スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第1章 邪龍との邂逅

1―21 VSミノタウロス①

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 気がつくとエルフェリオンは邪龍の迷宮の第2階層の奥の部屋に立っていた。当然ながら、ギゼムやルドアの姿はない。

 「おい、レヴィジアル。あいつらがどこにいるかわかるか?」

 エルフェリオンが姿なき相棒に訊く。

 『さてのぉ。とっくにこの迷宮を去っておるじゃろう。なにせ5年は経っておるじゃろうからのぉ』
 「んな!?」

 突然の爆弾発言に言葉を失ったエルフェリオンに邪龍はさらに続ける。

 『なんじゃ、知らんかったのか。今までおった無限空間は時間の流れが非常に遅いんじゃよ』
 「俺の感覚だとまだ一日も経ってないんだが……」
 『それはあくまでもおぬしの感覚じゃろうが。現実から目を背けるでないわ』

 レヴィジアルに指摘されてエルフェリオンは舌を打つ。

 「んなこと、聞いてねぇぞ」
 『言うとらんからのぉ。そんなことよりもじゃ、体のほうは大丈夫なのか?』
 「ん? そういえば、痛みがほとんど消えているような……」

 レヴィジアルに改めて訊かれ、エルフェリオンは初めて気付く。

 『それは重畳ちょうじょう! さすがは龍衣じゃ。着用者の回復能力を大幅に高めておる。ならば、あれを倒すくらい造作もないということじゃの?』
 「あれ、とは?」

 レヴィジアルが何を言っているのか理解できず、部屋の中を見回す。

 「まさか、アレのことか?」

 エルフェリオンの視界が部屋の一点で止まる。そこには頭部と両足か牛、胴体と両腕が人間の姿をしたモンスターと視線がぶつかる。

 『ミノタウロスじゃ。早速の食事があれではあまり嬉しくもないが、まぁ贅沢も言っておれぬからのぉ。我慢してやるゆえ、あれを狩ってみせよ』
 「といっても、相手は戦斧を持ってるぜ? こっちは丸腰なんだがな……」

 レヴィジアルからの無茶振りに文句を言うエルフェリオン。

 『あんなザコならば素手で充分じゃろうが。じゃが、しかたない。今後のためにもわし自らレクチャーしてやろうかのぉ』

 エルフェリオンは上から目線に不満を抱きながらも何も言い返さない。

 『よいか。わしはおぬしと同化しておる……』
 「ブモォォォォォッ!」

 レヴィジアルが説明している最中、青髪の青年を獲物として認識したミノタウロスが突進する。

 「教えるなら、さっさとしろ」

 ブンッ

 ミノタウロスのふるう戦斧の軌道を冷静に読んで回避しながらエルフェリオンがかす。

 『そうくでないわ。まずは拳に魔力を集中させよ』

 レヴィジアルのアドバイスを受け、エルフェリオンは右手を強く握る。

 「グモォッ!」

 ミノタウロスが振りかざした戦斧を、身をかがめて避けた青髪の青年は、右手に魔力が集まるイメージを固める。

 「モ?」

 エルフェリオンの右拳に黒い魔力が集まっていくのを感じたミノタウロスが一歩さがる。

 「これでもくらいな!」

 エルフェリオンは大きく踏み込んで黒い魔力をまとった右拳を突き出す。

 「モゴッ!」

 エルフェリオンからの反撃を腹部にくらったミノタウロスはヨロヨロと後退する。

 「クムォォォッ!!」

 怒りをあらわにしたミノタウロスが掲げた戦斧を振り下ろす。その動きをいち早く察知していたエルフェリオンは素早いバックステップで回避し、臨戦態勢をとる。

 『なかなかやるのぉ。もっとも、それでなければ同化契約アシミレーション・コントラクトをした意味がないのじゃがな』
 「んなことはどうだっていいだろ。まさか、あいつをこのまま殴り倒せとでも言うのか?」

 エルフェリオンは冷静にツッコむ。

 『フハハハハハ……それも悪くはないのぉ。じゃが、安心せい。同化契約アシミレーション・コントラクトをしたおぬしならば龍武具を扱えるはずじゃ』

 「ブモモォォォォォッ!!」

 ミノタウロスが奇声をあげながら戦斧を乱舞する。その軌道をすべて見極めて紙一重でかわすエルフェリオン。

 「龍武具?」

 エルフェリオンが疑問符を付けて復唱する。

 『そうじゃのぉ……まずは剣をイメージしてみよ』

 (まったく、この状況でよく言ってくれるぜ)

 青髪の青年はミノタウロスの猛攻をかわしつつ、溜め息をつく。幸い、戦闘には慣れている。そのため、かなり大振りなミノタウロスの動きを見切ることはそれほど難しいことではない。しかし、万が一にも一撃を受ければダメージは軽くないだろう。できるなら、対抗するための武器はほしいところである。

 (……剣か……)

 さらにバックステップでミノタウロスとの距離をとったエルフェリオンは深呼吸をして精神を落ち着け、剣を強くイメージする。

 『よかろう! さぁ、わしを呼び出すのじゃ!!』
 「こい! レヴィジアル!!」

 エルフェリオンが邪龍の名を呼ぶ。それに呼応するかのように剣の形となったレヴィジアルが何もない空間から現れる。

 「へぇ、これが龍武具か」

 エルフェリオンは手にした龍武具を見つめる。3つの蒼い瞳を持つ邪龍の剣が青髪の青年と視線を合わせた。

 『さぁ、邪龍剣となったわしを扱うからにはあの程度のモンスターに遅れを取ることはゆるされぬぞ?』
 「当たり前だ。まぁ、見てろよ」

 エルフェリオンは邪龍剣レヴィジアルを正面に構えて微笑する。
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