スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第6章 新米冒険者の日々

6―5 冒険パーティ【放浪者】

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 「あはははは! ギルドマスターにコテンパンにされちゃったみたいね?」

 テストに落ちたエルフェリオンとアルナは気を取り直し、冒険者ギルドの受付へとやってきた。だが、受付嬢が明るく笑う。

 「あたしたちがテストを受けたって、どうして知ってるの?」

 アルナが脳裏に浮かんだ疑問を言葉にする。

 「ギルドマスターが裏の演習場に冒険者さんを連れて行くのはテストの時だもん。だけど、ギルドマスターだって誰彼構わずテストを受けさせてるわけじゃないわ。つまり、テストをしてもらえただけ見込みはあったってこと!」

 受付嬢はパチリとウインクして笑顔を見せる。

 「けっ! あの野郎、なぁにが経験を積んで自信がついたら再挑戦だ」

 エルフェリオンが不機嫌そうに吐き捨てる。だが、受付嬢は少し驚いたように二人を見つめる。

 「へぇぇ、すごいじゃない! 今までテストを受けた人たちで再挑戦を言われたのは初めてかも……」
 「んなこたぁ、どうだっていいさ。とにかく今は経験を積んでやるまでだ」

 エルフェリオンの眼に強い意志が宿る。

 「というわけで、なにか依頼を受けたいの」

 アルナが言うと受付嬢は依頼書のファイルをカウンターの奥の棚から抜き取って戻ってきた。

 「二人は登録したての駆け出しだから、冒険者ランクは最下級のC級からね。で、C級の依頼だとこんなのがあるけど?」

 受付嬢はファイルをカウンターの上に置く。

 「C級の依頼でもけっこう多いのね」
 「まぁね。C級はいわゆる雑用ばかりだけど需要はけっこうあるのよ? それと、ランクを早く上げたいのならパーティを組むことをお勧めするわ」
 「あん? なんでだよ?」

 エルフェリオンに訊かれた受付嬢は「ふっふっふ」と笑い声を漏らす。

 「わかってないわね、エルフェリオン君。例えば、あなたたちがパーティを組んだとするわね。そして、それぞれが別の依頼を達成すれば、パーティの実績として一気に2つの実績を得ることができるってわけ! もちろん、個人のランクとパーティのランクは別なんだけど、パーティに所属していても個人の実績も記録されるから安心してね」

 受付嬢の説明にアルナが大きく頷く。

 「なるほどね! それなら予想よりもずっと早くランクを上げることができそうね」
 「ただし、デメリットもあるわよ。所属しているメンバーが問題を起こしたりした場合、パーティとしての責任を負わされることがあるわ」
 「それはそうよね……うーん……」

 受付嬢から説明を受けたアルナがエルフェリオンの顔をチラリと見る。

 「おい、俺が何か問題を起こすとでも思っていそうだな?」

 エルフェリオンが不快感をにじませた瞳でキッと見つめ返す。

 「あ~ら、そう聞こえたなら、ごめんなさい」

 アルナはフフンと鼻を鳴らす。

 その様子に受付嬢はクスクスと笑う。

 「あなたたちって本当に仲がいいのね。で、どうするの? 依頼を受ける前にパーティ登録しちゃう?」

 「あたしは別にどっちだっていいわよ?」
 「勝手にすればいいだろ」

 意見を求めるアルナに素っ気ない返事を返すエルフェリオン。

 「じゃあ、お願いするわ」
 「了解。ということで、二人の冒険者カードを預からせてもらうわね。手続きをしてる間にどの依頼を受けるかとパーティ名を決めておいて」

 言い残し、受付嬢はカウンターの奥へと向かう。

 ◎★☆◎

 「お待たせ! あとはここにパーティ名を記入してくれるだけで登録完了よ。もう決まった? まだだったら、後日でもいいんだけど……」

 受付嬢は1枚の書類を差し出して空欄を指差す

 「決まってるわ。というか、こいつに相談したら『名前なんざ、なんでもいい』なんて言うのよ、まったく!」

 愚痴りつつ、空欄にペンをはしらせるアルナ。

 「オッケー。これで二人は冒険パーティ放浪者ノマドよ。それで、受ける依頼は決まった?」

 受付嬢に訊かれ、エルフェリオンとアルナはそれぞれが選んだ依頼書を差し出す。

 「エルフェリオン君が引っ越し作業の手伝い、アルナちゃんが買い出しね。わかった、受理するからサインしてちょうだい」

 受付嬢はエルフェリオンとアルナから依頼書にサインを受け取り、最後に押印する。

 「これでよしっと。それじゃ、がんばってね!」

 受付嬢の笑顔に見送られてカウンターを離れる放浪者ノマドの背後から受付嬢が再び声をかける。

 「あっ、そうだ! アタシはラフィカっていうの!」

 それに対して、アルナは振り返って軽く会釈し、エルフェリオンは片手をあげるのみだった。
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