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4章 ラミーネル攻略戦

49話 聖剣と魔剣の二刀流剣士

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 「くっ! もはやこれまでか……」

 ガザック帝国の皇帝ディエンは唇を噛む。その喉元には魔剣カラドボルグの切先が突き付けられていた。

 「降伏か死か。好きなほうを選ぶがいい」

 アルフォスは感情もなく冷たく返答を迫る。

 「貴様、同じ人間でありながら魔族と闇の魔神に与するとは恥を知るべきではないか? 今からでも遅くはない。我ら人間側に戻ってきて贖罪しょくざいするのだ!」

 ディエンは最後の望みを託してアルフォスに呼び掛ける。が、直後に無駄と知ることになった。

 「その人間……親友が、恋人が、俺を信じようともせず、俺の必死の訴えに耳を傾けようともしなかった」

 「だが、そのような人間ばかりではない! 貴様がこれまであやめてきた者のなかには心優しき者もいたはずだ!」

 「だろうな。だが、あんたらが今まで殺してきた魔族にも同じようなやつがいたとは思わないのか? 魔族というだけで悪と決めつけているんじゃないのか?」

 「それは……」

 ディエンは言い淀む。

 「親友や恋人に見捨てられ、ひどくすさんでいた俺を救ってくれたのは魔族の少女だった。俺は彼女に感謝している。そして、俺を救ってくれたリュカリオンにもだ。俺はその恩に報いるために、聖剣エクスカリバーと魔剣カラドボルグを振るう二刀流剣士として戦っている」

 「そうか……。そのような事情が……」

 「さあ、お喋りは終わりだ。返答を聞こうか」

 人間の右眼と魔族の左眼がディエンを見据える。

 「………………死だ………………」

 短く、しかし確かな声でディエンは自ら決断する。

 「わかった。最後に言い残しておきたいことはあるか?」

 アルフォスに問われ、ディエンは暫し考える。

 「俺が死ねばガザック帝国は滅亡する。だが、せめて残された者たちにはできる限りの寛大な処置を!」

 「了解した。この地を治める将軍に伝えておこう。ただし、そいつがどう判断するかまでは責任を持てないがな」

 「……感謝する…」

 ディエンは謝意を伝え、静かに瞼を閉じる。

 ザンッ

 魔剣カラドボルグがディエンの首をはねた。体はその場に崩れ落ち、頭部は床に転がる。

 アルフォスは魔剣カラドボルグに付着した血を振り払って背中の鞘に納め、続いて聖剣エクスカリバーも納める。

 「よっ! お疲れ!」

 直後、若い魔族の男が軽いノリで部屋に入ってくる。リュカリオン直属の六星大将軍の一人グレイズだ。

 「聞いていたんだろ? この男の最後の言葉を…」

 「ああ。なるべく善処しよう」

 「頼む」

 グレイズは無言で頷くとディエンの頭を拾い上げ、ベランダへと出て声も高らかに勝利を宣言する。そして、ディエンの首を掲げた。

 その光景を尻目にアルフォスは別の場所で戦っているセラ、ウィナーの両名と合流し、リュカリオンの居城バルスヴェイルへと帰還した。
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