スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

文字の大きさ
157 / 224
第10章 元処刑場の戦い

10―13 VSマイザム④

しおりを挟む
 「哀しい……どうして……」

 マイザムの赤い瞳からあふれた涙が頬をぬらす。そして、それは霊体から離れた瞬間に消滅するのだった。

 「ちっ、今度はゴーストになってまで戦うつもりかよ! 闘気戦術・大飛閃!」

 邪龍鎚を邪龍槍へと変形させて闘気をまとわせたエルフェリオンが斬撃波を撃つ。だが、マイザムは垂直に地面へと降り立ち、風のようにエルフェリオンに接近し、強烈な斬撃をくり出す。

 ギィィィンッ

 マイザムのくり出した斬撃を邪龍槍で受けたエルフェリオンだったが、身体は浮き上がって宙に投げ出される。

 (くそ! 霊弾か!?)

 マイザムが霊気を集めているのに気付いたエルフェリオンは、空中では回避できないため、黒い魔力を全開にして防御態勢をとる。

 「させない! ホーリー・レイ!!」

 聖杖をかざしたアルナがマイザムの攻撃を阻止する。

 ギンッ

 マイザムは両手用大斧で光線を弾くと、標的をエルフェリオンからアルナへと変更して霊弾を放つ。

 「あぅっ!!」

 霊弾を左肩に受けたアルナは表情をゆがめてよろめく。

 「哀しい……どうして、僕なんだ?……」

 マイザムは独り言を呟きながらも俊敏な動きでアルナに接近する。マイザムは両手用大斧をアルナの首めがけて躊躇なくふるう。

 「ひっ!」

 白い魔力をまとったアルナは寸前のところでバックステップで回避する。だが、マイザムはすでに次の攻撃のモーションに入っていた。

 (ダメ! 避けきれない!!)

 顔面蒼白となったアルナはまぶたを固く閉じる。

 ブンッ……ガキンッ

 着地したエルフェリオンは、間一髪のところでアルナとマイザムの間に割り込む。

 「……けっ! ほんとに馬鹿力だよな、てめぇは」

 マイザムの両手用大斧の一撃を邪龍槍で受け止めたエルフェリオンだったが、霊気をまとったマイザムの膂力に押されつつあった。

 「バインド・チェーン!」

 アルナが聖杖を掲げて魔術を発動し、魔力による鎖をゴーストと化したマイザムの全身に巻き付ける。

 「いまよ、エルフェリオン!」
 「任せろ!」

 エルフェリオンは、アルナがつくった好機を逃すまいと邪龍槍に闘気を帯びさせる。

 「いくぜ、闘気戦術・斬閃!」

 バンッ

 邪龍槍の刃がマイザムの首に届く直前だった。急速に膨れ上がったマイザムの霊気による衝撃波により、エルフェリオンやアルナは弾き飛ばされる。バインド・チェーンも粉砕されて消失する。

 「僕は、もう……」

 マイザムの霊気がさらに爆発的に膨らみ始める。

 「うそ、でしょ!?」

 アルナは、地下墓地に存在する墓標が浮かび上がる光景を愕然と見つめる。

 「誰も殺したくないんだぁ!!!」

 マイザムの叫びに呼応するかのように、宙に浮かんだ墓石群がエルフェリオンとアルナに降り注ぐ。

 「ったく! やってることと言ってることが矛盾むじゅんしてるだろうが!!」

 エルフェリオンは墓石の雨を掻い潜り、マイザムの元へと走り抜ける。

 アルナもまた必死に墓石をかわす。一つでも当たれば大ダメージは確実であるため、魔力を練り上げる余裕はなかった。

 「らぁ!」

 ガキンッ

 エルフェリオンがふるった邪龍槍をマイザムは両手用大斧で受け止める。

 「今までその大斧で罪人の首を斬ってきたんだろ? それがおまえの苦しみの原因なら、俺たち放浪者ノマドが、今度はおまえの首を斬って終らせてやるぜ!」

 哀しみを溶かした赤い瞳のゴーストに、エルフェリオンはニヤリと口角を上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...