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1章 運命が動く建国祭

5話 リトルキラー退治

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 爽やかな風が吹きわたる草原をアルフォスとルットはゆっくりとした歩調で移動している。だが、リトルキラーが現れる様子もなく、穏やかな時間が流れていた。

 「はぁ……。なかなか現れないじゃないか……」

 退屈な時間に辟易としたアルフォスがため息と愚痴をこぼす。

 「まぁまぁ…。平和ならそれが一番なんだからいいじゃないか。それにまだ時間も早いし、もう少し粘ってみようよ、ね?」

 懐から取り出した懐中時計で時間を確認しながら、ルットは親友の肩に手を置く。

 「そうだな! ……それにしても、王都の近くだってのに人通りが少なくないか?」

 アルフォスは街道をぐるりと見回す。行商人や旅人を乗せた何台かの馬車は確認できるが、それもそれほど多くはない。徒歩で移動している者はさらに少なく、街道は閑散としている印象であった。

 「きっとリトルキラーの襲撃を警戒して、無理に近づこうとはしていないんじゃないかな…」

 ルットが自らの考えを言葉にする。

 「だとすれば、早いとこ解決しないとな。……なぁ、ここは敢えて街道をそれてみないか?」

 「街道を?」

 「ああ。そのほうがリトルキラーを誘き寄せやすいかもしれないだろ?」

 「……うん。それは一理あるね。賛成だよ」

 「よし、決まりだな!」

 二人は街道をそれてみることにした。



 街道を離れ、辺りに何もない草原にやってきたアルフォスたちは無闇に歩き回るのをやめ、待ち伏せする作戦に変更した。

 「待ち伏せを始めてどれくらい経った?」

 アルフォスは隣で腰をおろしているルットに訊く。

 「一時間半くらいだよ」

 「そっか。今日は諦めたほうが……」

 言いかけて、アルフォスは異様な気配を感じて言葉を止めた。

 「アルフォス……」

 ルットも気づいているようだ。アルフォスは無言で頷き、あらゆる感覚を研ぎ澄ませる。

 二人は立ち上がり、気配の主たちが姿を現す時を待つ。

 「ケヒャヒャヒャ」

 生い茂る草の中から獰猛な目をした小人が飛び出してきた。リトルキラーだ。手に持った小さな槍を投げつけてくる。

 アルフォスは左手の盾で槍を防ぎ、スモールソードでリトルキラーを一刀両断した。モンスターであるリトルキラーは息絶えて塵と化し、跡形もなく霧消する。

 「ケヒャー!」

 続いて三匹のリトルキラーが剣や斧を手に襲ってきた。

 「火属性初級魔術フレイムボール!」

 ルットが放った3発の火球はそれぞれリトルキラーに向かって飛んでいく。直撃を受けた三匹は火だるまになり塵となって消え去った。

 まだ多数の殺気が二人に向けられている。アルフォスとルットは油断なく警戒を続ける。

 「雷属性初級魔術ライトニングボール!」

 草の影に隠れているリトルキラーの正確な場所を特定したルットが雷の球を射ちだした。

 「ギャッ」

 短い悲鳴をあげ、1体のリトルキラーが塵となる。

 「ケヒャヒャ」

 魔術を射ち終えた直後を狙って2体のリトルキラーがルットに襲いかかる。

 しかし、その動きを察知していたアルフォスが立ちはだかり、1体を斬殺し、もう1体は盾を使って地面に叩きつけ、立ち上がる暇を与えずにスモールソードを突き立てる。2体のリトルキラーはほぼ同時に塵となって消滅した。

 「アルフォス!」

 ルットが叫ぶ。その意味を瞬時に理解したアルフォスは後方へ飛び退き、盾を構える。

 「火属性初級広域魔術フレイムレイン!」

 ルットが魔術名を詠唱した瞬間、魔力によって生じた炎の雨がリトルキラーたちを塵へと変えた。 

 アルフォスはスモールソードを構え、ルットに向かって突進する。ルットは身を低くして、その場を離れる。

 草むらから飛び出した3体のリトルキラーは攻撃目標を失って動揺する。

 「はっ!」

 アルフォスは素早く剣を閃かせ、3体のリトルキラーを次々にほふった。
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