スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第6章 新米冒険者の日々

6―16 アルナは参加? 不参加?

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 定宿に戻ったエルフェリオンは、パートナーのアルナに演習場での出来事を話す。

 「野盗集団レイゼジルの殲滅せんめつ依頼ですって!?」

 使用している客室で机に向かっていたアルナが驚嘆の声をあげる。

 「そんなに驚くことはないだろ?」

 平然と返す青髪の青年にアルナは呆れたような表情となった。

 「普通は驚くわよ、バカ」
 「そんで、おまえはどうするんだ?」

 額に手を当てているアルナにかまうことなく、エルフェリオンが訊く。

 「悪いけど、あたしはパスさせてもらうわ」
 「だろうな。相手が悪人どもとはいえ人殺しをするとなると、そう言うと思ってたよ」

 エルフェリオンは自分の予想が正しかったと確信する。

 「勘違いしないで。理由はそれだけじゃないわよ? あたしは別件で動けないの!」
 「別件?」

 聞き返すエルフェリオンにアルナは頷く。

 「そ! 実は今、ある資産家の娘さんの家庭教師を引き受けてるの。もう少しで終わるんだけど、それまでこの町を離れることはしたくないのよね。なんだか途中で投げ出すみたいじゃない?」
 「……なんだよ?」

 ジッと見つめてくるアルナの視線にエルフェリオンは問う。

 「あたしさ、あんたの言うことも理解はしてるわよ。モンスターの命は絶つくせに人間は殺したくないのはおかしいっていうのも一理はあると思うわ。けど、それでも……」

 そこまで言って、アルナは視線を机の上に落とす。

 「まぁ、モンスターを生物と扱うかどうかは個人の考えによるがな。あいつらの最後は霧になって跡形もなく消えちまう。俺は、それでも自我があるからには生命体だと認識しているだけだ」
 「そうね。邪龍の迷宮ラビリンスにいたモンスターにしてみれば、あたしが侵略者だったんじゃないかって、あんたに言われて気付かされたわ。そんなこと考えもしなかった……」

 肩を落とすアルナからは自責の念が感じられた。

 「たしかに言ったが、それを撃退したおまえが悪というわけでもないだろ。そうしなければ殺られてたのはおまえのほうだからな」
 「……難しいところね……」
 「要するに、俺たちは何かを犠牲にして生きているってことだろ。それはある意味ではしかたねぇことだ」
 「……うん……」

 暫しの沈黙が訪れる。

 「なんにせよ、おまえにはおまえのやることがあるならそれでいいさ。俺はザラギスからの誘いを受ける。数日は戻れないそうだ」
 「わかった。気をつけるのよ?」
 「けっ、子供ガキじゃあるまいし、心配いらねぇよ」
 「はいはい、素直じゃないわね。そういうところが子供なのよ」
 「るせぇ。とにかく、そういうわけだから俺はもう寝るからな」
 「うん、おやすみ」

 アルナはきびすを返して出ていくエルフェリオンを見送った。
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