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7章 最後の戦い
76話 VSヴェーガ②
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「いよぉし、アルフォスの旦那の信頼は絶対に裏切れねぇぞ!」
ウィナーが自分を含め、仲間たちに気合を入れ直す。
「改めて言うほどのことですの? そんなことはアルフォス様の従者として当然の責務というものですわ。……そんなことよりもウィナーには前衛を任せますわ。ルットは自分の治癒を優先なさい。リーシャはルットの護衛をするように! わたくしは状況をみて動きますわ」
セラが呆れたような表情を見せつつも仲間たちに素早く指示をとばす。
「おぅよ、任せろ!」
言うが早いかウィナーはヴェーガに斬りかかる。
「笑止! 貴様程度の剣では我に届かぬ!」
「はん! だったら、届くまで攻撃するまでだぁ!」
ウィナーは自らの身体能力を引き上げ、無数の斬撃をくり出す。だが、ヴェーガのガードは堅く、その全てを大剣で受け切ってみせる。
(ちぃっ、やっぱ一筋縄じゃいかねぇよな!!)
ウィナーは一度間合いを開ける。だが、今度はヴェーガがウィナーに斬りかかった。
「うぉっと!……のわぁっ!」
次々にくり出される斬撃を寸前のところでクレイモアで受け止めるウィナー。
「もらったぞ!!」
ウィナーのクレイモアを弾いたヴェーガが大剣を大上段に構える。
「火属性上級魔術!」
ヴェーガが大剣を振り下ろすよりも早く、セラの攻撃魔術が撃ち出された。
「あまいわ!」
ヴェーガは左腕の大籠手でセラが放った火炎の弾丸を受ける。
「あまいのはてめぇだ!!」
ウィナーは両腕に力を込めてクレイモアを横に薙ぐ。
「くっ!」
ヴェーガは咄嗟に後方へと逃れる。
「火炎の鞭!」
攻め時と判断したセラは自らの魔力を火炎に変えて愛用の鞭に纏わせてヴェーガを攻撃する。変幻自在にして縦横無尽に空を裂き、舞い踊るセラの鞭は見切ることが難しく、ヴェーガの巨躯に火傷を負わせていく。
「こざかしい!!」
ヴェーガが大量の魔力を一気に放出したことで、
周囲に衝撃波が生み出され、セラとウィナーを同時に弾き飛ばす。
(化け物かよ!?)
心の中で毒づきながらもクレイモアを構えて臨戦態勢をとるウィナー。その隣ではセラも鞭を構えつつ魔力を高めている。
「いくぜ、セラ嬢ちゃん!」
「わかってますわ!」
ウィナーとセラが呼吸を合わせて同時に動く。
「ぬぅ!……」
クレイモアと鞭による同時攻撃をさばききれず、ヴェーガは身体中に傷を負っていく。だが、そのどれもが浅くそれほどのダメージを与えてはいない。
「えぇい!!」
ヴェーガは怒りを瞳に宿し、大剣を振りかざして斬撃波を放つ。が、セラは横っ跳びに躱し、ウィナーはラウンドシールドで受け止める。
「なんだと! あの体で我の斬撃波を受け止めただと!?」
地面にしっかりと踏ん張って耐えたウィナーの姿にヴェーガが目を見張る。
「隙ありですわ! 火炎の鞭!」
ウィナーが動きを止めた一瞬をついて、セラは鞭に魔力の火炎を纏わせてヴェーガを打つ。
「ちぃ!」
セラの火炎の鞭はヴェーガの頬をかすめる。
「死ねぇい!」
ヴェーガは気合とともに大剣を閃かせる。その刃がセラに届くかと思われた刹那、リーシャが斬り上げた槍が大剣の軌道をずらせた。結果、何もない空を斬るのみとなったヴェーガは赤鎧を纏った騎士の少女を睨む。
(おのれ……未熟者の分際で我の邪魔をするか!!)
素早く大剣を構え直したヴェーガの次のターゲットはリーシャだ。
「雷属性上級魔術!!」
その細い首をはねようと握りしめた大剣だったが、ルットが攻撃魔術を詠唱して撃った雷の弾丸が迫ってきたため、やむなく大剣で受けて防御する。
「お待たせしました。ここからは僕も加わります」
治癒中級魔術で傷を治療したルットが魔杖ロープワンドを構える。
「くくくくくく……まさか、死に損ないどもがここまで粘るとは驚かされる。貴様らを侮っていたことは詫びよう。ここからは我も本気でいかせてもらうぞ!!」
ヴェーガは大剣に魔力を纏わせ、垂直に跳躍する。
「くらえ!!」
ヴェーガは、大剣を揮っているとは思えないほどの速さで次々に斬撃波を放つ。その一撃一撃の威力は先ほどまでの比ではない。
「ぐっ……あっ……」
ルットは斬撃波を躱す。しかし、地面に当たった斬撃波が弾き飛ばした礫に打たれてしまう。しかも、矢継ぎ早に繰り出される斬撃波は的確にルットたちを狙って放たれている。
「拘束魔術!」
斬撃波をどうにかしようと考えたルットが魔術名を詠唱したことで、地面から魔力によって作られた鎖がヴェーガに巻き付く。
「むん!」
しかし、身体能力を大幅に強化しているヴェーガにとって、ルットが作り出した魔力の鎖を断ち切ることなど造作もなかった。一瞬にして引きちぎってしまう。
(なんて膂力なんだ……)
ルットはヴェーガの腕力に驚きつつも慌てる素振りはない。この結果は想定内であり、一瞬でも斬撃波を止めることが目的であった。
「火属性最上級魔術!」
ルットがつくった一瞬の隙をついてセラが自身の最強魔術を撃つ。
「ぬぉぉぉぉぉぉっ!!」
燃え盛る火炎の砲弾を直撃に受けたヴェーガは弾け飛ぶ。
「ぜぇぇぇいっ!」
跳躍したウィナーが頭上に掲げたクレイモアを両手で握りしめ、一気に振り下ろす。
「おの……れぇ!……」
大剣でガードするものの地面に向かって叩き落される。
「やってくれる!……む!?」
地上に着地し、空中のウィナーを睨みつけたヴェーガだったが、背後の気配と殺気に気付き、振り返り様に大剣を薙ぎ払う。
ブンッ!!
大剣は屈んだリーシャの頭上を通過する。
「やぁぁっ!!」
リーシャは愛用の大槍の穂先を突き出す。
「ぐっ!!……」
回避を試みたヴェーガだったが間に合わず、リーシャの大槍が右足に突き刺さった。
「むぅん!!」
ヴェーガは刺さった大槍にかまわず、大剣を揮う。
「あぅっ!!」
リーシャは迫る大剣の刃を咄嗟に籠手で防ぐ。だが、致命傷こそ避けたものの大槍ごと弾き飛ばされて地面を勢いよく転がる。
(まずはひとり目だ!)
ヴェーガは大剣を大上段に構え直すと、地面に倒れた状態のリーシャに狙いを定める。
「はぁぁぁぁっ!!!」
裂帛の気合を入れたヴェーガだったが、振り下ろすことができない。
「なん、だとぉ!?」
ルットが魔杖をロープ状にしヴェーガの大剣に巻き付け、それをウィナーとともに引っ張っていた。
(こやつら、いつの間に!?)
満身創痍のうえに疲労困憊だとは、とても思えないほどの動きを見せる敵にヴェーガは言葉を失くす。
「これでどうですの! 火属性最上級魔術!!」
いつの間にか接近していたセラがヴェーガの顔面に火炎の砲弾を撃ち込む。凄まじい勢いで飛ばされたヴェーガは地面に数度バウンドして、ようやく停止する。
「ぬっ……うぅぅ……」
防御膜魔術をかけていたとはいえさすがにダメージが大きいようだ。ヴェーガは低いうめき声を漏らしながらもゆっくりと立ち上がる。
(まだ生きてますの!?)
セラはヴェーガの並外れた生命力に驚嘆する。
「くっそぉぉぉぉ!!!」
起き上がったリーシャがヴェーガに向かって駆け出し、頭から血を流してふらついているヴェーガに大槍を突き出す。だが、ヴェーガは大剣でそれを切り払う。
(うそっ……まだこんな力がのこってるなんて……)
リーシャの顔が血の気が引いたように青ざめる。対してヴェーガの眼光が鋭くなった。
「ぬぉぉぉぉぉっ!!」
渾身の力で大剣を揮うヴェーガ。リーシャは回避が間に合わないとさとり、防御膜魔術を全開にして斬撃に備える。
ザシュッ
左脇から右肩にかけて斬られたリーシャの体は宙を舞い、地面にうつ伏せに倒れた。流れ出た大量の血が周囲を赤く染め、血だまりをつくる。
「リーシャ!!」
ウィナーは駆け寄り、その小さな体を抱き起こす。
「……うぅ……ウィナー……様……」
リーシャはウィナーの胸の中で力なく笑みをつくる。
「しっかりしろ! リーシャ!!」
ウィナーは必死に呼びかける。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
ヴェーガは、リーシャを抱き起こして隙だらけとなっているウィナーに大剣を揮う。
「風属性上級魔術!」
そのヴェーガの動きに気付いたルットが攻撃魔術を撃つ。放たれた風の刃だったが、ヴェーガは攻撃を中断し、左腕の大籠手で防御する。
「今度こそ死ぬがいい!!」
ヴェーガは再び大剣を構える。
「火属性上級魔術!」
今度はセラが無数の火炎の弾丸を撃ってヴェーガの動きを阻止した。
「ぬ……あぁぁ……ぐぅ……」
全身に火炎の弾丸を浴びた巨躯の剣士は苦しげなうめき声を漏らし、ヨロヨロと後退りする。
ガシャン
ヴェーガの手から大剣が滑り落ち、続いてヴェーガ自身も膝から崩れ落ちてうつ伏せに倒れた。
「……まさか……我が、手負いの者を……相手に、敗れた、か……」
苦しげな息づかいで消え入りそうな声を発するヴェーガ。
「……わたくしたちに敗れるようなことでは、アルフォス様には到底勝てませんわね」
セラは容赦なく断言する。
「ふっ……だろうな。だが、精々……気をつける、ことだな。女神……フィアーゼと……六光、破邪衆……筆頭……ジュラス、は……我よりも……強、い……ぞ……」
そう最後の言葉を遺してヴェーガはその生涯を終えた。
「リーシャを見せてください!」
ヴェーガとの死闘を終えたルットがリーシャを抱きかかえるウィナーの元に駆け寄る。
「頼む!」
ウィナーはリーシャをルットに託す。しかし、ルットの表情はかなり暗い。
「治癒中級魔術!!」
治療が難しいと悟ってはいても、ルットは最大限の努力をおこたらない。魔杖ロープワンドを掲げて回復魔術を施す。
(くっ……やはり、僕では応急処置程度しかできないか!!)
自身が持てる力では及ばないと判断したルットはウィナーを見る。
「リーシャをメルティナ様の所へ一刻も早く連れていきましょう。残念ながら、僕では治すことは不可能です」
申し訳なさから伏し目になりながらもルットは提案する。
「おぅ!」
ウィナーは傷ついたリーシャをそっと抱き上げると足早にアルスフェルト城内へと向かった。
ウィナーが自分を含め、仲間たちに気合を入れ直す。
「改めて言うほどのことですの? そんなことはアルフォス様の従者として当然の責務というものですわ。……そんなことよりもウィナーには前衛を任せますわ。ルットは自分の治癒を優先なさい。リーシャはルットの護衛をするように! わたくしは状況をみて動きますわ」
セラが呆れたような表情を見せつつも仲間たちに素早く指示をとばす。
「おぅよ、任せろ!」
言うが早いかウィナーはヴェーガに斬りかかる。
「笑止! 貴様程度の剣では我に届かぬ!」
「はん! だったら、届くまで攻撃するまでだぁ!」
ウィナーは自らの身体能力を引き上げ、無数の斬撃をくり出す。だが、ヴェーガのガードは堅く、その全てを大剣で受け切ってみせる。
(ちぃっ、やっぱ一筋縄じゃいかねぇよな!!)
ウィナーは一度間合いを開ける。だが、今度はヴェーガがウィナーに斬りかかった。
「うぉっと!……のわぁっ!」
次々にくり出される斬撃を寸前のところでクレイモアで受け止めるウィナー。
「もらったぞ!!」
ウィナーのクレイモアを弾いたヴェーガが大剣を大上段に構える。
「火属性上級魔術!」
ヴェーガが大剣を振り下ろすよりも早く、セラの攻撃魔術が撃ち出された。
「あまいわ!」
ヴェーガは左腕の大籠手でセラが放った火炎の弾丸を受ける。
「あまいのはてめぇだ!!」
ウィナーは両腕に力を込めてクレイモアを横に薙ぐ。
「くっ!」
ヴェーガは咄嗟に後方へと逃れる。
「火炎の鞭!」
攻め時と判断したセラは自らの魔力を火炎に変えて愛用の鞭に纏わせてヴェーガを攻撃する。変幻自在にして縦横無尽に空を裂き、舞い踊るセラの鞭は見切ることが難しく、ヴェーガの巨躯に火傷を負わせていく。
「こざかしい!!」
ヴェーガが大量の魔力を一気に放出したことで、
周囲に衝撃波が生み出され、セラとウィナーを同時に弾き飛ばす。
(化け物かよ!?)
心の中で毒づきながらもクレイモアを構えて臨戦態勢をとるウィナー。その隣ではセラも鞭を構えつつ魔力を高めている。
「いくぜ、セラ嬢ちゃん!」
「わかってますわ!」
ウィナーとセラが呼吸を合わせて同時に動く。
「ぬぅ!……」
クレイモアと鞭による同時攻撃をさばききれず、ヴェーガは身体中に傷を負っていく。だが、そのどれもが浅くそれほどのダメージを与えてはいない。
「えぇい!!」
ヴェーガは怒りを瞳に宿し、大剣を振りかざして斬撃波を放つ。が、セラは横っ跳びに躱し、ウィナーはラウンドシールドで受け止める。
「なんだと! あの体で我の斬撃波を受け止めただと!?」
地面にしっかりと踏ん張って耐えたウィナーの姿にヴェーガが目を見張る。
「隙ありですわ! 火炎の鞭!」
ウィナーが動きを止めた一瞬をついて、セラは鞭に魔力の火炎を纏わせてヴェーガを打つ。
「ちぃ!」
セラの火炎の鞭はヴェーガの頬をかすめる。
「死ねぇい!」
ヴェーガは気合とともに大剣を閃かせる。その刃がセラに届くかと思われた刹那、リーシャが斬り上げた槍が大剣の軌道をずらせた。結果、何もない空を斬るのみとなったヴェーガは赤鎧を纏った騎士の少女を睨む。
(おのれ……未熟者の分際で我の邪魔をするか!!)
素早く大剣を構え直したヴェーガの次のターゲットはリーシャだ。
「雷属性上級魔術!!」
その細い首をはねようと握りしめた大剣だったが、ルットが攻撃魔術を詠唱して撃った雷の弾丸が迫ってきたため、やむなく大剣で受けて防御する。
「お待たせしました。ここからは僕も加わります」
治癒中級魔術で傷を治療したルットが魔杖ロープワンドを構える。
「くくくくくく……まさか、死に損ないどもがここまで粘るとは驚かされる。貴様らを侮っていたことは詫びよう。ここからは我も本気でいかせてもらうぞ!!」
ヴェーガは大剣に魔力を纏わせ、垂直に跳躍する。
「くらえ!!」
ヴェーガは、大剣を揮っているとは思えないほどの速さで次々に斬撃波を放つ。その一撃一撃の威力は先ほどまでの比ではない。
「ぐっ……あっ……」
ルットは斬撃波を躱す。しかし、地面に当たった斬撃波が弾き飛ばした礫に打たれてしまう。しかも、矢継ぎ早に繰り出される斬撃波は的確にルットたちを狙って放たれている。
「拘束魔術!」
斬撃波をどうにかしようと考えたルットが魔術名を詠唱したことで、地面から魔力によって作られた鎖がヴェーガに巻き付く。
「むん!」
しかし、身体能力を大幅に強化しているヴェーガにとって、ルットが作り出した魔力の鎖を断ち切ることなど造作もなかった。一瞬にして引きちぎってしまう。
(なんて膂力なんだ……)
ルットはヴェーガの腕力に驚きつつも慌てる素振りはない。この結果は想定内であり、一瞬でも斬撃波を止めることが目的であった。
「火属性最上級魔術!」
ルットがつくった一瞬の隙をついてセラが自身の最強魔術を撃つ。
「ぬぉぉぉぉぉぉっ!!」
燃え盛る火炎の砲弾を直撃に受けたヴェーガは弾け飛ぶ。
「ぜぇぇぇいっ!」
跳躍したウィナーが頭上に掲げたクレイモアを両手で握りしめ、一気に振り下ろす。
「おの……れぇ!……」
大剣でガードするものの地面に向かって叩き落される。
「やってくれる!……む!?」
地上に着地し、空中のウィナーを睨みつけたヴェーガだったが、背後の気配と殺気に気付き、振り返り様に大剣を薙ぎ払う。
ブンッ!!
大剣は屈んだリーシャの頭上を通過する。
「やぁぁっ!!」
リーシャは愛用の大槍の穂先を突き出す。
「ぐっ!!……」
回避を試みたヴェーガだったが間に合わず、リーシャの大槍が右足に突き刺さった。
「むぅん!!」
ヴェーガは刺さった大槍にかまわず、大剣を揮う。
「あぅっ!!」
リーシャは迫る大剣の刃を咄嗟に籠手で防ぐ。だが、致命傷こそ避けたものの大槍ごと弾き飛ばされて地面を勢いよく転がる。
(まずはひとり目だ!)
ヴェーガは大剣を大上段に構え直すと、地面に倒れた状態のリーシャに狙いを定める。
「はぁぁぁぁっ!!!」
裂帛の気合を入れたヴェーガだったが、振り下ろすことができない。
「なん、だとぉ!?」
ルットが魔杖をロープ状にしヴェーガの大剣に巻き付け、それをウィナーとともに引っ張っていた。
(こやつら、いつの間に!?)
満身創痍のうえに疲労困憊だとは、とても思えないほどの動きを見せる敵にヴェーガは言葉を失くす。
「これでどうですの! 火属性最上級魔術!!」
いつの間にか接近していたセラがヴェーガの顔面に火炎の砲弾を撃ち込む。凄まじい勢いで飛ばされたヴェーガは地面に数度バウンドして、ようやく停止する。
「ぬっ……うぅぅ……」
防御膜魔術をかけていたとはいえさすがにダメージが大きいようだ。ヴェーガは低いうめき声を漏らしながらもゆっくりと立ち上がる。
(まだ生きてますの!?)
セラはヴェーガの並外れた生命力に驚嘆する。
「くっそぉぉぉぉ!!!」
起き上がったリーシャがヴェーガに向かって駆け出し、頭から血を流してふらついているヴェーガに大槍を突き出す。だが、ヴェーガは大剣でそれを切り払う。
(うそっ……まだこんな力がのこってるなんて……)
リーシャの顔が血の気が引いたように青ざめる。対してヴェーガの眼光が鋭くなった。
「ぬぉぉぉぉぉっ!!」
渾身の力で大剣を揮うヴェーガ。リーシャは回避が間に合わないとさとり、防御膜魔術を全開にして斬撃に備える。
ザシュッ
左脇から右肩にかけて斬られたリーシャの体は宙を舞い、地面にうつ伏せに倒れた。流れ出た大量の血が周囲を赤く染め、血だまりをつくる。
「リーシャ!!」
ウィナーは駆け寄り、その小さな体を抱き起こす。
「……うぅ……ウィナー……様……」
リーシャはウィナーの胸の中で力なく笑みをつくる。
「しっかりしろ! リーシャ!!」
ウィナーは必死に呼びかける。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
ヴェーガは、リーシャを抱き起こして隙だらけとなっているウィナーに大剣を揮う。
「風属性上級魔術!」
そのヴェーガの動きに気付いたルットが攻撃魔術を撃つ。放たれた風の刃だったが、ヴェーガは攻撃を中断し、左腕の大籠手で防御する。
「今度こそ死ぬがいい!!」
ヴェーガは再び大剣を構える。
「火属性上級魔術!」
今度はセラが無数の火炎の弾丸を撃ってヴェーガの動きを阻止した。
「ぬ……あぁぁ……ぐぅ……」
全身に火炎の弾丸を浴びた巨躯の剣士は苦しげなうめき声を漏らし、ヨロヨロと後退りする。
ガシャン
ヴェーガの手から大剣が滑り落ち、続いてヴェーガ自身も膝から崩れ落ちてうつ伏せに倒れた。
「……まさか……我が、手負いの者を……相手に、敗れた、か……」
苦しげな息づかいで消え入りそうな声を発するヴェーガ。
「……わたくしたちに敗れるようなことでは、アルフォス様には到底勝てませんわね」
セラは容赦なく断言する。
「ふっ……だろうな。だが、精々……気をつける、ことだな。女神……フィアーゼと……六光、破邪衆……筆頭……ジュラス、は……我よりも……強、い……ぞ……」
そう最後の言葉を遺してヴェーガはその生涯を終えた。
「リーシャを見せてください!」
ヴェーガとの死闘を終えたルットがリーシャを抱きかかえるウィナーの元に駆け寄る。
「頼む!」
ウィナーはリーシャをルットに託す。しかし、ルットの表情はかなり暗い。
「治癒中級魔術!!」
治療が難しいと悟ってはいても、ルットは最大限の努力をおこたらない。魔杖ロープワンドを掲げて回復魔術を施す。
(くっ……やはり、僕では応急処置程度しかできないか!!)
自身が持てる力では及ばないと判断したルットはウィナーを見る。
「リーシャをメルティナ様の所へ一刻も早く連れていきましょう。残念ながら、僕では治すことは不可能です」
申し訳なさから伏し目になりながらもルットは提案する。
「おぅ!」
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