スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第7章 野盗集団レイゼジル討伐

7―1 目指すはギラス山

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 ティクの町を発ったエルフェリオンとザラギスは街道を東へと進んだ。

 「なぁ、そのレイゼジルって野盗集団はギラス山って所にいるんだったよな?」

 エルフェリオンは事前に目を通した依頼書の内容を脳内で探り当てる。

 「あぁ。ギラス山にはこの辺り一帯の水源地がある。そんな重要な所にあんなやからを居着かせるわけにはいかない。だからこそ、冒険者ギルドに緊急依頼が出されたんだ」

 ザラギスが補足説明をする。

 「なるほど。そういうことなら、なおさら即刻にもご退場願うしかねぇな。けど、レイゼジルみたいな凶悪な集団への対処は警備隊とか騎士団の管轄じゃないのか?」

 エルフェリオンは脳裏に浮かんだ疑問を言葉にする。

 「警備隊は基本的に専守防衛ってやつだ。自分たちの守るべき場所に侵入・侵攻してきたりした場合は迎え撃つが、警備隊側から撃って出ることはしない」

 なるほどと頷くエルフェリオン。ザラギスはさらに続ける。

 「騎士団のほうは遠征を行う場合はあるが、そもそも慢性的な人手不足だ。それに、レイゼジルみたいに各地を転々として悪事を働くようなやつには対処しにくい。標的が移動した後だったら無駄足になっちまうからな。そうなると遠征費だのが浪費されるだけ。それなら、冒険者ギルドに任せたほうが楽ってもんだろ?」
 『ふむ。なるほどのぉ。そうやって互いの仕事の分野を大まかに決めておけば、無用なトラブルも少なくなるメリットもあるわけじゃな』

 ザラギスからの説明にレヴィジアルが納得する。が、その声はエルフェリオン以外に聞こえることはない。

◎★☆◎

 ギラス山を目指して街道を東へと進むエルフェリオンたちの行く手に河に架かった橋が見えてきた。何台もの馬車や通行人が忙しなく渡っているのが見える。

 「この橋の下を流れるのがジデム河だ。そして、ここを渡って河沿いに上流を目指す。そこにあるのがギラス山ってわけさ」
 「今日中にギラス山に着くのか?」
 「いや、その途中で野営する」
 「急がなくていいのかよ? ターゲットが移動しちまうんじゃねぇのか?」

 先を急ぐべきだと主張するエルフェリオンだが、ザラギスはチッチッチッと舌を鳴らす。

 「あまいな、新人ルーキー。たしかにその可能性はあるが強行したとしても戦闘が不利になるだけだ。やつらは万全の態勢なのに対して、こっちは疲労してるんだからよ。それにだ、街道から外れるということは、それだけモンスターとの遭遇率が跳ね上がるってことになる」
 「モンスターは街道には近寄ってこないのか?」

 エルフェリオンからの質問にザラギスは首肯する。

 「完全というわけではないがな。街道に使われている敷石の裏側にはモンスター避けの魔法陣が刻まれている。それによって永続的にモンスター避けの効果が得られる。ただし、さっきも言ったように絶対に安全というわけじゃないぞ。街道にいるからといって油断はするなよ」
 「わかった」

◎★☆◎

 橋を渡り終えた一行は進路を変えてジデム河に沿って上流を目指して歩を進め、2時間ばかりが経過した。

 「うん?」

 河沿いの草原でエルフェリオンが不意に足を止める。

 「おっ、気付いたか」

 同じく足を止めたザラギスがニヤリと笑む。

 「モンスターの気配、だよな?」
 「だな」

 短く答えたザラギスが戦鎚を構える。

 「こい、レヴィジアル」

 呼びかけに応じて召喚された邪龍剣を左手で掴んだエルフェリオンが臨戦態勢をとった。

 そんな二人を囲むように不気味な光を宿した紅い瞳の蛇が草原の草の中から鎌首をもたげる。全体が紫の蛇たちは獲物の命を刈り取る瞬間を待ちびるかのように、チロチロと舌をのぞかせている。

 「ポイズンスネークか。気をつけろ、こいつらは猛毒を持っているぜ」
 「了解だ」

 ザラギスの警告にエルフェリオンは簡潔に答えた。
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