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1章 運命が動く建国祭

6話 将来の夢

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 アルフォスとルットは互いに背中を預け合って周囲の気配を探る。

 「どうやら片付いたかな?」

 ルットの言葉どおり、二人に向けられていた殺気は消え失せていた。

 「ふぅ…」

 スモールソードを鞘に納めたアルフォスが一息つく。ルットは眼鏡の位置を修正する。

 「お疲れ、アルフォス」

 「ああ、ルットもな」

 アルフォスとルットは互いの労をねぎらう。

 「しっかし、ルットの魔術は大したもんだな。火属性初級広域魔術フレイムレインなんていつの間に使えるようになったんだ?」

 「エヘヘ。この間、父上から指導してもらってね。でも、僕の魔術なんて父上に比べたらまだまだだよ。例えば、同じ火属性初級魔術フレイムボールを撃ったとしても、僕と父上とでは威力はまるで違うよ」

 語るルットからは父タハルジャに対する尊敬がうかがえる。

 「アルフォスこそ剣術にますます磨きがかかったんじゃない? やっぱり、ウォレン様に稽古をつけてもらってるのかい?」

 「時々だけどな。父さんもタハルジャ様も忙しいからなぁ」

 「そうだね。やっぱり、アルフォスも将来はウォレン様みたいに近衛騎士団長になるの?」

 「ああ。ラミーネル王国を護る騎士になる! それが俺の夢だ!!」

 「ラミーネル王国を護る騎士、か。……メルティナ姫を護る騎士の間違いじゃないかい?」

 「なっ!? どうしてここで姫の名前が出てくるんだよ?」

 突然飛び出した国王ジルバーナの娘メルティナの名前に驚き、アルフォスは顔を赤らめる。

 「違った? 僕はてっきりそういうことなのかと思ってたんだけどなぁ…」

 「そんなわけないだろう! ルットの思い過ごしだ!!」

 悪戯っぽく笑みをこぼして言うルットに対して乱暴に答えるアルフォス。

 「俺のことよりルットはどうなんだよ?」

 アルフォスは話題をルットの将来へと変える。

 「僕かぁ……。そりゃあ、僕だって父さんの跡を継いで宮廷魔術師になりたいよ。だけど、その為にはもっともっと頑張らないとなぁ……」

 ルットは途方に暮れたような目で頭上の蒼穹を仰ぐ。

 「それを言うなら俺も同じさ」

 ルットに倣ってアルフォスも見上げる。

 「お互い、偉大な親を持つと苦労するよねぇ…」

 しみじみと洩らすルット。

 「そうだな…。けど、それだからこそ乗り越え甲斐があるってもんさ!」

 「アハハ…。アルフォスは前向きだなぁ。僕も見習わなきゃだね。……さて、リトルキラー退治も終わったことだし、そろそろ戻ろうか」

 「ああ!」

 二人は揃って王都クラッツェルンに向けて歩きだした。
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