91 / 97
7章 最後の戦い
83話 六光破邪衆ゼヴァム
しおりを挟む
突然に現れた人物の姿に驚嘆しているのは俺だけではない。メルティナやピファ、ルットも同様の反応だ。
「アルフォス、立派に成長したわね」
母さんの姿をした、その女性は優しげな微笑みを俺に向ける。
「さぁ、フィアーゼ様の治める新しい世界で、わたしとともに暮らしましょう。こちらへ……」
母さんが両手を広げて俺を迎え入れようとする。
「フィアーゼ?」
聞き慣れない名に問い返す。しかし、それを答えたのはセラだった。
「フィアーゼとは、遥か昔にリュカリオン様と戦った女神の名ですわ」
そうか。リュカリオンがたまに口にしていた「あの女」のことか?
「……おまえは本当に母さんなのか?」
自分の中の最大の疑問をぶつける。すると、女は柔らかな笑みを浮かべて答えた。
「ええ、わたしは間違いなくあなたの母ラーナよ。わたしは無念の死を迎える直前、そこにいるジュラス様に助けていただいたの。そして、今は、わたしたちのような悲劇のない世界を創るために六光破邪衆としてフィアーゼ様にお仕えしているのよ。アルフォス、あなたにも協力してほしいの。いいわよね?」
「悲劇のない世界を創る? いったい、どうやって?」
「それはあたしが説明してあげるわ」
今度は聞き慣れない女の声がどこからともなく聞こえてくる。その直後、何もない空間が裂け、長い金髪と瑠璃色の瞳を持つ女が現れた。見た感じでかなり疲労しているのがはっきりとわかる。
「フィアーゼ様……」
ジュラスと母さんに似た女がその場に跪く。どうやら、あいつがリュカリオンの言っていた「あの女」とみて間違いなさそうだ。
「説明といっても簡単なことなの。要するに、あたしに逆らう者には相応の報いを受けてもらうの。その代わり、あたしを敬う者には恩恵を与えてあげるわ」
なにを言ってるんだ? それはつまり世界を自分の意のままにするってことだろ。
「ふざけてるのか? そんなものが悲劇のない世界なわけがないだろ?」
「それは違うわ、アルフォス。フィアーゼ様はより良い世界に導いてくださるのよ。この世界から争いをなくすためには、並ぶものなき強大で絶対たる力が必要不可欠なの。その存在こそがフィアーゼ様なのよ」
俺が反論すると母さんの姿をした人物がさらなる反論を返してきた。
「あんた、ほんとにアルフォスの旦那の母親なのか? 違うんじゃねぇか?」
俺の気持ちを代弁したのはウィナーだった。
「……あなたとは初めてお会いしますね。わたしは間違いなくアルフォスの母です。違うというならば、その根拠や証拠はおありですか?」
母さんの名ラーナを名乗る女がウィナーに鋭い視線を送り、不快感を露わにする。
「根拠っていうかよ……クレイモアに宿っているアルフォスの旦那の親父さんの魂が怒りに震えているのが手に取るようにわかんだ。それってつまり、あんたが偽物だからってことなんじゃねぇか!?」
ウィナーの示した根拠に、ほんの一瞬だけラーナを名乗る女が押し黙る。
「俺も同意見だ。うまく説明できんが、おまえからは何か違和感しか感じられない。そう、まるで肉体と記憶だけで魂が別物……まさか!?」
自分の発言に自分が驚いてしまった。そうだ! こいつは母さんの肉体と記憶を手にした別人という可能性はあるじゃないか!!
「どうなんだ、答えろ! もしも、俺の仮説が正しいのならおまえたちは決して赦しはしない!!!」
言い放つ俺に無言のジュラスとラーナ。
「フハハハハハ……どうやらアルフォスの引き入れには失敗したようだな」
突然、今度は聞き馴染みのある声が聞こえ、空間を裂いて魔神リュカリオンが姿を現した。今までに見たことがないほどに傷ついている。女神フィアーゼとそれほどの激戦を繰り広げたということだろう。
「ちぃ! リュカリオン!!!」
フィアーゼが女神とは思えない凄まじい形相でリュカリオンを睨む。それにかまうことなく、リュカリオンは右手をラーナを名乗る女に向ける。
「ギャアァァァァァッ!!!!」
ラーナを名乗る女の全身から黒いモヤが立ち昇る。
「な、なんだ、ありゃあ!?」
ウィナーが怪訝な相好で事態を見守るなか、リュカリオンはフッと笑みをこぼす。
「そやつの正体はゼヴァムという名の魔物だ。たしか、死者の肉体と記憶を奪ってそのものになりすますことを得意とするのであったか。それがアルフォスの母の肉体ならば可能な限りは傷つけたくはない。返してもらうおうか!」
リュカリオンはかざした右手に魔力を集める。
「させるわけないでしょ!」
リュカリオンの行動を阻止しようとフィアーゼが動く。
「おまえこそ、リュカリオンの邪魔はさせない!」
俺は床を蹴って跳躍し、空中の女神に聖剣を閃かせた。
「くっ!」
既に深手を負っていた女神は忌々しそうに視線を向けつつ迎撃態勢をとる。
(なんだと!?)
フィアーゼの長い金髪が大蛇となってエクスカリバーの斬撃を弾いた。
「あたしに刃を向けたことを後悔なさい!」
フィアーゼの髪が変化した8匹の大蛇が口から光線を吐き出した。
「ちぃ! 護光壁!!」
聖剣に宿る力を解放して目の前に光の壁を作り出す。
「くらうがいい! 氷属性上級魔術!!」
ジュラスが魔術の発動を阻止しようとリュカリオンに氷の弾丸を射つ。
「くそ!」
咄嗟に魔剣の縛鎖を伸ばして氷の弾丸を弾き落とす。
「随分と精進しておるようだな、アルフォス。余は嬉しく思うぞ。……では、その肉体は返してもらう!!!」
リュカリオンがかざした右手が眩い光を放ったかと思うと、一筋の閃光が母さんの体を貫いた。
「ガァァァァァァッ!!!!」
絶叫をあげて母さんの体から黒い影が飛び出す。あれがゼヴァムという魔物の本体なのだろう。
「アルフォスよ!」
リュカリオンの声にすぐさま反応し、聖剣を構える。
「水刃!!」
放った水の刃が黒い影を真っ二つに両断した。
「オォォォォ……」
ゼヴァムは不気味な声をあげながら霧消した。
「くっ……」
その傍でジュラスが悔しさに唇を歪ませている。
「ちっ……あなたたち、皆殺しにしてやるわ!」
リュカリオンから距離をとったフィアーゼから殺気がほとばしっている。ジュラスもその隣へと移動し、俺たち全員に殺意を向けてくる。
「ふむ。これであとはきさまら二人のみだな」
着地したリュカリオンがフィアーゼとジュラスを睨む。だが、当の二人はまだ余裕の笑みを浮かべている。
「アルフォス、立派に成長したわね」
母さんの姿をした、その女性は優しげな微笑みを俺に向ける。
「さぁ、フィアーゼ様の治める新しい世界で、わたしとともに暮らしましょう。こちらへ……」
母さんが両手を広げて俺を迎え入れようとする。
「フィアーゼ?」
聞き慣れない名に問い返す。しかし、それを答えたのはセラだった。
「フィアーゼとは、遥か昔にリュカリオン様と戦った女神の名ですわ」
そうか。リュカリオンがたまに口にしていた「あの女」のことか?
「……おまえは本当に母さんなのか?」
自分の中の最大の疑問をぶつける。すると、女は柔らかな笑みを浮かべて答えた。
「ええ、わたしは間違いなくあなたの母ラーナよ。わたしは無念の死を迎える直前、そこにいるジュラス様に助けていただいたの。そして、今は、わたしたちのような悲劇のない世界を創るために六光破邪衆としてフィアーゼ様にお仕えしているのよ。アルフォス、あなたにも協力してほしいの。いいわよね?」
「悲劇のない世界を創る? いったい、どうやって?」
「それはあたしが説明してあげるわ」
今度は聞き慣れない女の声がどこからともなく聞こえてくる。その直後、何もない空間が裂け、長い金髪と瑠璃色の瞳を持つ女が現れた。見た感じでかなり疲労しているのがはっきりとわかる。
「フィアーゼ様……」
ジュラスと母さんに似た女がその場に跪く。どうやら、あいつがリュカリオンの言っていた「あの女」とみて間違いなさそうだ。
「説明といっても簡単なことなの。要するに、あたしに逆らう者には相応の報いを受けてもらうの。その代わり、あたしを敬う者には恩恵を与えてあげるわ」
なにを言ってるんだ? それはつまり世界を自分の意のままにするってことだろ。
「ふざけてるのか? そんなものが悲劇のない世界なわけがないだろ?」
「それは違うわ、アルフォス。フィアーゼ様はより良い世界に導いてくださるのよ。この世界から争いをなくすためには、並ぶものなき強大で絶対たる力が必要不可欠なの。その存在こそがフィアーゼ様なのよ」
俺が反論すると母さんの姿をした人物がさらなる反論を返してきた。
「あんた、ほんとにアルフォスの旦那の母親なのか? 違うんじゃねぇか?」
俺の気持ちを代弁したのはウィナーだった。
「……あなたとは初めてお会いしますね。わたしは間違いなくアルフォスの母です。違うというならば、その根拠や証拠はおありですか?」
母さんの名ラーナを名乗る女がウィナーに鋭い視線を送り、不快感を露わにする。
「根拠っていうかよ……クレイモアに宿っているアルフォスの旦那の親父さんの魂が怒りに震えているのが手に取るようにわかんだ。それってつまり、あんたが偽物だからってことなんじゃねぇか!?」
ウィナーの示した根拠に、ほんの一瞬だけラーナを名乗る女が押し黙る。
「俺も同意見だ。うまく説明できんが、おまえからは何か違和感しか感じられない。そう、まるで肉体と記憶だけで魂が別物……まさか!?」
自分の発言に自分が驚いてしまった。そうだ! こいつは母さんの肉体と記憶を手にした別人という可能性はあるじゃないか!!
「どうなんだ、答えろ! もしも、俺の仮説が正しいのならおまえたちは決して赦しはしない!!!」
言い放つ俺に無言のジュラスとラーナ。
「フハハハハハ……どうやらアルフォスの引き入れには失敗したようだな」
突然、今度は聞き馴染みのある声が聞こえ、空間を裂いて魔神リュカリオンが姿を現した。今までに見たことがないほどに傷ついている。女神フィアーゼとそれほどの激戦を繰り広げたということだろう。
「ちぃ! リュカリオン!!!」
フィアーゼが女神とは思えない凄まじい形相でリュカリオンを睨む。それにかまうことなく、リュカリオンは右手をラーナを名乗る女に向ける。
「ギャアァァァァァッ!!!!」
ラーナを名乗る女の全身から黒いモヤが立ち昇る。
「な、なんだ、ありゃあ!?」
ウィナーが怪訝な相好で事態を見守るなか、リュカリオンはフッと笑みをこぼす。
「そやつの正体はゼヴァムという名の魔物だ。たしか、死者の肉体と記憶を奪ってそのものになりすますことを得意とするのであったか。それがアルフォスの母の肉体ならば可能な限りは傷つけたくはない。返してもらうおうか!」
リュカリオンはかざした右手に魔力を集める。
「させるわけないでしょ!」
リュカリオンの行動を阻止しようとフィアーゼが動く。
「おまえこそ、リュカリオンの邪魔はさせない!」
俺は床を蹴って跳躍し、空中の女神に聖剣を閃かせた。
「くっ!」
既に深手を負っていた女神は忌々しそうに視線を向けつつ迎撃態勢をとる。
(なんだと!?)
フィアーゼの長い金髪が大蛇となってエクスカリバーの斬撃を弾いた。
「あたしに刃を向けたことを後悔なさい!」
フィアーゼの髪が変化した8匹の大蛇が口から光線を吐き出した。
「ちぃ! 護光壁!!」
聖剣に宿る力を解放して目の前に光の壁を作り出す。
「くらうがいい! 氷属性上級魔術!!」
ジュラスが魔術の発動を阻止しようとリュカリオンに氷の弾丸を射つ。
「くそ!」
咄嗟に魔剣の縛鎖を伸ばして氷の弾丸を弾き落とす。
「随分と精進しておるようだな、アルフォス。余は嬉しく思うぞ。……では、その肉体は返してもらう!!!」
リュカリオンがかざした右手が眩い光を放ったかと思うと、一筋の閃光が母さんの体を貫いた。
「ガァァァァァァッ!!!!」
絶叫をあげて母さんの体から黒い影が飛び出す。あれがゼヴァムという魔物の本体なのだろう。
「アルフォスよ!」
リュカリオンの声にすぐさま反応し、聖剣を構える。
「水刃!!」
放った水の刃が黒い影を真っ二つに両断した。
「オォォォォ……」
ゼヴァムは不気味な声をあげながら霧消した。
「くっ……」
その傍でジュラスが悔しさに唇を歪ませている。
「ちっ……あなたたち、皆殺しにしてやるわ!」
リュカリオンから距離をとったフィアーゼから殺気がほとばしっている。ジュラスもその隣へと移動し、俺たち全員に殺意を向けてくる。
「ふむ。これであとはきさまら二人のみだな」
着地したリュカリオンがフィアーゼとジュラスを睨む。だが、当の二人はまだ余裕の笑みを浮かべている。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる