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2章 魔剣カラドボルグ

29話 グリード村の決戦

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 逃走した守護者ガーディアンを追って洞窟までやってきた二人。

 「さぁ、いよいよ天誅を下す時がきましたわ!」

 セラは張り切っていた。アルフォスとの星空観賞を邪魔されたのがよほど気に入らないのだろう。

 「落ち着けよ、セラ。今夜は近辺で待機して体力と魔力を回復させる。仕掛けるのは明日だ」

 「わたくしでしたら、ご心配には及びませんわ」

 「あれだけ魔術を連発したんだ。それなりの魔力を消耗しているだろ。この中にはどれほどの敵が待ち受けているかわからないんだぞ。それに、リュカリオンが言っていた守護王ガーディアン・ロードもいると考えたほうがいい。とにかく無闇に攻撃を仕掛けるのは得策じゃない」

 「…しかたありませんわね。わたくしはアルフォス様の従者。ご主人様には従いますわ」

 渋々ではあるがセラは引き下がる。



 翌朝。

 交代で休んだアルフォスとセラは、グリード村があると推測される洞窟へとやってきた。

 「準備はいいか?」

 「もちろんですわ!」

 セラは逸る気持ちを押し留めて答える。

 「いくぞ!」

 アルフォスの言葉を合図とし、二人は同時に洞窟へと足を踏み入れた。ねっとりと粘った、肌にまとわりつくような湿度の高い空気の中を慎重に進む。

 「アルフォス様…」

 セラが隣のアルフォスに囁きかける。

 「ああ、油断するな」

 セラが何を言いたいのかを理解していたアルフォスは逆に注意を促す。セラは頷く。

 二人は前方の闇の向こう側…通路の突き当たりの扉の前に立つ守護者ガーディアンの気配を感じ取っていた。敵に気付かれないギリギリの位置で立ち止まり、身を屈める。

 アルフォスの右目は人間のものであるため夜目は利かない。しかし、左目の魔眼は闇の向こう側をはっきりと捉えている。

 「左右に1体ずつ、合計2体か」

 「わたくしにお任せください。瞬殺してみせますわ」

 「頼む」

 アルフォスの了解を得たセラは無詠唱で風属性初級魔術ウインド・カッターを2発放つ。

 ザシュッ

 風の刃は2体の守護者ガーディアンの首を同時に切り落とす。

 見張りの排除を成功させ、二人は扉の前まで進む。互いに顔を見合わせる。

 セラを後方に待機させ、アルフォスは扉に手をかけてゆっくりと開く。

 「ちっ!」

 アルフォスが飛び退いた瞬間、向こう側で待ち構えていた守護者ガーディアンの太い腕が眼前を通過する。

 右手で背中のクレイモアの柄を握り、居合いの要領で斬り伏せる。だが、その奥の巨大フロアに集まっていた守護者ガーディアンの大群が一斉に襲いかかってくる。

 「アルフォス様!」

 「慌てるな! 俺たちは後退して通路で迎え撃つ。前衛は任せてもらう。セラは後方支援を頼む!」

 アルフォスはセラに指示を出す。

 「了解しましたわ。まずは敵の数を減らしますわ!」

 セラの魔力が急激に膨れ上がるのを感じ、アルフォスは身を伏せる。

 「火属性中級広域魔術フレイム・トルネード!!」

 魔術名を詠唱することで格段に威力を増大させた火炎の大渦が多数の敵を呑み込んで焼き尽くす。

 先制攻撃が失敗に終わったばかりか手痛い反撃をくらい、怒り狂った守護者ガーディアンが突撃してくる。

 「させるかよ!」

 アルフォスは魔腕の力で大剣クレイモアを軽々と扱い、次々に押し寄せる守護者ガーディアンを斬り捨てる。

 「アルフォス様!」

 背後からのセラの声に反応して、アルフォスは床を蹴って跳躍した。

 「風属性初級魔術ウインド・カッター!」

 セラが再び魔術名を詠唱する。飛び出した無数の小さな真空の刃が跳躍したアルフォスの下を通過し、その向こうにいる守護者ガーディアンを切り刻む。

 着地したアルフォスは素早くクレイモアを構えるとフロア内にいる守護者ガーディアンに猛然と斬りかかっていく。

 「火属性中級魔術フレイム・アロー

 アルフォスの後を追ったセラが遠くの守護者ガーディアンに狙いを定め、矢継ぎ早に炎の矢を撃ちだし、その全てを命中させる。

 アルフォスの卓越した剣術とセラの強力な魔術の連携攻撃によって、数のうえでは圧倒的に勝っていた守護者ガーディアンも遂に全滅することとなった。

 「これで全部か……。奥に控えている大物を除けばな」

 周囲を確認しながらアルフォスはフロアの奥にある扉に視線を送る。

 「あの閉ざされた扉の奥にいる敵は相当手強い相手のようですわね」

 傍らまで歩み寄ってきたセラが言う。

 「そうだな。おそらくリュカリオンが言っていた守護王ガーディアン・ロードだろう」

 アルフォスとセラは意を決して扉を開け、奥へと侵入していく。
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