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第2章 出会い
2―8 VS巨狼①
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ダッ
全身から赤い魔力を揺らめかせた巨狼は、床を蹴って一瞬のうちにエルフェリオンの眼前まで迫り、鋭い爪で引き裂こうと左前脚を持ち上げる。
バシュッ
振り下ろされた巨狼の左前脚を邪龍剣で切り払う。
「ほぉ。少しはやるではないか」
巨狼は細い切り傷のついた肉球を舐める。
「では、これならどうかな?」
巨狼は茶色の瞳に獰猛な獣の光を滲ませたかと思うと、左右の前脚を交互に使って素早く連続攻撃を仕掛ける。
「なめんなよ! 犬っころ!!」
エルフェリオンは邪龍剣を巧みに使って巨狼の攻撃を弾き返し、お返しとばかりにレヴィジアルを水平に閃かせた。
「くぬ……」
邪龍剣の切先が後退した巨狼の胸を浅く斬りつける。攻撃を弾かれたりばかりか思わぬ反撃を受けた巨狼が小さな声を漏らす。
「……ちっ……」
気絶しているアルナを抱えながらでは存分に戦うことができず、舌を打つ。
「おい、そんな女なんか早く差し出しちまえよ!!」
長い茶髪の男が恐怖と焦りが混在した表情で声を荒げる。
「そうだよ! なんなら、可愛い娘をボクが紹介してあげらからさ!」
緑髪の男は紫の瞳を恐怖で潤ませている。
「……黙れよ。すっこんでろと言ったはずだぜ。死にたくなければな!」
「「あうぅ……」」
睨まれて尻込みする二人組から巨狼へと視線を転じたエルフェリオン。だが、連戦による疲労は確実に蓄積されており、戦局をさらに不利なものにしていた。だが、巨狼には手加減するつもりなど毛頭ない。
「そちらからこぬのならば、こちらからいかせてもらうぞ!!」
大口を開けた巨狼が火球を連射する。
「なめるなぁ!!」
次々に迫りくる火球を邪龍剣で切り払い、アルナを守り続ける。だが、打ち損ねた火球がエルフェリオンに火傷を負わせていく。しかし、そのどれもが軽度であり、龍衣をまとったエルフェリオンは自己回復能力が大幅強化されており、ノーダメージである。しかし……
『ほれほれ、どうするのじゃ? 遠距離攻撃の手段を持たぬおぬしでは圧倒的に不利じゃぞ? さっさとその女を放棄すればよい。そうすれば、あやつを倒すこともできるじゃろうて』
レヴィジアルが試すかのように囁きかける。だが、エルフェリオンは耳を貸さない。少女を守りながら邪龍剣を懸命に振り続ける。それは、実兄を守ることができなかったことに対する贖罪からなのか、より困難な状況を楽しんでいるだけの自己満足なのか……その答えは、本人でさえもわかっていない。
『こやつ、この苦境に立たされてもなお笑うのか?』
邪龍は、無意識のうちに口元に笑みをこぼしている青髪の青年に驚嘆する。
「……う……んん……」
その時、アルナが目覚め始めた。しかし、そのことにだれも気付いていない。
「なかなかやるではないか。速やかにその女をよこせば死なずにすんだものを……だが、もう遅い。焼き殺してくれよえぞ!!」
巨狼は、エルフェリオンにダメージを与えられないことに業を煮やす。それは当然のことであった。いかに巨狼がモンスターであるといえども魔力は有限だ。火球を放ち続けるにも限界はある。ならば、高威力の攻撃で勝負にでるのは自然な行動であった。
ボォォォッ!!
最大限まで大口を開けた巨狼が火炎球を吐き出す。
(ちっ! あれは切り払えねぇぞ!?)
抱えた少女を庇おうとしたエルフェリオンは、覚醒したアルナと視線が重なった。だが、アルナの瞳からは敵意は感じられない。
「リフレクト!!」
エルフェリオンの脇から抜け出した少女は、聖杖を構えるとすぐそこまで迫った火炎球に臆することなく、魔術を詠唱発動する。それによって出現した魔力の鏡が火炎球を吸収して、そのまま反射した。
「ぬぁぁっ!!」
自ら放った火炎球に焼かれた巨狼が悲鳴を上げて数歩後退する。
「へっ……ようやくお目覚めかよ? だったら、さっさとあいつをぶっ倒すぞ」
動きの制限がなくなったエルフェリオンが邪龍剣を構え直す。
「……うん、ごめん……」
アルナは呟き、前傾姿勢となって牙をむき出しにしている巨狼を見据えた。
全身から赤い魔力を揺らめかせた巨狼は、床を蹴って一瞬のうちにエルフェリオンの眼前まで迫り、鋭い爪で引き裂こうと左前脚を持ち上げる。
バシュッ
振り下ろされた巨狼の左前脚を邪龍剣で切り払う。
「ほぉ。少しはやるではないか」
巨狼は細い切り傷のついた肉球を舐める。
「では、これならどうかな?」
巨狼は茶色の瞳に獰猛な獣の光を滲ませたかと思うと、左右の前脚を交互に使って素早く連続攻撃を仕掛ける。
「なめんなよ! 犬っころ!!」
エルフェリオンは邪龍剣を巧みに使って巨狼の攻撃を弾き返し、お返しとばかりにレヴィジアルを水平に閃かせた。
「くぬ……」
邪龍剣の切先が後退した巨狼の胸を浅く斬りつける。攻撃を弾かれたりばかりか思わぬ反撃を受けた巨狼が小さな声を漏らす。
「……ちっ……」
気絶しているアルナを抱えながらでは存分に戦うことができず、舌を打つ。
「おい、そんな女なんか早く差し出しちまえよ!!」
長い茶髪の男が恐怖と焦りが混在した表情で声を荒げる。
「そうだよ! なんなら、可愛い娘をボクが紹介してあげらからさ!」
緑髪の男は紫の瞳を恐怖で潤ませている。
「……黙れよ。すっこんでろと言ったはずだぜ。死にたくなければな!」
「「あうぅ……」」
睨まれて尻込みする二人組から巨狼へと視線を転じたエルフェリオン。だが、連戦による疲労は確実に蓄積されており、戦局をさらに不利なものにしていた。だが、巨狼には手加減するつもりなど毛頭ない。
「そちらからこぬのならば、こちらからいかせてもらうぞ!!」
大口を開けた巨狼が火球を連射する。
「なめるなぁ!!」
次々に迫りくる火球を邪龍剣で切り払い、アルナを守り続ける。だが、打ち損ねた火球がエルフェリオンに火傷を負わせていく。しかし、そのどれもが軽度であり、龍衣をまとったエルフェリオンは自己回復能力が大幅強化されており、ノーダメージである。しかし……
『ほれほれ、どうするのじゃ? 遠距離攻撃の手段を持たぬおぬしでは圧倒的に不利じゃぞ? さっさとその女を放棄すればよい。そうすれば、あやつを倒すこともできるじゃろうて』
レヴィジアルが試すかのように囁きかける。だが、エルフェリオンは耳を貸さない。少女を守りながら邪龍剣を懸命に振り続ける。それは、実兄を守ることができなかったことに対する贖罪からなのか、より困難な状況を楽しんでいるだけの自己満足なのか……その答えは、本人でさえもわかっていない。
『こやつ、この苦境に立たされてもなお笑うのか?』
邪龍は、無意識のうちに口元に笑みをこぼしている青髪の青年に驚嘆する。
「……う……んん……」
その時、アルナが目覚め始めた。しかし、そのことにだれも気付いていない。
「なかなかやるではないか。速やかにその女をよこせば死なずにすんだものを……だが、もう遅い。焼き殺してくれよえぞ!!」
巨狼は、エルフェリオンにダメージを与えられないことに業を煮やす。それは当然のことであった。いかに巨狼がモンスターであるといえども魔力は有限だ。火球を放ち続けるにも限界はある。ならば、高威力の攻撃で勝負にでるのは自然な行動であった。
ボォォォッ!!
最大限まで大口を開けた巨狼が火炎球を吐き出す。
(ちっ! あれは切り払えねぇぞ!?)
抱えた少女を庇おうとしたエルフェリオンは、覚醒したアルナと視線が重なった。だが、アルナの瞳からは敵意は感じられない。
「リフレクト!!」
エルフェリオンの脇から抜け出した少女は、聖杖を構えるとすぐそこまで迫った火炎球に臆することなく、魔術を詠唱発動する。それによって出現した魔力の鏡が火炎球を吸収して、そのまま反射した。
「ぬぁぁっ!!」
自ら放った火炎球に焼かれた巨狼が悲鳴を上げて数歩後退する。
「へっ……ようやくお目覚めかよ? だったら、さっさとあいつをぶっ倒すぞ」
動きの制限がなくなったエルフェリオンが邪龍剣を構え直す。
「……うん、ごめん……」
アルナは呟き、前傾姿勢となって牙をむき出しにしている巨狼を見据えた。
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