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第6章 新米冒険者の日々
6―1 ハオウとの別れ
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野営地からティクの町を目指して街道を東へと進んだエルフェリオンたちの行く手にモンスター対策の防壁に囲まれた町が見えてきた。
「見えてきたわ、あれがティクの町よ!」
前方を指さしたアルナが声を弾ませる。だが、エルフェリオンは浮かない顔をしていた。
「なぁ、俺は身分証の類は持ってねぇぞ? 本当にどうにかなるんだろうな?」
この事については、エルフェリオンは、ここに来るまでにアルナたちにも話しておいた。スラム育ちのエルフェリオンに身分証が発行されているはずなどない。だが、アルナからの返答は「大丈夫よ」の一言だった。
「なぁに弱気になってんのよ、らしくないわね。あんたのことだから、どうしようもなかったら忍び込むか強行突破するつもりなんじゃないの?」
「まぁな」
アルナの指摘にエルフェリオンは肯定を返す。
「あんたねぇ、少しは否定しなさいよ」
アルナは表情を引き攣らせる。
「カッカッカッカッ! それはまた大胆不敵で愉快じゃぞい!」
「笑い事じゃありません!」
愉しげに笑うハオウにアルナがツッコむ。
「じゃがのぉ、アルナ嬢ちゃんにはどんな秘策があるんじゃぞい? 身分証の持たぬ者がゲートを通過できるとすれば、エルフェリオンを奴隷だと説明する気かの?」
「奴隷だと? 俺は拒否するからな!?」
エルフェリオンの眼が鋭く光る。
「違うわよ。だいたい、奴隷だっていうなら体のどこかにその証である奴隷紋を彫らなきゃダメじゃない。そんな嘘なんてすぐにバレるだけよ」
「たしかに。では、どうする?」
ハオウから問われたアルナはニコリと笑顔を見せる。
「いいから、いいから。あたしに任せておいて」
自信たっぷりのアルナを先頭にエルフェリオンたちは防壁に設けられた出入口へと足を運ぶのだった。
◎★☆◎
「次はおまえたちの番だ」
ゲートの門番がアルナたちに手を差し出して身分証の提示を求める。アルナとハオウはそらぞれの身分証を渡す。
「彼の身分証はないわ。でも、あたしが保証するから通してちょうだい」
「なんだと? おまえになんの権利があって……えっ!?」
アルナの身分証を確認した門番が驚愕する。
「ジェレドラン魔学院を首席卒業で……大魔術師ヴァーミル様のお弟子様!? それに、そちらの方は……」
「ワシのことは身分証に記されておるとおりじゃぞい」
門番がハオウに視線を向ける。だが、ハオウは門番の言葉を遮る。
「失礼いたしました! そちらの方に関しましては身分証がなくともお通ししても問題ありません。どうぞ、お通りくださいませ」
アルナとハオウに身分証を返却した門番が背筋を伸ばして敬礼する。
◎★☆◎
「じいさん、あんたって何者なんだよ?」
ゲートを無事に通り抜けたエルフェリオンがハオウに訊く。それはアルナも気になっていたらしく、興味ありげに二人の会話に聞き耳を立てていた。
「カッカッカッカッ! ただの老いぼれじゃぞい。ではな、少しばかり寂しくはあるが、ここでお別れじゃぞい。縁があればまた会えるじゃろう。二人とも達者でな!」
「ああ、またな」
「ハオウさんもお元気で!」
エルフェリオンとアルナに別れを告げ、ハオウはティクの人混みに消えていった。
「見えてきたわ、あれがティクの町よ!」
前方を指さしたアルナが声を弾ませる。だが、エルフェリオンは浮かない顔をしていた。
「なぁ、俺は身分証の類は持ってねぇぞ? 本当にどうにかなるんだろうな?」
この事については、エルフェリオンは、ここに来るまでにアルナたちにも話しておいた。スラム育ちのエルフェリオンに身分証が発行されているはずなどない。だが、アルナからの返答は「大丈夫よ」の一言だった。
「なぁに弱気になってんのよ、らしくないわね。あんたのことだから、どうしようもなかったら忍び込むか強行突破するつもりなんじゃないの?」
「まぁな」
アルナの指摘にエルフェリオンは肯定を返す。
「あんたねぇ、少しは否定しなさいよ」
アルナは表情を引き攣らせる。
「カッカッカッカッ! それはまた大胆不敵で愉快じゃぞい!」
「笑い事じゃありません!」
愉しげに笑うハオウにアルナがツッコむ。
「じゃがのぉ、アルナ嬢ちゃんにはどんな秘策があるんじゃぞい? 身分証の持たぬ者がゲートを通過できるとすれば、エルフェリオンを奴隷だと説明する気かの?」
「奴隷だと? 俺は拒否するからな!?」
エルフェリオンの眼が鋭く光る。
「違うわよ。だいたい、奴隷だっていうなら体のどこかにその証である奴隷紋を彫らなきゃダメじゃない。そんな嘘なんてすぐにバレるだけよ」
「たしかに。では、どうする?」
ハオウから問われたアルナはニコリと笑顔を見せる。
「いいから、いいから。あたしに任せておいて」
自信たっぷりのアルナを先頭にエルフェリオンたちは防壁に設けられた出入口へと足を運ぶのだった。
◎★☆◎
「次はおまえたちの番だ」
ゲートの門番がアルナたちに手を差し出して身分証の提示を求める。アルナとハオウはそらぞれの身分証を渡す。
「彼の身分証はないわ。でも、あたしが保証するから通してちょうだい」
「なんだと? おまえになんの権利があって……えっ!?」
アルナの身分証を確認した門番が驚愕する。
「ジェレドラン魔学院を首席卒業で……大魔術師ヴァーミル様のお弟子様!? それに、そちらの方は……」
「ワシのことは身分証に記されておるとおりじゃぞい」
門番がハオウに視線を向ける。だが、ハオウは門番の言葉を遮る。
「失礼いたしました! そちらの方に関しましては身分証がなくともお通ししても問題ありません。どうぞ、お通りくださいませ」
アルナとハオウに身分証を返却した門番が背筋を伸ばして敬礼する。
◎★☆◎
「じいさん、あんたって何者なんだよ?」
ゲートを無事に通り抜けたエルフェリオンがハオウに訊く。それはアルナも気になっていたらしく、興味ありげに二人の会話に聞き耳を立てていた。
「カッカッカッカッ! ただの老いぼれじゃぞい。ではな、少しばかり寂しくはあるが、ここでお別れじゃぞい。縁があればまた会えるじゃろう。二人とも達者でな!」
「ああ、またな」
「ハオウさんもお元気で!」
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