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第6章 新米冒険者の日々
6―4 テスト
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冒険者ギルドのギルドマスターであるルアークに連れられてやってきたのは、ギルドの裏にある四方を高い壁に囲まれた広場だった。
「君たち二人には、ここでボクと戦ってもらいます」
振り返り、エルフェリオンとアルナの顔をじっと見つめるルアークの表情は真剣そのものであり、冗談を言っているようには思えなかった。
「あんたひとりで俺とアルナを相手にしようってのか?」
エルフェリオンからの問いかけにルアークは静かに頷き、腰の鞘から長剣をスラリと抜く。
「ち、ちょっと待ってください! いくらなんでも無茶です!」
アルナはルアークの身を案じる。ルアークとて、ギルドマスターという役職に就いているからには相当な実力者なのは疑いようがない。しかし、アルナとエルフェリオンの二人を同時に相手するのは無謀であるように思えたのだ。
「ご心配にはおよびません。一線を退いたとはいえ、今でもこの町の冒険者のなかでは最強であるという自負があります。どうぞ、遠慮なくかかってきてください」
「ほぉ。大きく出たじゃないか? 後悔すんじゃねぇぞ。こい、レヴィジアル!」
エルフェリオンは左手をひらき、相棒である邪龍剣を召喚する。
「へぇ、召喚武器か。おもしろいものを使うんですね」
ルアークは興味深げに邪龍剣レヴィジアルを見る。
「いくぜ!」
地面を強く蹴ったエルフェリオンが放たれた矢の如く駆ける。
「せやぁぁぁぁぁっ!!」
エルフェリオンがくり出した連続斬りが幾筋もの剣閃を描いては虚しく空を斬る。
(ちっ!)
エルフェリオンは、涼やかな顔で難なく躱すルアークに内心で舌を打つ。
「なるほど。エルフェリオンさんの剣筋からは、荒削りではあるものの充分な伸び代を感じます。修練すればきっと相当な使い手になれることでしょう。ですが、現時点ではまだまだですね」
ルアークはエルフェリオンの攻撃の一瞬の隙をついて邪龍剣を弾く。
「くっ!」
エルフェリオンはルアークからの反撃を警戒して飛び退く。
「反応も遅いですね」
ルアークは、間合いをとろうとするエルフェリオンに向かって大きく踏み込み、鳩尾に左拳をめり込ませる。
「ぐっ!」
短いうめき声がエルフェリオンの口から漏れる。
「バーニング・ショット!」
アルナが攻撃魔術を詠唱発動する。ルアークに向けられた聖杖から火炎弾が勢いよく飛び出す。だが、ルアークは「ふっ」と小さく笑うと長剣を閃かせて火炎弾を切り払う。
「アルナさんは魔術師として非凡な才能をお持ちのようですね。狙いは正確ですし、威力もそこそこです。しかし、聖杖を向けてから撃つまでに時間をかけ過ぎています。それに、先ほどの火炎弾は弾速が遅いですし、強敵を相手にするには厳しいでしょう」
「だったら! バーニング・ガトリング!!」
ルアークから酷評を受けたアルナが火炎弾を連射する。
「バーニング・ガトリング!」
ルアークも左手をかざしてバーニング・ガトリングを放つ。
いくつもの火炎弾が激しくぶつかり合い、周囲に火花をまき散らして火の粉が舞い上がる。だが、ルアークが放ったバーニング・ガトリングはアルナのそれよりも威力・弾数・弾速のどれをとっても上回っていた。
「あぁぁぁぁぁぁ!」
火炎弾を全身に浴びたアルナが悲鳴をあげる。
「うっ……くっ……ヒール!」
身体中に火傷を負わされたアルナは回復魔術を自身に施す。淡い黄緑色の光が火傷を跡形もなく消し去った。
「野郎!」
エルフェリオンは邪龍剣を邪龍槍に変形させて斬りかかる。
「これは驚きました! まさか、形状変化する召喚武器とは聞いたことすらありませんでしたよ」
邪龍槍を長剣で受け止めたルアークがレヴィジアルに興味を示す。
(こいつ、邪龍槍の斬撃を受け止めた? だが、このまま押し切ってやる!)
片手で扱える邪龍剣ならばともかく、両手で扱う邪龍槍を使えば力負けしないと確信していたエルフェリオンは信じ難い思いであった。それを見透かしたルアークが口角を僅かに上げる。
「確かになかなか重い攻撃ですね。しかし、ただの力押しではボクは倒せませんよ」
ルアークは長剣を滑らせて邪龍槍を受け流し、同時にエルフェリオンの横をすり抜けるように移動して背後をとる。
「ちぃ!」
舌打ちしたエルフェリオンが体を半回転させようと動いた瞬間、首筋にピタリと長剣の刃が添えられる。
「エルフェリオン、退いて!」
ルアークの背後へ回り込んだアルナの声が飛ぶ。ルアークの意識がほんの一瞬だけ逸れた隙にエルフェリオンは前方へと身を躍らせた。
「ライトニング・ウィップ!」
白い魔力を身にまとったアルナが振りかざした聖杖から稲妻が鞭のように空中を舞う。が、後方へと宙返りしたルアークは稲妻の鞭とアルナ自身を飛び越えてしまう。
(うそ!?)
「エア・ショット!」
ルアークが空中からお返しとばかりに左手から圧縮された空気弾を撃つ。
「うぅっ!」
痛みと衝撃に苦悶の表情を浮かべたアルナが地面に突っ伏す。
「うぉぉぉ!!」
邪龍槍を手にエルフェリオンがルアークの着地点へと駆ける。
「エア・ガトリング」
ルアークはアルナに向けていた左手をエルフェリオンに照準を合わせるようにスッと動かし、圧縮された無数の空気弾を発射した。
「ぐぅぅぅぅぅ!」
黒い魔力をまとって防御姿勢をとったエルフェリオンだったが、耐えきれずに吹っ飛ぶ。
「テストはここまでとします。お疲れ様でした。結果ですが、君たちではお願いしたかった依頼をこなせそうにありませんので不合格とさせていただきます」
「ふざけるな! どんな依頼をするつもりだったのかは知らねぇが、俺たちはまだやられていねぇ!!」
結果に異議を申し立てるエルフェリオン。だが、ルアークは首を横にふる。
「お二人も気付いておられるのではないですか? もしも、ボクがその気になれば既に決着はついていました。まずはギルドの他の依頼をこなして経験を積んでください。お二人とも素晴らしい素質をお持ちなので、努力次第でかなり成長できるはず。そして、自分の実力がボクを認めさせるほどであると自信がついたなら、再び挑んでください。もっとも、その時にはだれかが依頼を片付けてしまってるかもしれませんが……」
ルアークは長剣を鞘に収め、軽く一礼して立ち去った。
「君たち二人には、ここでボクと戦ってもらいます」
振り返り、エルフェリオンとアルナの顔をじっと見つめるルアークの表情は真剣そのものであり、冗談を言っているようには思えなかった。
「あんたひとりで俺とアルナを相手にしようってのか?」
エルフェリオンからの問いかけにルアークは静かに頷き、腰の鞘から長剣をスラリと抜く。
「ち、ちょっと待ってください! いくらなんでも無茶です!」
アルナはルアークの身を案じる。ルアークとて、ギルドマスターという役職に就いているからには相当な実力者なのは疑いようがない。しかし、アルナとエルフェリオンの二人を同時に相手するのは無謀であるように思えたのだ。
「ご心配にはおよびません。一線を退いたとはいえ、今でもこの町の冒険者のなかでは最強であるという自負があります。どうぞ、遠慮なくかかってきてください」
「ほぉ。大きく出たじゃないか? 後悔すんじゃねぇぞ。こい、レヴィジアル!」
エルフェリオンは左手をひらき、相棒である邪龍剣を召喚する。
「へぇ、召喚武器か。おもしろいものを使うんですね」
ルアークは興味深げに邪龍剣レヴィジアルを見る。
「いくぜ!」
地面を強く蹴ったエルフェリオンが放たれた矢の如く駆ける。
「せやぁぁぁぁぁっ!!」
エルフェリオンがくり出した連続斬りが幾筋もの剣閃を描いては虚しく空を斬る。
(ちっ!)
エルフェリオンは、涼やかな顔で難なく躱すルアークに内心で舌を打つ。
「なるほど。エルフェリオンさんの剣筋からは、荒削りではあるものの充分な伸び代を感じます。修練すればきっと相当な使い手になれることでしょう。ですが、現時点ではまだまだですね」
ルアークはエルフェリオンの攻撃の一瞬の隙をついて邪龍剣を弾く。
「くっ!」
エルフェリオンはルアークからの反撃を警戒して飛び退く。
「反応も遅いですね」
ルアークは、間合いをとろうとするエルフェリオンに向かって大きく踏み込み、鳩尾に左拳をめり込ませる。
「ぐっ!」
短いうめき声がエルフェリオンの口から漏れる。
「バーニング・ショット!」
アルナが攻撃魔術を詠唱発動する。ルアークに向けられた聖杖から火炎弾が勢いよく飛び出す。だが、ルアークは「ふっ」と小さく笑うと長剣を閃かせて火炎弾を切り払う。
「アルナさんは魔術師として非凡な才能をお持ちのようですね。狙いは正確ですし、威力もそこそこです。しかし、聖杖を向けてから撃つまでに時間をかけ過ぎています。それに、先ほどの火炎弾は弾速が遅いですし、強敵を相手にするには厳しいでしょう」
「だったら! バーニング・ガトリング!!」
ルアークから酷評を受けたアルナが火炎弾を連射する。
「バーニング・ガトリング!」
ルアークも左手をかざしてバーニング・ガトリングを放つ。
いくつもの火炎弾が激しくぶつかり合い、周囲に火花をまき散らして火の粉が舞い上がる。だが、ルアークが放ったバーニング・ガトリングはアルナのそれよりも威力・弾数・弾速のどれをとっても上回っていた。
「あぁぁぁぁぁぁ!」
火炎弾を全身に浴びたアルナが悲鳴をあげる。
「うっ……くっ……ヒール!」
身体中に火傷を負わされたアルナは回復魔術を自身に施す。淡い黄緑色の光が火傷を跡形もなく消し去った。
「野郎!」
エルフェリオンは邪龍剣を邪龍槍に変形させて斬りかかる。
「これは驚きました! まさか、形状変化する召喚武器とは聞いたことすらありませんでしたよ」
邪龍槍を長剣で受け止めたルアークがレヴィジアルに興味を示す。
(こいつ、邪龍槍の斬撃を受け止めた? だが、このまま押し切ってやる!)
片手で扱える邪龍剣ならばともかく、両手で扱う邪龍槍を使えば力負けしないと確信していたエルフェリオンは信じ難い思いであった。それを見透かしたルアークが口角を僅かに上げる。
「確かになかなか重い攻撃ですね。しかし、ただの力押しではボクは倒せませんよ」
ルアークは長剣を滑らせて邪龍槍を受け流し、同時にエルフェリオンの横をすり抜けるように移動して背後をとる。
「ちぃ!」
舌打ちしたエルフェリオンが体を半回転させようと動いた瞬間、首筋にピタリと長剣の刃が添えられる。
「エルフェリオン、退いて!」
ルアークの背後へ回り込んだアルナの声が飛ぶ。ルアークの意識がほんの一瞬だけ逸れた隙にエルフェリオンは前方へと身を躍らせた。
「ライトニング・ウィップ!」
白い魔力を身にまとったアルナが振りかざした聖杖から稲妻が鞭のように空中を舞う。が、後方へと宙返りしたルアークは稲妻の鞭とアルナ自身を飛び越えてしまう。
(うそ!?)
「エア・ショット!」
ルアークが空中からお返しとばかりに左手から圧縮された空気弾を撃つ。
「うぅっ!」
痛みと衝撃に苦悶の表情を浮かべたアルナが地面に突っ伏す。
「うぉぉぉ!!」
邪龍槍を手にエルフェリオンがルアークの着地点へと駆ける。
「エア・ガトリング」
ルアークはアルナに向けていた左手をエルフェリオンに照準を合わせるようにスッと動かし、圧縮された無数の空気弾を発射した。
「ぐぅぅぅぅぅ!」
黒い魔力をまとって防御姿勢をとったエルフェリオンだったが、耐えきれずに吹っ飛ぶ。
「テストはここまでとします。お疲れ様でした。結果ですが、君たちではお願いしたかった依頼をこなせそうにありませんので不合格とさせていただきます」
「ふざけるな! どんな依頼をするつもりだったのかは知らねぇが、俺たちはまだやられていねぇ!!」
結果に異議を申し立てるエルフェリオン。だが、ルアークは首を横にふる。
「お二人も気付いておられるのではないですか? もしも、ボクがその気になれば既に決着はついていました。まずはギルドの他の依頼をこなして経験を積んでください。お二人とも素晴らしい素質をお持ちなので、努力次第でかなり成長できるはず。そして、自分の実力がボクを認めさせるほどであると自信がついたなら、再び挑んでください。もっとも、その時にはだれかが依頼を片付けてしまってるかもしれませんが……」
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