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1章 運命が動く建国祭

7話 メルティナの元へ

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 アルフォスとルットが王都クラッツェルンに到着するころには西陽が街並みを赤く染めていた。

 「結局、ラリックで買った道具は使わなかったな」

 夕焼け空に向かって大きく伸びをしながらアルフォスが言う。

 「そうだね。だけど、備えあれば憂いなしって言うじゃないか。それに、次の機会にも使えるしね」

 「それまでには俺も剣術を磨いておかなきゃな!」

 アルフォスは次の討伐に意欲を見せる。

 「アルフォスはこれからどうするのさ?」

 「どうとは?」

 ルットからされた質問に質問を返すアルフォス。

 「だから、メルティナ姫に会いに行くのかって話!」

 「……ああ。戻ったら会いに行く約束だからな。ルットも一緒に行かないか?」

 アルフォスはどこか照れたようにもとれる表情で答え、ルットを誘う。

 「僕は遠慮しておくよ。二人のお邪魔をしても悪いしね」

 「メルティナ姫はルットが一緒だからって邪魔に思ったりする方じゃないぞ!?」

 照れながら反論するアルフォスにルットは吹き出す。

 「まったく…せっかく誘ってるってのに……」

 アルフォスはそっぽを向いてしまう。

 「ごめんごめん。だけど、屋敷に帰って魔術の勉強をしたいんだ。だから僕のことは気にしないで行ってきなよ」

 「そっか! それじゃ、またな!」

 アルスフェルト城へと走り去る親友の姿をルットは微笑んで見送った。



 大通りを行き交う人々の間をすり抜け、アルフォスはアルスフェルト城へと急ぐ。

 商業区を通り、居住区を抜け、近衛騎士団長ウォレンや宮廷魔術師タハルジャをはじめとした城の重役たちの邸宅が建ち並ぶエリアを駆け抜け、アルスフェルト城の城門までやってきた。

 「おっ、アルフォス君じゃないか」

 城門の警備にあたっていた顔見知りの兵士が声をかけてくる。

 「テイラさん!」

 アルフォスは兵士の名を呼び、片手を軽く振る。

 「姫様にお会いするのかい?」

 「はい。そういう約束をしてるんです。通してもらえますか?」

 「もちろんだとも」

 快諾し、テイラは城壁の上の同僚兵士に合図を送ると、間もなく固く閉ざされていた城門が開かれた。

 「さあ、姫様をお待たせしても申し訳ない。通りなさい」

 「はい!」

 アルフォスはテイラに一揖いちゆうして城内へと移動する。

 「やあ、アルフォス君!」

 「あら、アルフォスちゃんじゃない」

 「よぉ、アルフォス! 今日もモンスター退治に行ってきたのか?」

 城内を移動するアルフォスの姿を見つけて者たちが声をかけてくる。幼いころから父に連れられて城を訪れていたアルフォスは、城に出入りしている者とは顔馴染みとなっていた。また、それはルットも同様である。

 人々と軽く挨拶を交わしながら謁見の間に到着したアルフォスは扉の前で身だしなみを整える。

 「準備はいいかい?」

 「はい」

 やや緊張した面持ちで答える。開かれた扉の先には広々としたフロアが広がっており、その先の玉座には国王ジルバーナが少年を迎えていた。

 アルフォスはジルバーナの前まで歩み寄ると跪く。

 「ご無沙汰しております」

 「よくきたな、ウォレンの息子アルフォスよ。そうかしこまる必要はない。顔を上げるがよい」

 ジルバーナは優しく声をかけ、その言葉に従ったアルフォスに微笑みを向ける。

 「そなたといい、ルットといい、我が国には次代を担うに相応しい若者がおる。心から嬉しく思うぞ」

 「もったいないお言葉です」

 うやうやしく頭を下げるアルフォス。

 「それで、今日はどのような用向きであったか?」

 「本日はメルティナ姫と約束しており、参上いたしました」

 アルフォスからの返答にジルバーナは大きく頷く。

 「そうであったか。ならば、王族の居住スペースである3階への立ち入りを許可しよう。追い返したとあっては後でメルティナになんと言われるかわからぬからな。早く行ってやりなさい」

 「ありがとうございます。それでは失礼いたします」

 アルフォスは一礼して謁見の間から階上に続く階段を上っていった。



 王族の居住スペースであるアルスフェルト城3階は立ち入りが厳しく制限されているため、人の姿はほとんど見受けられない。

 アルフォスは静かな廊下を迷うことなく進んでサロンへ到着した。

 「アルフォス…」

 アルフォスの姿を見て、華やかなドレスを着た少女が椅子から立ち上がった。彼女こそラミーネル王国第一王女メルティナである。
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