聖剣と魔剣の二刀流剣士物語2【七星大将軍編】

美山 鳥

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7章 最後の戦い

75話 VSヴェーガ①

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 「これ以上、好き勝手にはさせない!」

 リーシャがヴェーガに向かって駆ける。

 「ひよっこが!」

 ヴェーガの大剣が閃き、斬撃波がリーシャを襲う。

 「きゃあっ!」

 リーシャは咄嗟に槍の柄で受け止めるも勢いよく弾き飛ばされてしまう。

 「雷属性上級魔術ライトニング・ブレット!」

 ルットの攻撃魔術が放たれた。が、ヴェーガは身を屈めてかわし、地面を蹴ってルットとの間合いを一気に詰める。

 「くっ!」

 危険を感じ、即座に後方へと飛び退くルット。だが、ヴェーガを引き離すことはできない。そればかりかその距離はますます近くなる。

 「ふん!」
 「うぁっ!!」

 ヴェーガの大剣が斜めに斬り上げられ、その切先がルットの胴体を切り傷をおわせ、さらに魔杖ロープワンドを弾き飛ばした。

 (くそ!)

 魔杖が手元から離れたことで魔術の効果は激減する。だが、両手をヴェーガに向けてかざし魔力を練り上げる。

 「雷属性中級魔術ライトニング・アロー!」

 至近距離から放たれた一撃はヴェーガを捉えた。だが、左手の大籠手でガードしたヴェーガには大したダメージはない。

 (なっ!……あの大籠手は魔力に対しての耐性もあるのか!?)

 「惜しかったな!」

 顔を強張らせたルットに言い、ヴェーガは掲げた大剣を垂直に振り下ろした。

 ガキィンッ

 ヴェーガの大剣はリーシャの槍によって受け止められた。

 「ガキが!」

 リーシャの纏う赤鎧には身体強化が付与されている。しかし、それでもヴェーガが相手では膂力が違いすぎる。ヴェーガに力負けし、後ろに仰け反ったリーシャの腹部にヴェーガの蹴りがヒットする。リーシャの背後にいたルットもろとも蹴り飛ばされた。

 「うぐっ!」
 「すみません、ルット様!」

 ルットはリーシャを抱き止めるが、堪えきれずに仰向けに倒れる。

 「死ね!」

 ヴェーガの大剣の切先がリーシャに狙う。

 (ここでかわせばルット様が!!)

 リーシャは自分の下敷きになっているルットを気遣って回避行動にでれない。だが、ヴェーガは大剣を容赦なく突き出す。

 「危ない!!」

 ルットは力を振り絞ってリーシャを突き飛ばす。

 「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」

 大剣によって背中を深く斬りつけられたルットが悲鳴をあげる。その背中から一気に流れ出た鮮血がルットの衣服を濡らしていく。

 「ルット様!!!」

 リーシャはすぐさま体を起こしてルットの上体を起こす。

 「うぅ……ぐ……」

 まだ息はある。しかし、出血がひどく、このまま放置すれば長くはもたないだろう。

 「このぉぉぉぉっ!!!」

 リーシャは槍を一閃する。狙うはヴェーガの首だ。だが、数多の戦いを生き抜いてきた戦士にその刃は届かない。

 キィィィィィンッ

 バックステップで素早く後方に移動したヴェーガがふるった大剣がリーシャの槍を弾き飛ばす。

 ルットに続いてリーシャまでもが武器を手放し、圧倒的に不利な状況に追い込まれてしまう。

 「覚悟はいいな」

 ヴェーガはとどめを刺そうと大剣を構える。

 「させない!」

 ルットは胸元のブローチに魔力を込める。瞬間、緑の颶風ぐふうがヴェーガを斬りつけて吹き飛ばす。

 「まだ、これほどの力を隠していたとはな!」

 全身に傷を負いながらもヴェーガは余裕の表情を崩さない。

 「火属性中級魔術フレイム・アロー!」
 「むっ!」

 背後で高まる魔力にヴェーガが振り返る。既に放たれていた火炎の矢が目の前に迫る。

 魔力を身に纏って防御膜魔術プロテクションをかけ、ダメージを軽減する。

 「魔族の女……アルフォスの従者か」

 ヴェーガは事前に聞いていた情報を思い出す。

 「好き勝手にやってくれたみたいですが、わたくしが来たからにはその報いは受けていただきますわ」

 セラはヴェーガに鋭い視線を突き刺す。

 「そんな半死半生の状態ででかい口をたたくか。そこの剣士もろとろ始末してくれるわ」

 ヴェーガは大剣の切先をウィナーに向けて言う。

 「はん! てめぇ一人でオレたち全員を相手にするつもりか? おもしれぇじゃねぇか!」

 地面を蹴ったウィナーがクレイモアを大上段に構えて斬りかかる。

 「単純の攻撃だな!」

 ヴェーガは自分の大剣であっさりとウィナーのクレイモアを受け止める。

 「濃霧魔術ミスト

 反撃にでようとしたヴェーガの視界がルットの補助魔術によって霧がかかる。

 (ふん、くだらん小細工を……)

 ヴェーガは即座に索敵魔術エネミーサーチを使って周囲の状況を把握する。

 キィンッ

 隙をついて槍を拾ったリーシャの一撃をヴェーガは大剣で受け止め、返す刃で反撃する。

 「うくっ!」

 大剣の刃がリーシャの左上腕をかすめた。

 「火属性上級魔術フレイム・ブレット!」

 セラが剣士の頭部を狙って撃った火炎の弾丸をヴェーガは上体を反らしてかわす。

 「我の相手に相応しきは七星大将軍アルフォスのみ! ザコどもは引っ込んでいろ」

 ヴェーガは大剣を構え、セラたちを一瞥する。

 「俺がどうしたって?」

 アルスフェルト城の城門前に戻ってきたアルフォスが訊く。その声音には仲間を傷つけられたことに対する怒りが含まれている。

 「きさまは、七星大将軍アルフォスか!! ククククク! ようやく見つけたぞ! 我と勝負しろ!!」

 ヴェーガは嬉々として大剣の切先をアルフォスに向ける。

 (こいつ、強いな……)

 アルフォスはヴェーガが只者ではないことを悟り、聖剣と魔剣を構えて臨戦態勢をとる。

 「ちょっと待ってくれ、アルフォスの旦那。そいつはオレたちに任せてくれねぇか?」

 ヴェーガと睨み合うアルフォスにウィナーが言う。

 「できるのか?」

 アルフォスはヴェーガから視線をはずさずに確認する。

 「ああ、絶対にやられねぇ!」

 ウィナーは自信を持って言い切る。

 「なにを世迷い言を! 貴様らのようなザコどもに我を倒せるものか!!」

 ヴェーガもまたアルフォスから視線をそらすことなくあざけるように言い捨てる。

 「あらあら、そんなことを言っていると負けた時の言い訳ができませんわよ?」
 「どうかお任せください、アルフォス様!」
 「そうだね。僕たちで協力すれば勝てない相手じゃない」

 フンと鼻を鳴らして言い返したセラにリーシャが続き、さらにルットが言う。ヴェーガは不愉快だと言わんばかりに唇を歪ませる。

 「……わかった。こいつはおまえたちに任せる」
 「アルフォス! 貴様、我との勝負から逃げるつもりか!?」

 アルフォスの判断にヴェーガが怒声をあげた。が、アルフォスは意にも介さない。

 「忠告しておいてやるが、ここにいる俺の仲間たちをザコと侮るなよ。少なくとも、俺は仲間たちを信頼している。こいつらが大丈夫だと言うなら信じるさ」

 アルフォスからは一切の迷いが感じられないことにヴェーガはますます表情を険しくする。

 「……いいだろう。ならば、ここにいる貴様の仲間を皆殺しにしてくれるわ!」

 激怒したヴェーガは闘気をほとばしらせた。

 「メルティナたちが心配だ。俺は一度城内の様子を見てくる」
 「おぅ、中は任せたぜ!」

 城内へと向かうアルフォスの背にウィナーが声をかけた。
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