スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第3章 5年後のレバルフ

3―14 ルートンとドッズの奮戦①

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 スラム街の奥に酒場ルコアールはある。女主人でもある元冒険者のリゼッタはドッズとは旧知の仲ではあるが、スラム街の住人のなかには二人の過去を知る者はいない。

 酒場の前でたむろしていた男たちが乗り込んできた3人に気づき、立ち上がる。すでに武装しているあたり、エルフェリオンたちがやって来なかったとしても攻め込んできたのは間違いなかった。

 「7人、か。数は少ないな」

 素早く相手の人数を確認したエルフェリオンが呟く。

 「数はな。けど、さっきのザコどもとはわけが違うぞ。気を抜くなよ」
 「上等だ。それでなきゃおもしろくねぇ……おっと!」

 ルートンの警告に笑むエルフェリオンは、投げられたナイフを余裕でかわす。

 ガンッ

 「のわっ!?」

 標的を失ったナイフは、エルフェリオンの後方にいたドッズの鉄兜を直撃して落下する。

 (……鉄兜これを被ってきておいて正解だったわい……)

 ドッズは鉄兜をさすりながら冷や汗をにじませる。

 「ちっ、外したか!」

 ナイフを投げつけた男が顔をしかめて次のナイフを取り出す。が、地面を蹴って加速したエルフェリオンによって瞬時に間合いを詰められる。

 「おせぇ」
 「ぐぁっ!」

 エルフェリオンは防御や回避の暇も与えず邪龍剣で両断した。短く声を発した男は地面に倒れ、その体が跡形もなく消え去る。そんな異常な光景を目にした者たちは、恐怖から絶句する。

 「エルフェリオン、ここはオレとドッズに任せろ。その代わり中にいるゲーブは頼んだ」
 「……わかった」

 ルートンの提案に乗ったエルフェリオンはそのまま酒場ルコアールの中へと駆け込んだ。

◎★☆◎

 「暴れるぞ、ドッズ!」
 「ふん! ワイの足を引っ張るなよ?」

 エルフェリオンを見送ったドッズとルートンが残った6人に攻撃を仕掛ける。6人はエルフェリオンの抜きん出た強さをの当たりにして反応がわずかに遅れる。

 「らぁ!」

 ルートンの右拳をうなりをあげて突き出される。その標的となったのは小柄だが引き締まった体格の若い男だ。

 「くっ!……野郎!!」

 若い男はかがんでかわし、すかさずルートンの腹に鉄拳を見舞う。

 (かてぇ!?)

 ルートンの鍛え抜かれた体は若い男の反撃を受け止める。

 「反応はいいが、そんなヤワな攻撃じゃオレは倒せねぇぜ!!」

 ルートンのヒザ蹴りが男の顎を打つ。

 「がっ……ぐぅぅ!」

 ルートンの反撃をくらった男はうめき声をあげて尻もちをつく。

 「がはっ!!」

 男は立ち上がる前にルートンによって横っ面を蹴り飛ばされて地面でのびる。

 「やりやがったな!」

 男を蹴り飛ばした直後を狙って、手斧を持った男がルートンの背後から襲いかかる。

 「若いもんは血の気が多くていかんわい」

 その間に素早く割り込んだドッズは盾で手斧を弾き、ガラ空きとなった脇腹をメイスで殴りつけた。

 「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」

 メイスの一撃で肋骨ろっこつを何本か折られてしまった男は地面を転げ回る。

 (あと4人か。二人はエルフェリオンが先陣を切ってくれたおかげで楽に片付いたが……)

 ルートンは周囲を一瞥いちべつする。残ったのは、鉄棍を持った中年男、鞭を持った若い女、剣を持った若い男、大鎌を持った銀髪の若い女だ。

 「いきなりやってくれるじゃねぇか!」

 剣を持った男がルートンに斬りかかる。即座に迎撃態勢をとったルートンは後退して男の斬撃をかわす。

 「お返しだ!」

 反撃のストレートをくり出そうと右拳を固く握ったルートンだったが、背後から迫る殺気に気付く。

 ヒュンッ

 銀髪の女が大鎌をふるうのとルートンが横っ跳びに回避したのはほぼ同時だった。ルートンの耳を大鎌の刃がかすめていく。

 「あら、やるじゃないかい?」

 女は冷笑を浮かべる。

◎★☆◎

 「ルートン!」

 耳から血を流すルートンを気遣ってドッズが声をあげる。

 「他人を気遣ってる場合じゃねぇぞ!」

 中年男が頭上に掲げた鉄棍をおもいきり振り下ろす。

 ガンッ

 ドッズは咄嗟に盾で受け止め、すぐに反撃しようとメイスを強く握る。

 ビシッ

 「ぬぐっ!」

 ならず者の女がふるった鞭がドッズの顔面を打つ。

 「隙ありだぁ!」

 中年男が今度は鉄棍を横に一閃する。

 「ぬがっ!!」

 横っ面を鉄棍で殴られてよろめくドッズ。さすがに鉄兜だけでは防ぎきれるものではない。

 「ワイを……なめるなぁ!!」

 ドッズは両足をしっかりと踏ん張り、力任せにメイスを振り抜く。

 ブンッ

 中年男も女も飛び退いてかわしていたため、メイスは空を薙ぎ払う。

◎★☆◎

 (ちっ、ドッズのおっさんも苦戦中か)

 大鎌の女と剣士の男から距離をとりながら、ルートンは戦況を苦々しい思いで確認する。

 「おらおら、余所見よそみしてる場合か!?」

 剣士の男が片手剣を閃かせる。ルートンは、その剣閃を見極めて最小限の動きで回避して反撃のタイミングを見計らう。

 「はっ!」

 銀髪の女が短く声を発して大鎌をふるう。ルートンは大鎌の柄を左手で掴んで右手に握り拳をつくる。

 「ちぃ!」

 銀髪の女の顔に焦りがあらわれる。

 「させっかよ!」

 剣士の男が愛用の剣をルートンの首めがけてふるう。

 (今だ!)

 ルートンはニヤリと笑んだ。グイッと左腕の肘を引き、大鎌ごと銀髪の女を引き寄せて盾代わりにする。

 「なに!?」

 ルートンの狙いどおりに剣士の男がふるった剣は銀髪の女の背中を深く斬りつけてしまう。

 「あぁぁぁぁ!!」

 甲高い悲鳴が響く。銀髪の女の体が力なく地面に崩れ落ちた。味方を斬ってしまったことで剣士の男は狼狽ろうばいして大きな隙を生む。当然、ルートンはそこを見逃さない。両手足を使っての猛攻で一気に流れをつかむ。

 「くっ……そ!……」

 剣士の男は間合いをとろうと後方へと飛び退く。ルートンは逃がすまいと追う。

 「くるな!!」

 自棄やけになった剣士はがむしゃらに剣を振りかざす。しかし、くり出される斬撃がルートンを捉えることはない。

 「ふん!」

 短い声を発したルートンがボディブローを剣士に叩き込み、動きが止まった剣士に対してさらに回し蹴りを入れる。

 「げはぁ!!」

 強烈な回し蹴りは男の身体を軽々と吹っ飛ばした。

 「くそが!」

 どうにか着地を成功させた剣士の男が片手剣を構えてルートンを睨みつける。
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