スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第6章 新米冒険者の日々

6―15 ザラギスとの再戦②

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 ゴクリ……

 本気となったザラギスに気圧けおされたエルフェリオンがつばをのむ。

 「おらおらおらおらおらぁ!」

 闘志に火が付いたザラギスがエルフェリオンに猛然と襲いかかる。

 大槌を振り回してるとは思えないほどの動きを見せて連続攻撃を放つザラギスに対し、エルフェリオンは冷静に動きの機微に注意を払って避ける。

 「いいね! 狼の群れを相手にしてるよりおもしろいじゃないか!」

 嬉々として攻撃をさらに加速させていくザラギス。

 (こいつ、戦闘狂の類か?)

 自分のことを棚に上げるエルフェリオンだが、口元には無意識に笑みをこぼしていた。

 「こっちも防戦ばかりじゃねぇぜ!」

 ふるわれた大槌をかわしたエルフェリオンは、すれ違いざまにザラギスの脇腹に右拳を叩き込む。

 「はっ! 魔力をまとったオラにはその程度の攻撃は軽いぞ!」

 サイドステップで距離をあけながら大槌を振りかざして反撃するザラギス。

 「くっ!」

 エルフェリオンも反対方向に飛び退いて大槌による打撃を回避する。

 「すげぇな、あの新人ルーキー。ザラギスとまともにやり合ってるぞ!?」
 「あれでもC級かよ!?」
 「とんでもない大型新人ルーキーだな、おい!」

 観戦していた周りの冒険者たちが口々に言う。

 「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 エルフェリオンとザラギスが同時に相手に突進する。木剣と大槌が何度も激しくぶつかり合う。手数で勝るエルフェリオンは大槌を受け流してはザラギスに一撃を入れていく。

 「おいおい、あの新人ルーキーが勝っちまうんじゃないのか!?」
 「怪物かよ、あいつ!」

 エルフェリオンの強さに驚嘆する周囲の冒険者たちに反して、エルフェリオンは危機感を募らせていた。

 (一撃の重さが違いすぎる。魔力をまとったザラギスに対して俺の攻撃はほとんど効いちゃいねぇ……)

 エルフェリオンの分析は正しかった。事実、木剣による打撃はダメージを与えてはいない。それどころか、ザラギスとの度重なる激しい打ち合いによってエルフェリオンの両手は痺れてきていた。

 「ぜりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 ザラギスは気合とともに渾身の一撃を放つ。それを木剣で受け止めたエルフェリオンだったが、凄まじい勢いで吹っ飛ばされて地面を転がっていく。

 「いってぇ……」

 エルフェリオンは、勢いよく転がったことで舞い上がった砂煙の中で立ち上がる。だが、視線を左手に移し、自分が握っている木剣が折れて柄だけになっていることに気付いて顔を強張らせた。

 「ハッハッハッハッハ! どうやら今回もまたオラの勝ちみたいだなぁ? もっとも素手で続行するというなら、それでもかまわないぞ?」
 「上等だ。やってやるぜ」

 エルフェリオンはいまだくすぶる闘志を再度燃焼させる。

 「残念ですが、ここまでとさせていただきます。優秀な冒険者をこんな事で潰すわけにはまいりませんのでね」

 二人の間に割って入ったのはルアークだ。

 「それに、たしかに今回はエルフェリオン君の敗けかもしれませんが、これがもしも実戦であればザラギスさんも相当なダメージを受けていたのではないですか?」

 ルアークに指摘され、ザラギスは否定できずに苦虫を噛み潰したよう顔をする。

 「わかった。ここは引き分けってことにしとこうぜ、エルフェリオン?」

 ザラギスからの提案にエルフェリオンは黙考し、ため息をつく。

 「いや、今回も俺の敗けだな。仮に実戦だったとしても、魔力をまとったザラギスに致命的なダメージを与えられたかは疑問だ。それに、ザラギスが普段使ってる戦鎚せんついでさっきの一撃をくらったら立ち上がれなかったかもしれない。けど、次は絶対ぜってぇに勝つからな」

 いさぎよく敗けを認めつつも次回の勝利を宣言するエルフェリオン。ザラギスは大声で笑う。

 「そうかそうか! それはまたストイックなことだな。いいぜ、ますます気に入った!」

 ザラギスは右手の人差し指でエルフェリオンをビシッと指差す。

 「実はな、ついさっきギルドに舞い込んできた依頼を引き受けることにした。どうだ、放浪者ノマドも一緒にやらねぇか?」
 「と言われても、内容すら聞いちゃいねぇんだが?」

 ザラギスからの誘いに対してエルフェリオンがツッコミを入れる。

 「ワハハハハハッ! すまんすまん。オラが引き受けたのは野盗集団レイゼジルの殲滅せんめつ依頼だ」
 「レイゼジルですか!?」

 ルアークが強く反応する。そして、その名はエルフェリオンにも聞き覚えがあった。

 「たしか、レイゼジルっていやぁ冷酷非情で有名な連中だったか。指名手配されてる野盗集団だよな?」

 新聞の紙面を度々騒がす存在であったため、詳細は知らずとも名前だけは知っていたのだ。

 「あぁ、そうだ。ダーズヴェルっていう野郎が頭目をしている。こいつも相当な極悪人だ」

 ザラギスの答えにエルフェリオンは怪訝けげんな表情を浮かべる。

 「そんな危険度の高そうな依頼をC級冒険者が引き受けることはできるのかよ?」
 「可能ですよ。その依頼に引き受けることができる冒険者ランクの者の指名があればですがね」

 ルアークが補足説明をする。

 「おまえさんと演習してみて、足手まといにはならないと確信した。だからこそ、誘うことに決めたんだ。懸賞金に加えてギルドからの報酬もある。それらは折半せっぱんでどうだ?」

 エルフェリオンは思考を巡らせる。ザラギスの言うとおり充分な見返りが期待できる。さらに冒険者ランクを上げるには絶好の機会といえ、実戦経験を積むにもちょうどよかった。しかし……

 (たしかに魅力的な話だが、相手が対人となるとアルナのやつがどう言うか、だな)

 野盗集団の殲滅せんめつとなると大勢の人間の命を絶つことになる。それをパートナーがなんと言うかが引っかかっていた。

 「……いいだろう。アルナのやつはどう言うかは知らねぇが、少なくとも俺は乗らせてもらうぜ」

 エルフェリオンの決断にザラギスはニカッも明るい笑顔を顔面に張り付かせる。

 「よぉし、よく言った! それでこそオラが見込んだ漢だ!! よろしく頼むぜ」

 握手を求めるザラギスの手を取るエルフェリオン。

 「こっちこそ、な」

 固く握手する二人の冒険者を見つめるルアークの口元には微笑がこぼれていた。
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