聖剣と魔剣の二刀流剣士物語2【七星大将軍編】

美山 鳥

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7章 最後の戦い

83話 六光破邪衆ゼヴァム

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 突然に現れた人物の姿に驚嘆しているのは俺だけではない。メルティナやピファ、ルットも同様の反応だ。

 「アルフォス、立派に成長したわね」

 母さんの姿をした、その女性は優しげな微笑みを俺に向ける。

 「さぁ、フィアーゼ様の治める新しい世界で、わたしとともに暮らしましょう。こちらへ……」

 母さんが両手を広げて俺を迎え入れようとする。

 「フィアーゼ?」

 聞き慣れない名に問い返す。しかし、それを答えたのはセラだった。

 「フィアーゼとは、遥か昔にリュカリオン様と戦った女神の名ですわ」

 そうか。リュカリオンがたまに口にしていた「あの女」のことか?

 「……おまえは本当に母さんなのか?」

 自分の中の最大の疑問をぶつける。すると、女は柔らかな笑みを浮かべて答えた。

 「ええ、わたしは間違いなくあなたの母ラーナよ。わたしは無念の死を迎える直前、そこにいるジュラス様に助けていただいたの。そして、今は、わたしたちのような悲劇のない世界を創るために六光破邪衆としてフィアーゼ様にお仕えしているのよ。アルフォス、あなたにも協力してほしいの。いいわよね?」
 「悲劇のない世界を創る? いったい、どうやって?」
 「それはあたしが説明してあげるわ」

 今度は聞き慣れない女の声がどこからともなく聞こえてくる。その直後、何もない空間が裂け、長い金髪と瑠璃色の瞳を持つ女が現れた。見た感じでかなり疲労しているのがはっきりとわかる。

 「フィアーゼ様……」

 ジュラスと母さんに似た女がその場に跪く。どうやら、あいつがリュカリオンの言っていた「あの女」とみて間違いなさそうだ。

 「説明といっても簡単なことなの。要するに、あたしに逆らう者には相応の報いを受けてもらうの。その代わり、あたしを敬う者には恩恵を与えてあげるわ」

 なにを言ってるんだ? それはつまり世界を自分の意のままにするってことだろ。

 「ふざけてるのか? そんなものが悲劇のない世界なわけがないだろ?」
 「それは違うわ、アルフォス。フィアーゼ様はより良い世界に導いてくださるのよ。この世界から争いをなくすためには、並ぶものなき強大で絶対たる力が必要不可欠なの。その存在こそがフィアーゼ様なのよ」

 俺が反論すると母さんの姿をした人物がさらなる反論を返してきた。

 「あんた、ほんとにアルフォスの旦那の母親なのか? 違うんじゃねぇか?」

 俺の気持ちを代弁したのはウィナーだった。

 「……あなたとは初めてお会いしますね。わたしは間違いなくアルフォスの母です。違うというならば、その根拠や証拠はおありですか?」

 母さんの名ラーナを名乗る女がウィナーに鋭い視線を送り、不快感を露わにする。

 「根拠っていうかよ……クレイモアこいつに宿っているアルフォスの旦那の親父さんの魂が怒りに震えているのが手に取るようにわかんだ。それってつまり、あんたが偽物だからってことなんじゃねぇか!?」

 ウィナーの示した根拠に、ほんの一瞬だけラーナを名乗る女が押し黙る。

 「俺も同意見だ。うまく説明できんが、おまえからは何か違和感しか感じられない。そう、まるで肉体と記憶だけで魂が別物……まさか!?」

 自分の発言に自分が驚いてしまった。そうだ! こいつは母さんの肉体と記憶を手にした別人という可能性はあるじゃないか!!

 「どうなんだ、答えろ! もしも、俺の仮説が正しいのならおまえたちは決して赦しはしない!!!」

 言い放つ俺に無言のジュラスとラーナ。

 「フハハハハハ……どうやらアルフォスの引き入れには失敗したようだな」

 突然、今度は聞き馴染みのある声が聞こえ、空間を裂いて魔神リュカリオンが姿を現した。今までに見たことがないほどに傷ついている。女神フィアーゼとそれほどの激戦を繰り広げたということだろう。

 「ちぃ! リュカリオン!!!」

 フィアーゼが女神とは思えない凄まじい形相でリュカリオンを睨む。それにかまうことなく、リュカリオンは右手をラーナを名乗る女に向ける。

 「ギャアァァァァァッ!!!!」

 ラーナを名乗る女の全身から黒いモヤが立ち昇る。

 「な、なんだ、ありゃあ!?」

 ウィナーが怪訝な相好で事態を見守るなか、リュカリオンはフッと笑みをこぼす。

 「そやつの正体はゼヴァムという名の魔物だ。たしか、死者の肉体と記憶を奪ってそのものになりすますことを得意とするのであったか。それがアルフォスの母の肉体ならば可能な限りは傷つけたくはない。返してもらうおうか!」

 リュカリオンはかざした右手に魔力を集める。

 「させるわけないでしょ!」

 リュカリオンの行動を阻止しようとフィアーゼが動く。

 「おまえこそ、リュカリオンの邪魔はさせない!」

 俺は床を蹴って跳躍し、空中の女神に聖剣を閃かせた。

 「くっ!」

 既に深手を負っていた女神は忌々しそうに視線を向けつつ迎撃態勢をとる。

 (なんだと!?)

 フィアーゼの長い金髪が大蛇となってエクスカリバーの斬撃を弾いた。

 「あたしに刃を向けたことを後悔なさい!」

 フィアーゼの髪が変化した8匹の大蛇が口から光線を吐き出した。

 「ちぃ! 護光壁ごこうへき!!」

 聖剣に宿る力を解放して目の前に光の壁を作り出す。

 「くらうがいい! 氷属性上級魔術アイス・ブレット!!」

 ジュラスが魔術の発動を阻止しようとリュカリオンに氷の弾丸を射つ。

 「くそ!」

 咄嗟に魔剣の縛鎖を伸ばして氷の弾丸を弾き落とす。

 「随分と精進しておるようだな、アルフォス。余は嬉しく思うぞ。……では、その肉体は返してもらう!!!」

 リュカリオンがかざした右手がまばゆい光を放ったかと思うと、一筋の閃光が母さんの体を貫いた。

 「ガァァァァァァッ!!!!」

 絶叫をあげて母さんの体から黒い影が飛び出す。あれがゼヴァムという魔物の本体なのだろう。

 「アルフォスよ!」

 リュカリオンの声にすぐさま反応し、聖剣を構える。

 「水刃すいじん!!」

 放った水の刃が黒い影を真っ二つに両断した。

 「オォォォォ……」

 ゼヴァムは不気味な声をあげながら霧消した。

 「くっ……」

 その傍でジュラスが悔しさに唇を歪ませている。

 「ちっ……あなたたち、皆殺しにしてやるわ!」

 リュカリオンから距離をとったフィアーゼから殺気がほとばしっている。ジュラスもその隣へと移動し、俺たち全員に殺意を向けてくる。

 「ふむ。これであとはきさまら二人のみだな」

 着地したリュカリオンがフィアーゼとジュラスを睨む。だが、当の二人はまだ余裕の笑みを浮かべている。
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