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第2章 冒険者達
コロシテ
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危機は去った。
「シテ……」
むっ、どうやらアンススが意識を取り戻したようだ。あの後、全身が脱力したまま寝転がって目の焦点が合っていない状態だったから心配だったけど、ようやくアンデッド化の呪いが清められたんだろうか。なんて言ってるんだろう。
「……コロ……シテ」
声が小さすぎて全然聞こえないな。とりあえず助かったみたいだからヨシ!!
「よかった。心配したんだぞアンスス。立ち上がれるか? また新しい追手が来たら危ないから早く脱出しよう」
「コロ……シテ……」
なんかぶつぶつ言ってるけどよく聞こえないな。
まだ歩けるほどには体力が回復してないみたいなので、俺はアヌスカリバーをアスタロウのケツ穴にぶち込んでから彼女を背負って歩き出した。女の子とはいえ俺より身長高いだけあって重いな。彼女も無事助かったんだしこの程度の苦労なんてことないさ。
「シテ……」
まだなんか言ってるけど、助けてあげた俺達への感謝の言葉かな? とりあえず話は町に帰ってからゆっくり聞くとしよう。
俺達はダンジョンを出て、町へ向かって歩きながら今後の対応を話し合う。
「とりあえず向かう先は、ギルドか? それとも伯爵邸?」
アスタロウに尋ねるが、彼も考え込んでいる。というかここに伯爵本人がいるんだからこいつに直接聞いてみたほうがいいだろうか? いやその前に依頼に関する情報をまとめよう。
先ず一番最初にあったのはおそらくはアンススへの依頼。これはダンジョンに関するものだとは思われるが、誰が依頼したのか、どんな内容なのかが全く分からない。
次に、アンススがダンジョンに入る直前に上書きされた依頼。依頼者は伯爵夫人のフェンネさん。彼女はアンススの記憶が最後に話した人の内容に上書きされることを知っていたんだろう。元の依頼を自分の都合のいい内容に上書きしたかったんだと思う。内容は「ダンジョンに囚われている伯爵を救い出して、屋敷にいる伯爵を殺せ」という物騒なもの。
まあ、最初の依頼者も夫人の可能性もないとは言えないけど、そうすると俺達とアンススの両方に、二重に依頼をしたことになるのでこの可能性は低い。
そして最後に、ギルドを通して伯爵夫人が俺達にした依頼だ。「伯爵の人格豹変の真相を明かしてくれ」というなんともふわふわした依頼だが、前後の状況と組み合わせて考えると、「ダンジョン内に居る本物の伯爵を救い出して今いる偽物の正体を明かせ」と言ってるに等しい。
俺はちらりと伯爵の方を見る。無精髭が生えて、痩せこけた姿のみすぼらしい伯爵。
「あんたはどうしたらいいと思う?」
「え?」
本当なら衰弱してる伯爵をまず屋敷に送り届けるべきだが、今屋敷には「自称伯爵」がいる。間違いなく一悶着起こる。
「とりあえず、屋敷に帰してくれれば、なんとかなる。偽物など俺一人でも正体を暴いて……」
「ギルドに行くべきじゃな」
伯爵は屋敷に帰りたいみたいだが、アスタロウが反対した。
「アンススに最初に依頼をした人間と、その内容を確認すべきじゃ」
俺も同意見だ。
「夫人がアンススに依頼した内容が、不穏すぎる。いくら冒険者が無頼の輩などと言っても、確証もなしに『伯爵を殺せ』なんて依頼が通るはずがない」
つまり、伯爵夫人が怪しいってことだ。ただ伯爵が偽物と入れ替わっただけじゃない。この依頼には何か裏がある。
「伯爵は? それでいいか?」
「……ああ、それでいい。ただ……」
若干の間を置き、伯爵は応え、そして付け加える。
「依頼を出したのはおそらく家宰のイークだろう。ギルドに行くのは構わないが、問題はその後だ」
とりあえずはギルドに向かい、その道中伯爵の話を聞くことにした。アンススはまだ何かぶつぶつと呟いている。元気そうで何より。
「無事にイークに私の身柄を引き渡せば、依頼は完了という事になるな。ご苦労であった」
なんか偉そうだなコイツ。まあ伯爵だから俺よりは偉いのかもしれないけど。
とはいえ、それで本当に依頼完了なのか? 確認したアンススへの依頼の内容にもよるけど。あと、俺達の方は夫人からの依頼で、内容は「真実の解明」だからそれで完了になるかどうかは微妙なところだ。ホントにこれで終わりなのか?
などと悩んでいるうちにギルドについた。
ふう、疲れた。なんだかんだでダンジョンからギルドまで一時間ほど歩いてる。その間、というかダンジョンの出口手前からずっとアンススを背負ってた状態だからな。
アンススはアンススで意識はかえったみたいなのに自分で歩いてくれないし、アスタロウも伯爵もおんぶするのかわってくれないし、本当気の利かない奴らだよ。
「あ~、疲れた……」
とりあえず俺はギルド併設の食堂の椅子にアンススを座らせた。
「ふぃ~、あ、お姉さんお茶とクッキー下さい。四人分」
めちゃめちゃ汗をかいて、疲労も溜まってる俺はとりあえず飲み物を注文した。
「ちょ、ちょっと、勇者殿?」
ん? なんだよ伯爵。ちゃんとお前の分も頼んだぞ。お前と違って俺は気が利くからな。
「あの、依頼人と内容の確認するんだよね? 早くしようよ。それをしにここまで来たんでしょ?」
ちっ、うるせーな。こっちゃ疲れてんだよ。アンススもまだ本調子じゃないみたいだし。
「コロ……シテ……」
ほらな。ちょっとくらい休憩させてくれ。
「疲れてるのは分かるんだが、早いところ私の無事を家人にも連絡したいし……」
「どぞー、ハーブティーとクッキーでーす」
「おっ、来た来た!」
「いや『来た来た』じゃないよ!!」
伯爵が強くテーブルを叩いたが、俺は無視してハーブティーを一口すすった。
「っあ~……疲れたぁ……」
「無視をするな!」
なんなんだよこの伯爵、カルシウム不足か。というかだんだん俺の方も腹が立ってきたぞ。昨日半ば強制的に伯爵夫人の依頼を受けさせられて、朝も早よからダンジョンに潜ってすったもんだの上に救出してやったっていうのになんだその態度は。
「あのなあ、俺は別にあんたの救出なんて頼まれてなかったんだからな? 俺達はあんたの奥さんから『真実を明らかにしてくれ』って言われただけだぞ」
「奥さん……フェンネ夫人から?」
「当たり前だろボケ。他にいるか! 俺達は救助を頼まれたわけじゃないんだから、真実を明らかにしたら別にお前なんか助けなくても依頼達成だったんだからな! 何なら今からお前をあの骸骨野郎に帰してこようか?」
「ま、待て、落ち着いてくれ、勇者殿」
だから俺は落ち着きたいからこうやってお茶とクッキーを嗜んでいるっていうのにお前がそれを邪魔してるんだろうが。何がしたいんだよコイツは。
俺はもう一口お茶を飲んで、ふう、とため息をついた。
「お、落ち着いたか? じゃあ早速依頼者の確認と家人に連絡を……」
だから何をそんなに焦ってるんだコイツは。
「うるせーな、お茶くらいゆっくり飲ませろよ。そんなに連絡したいんならお前が行ってこいや」
伯爵は一瞬嫌そうな表情をしたが、すぐに背中を見せて受付の方に駆けて行った。なんだこいつ、ちょっと脅せば何でもやってくれるな。本気で疲れてるし、どこまでパシられてくれるか試してみるとするか。
しばらくゆっくりしていると伯爵は受付嬢のミンティアさんを連れてやってきた。
「確認したところ、やはりアンススに依頼を出したのは家宰のイークらしい。今屋敷の方に人をやったからすぐにこちらに来るだろう」
おうおう、至れり尽くせりだな。でもな、それは俺の依頼人じゃねえんだわ。
「アンスス、アンスス? 依頼人分かったってさ」
「……コロ……シテ」
なんか分からんけどアンススも元気ないな。俺はクッキーを一口大に割ってアンススの口元に持っていった。
「アンススも疲れたんだろうけど元気出して。ほら、あーんして、あーん」
「そんなのどうでもいいだろう!! いい加減にしろ!!」
何をキレとんねんこのおっさん。
「シテ……」
むっ、どうやらアンススが意識を取り戻したようだ。あの後、全身が脱力したまま寝転がって目の焦点が合っていない状態だったから心配だったけど、ようやくアンデッド化の呪いが清められたんだろうか。なんて言ってるんだろう。
「……コロ……シテ」
声が小さすぎて全然聞こえないな。とりあえず助かったみたいだからヨシ!!
「よかった。心配したんだぞアンスス。立ち上がれるか? また新しい追手が来たら危ないから早く脱出しよう」
「コロ……シテ……」
なんかぶつぶつ言ってるけどよく聞こえないな。
まだ歩けるほどには体力が回復してないみたいなので、俺はアヌスカリバーをアスタロウのケツ穴にぶち込んでから彼女を背負って歩き出した。女の子とはいえ俺より身長高いだけあって重いな。彼女も無事助かったんだしこの程度の苦労なんてことないさ。
「シテ……」
まだなんか言ってるけど、助けてあげた俺達への感謝の言葉かな? とりあえず話は町に帰ってからゆっくり聞くとしよう。
俺達はダンジョンを出て、町へ向かって歩きながら今後の対応を話し合う。
「とりあえず向かう先は、ギルドか? それとも伯爵邸?」
アスタロウに尋ねるが、彼も考え込んでいる。というかここに伯爵本人がいるんだからこいつに直接聞いてみたほうがいいだろうか? いやその前に依頼に関する情報をまとめよう。
先ず一番最初にあったのはおそらくはアンススへの依頼。これはダンジョンに関するものだとは思われるが、誰が依頼したのか、どんな内容なのかが全く分からない。
次に、アンススがダンジョンに入る直前に上書きされた依頼。依頼者は伯爵夫人のフェンネさん。彼女はアンススの記憶が最後に話した人の内容に上書きされることを知っていたんだろう。元の依頼を自分の都合のいい内容に上書きしたかったんだと思う。内容は「ダンジョンに囚われている伯爵を救い出して、屋敷にいる伯爵を殺せ」という物騒なもの。
まあ、最初の依頼者も夫人の可能性もないとは言えないけど、そうすると俺達とアンススの両方に、二重に依頼をしたことになるのでこの可能性は低い。
そして最後に、ギルドを通して伯爵夫人が俺達にした依頼だ。「伯爵の人格豹変の真相を明かしてくれ」というなんともふわふわした依頼だが、前後の状況と組み合わせて考えると、「ダンジョン内に居る本物の伯爵を救い出して今いる偽物の正体を明かせ」と言ってるに等しい。
俺はちらりと伯爵の方を見る。無精髭が生えて、痩せこけた姿のみすぼらしい伯爵。
「あんたはどうしたらいいと思う?」
「え?」
本当なら衰弱してる伯爵をまず屋敷に送り届けるべきだが、今屋敷には「自称伯爵」がいる。間違いなく一悶着起こる。
「とりあえず、屋敷に帰してくれれば、なんとかなる。偽物など俺一人でも正体を暴いて……」
「ギルドに行くべきじゃな」
伯爵は屋敷に帰りたいみたいだが、アスタロウが反対した。
「アンススに最初に依頼をした人間と、その内容を確認すべきじゃ」
俺も同意見だ。
「夫人がアンススに依頼した内容が、不穏すぎる。いくら冒険者が無頼の輩などと言っても、確証もなしに『伯爵を殺せ』なんて依頼が通るはずがない」
つまり、伯爵夫人が怪しいってことだ。ただ伯爵が偽物と入れ替わっただけじゃない。この依頼には何か裏がある。
「伯爵は? それでいいか?」
「……ああ、それでいい。ただ……」
若干の間を置き、伯爵は応え、そして付け加える。
「依頼を出したのはおそらく家宰のイークだろう。ギルドに行くのは構わないが、問題はその後だ」
とりあえずはギルドに向かい、その道中伯爵の話を聞くことにした。アンススはまだ何かぶつぶつと呟いている。元気そうで何より。
「無事にイークに私の身柄を引き渡せば、依頼は完了という事になるな。ご苦労であった」
なんか偉そうだなコイツ。まあ伯爵だから俺よりは偉いのかもしれないけど。
とはいえ、それで本当に依頼完了なのか? 確認したアンススへの依頼の内容にもよるけど。あと、俺達の方は夫人からの依頼で、内容は「真実の解明」だからそれで完了になるかどうかは微妙なところだ。ホントにこれで終わりなのか?
などと悩んでいるうちにギルドについた。
ふう、疲れた。なんだかんだでダンジョンからギルドまで一時間ほど歩いてる。その間、というかダンジョンの出口手前からずっとアンススを背負ってた状態だからな。
アンススはアンススで意識はかえったみたいなのに自分で歩いてくれないし、アスタロウも伯爵もおんぶするのかわってくれないし、本当気の利かない奴らだよ。
「あ~、疲れた……」
とりあえず俺はギルド併設の食堂の椅子にアンススを座らせた。
「ふぃ~、あ、お姉さんお茶とクッキー下さい。四人分」
めちゃめちゃ汗をかいて、疲労も溜まってる俺はとりあえず飲み物を注文した。
「ちょ、ちょっと、勇者殿?」
ん? なんだよ伯爵。ちゃんとお前の分も頼んだぞ。お前と違って俺は気が利くからな。
「あの、依頼人と内容の確認するんだよね? 早くしようよ。それをしにここまで来たんでしょ?」
ちっ、うるせーな。こっちゃ疲れてんだよ。アンススもまだ本調子じゃないみたいだし。
「コロ……シテ……」
ほらな。ちょっとくらい休憩させてくれ。
「疲れてるのは分かるんだが、早いところ私の無事を家人にも連絡したいし……」
「どぞー、ハーブティーとクッキーでーす」
「おっ、来た来た!」
「いや『来た来た』じゃないよ!!」
伯爵が強くテーブルを叩いたが、俺は無視してハーブティーを一口すすった。
「っあ~……疲れたぁ……」
「無視をするな!」
なんなんだよこの伯爵、カルシウム不足か。というかだんだん俺の方も腹が立ってきたぞ。昨日半ば強制的に伯爵夫人の依頼を受けさせられて、朝も早よからダンジョンに潜ってすったもんだの上に救出してやったっていうのになんだその態度は。
「あのなあ、俺は別にあんたの救出なんて頼まれてなかったんだからな? 俺達はあんたの奥さんから『真実を明らかにしてくれ』って言われただけだぞ」
「奥さん……フェンネ夫人から?」
「当たり前だろボケ。他にいるか! 俺達は救助を頼まれたわけじゃないんだから、真実を明らかにしたら別にお前なんか助けなくても依頼達成だったんだからな! 何なら今からお前をあの骸骨野郎に帰してこようか?」
「ま、待て、落ち着いてくれ、勇者殿」
だから俺は落ち着きたいからこうやってお茶とクッキーを嗜んでいるっていうのにお前がそれを邪魔してるんだろうが。何がしたいんだよコイツは。
俺はもう一口お茶を飲んで、ふう、とため息をついた。
「お、落ち着いたか? じゃあ早速依頼者の確認と家人に連絡を……」
だから何をそんなに焦ってるんだコイツは。
「うるせーな、お茶くらいゆっくり飲ませろよ。そんなに連絡したいんならお前が行ってこいや」
伯爵は一瞬嫌そうな表情をしたが、すぐに背中を見せて受付の方に駆けて行った。なんだこいつ、ちょっと脅せば何でもやってくれるな。本気で疲れてるし、どこまでパシられてくれるか試してみるとするか。
しばらくゆっくりしていると伯爵は受付嬢のミンティアさんを連れてやってきた。
「確認したところ、やはりアンススに依頼を出したのは家宰のイークらしい。今屋敷の方に人をやったからすぐにこちらに来るだろう」
おうおう、至れり尽くせりだな。でもな、それは俺の依頼人じゃねえんだわ。
「アンスス、アンスス? 依頼人分かったってさ」
「……コロ……シテ」
なんか分からんけどアンススも元気ないな。俺はクッキーを一口大に割ってアンススの口元に持っていった。
「アンススも疲れたんだろうけど元気出して。ほら、あーんして、あーん」
「そんなのどうでもいいだろう!! いい加減にしろ!!」
何をキレとんねんこのおっさん。
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