スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第14章 大農園を救え

14―10 翁のゴースト

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 『おぬしも素直じゃないのぉ。正直に申せばあの小娘もおぬしを責めはせぬじゃろうに』

 セト大農園周辺の森。適当な木の枝に座り、幹に背中をあずけているエルフェリオンの内でレヴィジアルが呆れていた。

 「ふん。あいつにどう思われようと関係ねぇ」
 『ふむ。おぬしは損な性格のようじゃな。まっ、わしにはどうでもよいことじゃがの』

 レヴィジアルとの短い会話を終え、エルフェリオンは夜空を見上げる。柔らかな月光が地上に降り注いでいた。

 エルフェリオンは貯蔵鞄ストレージ・バッグから干し肉を取り出してかじる。

 (復興作業はあらかた終わってる。モンスターが頻繁に襲来する原因もアルナなら突き止めることができるかもしれねぇ。少なくとも、俺がいたところでなにか変わるわけじゃねぇだろう。……とりあえず今夜は寝るか)

 エルフェリオンはゆっくりと瞼を閉じた。

◎★☆◎

 翌日の早朝からエルフェリオンは動き始めていた。森の中を移動して索敵、集まってきたモンスターを見つけては倒すことを繰り返す。

 『ふむ。モンスターばかりとはいえ腹の足しにはなるというもの。じゃが、本来は人間の魂を所望しておるのじゃがのぉ?』

 エルフェリオンが斬り捨てたモンスターの魂を喰らったレヴィジアルが催促する。

 「けっ、贅沢言うなよ。喰えるだけでもありがたく思うんだな」
 『半人前にもなれぬ小童こわっぱがなにを偉そうにぬかす?……しかし、こうして集まってきたモンスターを蹴散らしておることを、今からでもあの小娘に話してやればよいじゃろうに。されば、皆からも感謝されるのではないか?』

 話題を変えてきたレヴィジアル。エルフェリオンは「くだらねぇ」とこぼす。

 『どういうことじゃ?』
 「俺は他人に感謝されたいわけじゃねぇよ。それに、少しでも実戦経験をつんでおきたいってのも事実だしな。どちらかといえば、モンスターを蹴散らす理由としては、そっちのほうがでかい……ん?」

 レヴィジアルとそんな会話をしながら森を移動していたエルフェリオンが不意に足を止める。

 『気付いたようじゃな。わしには遠くおよばぬが、おぬしもこの数日で少しは索敵も上達したかのぉ?』

 エルフェリオンより先に気付いていたレヴィジアルが上から目線で言う。エルフェリオンはそれを無視して木陰に身を隠すと様子を伺う。

 「あれは、ゴーストか?」

 森の中でひとり佇む水色の髪のおきなは足元の魔法陣に見て小声でなにやら呟いている。しかし、エルフェリオンには聞き取ることができない。
生気は全く感じられず、全身が半透明になっていることから、生者でないことは明白であった。
 『ふぅむ。そういうことじゃったか』

 レヴィジアルは何かを悟ったように声を出す。

 「あん? なにかわかったのか?」
 『うむ。あの魔法陣はモンスターを呼び寄せるものじゃ。しかしのぉ、アレひとつだけでは効果はない。モンスターを集めたい場所の四方に設置する必要があるのじゃよ』

 レヴィジアルの説明にエルフェリオンは「なるほど」と納得する。

 「つまり、何者かがセト大農園を中心とした四方に魔法陣を設置したってわけか」
 『うむ。なかなか手の込んだことをするのぉ。さて、おぬしはどう動くつもりじゃな?』

 レヴィジアルがエルフェリオンに判断を迫る。

 「へっ、こそこそ動くなんざ俺には合わねぇよ」

 エルフェリオンは口角を吊り上げると木陰から出て、水色の髪のおきなに堂々と近付いていく。

 「……なんじゃな、おまえさんは?」

 ブツブツと独りごちていたおきなの黒い瞳がエルフェリオンに向けられる。

 「その魔法陣はモンスターを引きつけるものなんだろ?」

 エルフェリオンが確認する。

 「そうじゃ。君は何者じゃな?」
 「俺はエルフェリオン。冒険者だ」
 「そうか。ここ最近は、集まったモンスターが群れを成す前に消されておったのは、おまえさんが原因か」

 言うと、おきなは身構える。

 (このジジイ、格闘家タイプか?)

 一切の武器を持つことなく構えるおきなに対して、エルフェリオンは邪龍剣を召喚する。

 「ワシの名はゼペア。若き冒険者よ、ここで死んでもらう」

 ゼペアと名乗ったおきなの黒い瞳に明確な殺意が宿った。
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