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第3章 5年後のレバルフ
3―2 5年ぶりの帰還
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レバルフの街へと5年ぶりの帰還を果たしたエルフェリオンは忙しなく視線を動かしていた。
(俺が5年間も邪龍の迷宮にいたってのは事実らしいな)
エルフェリオンの記憶にある街並みと目の前に広がる光景……確かに同じ街ではあった。しかし、随所に変化が見て取れる。
『クックックックック……人間どもめ、このわしが邪龍の迷宮におる間に随分と大袈裟な街をつくりおったものよ』
エルフェリオンの視界をとおしてレバルフの街並みを見たレヴィジアルが呟く。
(レヴィジアルが迷宮の外にいた時代、か。いったいどれくらい前のことなんだ?)
そんな疑問がエルフェリオンの脳裏に浮かんだとき、ゼーゲンとフューズが不意に足を止める。
「あんたら、ティガルの仲間じゃないよな?」
ゼーゲンの口から飛び出した名に心当たりのない表情のアルナ。だが、エルフェリオンは反応を示す。
「なんだ、あいつを知ってるのか?」
エルフェリオンは旧知の仲である者の名が出たことに何気なく返したつもりだった。しかし、ゼーゲンとフューズは態度を豹変させる。
「おまえ! まさかティガルの仲間か!?」
語気を強く訊いたゼーゲンの手が腰に提げていた剣へと伸びる。
「あん? 仲間ってほどでもないが敵というわけでもねぇよ。ただ、妙に懐かれちまってるだけだ。それがどうしたってんだ?」
「エル、おまえをゲーブ様に会わせるわけにゃいかなくなった。アルナだけならゲーブ様に会わせてやれるぜ?」
ゼーゲンは、エルフェリオンに敵意を溶かし込んだ視線を突き刺す。
「アルナちゃん、絶対に会っておいたほうがいいよ。この街にいる間に無用なトラブルには遭いたくないよね?」
フューズは微笑し、アルナの肩に手をかけようと伸ばす。が、アルナはサッと後退してエルフェリオンの背後へと回る。
「せっかくだけど、ノコノコとついていくほどあんたたちを信用できないわね」
拒絶するアルナにゼーゲンとフューズが不快感をあらわにする。
「そこにいるエルは信用できるっていうのかい!?」
フューズが語気を荒げる。
「少なくとも、あなたたちよりはね。邪龍の迷宮であたしを守り続けてくれたのはエル……だもの」
アルナは、おもわずエルフェリオンと言いかけるがどうにかとどまる。
「ちっ! 案外バカな女だったみてぇだな。今の選択を後悔してもしらねぇからな!」
ゼーゲンはエルフェリオンとアルナを睨めつける。
「それがおまえたちの本性ってわけか? けどな、いくら虚勢を張ったところで邪龍の迷宮でダセェ姿を見ちまってるから意味ねぇぞ」
挑発的な笑みを浮かべるエルフェリオンに対して、激怒したゼーゲンが抜剣して斬りかかる。
「熱くなりすぎだ、バァカ」
接近するゼーゲンに向かって大きく一歩踏み込み、ガラ空きの鳩尾に右拳をめり込ませる。
「ごっ……はぁっ!……」
剣を振り下ろすよりも早く手痛い反撃をくらったゼーゲンが前かがみになる。エルフェリオンは少し後退すると同時に全身をひねって回転力を生み出し、回し蹴りをくり出す。
「ぐばぁっ!!」
左頬に回し蹴りを受けたゼーゲンは吹っ飛んで失神する。
「っきしょうが!」
相棒をあっさりと撃破されたフューズがヌンチャクを取り出して躍りかかる。
「ライトニング・ウィップ!」
その動きにいち早く気付いていたアルナが左手に集めた魔力を雷の鞭として揮った。
「ぎゃあっ!」
アルナを完全に意識の外に追いやっていたフューズは全く反応できず、電撃が全身を駆け巡ったことで意識が飛ぶ。
「だらしないわねぇ……」
崩れ落ちて地面でのびているゼーゲンとフューズを一瞥したアルナが呟く。
「なぁ、おまえに喰わせる魂ってのはこいつらのでもいいのか? 正直、あんまり美味そうには思うねぇけどな」
エルフェリオンは相棒の邪龍に声をかける。
『ほほぉ。感心、感心。わしとの約束を忘れてはおらんかったようじゃの。たしかに、こやつらの魂なんぞクソ不味そうじゃな。この場は見逃してやるがよかろう。ただし、これには理由がある。こやつらは餌じゃ』
「餌?」
相棒の言葉に怪訝な表情で復唱するエルフェリオン。
『まぁ、それについては後ほどわかるじゃろうて』
レヴィジアルは青髪の青年に明確な答えを示さない。
「ねぇ、また邪龍と話してるの?」
背後から聞こえた声にエルフェリオンは振り返り、首肯する。
「ふぅん。それで、あんたはこれからどうするのよ? 5年間も帰ってないんだし、家とか大丈夫なの?」
「元々、大した物は置いてないし家族もいないが、とりあえずは帰ってみるさ。だれかに乗っ取られているかもだけどさ」
特に気にする様子もなく答えるエルフェリオンにアルナはキョトンとなる。
「随分と軽く言うのね。……ねぇ、あたしもついてっていい?」
「なんだよ? こいつらにはついていかなかったのにか?」
地面に転がっている二人組を指差すエルフェリオン。
「だから言ってるじゃない。こいつらは信用できないって。それに、お兄ちゃんのこともいろいろと聞きたいしさ。あんたなら安全パイだと思うし」
「うーん、女子にこうもハッキリと言われるものどうか……ぶっちゃけ、こいつにどう思われてもいいんだが……」
「なにをブツブツ言ってるのよ? さぁ、早く行くわよ」
エルフェリオンは知り合って間もない少女に促されて家路についた。
(俺が5年間も邪龍の迷宮にいたってのは事実らしいな)
エルフェリオンの記憶にある街並みと目の前に広がる光景……確かに同じ街ではあった。しかし、随所に変化が見て取れる。
『クックックックック……人間どもめ、このわしが邪龍の迷宮におる間に随分と大袈裟な街をつくりおったものよ』
エルフェリオンの視界をとおしてレバルフの街並みを見たレヴィジアルが呟く。
(レヴィジアルが迷宮の外にいた時代、か。いったいどれくらい前のことなんだ?)
そんな疑問がエルフェリオンの脳裏に浮かんだとき、ゼーゲンとフューズが不意に足を止める。
「あんたら、ティガルの仲間じゃないよな?」
ゼーゲンの口から飛び出した名に心当たりのない表情のアルナ。だが、エルフェリオンは反応を示す。
「なんだ、あいつを知ってるのか?」
エルフェリオンは旧知の仲である者の名が出たことに何気なく返したつもりだった。しかし、ゼーゲンとフューズは態度を豹変させる。
「おまえ! まさかティガルの仲間か!?」
語気を強く訊いたゼーゲンの手が腰に提げていた剣へと伸びる。
「あん? 仲間ってほどでもないが敵というわけでもねぇよ。ただ、妙に懐かれちまってるだけだ。それがどうしたってんだ?」
「エル、おまえをゲーブ様に会わせるわけにゃいかなくなった。アルナだけならゲーブ様に会わせてやれるぜ?」
ゼーゲンは、エルフェリオンに敵意を溶かし込んだ視線を突き刺す。
「アルナちゃん、絶対に会っておいたほうがいいよ。この街にいる間に無用なトラブルには遭いたくないよね?」
フューズは微笑し、アルナの肩に手をかけようと伸ばす。が、アルナはサッと後退してエルフェリオンの背後へと回る。
「せっかくだけど、ノコノコとついていくほどあんたたちを信用できないわね」
拒絶するアルナにゼーゲンとフューズが不快感をあらわにする。
「そこにいるエルは信用できるっていうのかい!?」
フューズが語気を荒げる。
「少なくとも、あなたたちよりはね。邪龍の迷宮であたしを守り続けてくれたのはエル……だもの」
アルナは、おもわずエルフェリオンと言いかけるがどうにかとどまる。
「ちっ! 案外バカな女だったみてぇだな。今の選択を後悔してもしらねぇからな!」
ゼーゲンはエルフェリオンとアルナを睨めつける。
「それがおまえたちの本性ってわけか? けどな、いくら虚勢を張ったところで邪龍の迷宮でダセェ姿を見ちまってるから意味ねぇぞ」
挑発的な笑みを浮かべるエルフェリオンに対して、激怒したゼーゲンが抜剣して斬りかかる。
「熱くなりすぎだ、バァカ」
接近するゼーゲンに向かって大きく一歩踏み込み、ガラ空きの鳩尾に右拳をめり込ませる。
「ごっ……はぁっ!……」
剣を振り下ろすよりも早く手痛い反撃をくらったゼーゲンが前かがみになる。エルフェリオンは少し後退すると同時に全身をひねって回転力を生み出し、回し蹴りをくり出す。
「ぐばぁっ!!」
左頬に回し蹴りを受けたゼーゲンは吹っ飛んで失神する。
「っきしょうが!」
相棒をあっさりと撃破されたフューズがヌンチャクを取り出して躍りかかる。
「ライトニング・ウィップ!」
その動きにいち早く気付いていたアルナが左手に集めた魔力を雷の鞭として揮った。
「ぎゃあっ!」
アルナを完全に意識の外に追いやっていたフューズは全く反応できず、電撃が全身を駆け巡ったことで意識が飛ぶ。
「だらしないわねぇ……」
崩れ落ちて地面でのびているゼーゲンとフューズを一瞥したアルナが呟く。
「なぁ、おまえに喰わせる魂ってのはこいつらのでもいいのか? 正直、あんまり美味そうには思うねぇけどな」
エルフェリオンは相棒の邪龍に声をかける。
『ほほぉ。感心、感心。わしとの約束を忘れてはおらんかったようじゃの。たしかに、こやつらの魂なんぞクソ不味そうじゃな。この場は見逃してやるがよかろう。ただし、これには理由がある。こやつらは餌じゃ』
「餌?」
相棒の言葉に怪訝な表情で復唱するエルフェリオン。
『まぁ、それについては後ほどわかるじゃろうて』
レヴィジアルは青髪の青年に明確な答えを示さない。
「ねぇ、また邪龍と話してるの?」
背後から聞こえた声にエルフェリオンは振り返り、首肯する。
「ふぅん。それで、あんたはこれからどうするのよ? 5年間も帰ってないんだし、家とか大丈夫なの?」
「元々、大した物は置いてないし家族もいないが、とりあえずは帰ってみるさ。だれかに乗っ取られているかもだけどさ」
特に気にする様子もなく答えるエルフェリオンにアルナはキョトンとなる。
「随分と軽く言うのね。……ねぇ、あたしもついてっていい?」
「なんだよ? こいつらにはついていかなかったのにか?」
地面に転がっている二人組を指差すエルフェリオン。
「だから言ってるじゃない。こいつらは信用できないって。それに、お兄ちゃんのこともいろいろと聞きたいしさ。あんたなら安全パイだと思うし」
「うーん、女子にこうもハッキリと言われるものどうか……ぶっちゃけ、こいつにどう思われてもいいんだが……」
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