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第2章 出会い
2―9 VS巨狼②
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本来の機敏な動きを取り戻したエルフェリオンは巨狼の左脇を駆け抜け、後ろ脚に斬撃を入れる。その傷は浅く、充分な手傷を与えることはできないまでも、ダメージは着実に蓄積させていた。
「ぐっ、おのれぇ……」
ブンッ
赤銅色の体毛を逆立て、茶色の双眸に怒りを宿した巨狼が尻尾を薙ぎ払う。
「おっと……簡単に当たるかよ!」
後方宙返りで華麗に躱したエルフェリオンが不敵に笑う。
「あたしのこと、忘れてない!? アイシクル・ショット!!」
巨狼がエルフェリオンに気を取られている隙に懐へと飛び込んだアルナが、魔力で作り出した氷柱を巨狼の胸へと撃ち込む。だが、硬い獣毛に加えて赤い魔力を帯びている巨狼に致命傷を与えるにはいたらない。
「おのれ! どいつもこいつも!!」
軽度なダメージといえども蓄積されていくことに怒りをあらわにした巨狼が大きく跳躍する。
「蹴散らしてくれるわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
巨狼の憤怒と殺意を含んだ咆哮は空気を激しく振動させて敵を威圧する。二人組の男たちはもちろん、アルナも腰が引けていた。が、邪龍の咆哮を受けた経験を持つエルフェリオンには余裕がある。
「ビビるな! シャキッとしろ! そんなに暇ならあいつを撃ち落としてみろよ!!」
エルフェリオンに喝を入れられ、アルナは聖杖を構え直す。
「わ、わかってるわよ! アイシクル・ガトリング!!」
「ぬっ……ぐぐぅっ……」
差し向けられた聖杖から飛び出した無数の氷柱を受けた巨狼は降り立った直後にグラリと体勢を崩す。そこをエルフェリオンが連続攻撃でたたみかける。だが、巨狼は巨躯とは思えないほどの軽快な体さばきで邪龍剣による斬撃を躱す。
「我が咆哮を受けてなお闘志を削がれぬとはな!」
「はんっ、龍の咆哮に比べれば犬の遠吠えなんざ大したものじゃねぇさ!」
「龍の咆哮だと!?」
驚いたように瞼を大きく見開いた巨狼が一際力強く前脚を揮った。モーションが大振りとなった攻撃を青髪の青年はバックステップで回避する。
「きさま、その若さで龍の咆哮を聞いた経験があるというのか?」
龍族などというものは疾うの昔に姿を消したはずである。年若いエルフェリオンがその咆哮を聞くはずはない。にもかかわらず、対峙している青年は出任せを言っているようには思えず、巨狼の脳裏に疑問符が浮かぶ。
「あるさ。この迷宮の主の咆哮をな!」
「なんだと!?」
互いに距離をとりつつ相手の出方を伺う青年と巨狼。
「邪龍レヴィジアルに会ったというか!?……いや、その剣はもしや邪龍剣!!?」
巨狼はエルフェリオンが手にしている剣が邪龍剣であることに気付き、驚嘆する。
(今さら気付いたのかよ)
エルフェリオンは声には出さずツッコミを入れる。
「邪龍レヴィジアルは我らが封印したはず……」
「おまえたちが封印した? レヴィジアルはおまえたちの創造主か何かじゃねぇのかよ?」
エルフェリオンが投げかけた疑問に巨狼の口元が緩む。
「無知なことだ。きさまらは、龍族にとって迷宮とは何か、我らモンスターとは何かを知らぬようだな。だが、それを教えてやる義理などない。無知なまま死ぬがいい!」
会話を打ち切り、床を蹴った巨狼がエルフェリオンとの間合いを詰める。
ガリッ!
エルフェリオンが素早く後方へと飛び退いた直後、巨狼の爪が床をえぐった。撒き散らされ、宙を舞う破片の向こう側で巨狼の茶色の瞳が鋭く光る。
「人間と邪龍よ、滅びてしまえ!!」
憎悪を力に変換しているかのように、巨狼が今一度床を強く蹴った。
「あぐっ!!」
着地した直後のエルフェリオンに巨狼の前脚の爪が迫りくる。寸前のところで邪龍剣で受け止めた青年は勢いよく弾き飛ばされる。
「なめ……るなぁ!!」
スガガガガガガガガガッ
空中で体勢を立て直したエルフェリオンは床にレヴィジアルを突き立てて踏ん張る。が、それでも後ろ向きに滑っていく。
「しぶといな! これならどうだ!?」
巨狼は火球を吐こうと大口を開ける。
「ライトニング・ウィップ!」
巨狼が青年と戦っている間に接近したアルナが魔力によって作り出した雷の鞭を振るう。
「ぐぅ!……おの、れぇ!!」
強烈な電撃をくらい、巨狼が呻く。
「あたしの電撃を受けた感想はどうかしら!?」
自分より遥かに大きな巨狼を相手に引かず睨むアルナ。だが、巨狼は少女に目もくれず頭上を振り仰ぐ。そこには跳躍して両手で握った邪龍剣を掲げたエルフェリオンの姿があった。
「我の注意をこの娘に引きつけている間に一撃を入れるつもりだったか。だが、あまい!! 噛み殺してくれるわ!!!」
エルフェリオンの落下に合わせて口を開ける巨狼。だが、エルフェリオンは慌てるどころか笑みを浮かべる。
「甘ぇのはそっちだぜ? アルナ!!」
「了解! バインド・チェーン!!」
(なに!?)
エルフェリオンの呼びかけを合図にアルナが魔力の鎖を巨狼の首に巻き付けて固定する。
「上出来だ!」
落下の加速度に加え、渾身の力で振り下ろした斬撃は巨狼の鼻頭を捉えた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
巨狼の叫び声が部屋中に轟いた。
「ぐっ、おのれぇ……」
ブンッ
赤銅色の体毛を逆立て、茶色の双眸に怒りを宿した巨狼が尻尾を薙ぎ払う。
「おっと……簡単に当たるかよ!」
後方宙返りで華麗に躱したエルフェリオンが不敵に笑う。
「あたしのこと、忘れてない!? アイシクル・ショット!!」
巨狼がエルフェリオンに気を取られている隙に懐へと飛び込んだアルナが、魔力で作り出した氷柱を巨狼の胸へと撃ち込む。だが、硬い獣毛に加えて赤い魔力を帯びている巨狼に致命傷を与えるにはいたらない。
「おのれ! どいつもこいつも!!」
軽度なダメージといえども蓄積されていくことに怒りをあらわにした巨狼が大きく跳躍する。
「蹴散らしてくれるわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
巨狼の憤怒と殺意を含んだ咆哮は空気を激しく振動させて敵を威圧する。二人組の男たちはもちろん、アルナも腰が引けていた。が、邪龍の咆哮を受けた経験を持つエルフェリオンには余裕がある。
「ビビるな! シャキッとしろ! そんなに暇ならあいつを撃ち落としてみろよ!!」
エルフェリオンに喝を入れられ、アルナは聖杖を構え直す。
「わ、わかってるわよ! アイシクル・ガトリング!!」
「ぬっ……ぐぐぅっ……」
差し向けられた聖杖から飛び出した無数の氷柱を受けた巨狼は降り立った直後にグラリと体勢を崩す。そこをエルフェリオンが連続攻撃でたたみかける。だが、巨狼は巨躯とは思えないほどの軽快な体さばきで邪龍剣による斬撃を躱す。
「我が咆哮を受けてなお闘志を削がれぬとはな!」
「はんっ、龍の咆哮に比べれば犬の遠吠えなんざ大したものじゃねぇさ!」
「龍の咆哮だと!?」
驚いたように瞼を大きく見開いた巨狼が一際力強く前脚を揮った。モーションが大振りとなった攻撃を青髪の青年はバックステップで回避する。
「きさま、その若さで龍の咆哮を聞いた経験があるというのか?」
龍族などというものは疾うの昔に姿を消したはずである。年若いエルフェリオンがその咆哮を聞くはずはない。にもかかわらず、対峙している青年は出任せを言っているようには思えず、巨狼の脳裏に疑問符が浮かぶ。
「あるさ。この迷宮の主の咆哮をな!」
「なんだと!?」
互いに距離をとりつつ相手の出方を伺う青年と巨狼。
「邪龍レヴィジアルに会ったというか!?……いや、その剣はもしや邪龍剣!!?」
巨狼はエルフェリオンが手にしている剣が邪龍剣であることに気付き、驚嘆する。
(今さら気付いたのかよ)
エルフェリオンは声には出さずツッコミを入れる。
「邪龍レヴィジアルは我らが封印したはず……」
「おまえたちが封印した? レヴィジアルはおまえたちの創造主か何かじゃねぇのかよ?」
エルフェリオンが投げかけた疑問に巨狼の口元が緩む。
「無知なことだ。きさまらは、龍族にとって迷宮とは何か、我らモンスターとは何かを知らぬようだな。だが、それを教えてやる義理などない。無知なまま死ぬがいい!」
会話を打ち切り、床を蹴った巨狼がエルフェリオンとの間合いを詰める。
ガリッ!
エルフェリオンが素早く後方へと飛び退いた直後、巨狼の爪が床をえぐった。撒き散らされ、宙を舞う破片の向こう側で巨狼の茶色の瞳が鋭く光る。
「人間と邪龍よ、滅びてしまえ!!」
憎悪を力に変換しているかのように、巨狼が今一度床を強く蹴った。
「あぐっ!!」
着地した直後のエルフェリオンに巨狼の前脚の爪が迫りくる。寸前のところで邪龍剣で受け止めた青年は勢いよく弾き飛ばされる。
「なめ……るなぁ!!」
スガガガガガガガガガッ
空中で体勢を立て直したエルフェリオンは床にレヴィジアルを突き立てて踏ん張る。が、それでも後ろ向きに滑っていく。
「しぶといな! これならどうだ!?」
巨狼は火球を吐こうと大口を開ける。
「ライトニング・ウィップ!」
巨狼が青年と戦っている間に接近したアルナが魔力によって作り出した雷の鞭を振るう。
「ぐぅ!……おの、れぇ!!」
強烈な電撃をくらい、巨狼が呻く。
「あたしの電撃を受けた感想はどうかしら!?」
自分より遥かに大きな巨狼を相手に引かず睨むアルナ。だが、巨狼は少女に目もくれず頭上を振り仰ぐ。そこには跳躍して両手で握った邪龍剣を掲げたエルフェリオンの姿があった。
「我の注意をこの娘に引きつけている間に一撃を入れるつもりだったか。だが、あまい!! 噛み殺してくれるわ!!!」
エルフェリオンの落下に合わせて口を開ける巨狼。だが、エルフェリオンは慌てるどころか笑みを浮かべる。
「甘ぇのはそっちだぜ? アルナ!!」
「了解! バインド・チェーン!!」
(なに!?)
エルフェリオンの呼びかけを合図にアルナが魔力の鎖を巨狼の首に巻き付けて固定する。
「上出来だ!」
落下の加速度に加え、渾身の力で振り下ろした斬撃は巨狼の鼻頭を捉えた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
巨狼の叫び声が部屋中に轟いた。
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