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1章 運命が動く建国祭

4話 王都クラッツェルン

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 アルフォスは、王都クラッツェルンの貴族たちが暮らす邸宅が建ち並ぶ住宅地を抜け、城門前広場へとやってきた。

 広場では、高級レストランのテラス席で昼食を摂る貴婦人、木陰のベンチに腰掛けて読書にふける初老の貴族など、それぞれ思い思いの昼下がりを楽しんでいる。

 アルフォスは広場の中央にある噴水へと足を運ぶ。

 「やぁ、アルフォス」

 近付いてくるアルフォスに気付き、眼鏡の少年が笑顔で片手をあげた。

 「ごめん、ルット。待たせてしまったかな?」

 「僕も今来たところさ」

 眼鏡の少年ルットの言葉に、アルフォスは遅刻したわけではないと知ってホッとする。

 「それじゃ、まずは道具屋だね」

 「道具屋? すぐに草原へ行かないのか?」

 早く狩りに出掛けたい様子のアルフォスにルットは苦笑する。

 「逸る気持ちはわからなくはないけど、まずは必要な道具をしっかり調達しておかないとね。相手がリトルキラーといっても油断は禁物だよ」

 「んー、そうだな。よし、それじゃ早く行こう」

 アルフォスは納得しつつもルットを急かす。



 「ウォレン様もデルモス山に向かったそうだね」

 王都クラッツェルンの商業区。ルットは隣を歩くアルフォスに話題を振る。

 「ああ。もしかしてタハルジャ様も?」

 アルフォスに聞き返され、ルットは首肯する。

 「うん。僕も詳しく聞いているわけじゃないけど、極めて重大な任務らしいよ」

 「父さんも同じことを言ってた。いったい何があったんだろうな」

 アルフォスの何気ない一言にルットは黙り混む。

 「どうかしたのか?」

 それに気づいたアルフォスが声をかける。

 「……これはあくまでも可能性の一つなんだけど……」

 ルットは歩みを止め、声を低くする。アルフォスもまた立ち止まって続きを待つ。

 「デルモス山の噂は聞いたことない?」

 ルットの訊かれ、アルフォスは思考の末に一つの答えを見つける。

 「まさか…魔神!?」

 思わず声高になってしまう。

 「声が大きいよ、アルフォス!」

 ルットが慌てた様子で人差し指を口の前で立てて見せる。

 「ああ、ごめん……。でも、まさか…」

 「僕だってそんなことはあり得ないとは思うよ。魔神なんて神話の世界の話だもん。ただ、そんな想像をしちゃっただけだよ」

 ルットは安心させようと努めて笑顔をつくり、移動を再開する。アルフォスも心に生じた一抹の不安を拭えないまま再び歩きだす。



 「アルフォス様とルット様ではありませんか。いらっしゃいませ」

 商業区にある道具屋ラリックへとやってきた二人を店主が満面の笑顔で迎える。アルフォスもルットもモンスター狩りに行く際はこの店をよく利用していたため店主とは顔見知りである。

 「それで、本日はどのような物を?」

 「最近、リトルキラーによる被害が増加しているから狩りに行くんだ。そこで、ポーションと毒消しと魔石を持っていこうと思ってね」

 アルフォスは店主に目当ての商品を告げる。

 「なるほど。たしかに近隣の草原でリトルキラーに襲われる事件が多いみたいでございますな。いやぁ、お二方が出向いて下されば安心です。それでは、早速商品をご用意いたしますので少々お待ちを…」

 店主は商品棚からポーションと毒消し、それから数種類の魔石を取り出してカウンターに並べる。

 「僕は、後方から魔術を使っての攻撃や支援をメインに戦うから魔石を多めに買っておくよ」

 言いつつ、魔石をあれこれと物色するルット。アルフォスは敵との接近戦に備えてポーションや毒消しを多く購入しておく。

 こうして、必要なアイテムを買いそろえた二人は道具屋ラリックをあとにし、リトルキラーが度々現れては旅人たちを襲撃するという草原へと向かった。
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