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第4章 狙われた親子
4―5 父子の対面
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警備隊の詰所に到着したエルフェリオンたちは詰所の所長室へと通された。
「ラッケル君に関してはデルマ隊長に連絡が取れた。現在、捕らえた者たちを取り調べ中だが、一段落つけばすぐにでも迎えに来てくれるそうだから安心しなさい」
ザレル所長はラッケルの頭を撫でながら報告する。それからアルナに視線を移す。
「アルナさん、デルマ隊長は君にも話があるとおっしゃっていたよ。答えを聞きたいそうだ」
「わかりました」
デルマ隊長からの伝言を聞いたアルナが答える。
「ん? おまえもデルマの知り合いだったのか?」
「知り合いってほどでもないわよ。あたしが泊まってるホテルに訪ねて来たの。レバルフの警備隊に入ってほしいって頼まれたわ」
「それで、その答えを聞きたいって言ってるわけだな」
「そういうこと」
エルフェリオンとアルナの会話を聞いていたザレルが興味深そうにアルナを見る。
「ほほぉ! デルマ隊長自らがスカウトするとはよほど優秀なお嬢さんのようだね。たしかに、我がレバルフ警備隊は魔術師が特に不足している。いや、レバルフ警備隊というのは違うか。どこの警備隊も人員不足だからね」
「どういうことだよ?」
エルフェリオンが訊くと、ザレルは「ふぅ……」と息をつく。
「近年になって、世界中でモンスターが活発に動くようになってきたのだ。町や村、都市が襲撃されるなんてことも珍しくはない。さらに、世の中が乱れれば人心もまた乱れる。盗賊やら山賊の類が横行するようになってきた。それらに対処するため、町や村や都市の警備隊、国の騎士団や兵団が駆り出されるのだが、当然のことながら殉職する者も多くでるのだよ」
ザレルは沈痛な面持ちで答える。
ガチャリ
所長室に重い空気が漂うなか、扉が開いた。
「お父さん!」
黙って椅子に座っていたラッケルが入ってきた男デルマに駆け寄って抱きつく。
「ラッケル!」
デルマは我が子を抱きしめ、その無事に胸を撫で下ろす。それからエルフェリオンに視線を流した。
「君はたしか……エルフェリオン君だったかな?」
エルフェリオンの姿に見覚えがあったデルマは確認する。
「ああ。まさか、その子供があんたの息子だったとはな」
「エルフェリオン兄ちゃんがボクのことを守ってくれたんだよ」
ラッケルがエルフェリオンの活躍を証言する。それを受け、デルマはエルフェリオンに対して深々と頭を下げた。
「そうか。わたしの大切な息子を守ってくれたこと父として心より感謝する」
「べつに大したことはしてねぇよ。成り行きで助けただけだ。それに、おかげで探していたアルナに会えたしな」
デルマは、エルフェリオンの言葉を受けて今度はアルナへと視線を転じる。
「エルフェリオン君もアルナ君と知り合いだったとは驚いたよ……それで、答えは決まったかね?」
「すみません。まだ……」
アルナが申し訳なさげに俯く。
「いや。答えをだすのを急がなくてもいい。ゆっくりと考えて後悔のない答えを出してくれたまえ」
「ありがとうございます」
「……さて、ラッケルを連れ去ろうとした連中のことについてだが全力で捜査中だ。詳しいことはわかってはいないが、目撃者の話からも今回の誘拐未遂には相当な人数が使われたようだね」
デルマが話題をラッケル誘拐未遂事件へと転じる。
「ああ、それは間違いない。警備隊が駆けつけるころには俺が倒したやつらがのびてたはずだが、そいつらからは情報を聞き出せなかったのか?」
エルフェリオンに訊かれ、デルマは顔を曇らせる。
「それが、たしかにその者たちを捕縛したのだが、何も覚えていないらしいのだよ」
「んなわけねぇだろ。しらを切ってるだけなんじゃねぇのかよ?」
「むろん、我々もそう思ったのだが……どうにも嘘をついている素振りがなくてね」
デルマは深いため息をつく。
「ねぇ、エルフェリオン。その犯人たちって意識とかあった?」
「あん?」
アルナからの質問にエルフェリオンは眉をひそめる。
「つまり、襲ってきた人たちは自分の意思で行動してたのかってことよ」
「ああ。少なくとも俺にはだれかに操られているようには見えなかったぜ」
エルフェリオンの返答を聞いたアルナはデルマのほうを向く。
「犯人たちが何も憶えていないと証言しているということは、催眠術にかけられていたのかもしれません。しかも、自我があったのなら単なる催眠術ではなく魔術的なものの可能性が高いと思われます」
「魔術的な要素を含んだ催眠術、ということかね?」
「はい。あまり知られていませんが魔力を用いた催眠術は存在します」
アルナの見解を聞いたデルマは考えを巡らせる。
「アルナ君、できれば捜査に協力してもらえないだろうか。本来、一般人である君にこんなことを依頼するのは間違っているかもしれんのだが……」
「わかりました。あたしで良ければ協力させていただきます」
「ありがとう! では、アルナ君の安全を確保するために身辺警護の者を……」
「あの、ちょっと待ってください」
謝意を伝え、身辺警護の手配をしようとするデルマをアルナが制止する。
「あたしの護衛に隊員の方を割いていただかなくても大丈夫です。あたしの護衛は……」
アルナは、そこまで言ってエルフェリオンの手を取り、ニコリと笑う。
「お願いね、エルフェリオン」
「へ? 冗談だよな?」
「あら、あたしは本気よ」
顔を引き攣らせているエルフェリオンにアルナは満面の笑顔で返すのだった。
「ラッケル君に関してはデルマ隊長に連絡が取れた。現在、捕らえた者たちを取り調べ中だが、一段落つけばすぐにでも迎えに来てくれるそうだから安心しなさい」
ザレル所長はラッケルの頭を撫でながら報告する。それからアルナに視線を移す。
「アルナさん、デルマ隊長は君にも話があるとおっしゃっていたよ。答えを聞きたいそうだ」
「わかりました」
デルマ隊長からの伝言を聞いたアルナが答える。
「ん? おまえもデルマの知り合いだったのか?」
「知り合いってほどでもないわよ。あたしが泊まってるホテルに訪ねて来たの。レバルフの警備隊に入ってほしいって頼まれたわ」
「それで、その答えを聞きたいって言ってるわけだな」
「そういうこと」
エルフェリオンとアルナの会話を聞いていたザレルが興味深そうにアルナを見る。
「ほほぉ! デルマ隊長自らがスカウトするとはよほど優秀なお嬢さんのようだね。たしかに、我がレバルフ警備隊は魔術師が特に不足している。いや、レバルフ警備隊というのは違うか。どこの警備隊も人員不足だからね」
「どういうことだよ?」
エルフェリオンが訊くと、ザレルは「ふぅ……」と息をつく。
「近年になって、世界中でモンスターが活発に動くようになってきたのだ。町や村、都市が襲撃されるなんてことも珍しくはない。さらに、世の中が乱れれば人心もまた乱れる。盗賊やら山賊の類が横行するようになってきた。それらに対処するため、町や村や都市の警備隊、国の騎士団や兵団が駆り出されるのだが、当然のことながら殉職する者も多くでるのだよ」
ザレルは沈痛な面持ちで答える。
ガチャリ
所長室に重い空気が漂うなか、扉が開いた。
「お父さん!」
黙って椅子に座っていたラッケルが入ってきた男デルマに駆け寄って抱きつく。
「ラッケル!」
デルマは我が子を抱きしめ、その無事に胸を撫で下ろす。それからエルフェリオンに視線を流した。
「君はたしか……エルフェリオン君だったかな?」
エルフェリオンの姿に見覚えがあったデルマは確認する。
「ああ。まさか、その子供があんたの息子だったとはな」
「エルフェリオン兄ちゃんがボクのことを守ってくれたんだよ」
ラッケルがエルフェリオンの活躍を証言する。それを受け、デルマはエルフェリオンに対して深々と頭を下げた。
「そうか。わたしの大切な息子を守ってくれたこと父として心より感謝する」
「べつに大したことはしてねぇよ。成り行きで助けただけだ。それに、おかげで探していたアルナに会えたしな」
デルマは、エルフェリオンの言葉を受けて今度はアルナへと視線を転じる。
「エルフェリオン君もアルナ君と知り合いだったとは驚いたよ……それで、答えは決まったかね?」
「すみません。まだ……」
アルナが申し訳なさげに俯く。
「いや。答えをだすのを急がなくてもいい。ゆっくりと考えて後悔のない答えを出してくれたまえ」
「ありがとうございます」
「……さて、ラッケルを連れ去ろうとした連中のことについてだが全力で捜査中だ。詳しいことはわかってはいないが、目撃者の話からも今回の誘拐未遂には相当な人数が使われたようだね」
デルマが話題をラッケル誘拐未遂事件へと転じる。
「ああ、それは間違いない。警備隊が駆けつけるころには俺が倒したやつらがのびてたはずだが、そいつらからは情報を聞き出せなかったのか?」
エルフェリオンに訊かれ、デルマは顔を曇らせる。
「それが、たしかにその者たちを捕縛したのだが、何も覚えていないらしいのだよ」
「んなわけねぇだろ。しらを切ってるだけなんじゃねぇのかよ?」
「むろん、我々もそう思ったのだが……どうにも嘘をついている素振りがなくてね」
デルマは深いため息をつく。
「ねぇ、エルフェリオン。その犯人たちって意識とかあった?」
「あん?」
アルナからの質問にエルフェリオンは眉をひそめる。
「つまり、襲ってきた人たちは自分の意思で行動してたのかってことよ」
「ああ。少なくとも俺にはだれかに操られているようには見えなかったぜ」
エルフェリオンの返答を聞いたアルナはデルマのほうを向く。
「犯人たちが何も憶えていないと証言しているということは、催眠術にかけられていたのかもしれません。しかも、自我があったのなら単なる催眠術ではなく魔術的なものの可能性が高いと思われます」
「魔術的な要素を含んだ催眠術、ということかね?」
「はい。あまり知られていませんが魔力を用いた催眠術は存在します」
アルナの見解を聞いたデルマは考えを巡らせる。
「アルナ君、できれば捜査に協力してもらえないだろうか。本来、一般人である君にこんなことを依頼するのは間違っているかもしれんのだが……」
「わかりました。あたしで良ければ協力させていただきます」
「ありがとう! では、アルナ君の安全を確保するために身辺警護の者を……」
「あの、ちょっと待ってください」
謝意を伝え、身辺警護の手配をしようとするデルマをアルナが制止する。
「あたしの護衛に隊員の方を割いていただかなくても大丈夫です。あたしの護衛は……」
アルナは、そこまで言ってエルフェリオンの手を取り、ニコリと笑う。
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