聖剣と魔剣の二刀流剣士物語【復讐編】

美山 鳥

文字の大きさ
11 / 75
1章 運命が動く建国祭

10話 ウォレンの死

しおりを挟む
 自宅に戻ったアルフォスは早めの昼食を済ませ、すぐに準備を整えて屋敷を出た。

 「アルフォス君」

 屋敷の門を出たところでフード付きのローブをまとった男が声をかけてきた。

 (この声、どこかで聞き覚えがあるような……)

 自らの記憶を探ってみるも答えは見つからない。

 「失礼ですが、どちら様でしょうか?」

 アルフォスが訊くと、男は口元に笑みを浮かべた。次の瞬間、アルフォスの耳許に男の口があった。日ごろから鍛練してきたアルフォスですらまるで反応できなかった。

 「フフフフ……。そう警戒することはない。わたしだ。君のお父さんの親友タハルジャだよ」

 言われて、アルフォスは間近にある男の顔を見る。それは確かにルットの父タハルジャであった。

 「タハルジャ様! いつお戻りになられたのですか!?」

 タハルジャが戻ったということは、共に調査に向かったウォレンも一緒のはずだ。それが嬉しくて声が高くなる。

 しかし、タハルジャは人差し指を口の前で立ててみせる。

 「……どうかしたのですか? もしや父に何か!?」

 急に胸騒ぎを覚え、タハルジャに詰め寄る。

 「その事でアルフォス君に話があってね。すまないが、今すぐわたしと一緒に来てもらえないだろうか?」

 タハルジャは真剣な眼差しをアルフォスに向けている。

 「わかりました。ですが、今日はメルティナ様の警護があります。少し遅れる旨を伝えてまいりますので暫しお待ちください」

 「待ちなさい」

 タハルジャは、アルスフェルト城へ駆け出そうとするアルフォスを制止した。

 「さすがはウォレンの息子のアルフォス君だね。冷静ないい判断だ。しかし、わたしの部下を使いのだしてあるから大丈夫だ。それよりも事は一刻を争うのだよ」

 タハルジャの手回しの良さに驚かされながらもアルフォスは頷く。

 「そういう事でしたら同行いたします」

 「そうか! では、瞬間移動魔術テレポートで向かうとしよう。わたしに捕まりなさい」

 「わかりました!」

 アルフォスはタハルジャの指示に従う。

 一瞬だけ景色が歪み、視界全体が暗闇におおわれた。



 「ここは…」

 気がつくと、どこかの小屋の中に立っていた。なんとなく見覚えがあるような気がする。

 「ここは、ウォレンが修行で山ごもりする際に使っていた山小屋だよ」

 側に立っているタハルジャが情報を伝える。

 (言われてみれば確かにそうだ。子供のころに父さんに連れてきてもらったことがある。あの時はタハルジャ様、ルット、ジルバーナ様、それにメルティナも一緒だったんだ)

 懐かしい記憶が甦る。が、今はそんなことよりも気になるのはウォレンの安否だ。

 「それで、父は!?」

 アルフォスは再びタハルジャに詰め寄る。そんなアルフォスの肩に手をのせ、そっと引き離す。

 「落ち着いて聞くんだよ。いいかね?」

 アルフォスは黙って頷き、息をのんで次の言葉を待つ。

 「我が親友ウォレンは死んだ……」

 かつて経験したことがないほどの衝撃がアルフォスをおそう。頭が真っ白になり、思考が停止する。

 「……どう…して?……」

 絞り出すように声を出す。

 「……わたしが殺した……」

 タハルジャからさらなる衝撃的な返答が飛び出した。アルフォスは理解が追い付かず、全身の力が抜けたように崩れ落ちる。

 「アルフォス君には詳しく聞く権利がある。わたしが話してあげよう。デルモス山で何があって、ウォレンがどのような最後を遂げたのかを……」

 タハルジャは静かに語りだした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...