スラム育ちの英雄譚

美山 鳥

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第11章 レッドレオとブルータイガー

11―1 二つの裏勢力

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 「ねぇ、この女性ひとはだれよ? エルフェリオンとはどんな関係なのよ?」

 アルナはジト目でエルフェリオンを見つめる。

 「あん? 前に護衛依頼を引き受けただけだ……娘のほうに何かあったのか?」

 エルフェリオンは、ラナリの愛娘であるテシアの姿がないことを気にかける。

 「はい! 娘がさらわれてしまったんです!! お願いします! どうか助けてください!!!」
 「落ち着けよ。まずは何があったのか話してもらわねぇと動きようがないだろうが。そうだな……宿で詳しく聞かせてもらおうか」

 エルフェリオンは言いつつ【宿り木】へときびすを返す。

◎★☆◎

 「そんで、娘がさらわれたとか言ってたな?」

 ソファに腰を落ち着けたエルフェリオンが確認する。

 「はい!! そうなんです! テシアは、わたしにとって命よりも大切な一人娘なんです! 報酬はいくらでもお支払いいたします! すぐにはご用意できなくても必ず!! ですから、どうかお願いします!!!」

 身を乗り出してエルフェリオンに一心に願うラナリ。

 「わかってる。まずは落ち着けよ。誘拐されたってのは間違いないんだな?」
 「はい! 複数人の男たちが自宅に押し入ってきてテシアをさらっていったんです!」

 (何が目的でテシアをさらったんだ? 見たところ金を持ってるようには見えないだろうに。そういえば、ラフィカが複雑な事情があると言っていたな……)

 エルフェリオンは黙ったまま思考を巡らせる。

 「お嬢さんをさらったのはだれなのか心当たりとかは? それに、身代金なんかの要求は?」

 アルナに訊かれ、ラナリはうつむく。

 「身代金の要求はありません。そもそも、わたしにそんなものを払う力はありません。犯人についてはわかっています。テシアをさらったのはレッドレオのボスのオグリスです」
 「レッドレオ?」

 聞き慣れない名前にエルフェリオンが問い返す。

 「はい。レッドレオはティクの町の裏勢力を二分するギャングのひとつです。そして、そのレッドレオのボスはわたしの父です……」

 ラナリの告白にエルフェリオンとアルナが眼を見開く。

 「つまり、ラナリさんのお父さんが孫のテシアちゃんを誘拐したってことですか!?」

 アルナが確認の意味を込めて訊く。

 「そうなります」

 コクリと頷いたラナリが言葉にして肯定する。

 「いったい、どうしてそんなことになるんだよ?」

 エルフェリオンに当然の質問を投げかけられ、ラナリは一拍の間を置いて話し始める。

 「私は、レッドレオのボスであるオグリスの一人娘として育ちました。母は私を産んですぐに亡くなり、父は男手一つで、それでも大切に育ててくれたんです」
 「ここまで聞いただけだと、ラナリさんにとっていいお父さんってことですよね? それが、どうして孫の誘拐なんて……」

 アルナの疑問にラナリがため息をひとつ吐く。

 「それは、私がブルータイガーのボスであるルーニアンと結ばれ、テシアを授かったのが原因なんです」
 「ちょっと待て。ブルータイガーってのは、まさか?」

 エルフェリオンの言いかけた言葉を肯定するように、ラナリが頷く。

 「ブルータイガーはティクの町の裏社会を二分するもうひとつの勢力で、レッドレオにとってライバルなんです。いいえ、宿敵といったほうがいいのかもしれませんね」
 「それはまた、たしかに複雑な状況だな」

 エルフェリオンはラフィカの言葉の意味を理解する。

 「でも、さらったのが血縁者なら、テシアちゃんに命の危険はないんじゃないですか?」
 「たしかにそれはそうかもしれません。しかし、テシアがさらわれたと知れば、ルーニアンが黙っているはずがありません。きっと、ブルータイガーを総動員してでもテシアを取り返そうとします。そうなれば、レッドレオとブルータイガーの全面戦争になってしまいます」

 ラナリからの衝撃の発言にアルナの顔が引きる。

 「ちっ、いろいろ面倒くさそうだな。だが、町の治安の問題なら警備隊の管轄じゃねぇのか?」

 エルフェリオンが訊く。すると、ラナリが視線を落とす。

 「実は、警備隊には相談にしたんですが相手にされませんでした。テシアを連れて行ったのが祖父の手の者だし、ブルータイガーのほうにも何の動きもないということで……」
 「そんな! 何かあってからだと遅いのに、なんなのよ、それ!!」

 憤慨ふんがいするアルナの横で、エルフェリオンが席を立つ。

 「おまえまで熱くなるなよ。警備隊なんてそんなもんだろ。とにかく、そのレッドレオのボスとやらに会いにいってみようぜ。案内してもらおうか」
 「はい! ありがとうございます!!」

 エルフェリオンが言うとラナリはすぐに立ち上がった。
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