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第11章 レッドレオとブルータイガー
11―23 数日後
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レッドレオ壊滅から数日後の朝。エルフェリオンたちが常宿として利用している【宿り木】一階の食堂では、放浪者の二人が対面の席に着いて朝食をとっていた。
カランカラン
ドアを開ける音がして、青年がひとり入ってくる。
「ん?」
何気なく扉のほうに目を向けたエルフェリオンは、見知った顔を発見する。相手もほぼ同時にエルフェリオンたちを見つけたらしく、親しげに手を軽く振って近づいてきた。
「あら、ルーニアンじゃない」
近付いてきた青年の名をアルナが声に出す。
「やぁ。その節はお世話になったね。本当にありがとう」
ルーニアンはエルフェリオンとアルナに深く頭を下げる。
「おまえ、ブルータイガーのリーダーなんだろ? 俺たち余所者の冒険者に軽々しく頭を下げていいのかよ?」
「問題ないよ。君たちはボクたち家族の恩人なわけだしさ。それに、放浪者の活躍がなければブルータイガーはオグリスに壊滅させられていたに違いないよ。そんな二人に何かお礼をしたいんだけど……」
「そんなの要らないわよ。だいたい、あれはギルドを通した正式な依頼でもないんだし、あたしたちが勝手に協力しただけなんだから」
アルナがすかさず辞退する。
「……そう言われると思ってたよ。だからさ、ラナリと相談して決めたんだ。二人を我が家の食事に招待させてくれないか?」
ルーニアンからの思いがけない提案にエルフェリオンとアルナは互いに顔を見合わせ、どちらからともなく微笑する。
「そういうことなら遠慮なくご馳走になろうかしら」
アルナが代表して答えると、ルーニアンの表情が明るくなる。
「それはよかった! 断られてしまったら、ボクは帰る家をなくしてしまうところだったよ」
「そんな大袈裟な……」
心底安堵したように言うルーニアンにアルナは苦笑する。
「いやいや、ラナリはああ見えて怒らせると本当に怖いんだよ!?」
「たしかに、女は怒らせると厄介なもんだな。そこは俺も同意させてもらうぜ」
言って、対面の席に座る魔術師の少女を見るエルフェリオン。
「あら、エルフェリオンはだれのことを言ってるのかしらぁ?」
アルナが恐ろしい笑顔でエルフェリオンに訊く。が、当のエルフェリオンは何も答えない。
「アハハハハハ! それじゃ、二人の予定に合わせるつもりなんだけど、いつなら都合が
いいのかな?」
「俺はいつでもいいぜ」
「あたしも」
エルフェリオンとアルナが答えると、ルーニアンはニコリと微笑む。
「だったら、今夜はどう?」
「「オッケー」」
今度はアルナとエルフェリオンが同時に返答する。
「決まりだね。それじゃ、今夜、ここに迎えを寄越すから楽しみにしててね」
そう言って、パチリとウインクしてルーニアンは立ち去っていった。
◎★☆◎
「いや~、アルナさんはオイラの命の恩人っす! 感謝してもしきれないっすよ!」
ラナリとテシアが暮らす小さな家には、エルフェリオンとアルナ、ルーニアンとラナリとテシアに加えて、ラクターの姿があった。この家は、今ではルーニアンたちが一家で暮らしている。
「そんな大袈裟よ」
「いえいえ、大袈裟なんてことはないっす! もう、アルナさんの愛情いっぱいの手厚い回復魔術がなければ、オイラは今ごろ死んでたっすよぉ!!」
「……愛情、いっぱいだったのね?……」
ハイテンションのラクターにアルナはドン引きしている。
「……んなことより、おまえ、寝てなくて大丈夫なのか?見た目からしてひでぇぞ?」
エルフェリオンがラクターに言う。なぜなら、ラクターはいまだに満身創痍であり、全身が包帯でぐるぐる巻きの状態だったからだ。
「そこは大丈夫っす! アルナさんに会うためなら死んでも後悔しないっす!!」
「それだと助けた意味がないだろうが」
エルフェリオンはラクターの言い分に呆れる。
「そんな事言っちゃってぇ! エルフェリオンさんの本心はわかってるんすよ!?」
ラクターはエルフェリオンをビシッと指差す。
「あん? 俺の本心ってなんだよ?」
エルフェリオンが怪訝な表情をして訊き返す。
「スバリ言っちゃうっすよ。エルフェリオンさんはオイラとアルナさんがお近付きになるのが嫌なんすよね!?」
どうだ! と言わんばかりに胸を張るラクター。だが、それを見つめるエルフェリオンの視線は実に冷ややかなものであった。
「一応、聞いといてやるよ。どうしてだ?」
ため息混じりに訊いたエルフェリオンに、ラクターは「フッフッフッ」と笑い声を漏らす。
「それは、エルフェリオンさんがアルナさんに惚れているからっす!!!」
ラクターのとんでもない発言に、アルナが飲んでいたお茶を吹き出す。そして、エルフェリオンはというと爆笑していた。
「そうかそうか。俺がアルナをね。なるほどなるほど」
一頻り大笑いしたあと、エルフェリオンはグラスのワインをグイッと飲み干す。
「いい加減にしなよ、ラクター。なんかゴメンね、エルフェリオン君……ラクターには休んでるように言ったんだけど、どうしても出席するときかなくてさぁ」
申し訳なさそうにルーニアンが言う。
「いいや、気にすることはないさ。むしろ、久々に大笑いさせてもらったぜ」
そう言って、エルフェリオンはまた少し「ククク」と笑う。
「さぁさぁ、そんなことより今日は腕によりをかけて作りましたから、冷めないうちに召し上がってくださいな」
「テシアもお手伝いしたの!」
笑顔で食事を勧めるラナリの隣でテシアがニッコリと笑う。
「そっか。テシアちゃんはお利口さんね」
アルナはそんなテシアの頭を優しく撫でた。
こうして、賑やかな晩餐が開かれた。
カランカラン
ドアを開ける音がして、青年がひとり入ってくる。
「ん?」
何気なく扉のほうに目を向けたエルフェリオンは、見知った顔を発見する。相手もほぼ同時にエルフェリオンたちを見つけたらしく、親しげに手を軽く振って近づいてきた。
「あら、ルーニアンじゃない」
近付いてきた青年の名をアルナが声に出す。
「やぁ。その節はお世話になったね。本当にありがとう」
ルーニアンはエルフェリオンとアルナに深く頭を下げる。
「おまえ、ブルータイガーのリーダーなんだろ? 俺たち余所者の冒険者に軽々しく頭を下げていいのかよ?」
「問題ないよ。君たちはボクたち家族の恩人なわけだしさ。それに、放浪者の活躍がなければブルータイガーはオグリスに壊滅させられていたに違いないよ。そんな二人に何かお礼をしたいんだけど……」
「そんなの要らないわよ。だいたい、あれはギルドを通した正式な依頼でもないんだし、あたしたちが勝手に協力しただけなんだから」
アルナがすかさず辞退する。
「……そう言われると思ってたよ。だからさ、ラナリと相談して決めたんだ。二人を我が家の食事に招待させてくれないか?」
ルーニアンからの思いがけない提案にエルフェリオンとアルナは互いに顔を見合わせ、どちらからともなく微笑する。
「そういうことなら遠慮なくご馳走になろうかしら」
アルナが代表して答えると、ルーニアンの表情が明るくなる。
「それはよかった! 断られてしまったら、ボクは帰る家をなくしてしまうところだったよ」
「そんな大袈裟な……」
心底安堵したように言うルーニアンにアルナは苦笑する。
「いやいや、ラナリはああ見えて怒らせると本当に怖いんだよ!?」
「たしかに、女は怒らせると厄介なもんだな。そこは俺も同意させてもらうぜ」
言って、対面の席に座る魔術師の少女を見るエルフェリオン。
「あら、エルフェリオンはだれのことを言ってるのかしらぁ?」
アルナが恐ろしい笑顔でエルフェリオンに訊く。が、当のエルフェリオンは何も答えない。
「アハハハハハ! それじゃ、二人の予定に合わせるつもりなんだけど、いつなら都合が
いいのかな?」
「俺はいつでもいいぜ」
「あたしも」
エルフェリオンとアルナが答えると、ルーニアンはニコリと微笑む。
「だったら、今夜はどう?」
「「オッケー」」
今度はアルナとエルフェリオンが同時に返答する。
「決まりだね。それじゃ、今夜、ここに迎えを寄越すから楽しみにしててね」
そう言って、パチリとウインクしてルーニアンは立ち去っていった。
◎★☆◎
「いや~、アルナさんはオイラの命の恩人っす! 感謝してもしきれないっすよ!」
ラナリとテシアが暮らす小さな家には、エルフェリオンとアルナ、ルーニアンとラナリとテシアに加えて、ラクターの姿があった。この家は、今ではルーニアンたちが一家で暮らしている。
「そんな大袈裟よ」
「いえいえ、大袈裟なんてことはないっす! もう、アルナさんの愛情いっぱいの手厚い回復魔術がなければ、オイラは今ごろ死んでたっすよぉ!!」
「……愛情、いっぱいだったのね?……」
ハイテンションのラクターにアルナはドン引きしている。
「……んなことより、おまえ、寝てなくて大丈夫なのか?見た目からしてひでぇぞ?」
エルフェリオンがラクターに言う。なぜなら、ラクターはいまだに満身創痍であり、全身が包帯でぐるぐる巻きの状態だったからだ。
「そこは大丈夫っす! アルナさんに会うためなら死んでも後悔しないっす!!」
「それだと助けた意味がないだろうが」
エルフェリオンはラクターの言い分に呆れる。
「そんな事言っちゃってぇ! エルフェリオンさんの本心はわかってるんすよ!?」
ラクターはエルフェリオンをビシッと指差す。
「あん? 俺の本心ってなんだよ?」
エルフェリオンが怪訝な表情をして訊き返す。
「スバリ言っちゃうっすよ。エルフェリオンさんはオイラとアルナさんがお近付きになるのが嫌なんすよね!?」
どうだ! と言わんばかりに胸を張るラクター。だが、それを見つめるエルフェリオンの視線は実に冷ややかなものであった。
「一応、聞いといてやるよ。どうしてだ?」
ため息混じりに訊いたエルフェリオンに、ラクターは「フッフッフッ」と笑い声を漏らす。
「それは、エルフェリオンさんがアルナさんに惚れているからっす!!!」
ラクターのとんでもない発言に、アルナが飲んでいたお茶を吹き出す。そして、エルフェリオンはというと爆笑していた。
「そうかそうか。俺がアルナをね。なるほどなるほど」
一頻り大笑いしたあと、エルフェリオンはグラスのワインをグイッと飲み干す。
「いい加減にしなよ、ラクター。なんかゴメンね、エルフェリオン君……ラクターには休んでるように言ったんだけど、どうしても出席するときかなくてさぁ」
申し訳なさそうにルーニアンが言う。
「いいや、気にすることはないさ。むしろ、久々に大笑いさせてもらったぜ」
そう言って、エルフェリオンはまた少し「ククク」と笑う。
「さぁさぁ、そんなことより今日は腕によりをかけて作りましたから、冷めないうちに召し上がってくださいな」
「テシアもお手伝いしたの!」
笑顔で食事を勧めるラナリの隣でテシアがニッコリと笑う。
「そっか。テシアちゃんはお利口さんね」
アルナはそんなテシアの頭を優しく撫でた。
こうして、賑やかな晩餐が開かれた。
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