8 / 75
1章 運命が動く建国祭
7話 メルティナの元へ
しおりを挟む
アルフォスとルットが王都クラッツェルンに到着するころには西陽が街並みを赤く染めていた。
「結局、ラリックで買った道具は使わなかったな」
夕焼け空に向かって大きく伸びをしながらアルフォスが言う。
「そうだね。だけど、備えあれば憂いなしって言うじゃないか。それに、次の機会にも使えるしね」
「それまでには俺も剣術を磨いておかなきゃな!」
アルフォスは次の討伐に意欲を見せる。
「アルフォスはこれからどうするのさ?」
「どうとは?」
ルットからされた質問に質問を返すアルフォス。
「だから、メルティナ姫に会いに行くのかって話!」
「……ああ。戻ったら会いに行く約束だからな。ルットも一緒に行かないか?」
アルフォスはどこか照れたようにもとれる表情で答え、ルットを誘う。
「僕は遠慮しておくよ。二人のお邪魔をしても悪いしね」
「メルティナ姫はルットが一緒だからって邪魔に思ったりする方じゃないぞ!?」
照れながら反論するアルフォスにルットは吹き出す。
「まったく…せっかく誘ってるってのに……」
アルフォスはそっぽを向いてしまう。
「ごめんごめん。だけど、屋敷に帰って魔術の勉強をしたいんだ。だから僕のことは気にしないで行ってきなよ」
「そっか! それじゃ、またな!」
アルスフェルト城へと走り去る親友の姿をルットは微笑んで見送った。
◎
大通りを行き交う人々の間をすり抜け、アルフォスはアルスフェルト城へと急ぐ。
商業区を通り、居住区を抜け、近衛騎士団長ウォレンや宮廷魔術師タハルジャをはじめとした城の重役たちの邸宅が建ち並ぶエリアを駆け抜け、アルスフェルト城の城門までやってきた。
「おっ、アルフォス君じゃないか」
城門の警備にあたっていた顔見知りの兵士が声をかけてくる。
「テイラさん!」
アルフォスは兵士の名を呼び、片手を軽く振る。
「姫様にお会いするのかい?」
「はい。そういう約束をしてるんです。通してもらえますか?」
「もちろんだとも」
快諾し、テイラは城壁の上の同僚兵士に合図を送ると、間もなく固く閉ざされていた城門が開かれた。
「さあ、姫様をお待たせしても申し訳ない。通りなさい」
「はい!」
アルフォスはテイラに一揖して城内へと移動する。
「やあ、アルフォス君!」
「あら、アルフォスちゃんじゃない」
「よぉ、アルフォス! 今日もモンスター退治に行ってきたのか?」
城内を移動するアルフォスの姿を見つけて者たちが声をかけてくる。幼いころから父に連れられて城を訪れていたアルフォスは、城に出入りしている者とは顔馴染みとなっていた。また、それはルットも同様である。
人々と軽く挨拶を交わしながら謁見の間に到着したアルフォスは扉の前で身だしなみを整える。
「準備はいいかい?」
「はい」
やや緊張した面持ちで答える。開かれた扉の先には広々としたフロアが広がっており、その先の玉座には国王ジルバーナが少年を迎えていた。
アルフォスはジルバーナの前まで歩み寄ると跪く。
「ご無沙汰しております」
「よくきたな、ウォレンの息子アルフォスよ。そうかしこまる必要はない。顔を上げるがよい」
ジルバーナは優しく声をかけ、その言葉に従ったアルフォスに微笑みを向ける。
「そなたといい、ルットといい、我が国には次代を担うに相応しい若者がおる。心から嬉しく思うぞ」
「もったいないお言葉です」
恭しく頭を下げるアルフォス。
「それで、今日はどのような用向きであったか?」
「本日はメルティナ姫と約束しており、参上いたしました」
アルフォスからの返答にジルバーナは大きく頷く。
「そうであったか。ならば、王族の居住スペースである3階への立ち入りを許可しよう。追い返したとあっては後でメルティナになんと言われるかわからぬからな。早く行ってやりなさい」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします」
アルフォスは一礼して謁見の間から階上に続く階段を上っていった。
◎
王族の居住スペースであるアルスフェルト城3階は立ち入りが厳しく制限されているため、人の姿はほとんど見受けられない。
アルフォスは静かな廊下を迷うことなく進んでサロンへ到着した。
「アルフォス…」
アルフォスの姿を見て、華やかなドレスを着た少女が椅子から立ち上がった。彼女こそラミーネル王国第一王女メルティナである。
「結局、ラリックで買った道具は使わなかったな」
夕焼け空に向かって大きく伸びをしながらアルフォスが言う。
「そうだね。だけど、備えあれば憂いなしって言うじゃないか。それに、次の機会にも使えるしね」
「それまでには俺も剣術を磨いておかなきゃな!」
アルフォスは次の討伐に意欲を見せる。
「アルフォスはこれからどうするのさ?」
「どうとは?」
ルットからされた質問に質問を返すアルフォス。
「だから、メルティナ姫に会いに行くのかって話!」
「……ああ。戻ったら会いに行く約束だからな。ルットも一緒に行かないか?」
アルフォスはどこか照れたようにもとれる表情で答え、ルットを誘う。
「僕は遠慮しておくよ。二人のお邪魔をしても悪いしね」
「メルティナ姫はルットが一緒だからって邪魔に思ったりする方じゃないぞ!?」
照れながら反論するアルフォスにルットは吹き出す。
「まったく…せっかく誘ってるってのに……」
アルフォスはそっぽを向いてしまう。
「ごめんごめん。だけど、屋敷に帰って魔術の勉強をしたいんだ。だから僕のことは気にしないで行ってきなよ」
「そっか! それじゃ、またな!」
アルスフェルト城へと走り去る親友の姿をルットは微笑んで見送った。
◎
大通りを行き交う人々の間をすり抜け、アルフォスはアルスフェルト城へと急ぐ。
商業区を通り、居住区を抜け、近衛騎士団長ウォレンや宮廷魔術師タハルジャをはじめとした城の重役たちの邸宅が建ち並ぶエリアを駆け抜け、アルスフェルト城の城門までやってきた。
「おっ、アルフォス君じゃないか」
城門の警備にあたっていた顔見知りの兵士が声をかけてくる。
「テイラさん!」
アルフォスは兵士の名を呼び、片手を軽く振る。
「姫様にお会いするのかい?」
「はい。そういう約束をしてるんです。通してもらえますか?」
「もちろんだとも」
快諾し、テイラは城壁の上の同僚兵士に合図を送ると、間もなく固く閉ざされていた城門が開かれた。
「さあ、姫様をお待たせしても申し訳ない。通りなさい」
「はい!」
アルフォスはテイラに一揖して城内へと移動する。
「やあ、アルフォス君!」
「あら、アルフォスちゃんじゃない」
「よぉ、アルフォス! 今日もモンスター退治に行ってきたのか?」
城内を移動するアルフォスの姿を見つけて者たちが声をかけてくる。幼いころから父に連れられて城を訪れていたアルフォスは、城に出入りしている者とは顔馴染みとなっていた。また、それはルットも同様である。
人々と軽く挨拶を交わしながら謁見の間に到着したアルフォスは扉の前で身だしなみを整える。
「準備はいいかい?」
「はい」
やや緊張した面持ちで答える。開かれた扉の先には広々としたフロアが広がっており、その先の玉座には国王ジルバーナが少年を迎えていた。
アルフォスはジルバーナの前まで歩み寄ると跪く。
「ご無沙汰しております」
「よくきたな、ウォレンの息子アルフォスよ。そうかしこまる必要はない。顔を上げるがよい」
ジルバーナは優しく声をかけ、その言葉に従ったアルフォスに微笑みを向ける。
「そなたといい、ルットといい、我が国には次代を担うに相応しい若者がおる。心から嬉しく思うぞ」
「もったいないお言葉です」
恭しく頭を下げるアルフォス。
「それで、今日はどのような用向きであったか?」
「本日はメルティナ姫と約束しており、参上いたしました」
アルフォスからの返答にジルバーナは大きく頷く。
「そうであったか。ならば、王族の居住スペースである3階への立ち入りを許可しよう。追い返したとあっては後でメルティナになんと言われるかわからぬからな。早く行ってやりなさい」
「ありがとうございます。それでは失礼いたします」
アルフォスは一礼して謁見の間から階上に続く階段を上っていった。
◎
王族の居住スペースであるアルスフェルト城3階は立ち入りが厳しく制限されているため、人の姿はほとんど見受けられない。
アルフォスは静かな廊下を迷うことなく進んでサロンへ到着した。
「アルフォス…」
アルフォスの姿を見て、華やかなドレスを着た少女が椅子から立ち上がった。彼女こそラミーネル王国第一王女メルティナである。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる