スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第12章 アークデーモンとの死闘、そして旅立ち

12―11 VSエルダー級アークデーモン⑦

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 「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……ヒール……」

 肩で息をしながらもバゾンは自身の負ったダメージを回復させ、同時に状況を確認するために視線を素早く動かす。

 (鞭使いの女はしとめたか。だが……)

 ネティエは床に倒れて動く気配がない。しかし、エルフェリオンの姿が見当たらないことに注意を払いつつ、さらに視線を巡らせる。

 (鎚使いの男も戦闘不能にできたようだな……む!?)

 突如、殺気を感じ取ったバゾンが前後から急接近する二つの人影を見つける。エルフェリオンとルアークだ。

 「「はぁぁぁぁぁ!!」」

 ルアークの長剣とエルフェリオンの邪龍剣がバゾンを同時に襲う。

 「アルナさんはザラギスとネティエさんの回復を!!」
 「はい!」

 指示を受け、アルナは床に倒れたまま動かない仲間の元に駆け寄る。

 「エルフェリオン君、ボクたちはこのまま一気に攻めましょう!」
 「わかってる!」

 エルフェリオンとルアークは攻撃をさらに激しくしていく。

 「ヒーリング!」

 エルフェリオンたちがバゾンの足止めをしている間に、近くにいたザラギスの元へと駆けつけたアルナが回復魔術を施す。黄緑色の光がザラギスの全身を覆う。

 バゾンはギリギリと歯軋はぎしりする。できることならば、アルナがおこなっている回復魔術を中断させたいところである。しかし、エルフェリオンとルアークの猛攻への対処で手が回らない。

 「うぅ……オラのことはもう大丈夫だ。それより早く、ネティエを!」

 どうにか起き上がったザラギスだが、足取りがおぼつかない。

 「……わかりました。でも、まだ無理はしないで!」

 ザラギスのことを気にかけつつも重傷を負っているであろうネティエの回復に向かうアルナ。

 「……ふっ、無理をしねぇわけにはいかないだろうな……」

 アルナの背中を見送りながらザラギスが呟く。

◎★☆◎

 ドガッ

 「ちぃっ!!」

 バゾンの強烈な裏拳に頬に受け、弾き飛ばされたエルフェリオンが空中で身を翻す。口の端から流れ出た血があごから滴り落ちる。

 ルアークは、隙をついてバゾンの喉元を狙って長剣を閃かせた。だが、その刃は寸前のところでバゾンにかわされてしまう。

 「エア・ショット!」
 「がはっ!」

 バゾンが反撃として撃ち出した空気弾を胸部に受けたルアークが吹っ飛ぶ。

 (あいつ、回復までできるのかよ。こいつは意外だったぜ)

 バゾンがヒールを使用できたことにエルフェリオンはニヤリと笑む。

 (強敵との戦いを心底楽しみおって。真の意味で戦闘狂というやつじゃのぉ、こやつは。それも当然じゃな。このわしと対峙した時ですら笑っておったバカじゃからのぉ)

 エルフェリオンの内でレヴィジアルが呆れる。

 ダンッ

 床を蹴って疾走したエルフェリオンがバゾンに迫る。対して、バゾンは拳を突き出して迎撃にでる。が、エルフェリオンは跳び上がり、バゾンの上を通り抜け様に邪龍剣をふるう。

 バシュッ

 「ぬがぁ!」

 邪龍剣による斬撃を左翼に入れられたバゾンが表情をゆがませる。振り返りつつエルフェリオンから距離をとったバゾンは左手をかざす。

 「バーニング・ガトリング!」

 エルフェリオンは、放たれた無数の火炎弾を機敏な動きで回避し、隙をついて前方に大きく踏み出す。

 エルフェリオンの突きと斬撃のコンビネーション攻撃を受け流すバゾン。

 「だらぁ!」

 エルフェリオンがバゾンから一旦離れたタイミングで、ザラギスが大鎚を振りかざす。

 「死に損ないがぁ!」

 ザラギスの大鎚を片手で受け止めたバゾンの深紅の瞳が鋭く光る。

 (あのバカ! まともに動けねぇくせして無茶しやがって!!)

 ザラギスの身を案じたエルフェリオンが、邪龍剣に闘気をまとわせて飛びかかる。

 「闘気戦術・斬閃!」

 邪龍剣が鈍色にびいろの閃光を描いてバゾンの左腕を斬りつけた。

 「おのれぇ!」

 憎憎しげにエルフェリオンを睨めつけ、バゾンは一度距離をとる。

 「ったく、無茶しやがって!」

 エルフェリオンはその隙に右手を貯蔵鞄ストレージ・バッグへと突っ込み、青い液体が入った小瓶を取り出して、ザラギスに手渡す。

 「生命力回復薬ライフポーションか、ありがてぇ!」

 受け取ったザラギスは嬉々として一気に飲み干す。直後、負傷した身体と体力が回復し、痛みが和らぐ。

 「エルフェリオン君! アルナさんの様子がおかしい。すまないが見てきてくれ」

 駆けつけたルアークがエルフェリオンに指示を出す。

 (ちっ、こんな時に世話の焼けるやつだ)

 ネティエの傍らで両膝をついて座り込んでいるアルナを視界の端にとらえ、エルフェリオンは舌打ちしつつも、その場をザラギスとルアークに預けるのだった。
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