スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第3章 5年後のレバルフ

3―1 ゼーゲンとフューズ

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 「なに言ってるのよ。エル……」
 「へぇ~、おもしろそうじゃねぇか。おまえたちのボスってやつに会わせてもらおうか」

 アルナがエルフェリオンの名を口にするのを、エルフェリオン自身が止める。青髪の青年の行動にアルナは呆れたように溜め息をつく。

 「おっ、そうこなくっちゃな!……おっと、そういや名前を名乗っていなかったよな。オレはゼーゲンってんだ。」

 長い茶髪の男は親指を立てる。

 「はじめまして。ボクはフューズ。君たちの名前も教えてもらえるかな? 特に、そっちのかわい子ちゃんの名前を知りたいな」

 緑髪の男は柔和な笑顔で名乗り、アルナに向かってウインクするが、肝心のアルナにはドン引きされてしまう。

 「あたしはアルナ。で、こっちが……」

 アルナはエルフェリオンのほうへと視線を流す。その瞳には「どうするつもりなのよ?」という無言の意思が込められていた。それを感じとったエルフェリオンはフッと口元を緩める。

 「俺はエルだ」

 青髪の青年が名乗った偽名がエルなどという安易なものであったことに、アルナがクスリと笑う。それにエルフェリオンはジト目を向ける。

 「よぉし、そうと決まれば、こんな所はさっさとおさらばしようぜ!」
 「そうだね。邪龍の迷宮の2階層の奥の間までたどり着いたんだ。成果としては上々だし、帰還してゲーブ様に報告しよう」

 話がまとまり、ゼーゲンとフューズが意気揚々と引き揚げる。

 「ねぇ、どういうつもりよ?」

 ゼーゲンとフューズの後をついていきながらアルナが隣の青年を横目で見る。

 「なにがさ?」
 「決まってるでしょ。どうして自分がエルフェリオンだって名乗らなかったのか訊いてるんじゃない」
 「べつに……ただ、俺が帰らなかった5年の間にどう変わったのか興味があったのさ。それに、この俺を倒したなどと吹聴している大バカ野郎に一泡吹かせてやろうってな!」

 悪戯いたずらを企んでいる子供のように笑むエルフェリオンにアルナが肩を落とす。

 「まったく、子供なんだから。それでゲーブって名前に覚えはないの?」
 「ああ、まったく」

 エルフェリオンはキッパリと答える。

 「えぇ~、単に、あんたの記憶力の問題とかじゃなくて?」
 「……おまえ、俺をバカにしてるな? ケンカでも売ってるのか?」
 「あら、エル君ってば短気なのね。そんなんじゃ女の子にもてないわよぉ?」

 エルフェリオンをからかうことを楽しんで、ニヤニヤと笑みを浮かべている少女に、青髪の青年は「ちっ」と舌打ちをする。

 「おーい、どうしたんだ? 早く来いよ」

 少し先をフューズと並んで歩いていたゼーゲンが振り返り、エルフェリオンとアルナを呼んだ。
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