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第3章 5年後のレバルフ
3―5 レバルフのスラム街の現状
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ルートンに連れられてやってきたのは、レバルフのスラム街でも特に環境が悪い、ゴミ溜めにあるボロ小屋だった。
「どうして、こんな所に……」
鼻を突く異臭に、眉根を寄せたアルナがぼやく。
「なんだよ、文句があるならついてこなければよかっただろ」
「なっ!? べつに文句を言ってるわけじゃ……」
エルフェリオンに言われて口ごもるアルナ。
「さて、と。俺の記憶に間違いがなければ、おまえはこのスラムでも指折りの実力者のひとりだったはずだ。それがどうしてゴミ溜めに?」
視線をルートンに戻したエルフェリオンが訊く。
「おまえがいなくなるのと同じタイミングで、入れ代わるようにやつが現れたんだ」
話し始めたルートンの表情は暗く、深刻な事態が起きていることを示している。
「やつってだけじゃわからねぇだろ」
エルフェリオンは当然の疑問を投げかける。
「ゲーブって野郎さ。あいつは『オイラはエルフェリオンとゼイナスを倒した。これからはレバルフのスラムはオイラが仕切る』ってのたまりやがったのさ」
「ねぇ、それって!」
ルートンの言葉に真っ先に反応したのはアルナだった。彼女の言いたいことを理解しているエルフェリオンは黙って頷く。
「邪龍の迷宮に来たのはゲーブって野郎の手下だな」
「そうか。やつの手下に会ったのか。それで、一応は確認しておきたいんだが、おまえとゼイナスがゲーブにやられたというのは本当なのか?」
真偽を確かめるべくエルフェリオンの目を真っ直ぐに見つめるルートン。
「けっ! 冗談はよせ。ゲーブなんてやつは知らねぇよ。こっちはそれとは別で死にかけてたさ」
エルフェリオンは、邪龍レヴィジアルとの戦いを思い出し、不機嫌そうに窓の外のゴミの山を見る。
「なんだって!? おまえが死にかけた!!? いったいなにがあった!?」
ルートンは取り乱して席を立つ。
「あんまり詳しく話すことはできねぇ。ただ、そこでゼイナスが死んだのは確かだ」
エルフェリオンの緑の瞳がルートンを映す。その表情は冗談や出任せを言っているものではないのは明らかだった。
「……そ、そうか……」
重苦しい空気と沈黙が漂う。それを打ち破ったのはアルナだ。
「ルートンさん、ゼイナスお兄ちゃんがスラムに住んでたって本当ですか!?」
アルナは、一縷の望みをかけるかのように身を乗り出して訊く。それに対してルートンは目を丸くする。
「お兄ちゃんだと!? まさか、えっ?」
またしても取り乱したルートンがエルフェリオンに視線を向ける。が、エルフェリオンはあえて目を合わせようとしない。
「そ、そうか。たしかにゼイナスはこのスラム街に住んでいた。オレたちにとっては仲間だ。しかし、そのゼイナスが死んだだと!? それは本当に間違いないのか!!?」
驚愕しつつも見つめてくるルートンにエルフェリオンは黙したまま首を縦に動かす。
「まさか、とても信じられん話だ。しかし、おまえが言うのなら事実なんだろうし、おまえがゼイナスを見殺しにするはずがない。よほどの事があったということか」
あえて詳細を訊くことをやめたルートンは、黙祷するように瞼を閉じて沈黙し、大きく息を吐いた。
「それで、そのゲーブって野郎がどうしたって?」
話を本題に戻したエルフェリオンにルートンは苦々しく話す。
「ゲーブは自分に服従しないやつは容赦なく殺しやがった! それこそ女・子供も関係なくだ!!」
「ちょっと待ってよ! そんなことをすればレバルフの警備隊が黙ってないでしょ!?」
憤りを感じたアルナが語気を荒くする。
「警備隊にとってはスラム街の連中なんて守る価値もないのさ。いや、警備隊だけじゃない。街の連中はスラムの住人を生物としてすら認識していないのかもな」
「……そんな、まさか……」
アルナは、エルフェリオンの口から飛び出した言葉に激しく動揺する。
「あんた、レバルフは初めてか。レバルフは街を囲むように深い溝が掘られている。ちょうど城の堀みてぇな感じだな。そこがレバルフのスラム街ってわけさ」
「それは初めて来た時に気付いた。堀の下に人が住んでることに驚いたわ。上の街はすごくきれいで、とても栄えてる感じだったのに……」
ルートンの説明にアルナが哀しげに目を伏せる。
「あぁ。たしかにそこは間違っちゃいねぇ。けどな、上のやつらは下に俺たちが住んでるのを知ってて自分たちの出したゴミを捨ててきやがる。それだけじゃねぇ。スラム街の連中は上の街に許可なく立ち入ることも許されてねぇんだぜ。まっ、あいつらは俺たちのことを汚物って呼んでるくらいだ。それも当然の扱いなんだろうさ」
エルフェリオンは吐き捨てるように言う。
「……そんなのって、ひどい……」
アルナの声は微かに震えていた。
「んなことよりもだ。今のスラムを支配してるのはそのゲーブってやつなんだな? つまり、ルートンと会った時に路地から俺たちを見ていた爺さんはやつらの仲間だったってわけか」
エルフェリオンは話を本筋に戻す。
「なんだと!? なら、ここにいるのは危険だ!」
慌てて席を立つルートンだったが、エルフェリオンは落ち着き払っている。
「そう慌てるなよ。それに、もう遅ぇみてぇだぞ?」
ゆっくりとした動作で席を立ったエルフェリオンは、ボロ小屋の出入り口の扉を開けて外に出る。アルナとルートンがそれに続く。
「どうして、こんな所に……」
鼻を突く異臭に、眉根を寄せたアルナがぼやく。
「なんだよ、文句があるならついてこなければよかっただろ」
「なっ!? べつに文句を言ってるわけじゃ……」
エルフェリオンに言われて口ごもるアルナ。
「さて、と。俺の記憶に間違いがなければ、おまえはこのスラムでも指折りの実力者のひとりだったはずだ。それがどうしてゴミ溜めに?」
視線をルートンに戻したエルフェリオンが訊く。
「おまえがいなくなるのと同じタイミングで、入れ代わるようにやつが現れたんだ」
話し始めたルートンの表情は暗く、深刻な事態が起きていることを示している。
「やつってだけじゃわからねぇだろ」
エルフェリオンは当然の疑問を投げかける。
「ゲーブって野郎さ。あいつは『オイラはエルフェリオンとゼイナスを倒した。これからはレバルフのスラムはオイラが仕切る』ってのたまりやがったのさ」
「ねぇ、それって!」
ルートンの言葉に真っ先に反応したのはアルナだった。彼女の言いたいことを理解しているエルフェリオンは黙って頷く。
「邪龍の迷宮に来たのはゲーブって野郎の手下だな」
「そうか。やつの手下に会ったのか。それで、一応は確認しておきたいんだが、おまえとゼイナスがゲーブにやられたというのは本当なのか?」
真偽を確かめるべくエルフェリオンの目を真っ直ぐに見つめるルートン。
「けっ! 冗談はよせ。ゲーブなんてやつは知らねぇよ。こっちはそれとは別で死にかけてたさ」
エルフェリオンは、邪龍レヴィジアルとの戦いを思い出し、不機嫌そうに窓の外のゴミの山を見る。
「なんだって!? おまえが死にかけた!!? いったいなにがあった!?」
ルートンは取り乱して席を立つ。
「あんまり詳しく話すことはできねぇ。ただ、そこでゼイナスが死んだのは確かだ」
エルフェリオンの緑の瞳がルートンを映す。その表情は冗談や出任せを言っているものではないのは明らかだった。
「……そ、そうか……」
重苦しい空気と沈黙が漂う。それを打ち破ったのはアルナだ。
「ルートンさん、ゼイナスお兄ちゃんがスラムに住んでたって本当ですか!?」
アルナは、一縷の望みをかけるかのように身を乗り出して訊く。それに対してルートンは目を丸くする。
「お兄ちゃんだと!? まさか、えっ?」
またしても取り乱したルートンがエルフェリオンに視線を向ける。が、エルフェリオンはあえて目を合わせようとしない。
「そ、そうか。たしかにゼイナスはこのスラム街に住んでいた。オレたちにとっては仲間だ。しかし、そのゼイナスが死んだだと!? それは本当に間違いないのか!!?」
驚愕しつつも見つめてくるルートンにエルフェリオンは黙したまま首を縦に動かす。
「まさか、とても信じられん話だ。しかし、おまえが言うのなら事実なんだろうし、おまえがゼイナスを見殺しにするはずがない。よほどの事があったということか」
あえて詳細を訊くことをやめたルートンは、黙祷するように瞼を閉じて沈黙し、大きく息を吐いた。
「それで、そのゲーブって野郎がどうしたって?」
話を本題に戻したエルフェリオンにルートンは苦々しく話す。
「ゲーブは自分に服従しないやつは容赦なく殺しやがった! それこそ女・子供も関係なくだ!!」
「ちょっと待ってよ! そんなことをすればレバルフの警備隊が黙ってないでしょ!?」
憤りを感じたアルナが語気を荒くする。
「警備隊にとってはスラム街の連中なんて守る価値もないのさ。いや、警備隊だけじゃない。街の連中はスラムの住人を生物としてすら認識していないのかもな」
「……そんな、まさか……」
アルナは、エルフェリオンの口から飛び出した言葉に激しく動揺する。
「あんた、レバルフは初めてか。レバルフは街を囲むように深い溝が掘られている。ちょうど城の堀みてぇな感じだな。そこがレバルフのスラム街ってわけさ」
「それは初めて来た時に気付いた。堀の下に人が住んでることに驚いたわ。上の街はすごくきれいで、とても栄えてる感じだったのに……」
ルートンの説明にアルナが哀しげに目を伏せる。
「あぁ。たしかにそこは間違っちゃいねぇ。けどな、上のやつらは下に俺たちが住んでるのを知ってて自分たちの出したゴミを捨ててきやがる。それだけじゃねぇ。スラム街の連中は上の街に許可なく立ち入ることも許されてねぇんだぜ。まっ、あいつらは俺たちのことを汚物って呼んでるくらいだ。それも当然の扱いなんだろうさ」
エルフェリオンは吐き捨てるように言う。
「……そんなのって、ひどい……」
アルナの声は微かに震えていた。
「んなことよりもだ。今のスラムを支配してるのはそのゲーブってやつなんだな? つまり、ルートンと会った時に路地から俺たちを見ていた爺さんはやつらの仲間だったってわけか」
エルフェリオンは話を本筋に戻す。
「なんだと!? なら、ここにいるのは危険だ!」
慌てて席を立つルートンだったが、エルフェリオンは落ち着き払っている。
「そう慌てるなよ。それに、もう遅ぇみてぇだぞ?」
ゆっくりとした動作で席を立ったエルフェリオンは、ボロ小屋の出入り口の扉を開けて外に出る。アルナとルートンがそれに続く。
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