーレリットはセラを庇うように立ちはだかり、ラウンドシールドで風刃を受け止めたウィナーに睨む。
「当たり前だ。仲間を見捨てるほど落ちちゃいねぇよ」
「だったら、二人ともまとめて殺してあげるわ! 風属性上級広域魔術!!」
ネーレリットが決着をつけるべく、風刃の巨大な竜巻を発生させる。
「くそっ!」
ウィナーは背後で動けないでいらセラに覆いかぶさる。
「なにをするんですの!? すぐに離れなさい!!」
セラが声を荒げるもウィナーは退かない。
「るせぇ! おまえに死なれちゃアルフォスの旦那に合わせる顔がねぇだろうが!!」
風属性上級広域魔術によって背中を切り刻まれようとウィナーはセラを庇い続ける。
「……本当にバカですのね。ここでわたくしが死んだとしても、アルフォス様はあなたを責めたりしないですのに……しかし、ここまでしてもらったからには、わたくしも敗けるわけにはまいりませんわね。あの女を倒すためにもう少しだけ協力してもらいますわよ」
ウィナーから離れると、無詠唱で治癒初級魔術を左足の傷口に施しながら駆ける。
「痩せ我慢したところで動きが鈍ってるわよ! 今度こそ息の根を止めてやるわ!!」
ネーレリットは両手を掲げる。風属性上級広域魔術を放つつもりだ。
「ウィナー!」
跳躍し、建物の屋根を足場にさらに高く舞い上がったセラが地上に声をかける。
「……おぅ!!」
セラの考えを直感的に理解したウィナーが、手にしていたクレイモアを妖精女王に投げつける。
「ちぃっ!」
セラの動きに気をとられていたネーレリットの頬をクレイモアの刃がかすめる。
「あいつ!!」
顔を傷つけられ激怒したネーレリットが地上に視線を落とした。が、すぐにセラを警戒して視線を戻した刹那、ネーレリットの表情が恐怖にそまった。
狙いが外れ、宙へと投げ出されたクレイモアの柄をセラが鞭で絡め取っていた。
「終わりですわ!!」
セラが空中で全身を回転させたことで、先端にクレイモアを付けた鞭が空を切る。
ザシュッ
「がぁぁぁぁっ!!!」
クレイモアによって肩から脇腹にかけてを斜めに斬りつけられたネーレリットは大量の血を噴き出して落下し、そのまま頭から地面に激突した。
「うっ……」
続いて着地したセラは左足の痛みに表情をゆがめて膝をつく。だが、すぐに視線を落下したネーレリットに向ける。妖精女王は倒れたまま動く気配がない。
「……やりましたのね……」
安堵したように息をつくセラ。
「へっ、さすがはセラ嬢ちゃんだな」
フラフラとした足取りで近づいてきたウィナーの言葉を、セラは否定するように頭を横に振る。
「今回は、わたくしひとりでは勝てませんでした。感謝しますわ」
「……えらく素直じゃねぇか、気色悪い……」
セラが素直に謝意を伝えたことに驚いたウィナーは両手の手のひらを上空に向けて広げて見上げる。が、雨など降っていない。
「……失礼ですわね。わたくしはいつだって素直ですわよ?」
眉間に皺を寄せたセラが鋭い視線を巨躯の魔族に向ける。
「おっと、そんなことよりも早いとこメルティナの嬢ちゃんのところへ行くぞ」
「メルティナのところへ?」
ウィナーの言葉をセラは復唱する。それには「なぜ?」という疑問が含まれていた。
「その顔の傷はかなりひどいじゃねぇか。早いとこ治療しねぇと痕が残るかもしれねぇだろうが!……まぁ、メルティナ嬢ちゃんなら綺麗に治せるだろうが、早いにこしたことはねぇだろ」
真剣な眼差しを向けるウィナーにセラはため息をつく。
「こんな傷、気にしませんわ。アルフォス様だってわたくしに変わらぬ愛を与えてくださいますわ。それに、あなただって重傷を……」
「だぁ、うるせぇな! ゴチャゴチャ言ってねぇで、とにかく行くぞ!!」
ウィナーは強引にセラを抱き上げてアルスフェルト城へと歩を進める。
「なにをしてるんですの!? 今すぐ降ろしなさい!!」
頬を紅潮させたセラが怒鳴る。が、ウィナーにそれに従う素振りは微塵もない。セラは抗議と抵抗を続けたが、やがて諦めておとなしくするしかないことを悟った。
セラがふらつきながら立ち上がり、鞭を構える。
「ったく、強情なやつだな。いいか、こいつらがクラッツェルンを襲撃してきてるからには個人の闘いじゃねぇ。……つっても、オレもアルフォスの旦那に言われたことなんだがな」
クレイモアを両手で持ち、中段に構えて切先を妖精女王に向ける。
「私の荊棘の鞭を切るなんて、なかなかの切れ味じゃない。でも、無駄よ」
ネーレリットはウィナーによって切断された荊棘の鞭を揮う。瞬間、切断面から新たな蔓が伸び、ウィナーに迫る。
「しゃらくせぇ!!」
ウィナーの大剣が軌跡を描き、再び荊棘の鞭を切り落とす。
「あまい!」
切断された鞭は瞬時に元の状態に修復され、ウィナーの首に巻き付く。
「あぅっ……ぐっ!……」
息ができず、表情をゆがめたウィナーが片膝をつく。
「わたくしのことを忘れてもらっては困りますわね」
ネーレリットがウィナーに攻撃の手を集中している間に魔力を練り上げたセラが左手をかざす。
「火属性上級魔術!」
放たれた炎の弾丸は妖精女王のこめかみ目掛けて直進する。
「ちぃっ!」
憎々しげにセラを睨めたネーレリットが上体をそらした直後、目の前を火属性上級魔術が通過していく。
「まだですわ!」
セラの鞭が空中を乱舞した。
「おのれぇ!!」
やむなくウィナーから荊棘の鞭を解いたネーレリットは、憎悪を溶かし込んだ視線をセラに突き刺す。だが、当の本人はまるで気にしていない。
「風属性上級魔術!!」
ネーレリットがかざした両手から無数の風刃が飛び出し、魔族の少女を襲う。
セラは躱し、あるいは鞭で叩き落として執拗に繰り出される攻撃をやり過ごす。だが、打ち仕損じた一撃が左足の太ももを直撃した。
「あぅっ!!」
激痛に膝を折り、動きを止めるセラ。傷口からは大量の血が流れ出ている。ダメージを受けすぎていることにくわえ、失血によってセラの防御膜魔術の効き目はかなり弱っていた。
「風属性上級魔術!!」
今こそがセラにとどめを刺す好機と見たネーレリットが飛翔し、痛みに苦しむ少女の首に向けて真空の刃を放つ。
「まだ邪魔立てするつもり!?」
ネーレリットはセラを庇うように立ちはだかり、ラウンドシールドで風刃を受け止めたウィナーに睨む。
「当たり前だ。仲間を見捨てるほど落ちちゃいねぇよ」
「だったら、二人ともまとめて殺してあげるわ! 風属性上級広域魔術!!」
ネーレリットが決着をつけるべく、風刃の巨大な竜巻を発生させる。
「くそっ!」
ウィナーは背後で動けないでいらセラに覆いかぶさる。
「なにをするんですの!? すぐに離れなさい!!」
セラが声を荒げるもウィナーは退かない。
「るせぇ! おまえに死なれちゃアルフォスの旦那に合わせる顔がねぇだろうが!!」
風属性上級広域魔術によって背中を切り刻まれようとウィナーはセラを庇い続ける。
「……本当にバカですのね。ここでわたくしが死んだとしても、アルフォス様はあなたを責めたりしないですのに……しかし、ここまでしてもらったからには、わたくしも敗けるわけにはまいりませんわね。あの女を倒すためにもう少しだけ協力してもらいますわよ」
ウィナーから離れると、無詠唱で治癒初級魔術を左足の傷口に施しながら駆ける。
「痩せ我慢したところで動きが鈍ってるわよ! 今度こそ息の根を止めてやるわ!!」
ネーレリットは両手を掲げる。風属性上級広域魔術を放つつもりだ。
「ウィナー!」
跳躍し、建物の屋根を足場にさらに高く舞い上がったセラが地上に声をかける。
「……おぅ!!」
セラの考えを直感的に理解したウィナーが、手にしていたクレイモアを妖精女王に投げつける。
「ちぃっ!」
セラの動きに気をとられていたネーレリットの頬をクレイモアの刃がかすめる。
「あいつ!!」
顔を傷つけられ激怒したネーレリットが地上に視線を落とした。が、すぐにセラを警戒して視線を戻した刹那、ネーレリットの表情が恐怖にそまった。
狙いが外れ、宙へと投げ出されたクレイモアの柄をセラが鞭で絡め取っていた。
「終わりですわ!!」
セラが空中で全身を回転させたことで、先端にクレイモアを付けた鞭が空を切る。
ザシュッ
「がぁぁぁぁっ!!!」
クレイモアによって肩から脇腹にかけてを斜めに斬りつけられたネーレリットは大量の血を噴き出して落下し、そのまま頭から地面に激突した。
「うっ……」
続いて着地したセラは左足の痛みに表情をゆがめて膝をつく。だが、すぐに視線を落下したネーレリットに向ける。妖精女王は倒れたまま動く気配がない。
「……やりましたのね……」
安堵したように息をつくセラ。
「へっ、さすがはセラ嬢ちゃんだな」
フラフラとした足取りで近づいてきたウィナーの言葉を、セラは否定するように頭を横に振る。
「今回は、わたくしひとりでは勝てませんでした。感謝しますわ」
「……えらく素直じゃねぇか、気色悪い……」
セラが素直に謝意を伝えたことに驚いたウィナーは両手の手のひらを上空に向けて広げて見上げる。が、雨など降っていない。
「……失礼ですわね。わたくしはいつだって素直ですわよ?」
眉間に皺を寄せたセラが鋭い視線を巨躯の魔族に向ける。
「おっと、そんなことよりも早いとこメルティナの嬢ちゃんのところへ行くぞ」
「メルティナのところへ?」
ウィナーの言葉をセラは復唱する。それには「なぜ?」という疑問が含まれていた。
「その顔の傷はかなりひどいじゃねぇか。早いとこ治療しねぇと痕が残るかもしれねぇだろうが!……まぁ、メルティナ嬢ちゃんなら綺麗に治せるだろうが、早いにこしたことはねぇだろ」
真剣な眼差しを向けるウィナーにセラはため息をつく。
「こんな傷、気にしませんわ。アルフォス様だってわたくしに変わらぬ愛を与えてくださいますわ。それに、あなただって重傷を……」
「だぁ、うるせぇな! ゴチャゴチャ言ってねぇで、とにかく行くぞ!!」
ウィナーは強引にセラを抱き上げてアルスフェルト城へと歩を進める。
「なにをしてるんですの!? 今すぐ降ろしなさい!!」
頬を紅潮させたセラが怒鳴る。が、ウィナーにそれに従う素振りは微塵もない。セラは抗議と抵抗を続けたが、やがて諦めておとなしくするしかないことを悟った。
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